【感想・ネタバレ】同時代ゲームのレビュー

あらすじ

海に向って追放された武士の集団が、川を遡って、四国の山奥に《村=国=家=小宇宙》を創建し、長い〈自由時代〉のあと、大日本帝国と全面戦争に突入した!? 壊す人、アポ爺、ペリ爺、オシコメ、シリメ、「木から降りん人」等々、奇体な人物を操り出しながら、父=神主の息子〈僕〉が双生児の妹に向けて語る、一族の神話と歴史。得意な作家的想像力が構築した、現代文学の収穫1000枚。

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硬派なファンタジー

 解説では、文化人類学やら神話学やらという小難しいことが書かれていますが、それはこの本の文体の難解さの所以でしょう(でもクセになるんですよねぇ)。
 この本以降の大江文学を読んでも、「死と再生」についてはより深く書かれることはあっても、神話についてはこの本より詳しく書かれたものはありません。そういう意味では、この本を読めば、大抵の「大江ワールド」には難なく入ることができます。
 文体は難解ですが、大江さんがおっしゃっていたように、「百年の孤独」を意識されて書かれたこの作品は、多分にラテン文学的なファンタジー要素を含みます。この作品を読んで、大江さんの生まれ故郷を訪ねた人は、きっと私だけではないでしょう。ある意味、今の異世界系のラノベの先駆けともいえる作品。おすすめです。

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2019年12月09日

Posted by ブクログ

以前1/3くらいで挫折。今回も1年くらいかかった。主人公のこれまでのいきさつと現状の説明と故郷の歴史とのない交ぜと、大江独特の硬質な文体に慣れるまでの「第一の手紙」が一番の難所。大きな歴史としての時間、家族の昔とその後、双子である主人公と妹の目を通して"現在"として移動する時間、と複層的な構造を往還しながら着地点がわからないまま運ばれていく。小説何個分にもなりそうな登場人物やプロットがたいして掘り下げられもせず惜しげもなく投入される。なんか"けり"もつかないまま放り出されて終わるのも凄い。とにかく圧倒的。

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2024年02月02日

Posted by ブクログ

ストーリーのみを追えばSFファンタジー小説だが、緻密に練り上げられた文章で読書の醍醐味を堪能させてくれる文学小説だ。

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2023年05月21日

購入済み

『ツバサ・クロニクル』とともに

大江さんが2023年3月3日に亡くなられ、
13日の今日その発表がありました。
もっとお言葉をお聞きしたかったのですが。

『洪水はわが魂に及び』の子のように
繰り返しが特徴。太字の「壊す人」など。
日本の中の双子の国家、双子の妹への手紙、
天体学者の、アポ爺、ぺリ爺も双子。

はモンローのパロディか米大統領と関係。
日露戦争相手国ロシアの血。
この国、貿易(?)までしてる。

歯痛とか悪臭とかペインティングとか、
感覚的にわかりやすく刺さってきますね。

社畜の方が息をついたろうキャバレーとか
そんな俗悪なものと神話の巨人が併記され、
聴覚で村人を誘導、家族シャッフル、
惨殺もあっさりと書かれ、おおらかで残酷、
アハハアハハで人生ってそんなもの?

アニメ『ツバサ・クロニクル』も
「同時代ゲーム」的。異世界、異時代。
シャオラン君には双子の陰のもう一人?

印象的な一節:冒頭から74%、第五の
手紙の2。原生林の夜明け前、筆者に
ツユトメサンが幾千万年と幾千万年の
暗闇の間でパッと燃える、つまり、
生きていることの方が不思議だと言い、
筆者が反論するところ。

#深い #シュール #タメになる

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2023年03月18日

Posted by ブクログ

 ある集落を追放された人々が、四国の山奥に小国家を創造した。外来者どうしの両親から生まれた「僕」が、双生児の妹へと向けて書簡の形式でしたためた、《村=国家=小宇宙》の神話と歴史のすべて。
 どの語がどの語にかかっているのかわかりづらい、英文を逐語訳したような独特の文章で綴られる、現代におけるあまたのエピソード。そのそれぞれが僕の記憶と結びついて《村=国家=小宇宙》の神話や歴史を語らせる……

 つまりは日本の中にあるもう一つの小国家の創建以降の伝承を語った物語。その意味で小説内において一つの国家を造りあげるような試みを作者は行なっている。それだけでも、まずはこの厖大な想像力に敬服する。
 また、場所・時間が複雑に交差し合うエピソード群を読み終えたのち見えてくる、歴史のパースペクティブが無意味なものとなるような《村=国家=小宇宙》の超越的な有り様は、新鮮な読書体験を提供してくれるだろう。

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2013年08月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

これを生の日本語で読めることはとてつもない贅沢だ。「押し込め」→「お醜女」と解読して行く言葉の閃きのセンスなんかは必ずしも日本語にのみに適用される訳ではないけれど、大江健三郎の言葉の選択を直に見ることが出来る愉悦。よく言われる冒頭の読みにくさにもそれこそアハハと大笑いさせられた。彼の言葉の逸脱ぶりはいつも心地いい。テングの陰間と呼ばれるに至る事件の間での「小宇宙」を見る神秘的体験に、大江健三郎の学部時代から『個人的体験』あたりのサルトルしばりな実存主義からの飛躍が始まる。後の作品の為にも必読な「聖書」。

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2013年04月06日

Posted by ブクログ

狭く深く掘り下げるほどに、世界が広く濃く大きくなっていく。語り手、村=国家=小宇宙の世代を超えた歴史、語り手の家族たちの数奇な人生。さまざまな時間が「同時代」のことのように語られ、その中でも否応なく「時間」のにおいを感じざるを得ない。そして、最後の最後で本当に同時代のこととして解体された。閉じ方の完璧さ。
解説もよかった。解説に書かれなきゃたぶん一生気づかなかったと思うけど、確かにこの小説はどこの章から読んでも問題ない。

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2012年09月21日

Posted by ブクログ

難物です。本人が全部書いてまた第一章を書き直したというくらいなので、最初から生真面目に読むとそこでもう挫折しそうです(笑)。けれどこれは、全部読み終えたときのその独創性、重量感たるや類をみないものです。初期大江作品が必ずといっていいほど書評にあがるのに対して、この頃以後はあまり語られませんが、万延元年と折り返して向い側にあるような作品ではないかと。大江作品の中では傑作の1つだと信じております。この不可思議で民俗的な世界は、作品の通り、まるで遡行していく旅でもあります。脳髄に。全部読むと第一章に戻りたくなるんですが、ほんっとに最初でかなりの人が挫折するかと思う手強さなもんで(笑)

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2024年10月18日

Posted by ブクログ

大江健三郎の長編小説。叙事詩的な展開で、歴史と時間を切り抜いて、村=国家=小宇宙として大江の創造空間を存在させる試みである。とても大きなスケールで読み進めていくのにずいぶん時間がかかったが、不思議に読み通していきたいとエネルギーをもらえる小説だった。不順国神(まつろわぬくにかみ)不逞日人(ふていにちじん)とのろしを上げて大日本帝国と屹立する戦いを始める展開はスリリングであったし、何をものみこんでいく巫女の妹の存在も魅力的であった。登場する一人一人の姿が浮かび上がるように緻密に作られた世界が最後まで展開されていく。大江ワールド感服しました。四国の奥深く分け入った山間地を想像しながら、大江が生まれ育った土地で育まれたリアルな感覚を持って書き上げていると感じた。

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2025年09月21日

Posted by ブクログ

そこまで読みにくいとは思わなかった。取り替え子は凄く読みにくかったが、それに比べると全然大丈夫だった。
大江さんのつくった世界にじっくり浸かれる小説。途中で読み疲れする部分もあったが、神話的で性的で悲劇的で感傷的な世界観をとても楽しめた。

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2021年04月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

物語として内容を読み取ろうとすると、難解で冗長とも感じられるこの作品、最後まで読んでみると、その文脈を楽しんでいけばいいのだなと気づきます。
その世界観は、のちの宮崎駿や村上春樹にも影響を与えたのではというところがあります。

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2012年07月06日

Posted by ブクログ

純文学を大きな声で好きだといえる人でないかぎり読みきれないでしょう。それくらい難解で、ストーリーの流れなどから簡単に面白いと感じるところはない作品です。ですがノーベル文学賞作品ですから純文学好きには避けられないところなんですね。実際に読んでみるとあまりの文の巧みさに驚き、慣れないうちは1ページに10分ほどかかることもあるでしょう。読んでて暗記してしまうフレーズを例として「大岩塊、あるいは黒くて硬い土の塊」、なんてのが頻繁にでてきます。何がおかしい、とか思われるかもしれませんが、あまりに何回も出てきます。この岩の話は最初から最後まで出てくるのですが、そのたびに毎回「大岩塊、あるいは黒くて硬い土の塊」って出るんですから、こっちはお腹いっぱいになってしまいますよ。まぁ、逆にこういうフレーズが暗に純文学っぽく感じられて自己満足でなんとか読みすすめられるのですがね・・・。そんなわけですので、作者の天才的な文体を楽しむくらいがちょうど良いのではないですかね(汗

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2011年09月27日

Posted by ブクログ

大江健三郎の持つ創造性と民族の土地への執着、そして寓意的神話の結晶。20世紀日本文学の収穫とだけあって読み応え抜群です。
メタ文学としては国内最高峰。
と、ここまでベタ褒めですが、星4つの理由としては万人向けでなさ過ぎるという点。
村上春樹、伊坂幸太郎などを好む人にとっては『難解』という幻想に苛立ちを覚える可能性が非常に高いです。
こんな言い方したくはないですが、上級者向けです。

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2011年06月17日

Posted by ブクログ

ネタバレ

妹への手紙という形で語られる、四国の山奥にある故郷の村の歴史と伝承、兄弟の逸話。序盤は、現在の生活と村の神話・歴史がリンクするかたちで語られるので頭のなかで整理する必要があるが、次第に神話と歴史にフォーカスされていく。

面白いが、クセのある文章ですこし読みづらい。


以下、村の神話と歴史における主な出来事、および語り手の家族について

・藩を追放された武士集団が「壊す人」を主導として川をさかのぼり、行き詰まりの大岩塊を爆破して、森に囲まれた盆地に隠れ住む。(そのときに流れ出した大洪水によって追跡隊は押し流される) のちに「吾和地(あわじ)」と呼ばれるようになる。

・村の開拓がひと段落したところで、地響きのような音が響き渡り、その影響の強弱によって住む場所の入れ替えが行われる。

・「壊す人」が死んだ直後にふたたび大怪音が鳴り響き「住みかえ」が行われるさなか、「壊す人」の妻であるオシコメが十七、八の青年団を指導して、創建者の老人たちを一掃する「復古運動」を進める。(明らかに文化大革命の江青と紅衛兵がモデル)

・村の独立性を保とうと、藩権力と一揆集団の仲裁をしたり、天皇家との接近を模索した亀井銘助(メイスケサン)と、大正時代の大逆事件の際、天皇に抗議文を送った原重治(牛鬼)。

・大日本帝国に組み込まれることへの対抗として、ふたりの人間をひとつの戸籍に登録するカラクリを思いつく。それを解消しようと村にやってきた大日本帝国軍との五十日にわたる戦争。

・長兄(露一)は徴兵中、精神に異常をきたし精神病院に二十五年間収容される。解放されたあと、天皇に村の独立を要求するために皇居に向かう。次兄(露二郎)は女形として生計を立てている。

・野球一筋の末弟(露留、ツユトメサン)は、マネージャーと一緒にアメリカやハワイに渡り、メジャーリーグ球団や日本の野球チームに売り込みにいく。

・「壊す人」の巫女として育てられた双子の妹(露巳)は、銀座でキャバレーを開いていた時代にアメリカ大統領候補と知り合い、彼の大統領就任後に会見し、村の独立を援助するように要請する。その際に検査を受け癌を宣告され、帰国後に船から身を投げ死んだと伝えられていた。しかし、妹の生存と、キノコのようになっていた「壊す人」を見つけ、いまでは犬ほどの大きさにまで回復していることが手紙で伝えられる。

・語り手である「僕(露己)」は、幼少時代より神主である父に村の神話と歴史を口承によりたたき込まれる。それに興味を持った東京出身の双子の天文学者(アポ爺、ペリ爺)とも親しくするが、父と国民学校校長との諍いが原因になり双子の学者は村を追放されてしまう。そのことを思い悩んだあげく、「僕」は素っ裸になって森をさまよい歩き、村で起こった過去・現在・未来の出来事を垣間見るのだった。

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2023年02月27日

Posted by ブクログ

壮大な御伽噺、生々しい神話、それらに捉えられた剥き出しの魂。本当に壊す人と創建者たちが切り拓いた〈村=国家=小宇宙〉が存在したかのように「僕」の魂の物語が迫ってくる。
人々が生き、生き続け、生き残り、繋いでいくそれぞれの土地には、それぞれに紡がれて行く物語があるはず。
読んでいる時には〈村=国家=小宇宙〉が特別な世界に思えたのに、読み終えると、僕の生きた土地にもこんな神話があるんじゃないかと自然に思えてくるから不思議だ。

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2014年02月19日

Posted by ブクログ

世界が「何コ」かあるのか?それとも世界の記述方法が「何コ」かあるのか?そのどちらかであると思わざるを得ないなあ。あるいはその両方。

挑戦的だなあという気もする。実験なのかもしれない。
いわゆる「文学」を冠する著者・著書はどれも…その客体は読者だったり、社会だったり、テキストそのものだったり、そして著者自身だったりします。

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2013年05月07日

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