大江健三郎のレビュー一覧

  • 洪水はわが魂に及び(下)
    タイトルから受ける印象が読み終えたことで確定され、どうしようもない気持ちになる。やはり解説はとても良く、よくもこんな短い文章でこの本のエッセンスをまとめられるなと思う。ヴァルネラブルな魂、、
    それにしても洪水のイメージを遡及的に、読み終えてタイトルを眺めてる時に実感したのでその瞬間の重さに一瞬耐えき...続きを読む
  • 親密な手紙
    大江健三郎は、芽むしり仔撃ち の頃のような若い時は、10代の自分には友達のささやきのようであった。それから、自分が20代のなって以降は大江健三郎は、遠くにいて会うことのないお父さんのようであった。わかる時もあればわからない時もあった。亡くなられたときは大きな光が静かに失われたようだったし、脱原発のこ...続きを読む
  • 同時代ゲーム
    以前1/3くらいで挫折。今回も1年くらいかかった。これまでのいきさつと作者の現状の説明と故郷の歴史とのない交ぜと、大江独特の硬質な文体に慣れるまでの「第一の手紙」が一番の難所。大きな歴史としての時間、家族の昔とその後、双子である主人公と妹の目を通して"現在"として移動する時間、と複層的な構造を往還し...続きを読む
  • 見るまえに跳べ
    とても良かった。現実離れした内容かと思えば、その表現の仕方は嫌になる程リアルで生々しく、自分が体験したかのような錯覚に陥るとともに、自分が過去に経験した事と結びつき、その時の光景や匂いと共に滑らかな読後感を与えてくれました。
  • 晩年様式集
    大江の後期をいくつか読んできて、一番面白かった。変なエロとか暴力(殺人)がないのがいい。『水死』も最後にどちらも唐突に出てくるし。とはいうものの、そこはかとない"不穏"は一番かも。いままで作中で声を上げられなかった、書かれた女性陣からの反撃や若い世代との考え方の違い。違和のあるままにヘンにまとめよう...続きを読む
  • 見るまえに跳べ
    まず驚いたのが大江健三郎が20代前半の時に書いた作品が多かったこと。
    難しかったし、これだけの物を書いていたのに驚異的なものを感じた。
    主に青年だけど女性も色んな性質の人が出てきたのが強く印象に残っている。
    殆どの人たちは倒錯した性生活と自己欺瞞に苦しみ、苦い生活を送っている。
    人間性、人間とはとい...続きを読む
  • 万延元年のフットボール
    読後の衝撃たるや。それは深部に残り続けるだろうと思います。

    友人の不可解な死に導かれ、夜明けの穴にうずくまる僕・根所蜜三郎。
    地獄の憂悶を抱え、安保闘争で傷ついた弟の鷹四。
    僕の妻・菜採子は、重度の精神障害児を出産してから、アルコールに溺れるようになった。
    アメリカでの放浪を終えた鷹四が帰国したの...続きを読む
  • 取り替え子
    五良の自殺(≒伊丹十三の自殺)の根底にあったであろう“アレ”の正体を各々模索していく物語。
    奇しくも、『万延元年のフットボール』と、自殺の原因の探究という点では同じなぞらえ方をすることとなった。

    「取り替え子(Changiling)」という逸話を物語へ絡めこむ上手さ。
    終章にて、モーリスセンダック...続きを読む
  • 取り替え子
    奇妙なスルメ小説
     最後の千樫の推測のくだりで身震ひする気持になったが、なんとも奇妙な小説だと加藤典洋の書いてたままに評しよう。
     どうも前半までは平坦だとおもってゐたが「覗き見する人」以降おもしろかった。ギシギシの挿話に熱中させられるものがあった。
     かういふ小説は、事実背景を知ったうへで再読する...続きを読む
  • 芽むしり仔撃ち
    ー 土間の焚火は殆ど消えかかろうとし、谷を囲む森の獣の吠え声、鳥の不意の羽ばたき、そして樹皮の寒さにひびわれる音が響いた。僕は眠るために苦しい努力をしながら、腹立たしく絶望的に重苦しい死のイメージに圧倒されていたので、安らかに天使的な弟の寝息が聞えはじめると嫉妬のあまりに弟への優しい感情をすっかり無...続きを読む
  • 死者の奢り・飼育
    初めて大江健三郎を読んだ。
    彼の文章からは、グロテスクとも言えるほどの迫力と緻密な論理表現が共存している感じを受ける。人間の中のドロドロとした感覚をここまで明確に表現できるのかと、鳥肌が立つ。
    そして、大江が抱えている問題意識や鬱積がまざまざと伝わってくるストーリー。価値観の転回やコンプレックスを社...続きを読む
  • 燃えあがる緑の木―第三部 大いなる日に―
    燃えあがる緑の木
    三部作ということで長かったですが、本当に読んで良かった。
    今年は大江健三郎を読み続けてきました。後期の作品はまだ1作も読んでいませんが、一旦ここで大江さんからは離れようと思います。
    この作品を自分に落とし込むのに十分な時間が欲しいため、そして後述しますが、”勉強”による“集中”も行...続きを読む
  • われらの時代
    実に面白い。
    当時の若者の閉塞した世界で生きる、哀れみ、悲しみなどが、ジンジン伝わってくる。
    終盤にかけての怒涛の展開は、もうサスペンスだった。
    ドキドキしながら先を先をと読みふけった。

    不幸な若者たち(アンラッキーヤングメン)というバンド名が面白い。まさに結果的にその通りだ。
  • 文学の淵を渡る(新潮文庫)
    【読もうと思った理由】
    古井由吉氏を知ったきっかけが、平野啓一郎氏の「小説の読み方」と伊坂幸太郎氏の「小説の惑星 ノーザンブルーベリー編」だ。現在人気の作家二人が揃って、古井由吉氏を絶賛している。平野啓一郎氏は、小説家が尊敬する小説家と評価しているし、伊坂幸太郎氏は、完璧な小説を挙げるとすると、「先...続きを読む
  • 静かな生活
    大江健三郎が自分の家族をモチーフに描いた作品。叔父の伊丹十三も登場する。
    大江夫妻がアメリカに移住したあと日本に残されたイーヨーを中心とした子供たちの生活を娘のマーちゃんの視点から描く。作風は中心がなくとはいえ、何かしらの精神性をめぐって、とくにイーヨーに向けられる世間の差別をめぐって、マーちゃんの...続きを読む
  • 個人的な体験
    素晴らしかった。
    読み終わった後のなんともいえない余韻。これだから読書はやめられない。
    作者によるとこれは青春小説ということだが、なるほど、テーマは大変なことだが、青年が悩み、葛藤し、迷い、経験し、蘇生し、決断する。
    まさにこれは青春小説か。
    主人公をバードと一貫して、表現したり、独特の病み付きにな...続きを読む
  • 大江健三郎 作家自身を語る
     2006年に行われ、テレビ放映もされた連続インタビューを再構成し編集・追補された「推敲された」インタビュー。尾崎氏が大江のことばを引き出す役に徹したことで、細密に描き込まれた作家・大江健三郎の自画像ができあがっている。文庫版には「後期の仕事」三部作を書きおえたあと、2013年の対話も収録されている...続きを読む
  • 燃えあがる緑の木―第二部 揺れ動く―
    第一部に生き続き、イェーツの”Vacillation”という詩を原動力として物語の登場人物たちが活き活きと動き回るわけです。
    しかし、第二部を経て、イェーツの独特なオカルティズム(神秘主義)から紡ぎ出されたこの詩が、徐々に僕の中で確かな質量を持ち始め、実際的になってきているのを感じます。
    最終章でア...続きを読む
  • 燃えあがる緑の木―第一部 「救い主」が殴られるまで―
    『懐かしい年への手紙』の続編です。
    まだ三部作の第一部ですが、この一冊ですでに十二分の満足感がありました。

    『懐かしい年への手紙』で試みられた「魂の救済」について、この物語の長さを利用して、更に深く追求しようとしています。

    印象に残った2つのシーン。

    ギー兄さんが信用を失い、町民からのリンチに...続きを読む
  • 万延元年のフットボール
    大江健三郎の最高傑作と評されていたので、温めて置いていましたが、現時点では個人的にもやはり最高傑作でした。読み終わってすぐ2周目を始めてしまったほどです。

    重厚な構成、有機的で現実的なメタファー、極限状況からの脱出、魂の浄化。巧みな文章力に、自室で1人でため息を漏らしていました。
    「魂の浄化」とい...続きを読む