あらすじ
死体処理室の水槽に浮沈する死骸群に託した屈折ある抒情「死者の奢り」、療養所の厚い壁に閉じこめられた脊椎カリエスの少年たちの哀歌「他人の足」、黒人兵と寒村の子供たちとの無残な悲劇「飼育」、傍観者への嫌悪と侮蔑をこめた「人間の羊」など6編を収める。“閉ざされた壁のなかに生きている状態”を論理的な骨格と動的なうねりをもつ文体で描いた、芥川賞受賞当時の輝ける作品集。
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Posted by ブクログ
どの短編でも自分が悪いわけではないが、不運にもなし崩し的に巻き込まれる厄介な出来事が主題になっていると思った。徒労に終わったり、解放されても後味の悪いこれらの話を読んで、読者は自身の日常の気まずい出来事に読み換え、想起するだろうと思う。
「飼育」は、〈僕〉の通過儀礼の物語であると思った。
捕虜となった黒人に感じる気安さは家畜やペットへの気安さと同義であったが、立てこもりによる黒人と〈僕〉の立場の逆転で〈僕〉の世界は崩壊し、まるで死んだ黒人の情念が乗り移ったかのように、〈僕〉は大人たちに脅え拒絶する。
〈僕〉の掌を叩き潰したのは父の斧ではなく戦争だったのだと、大人になった〈僕〉は認めるのだろう。
最も好みだったのは「死者の奢り」で、今まで読んだ短編作品全体の中でも最も面白かった作品の一つになった。冒頭が本当に秀逸で引き込まれた。
人体が死を経て《物》となっていくこと。妊娠した女学生の語り。水槽にぎっしり詰まった死体。この短編ひとつで、社会全体を描いているような濃密さがあった。
Posted by ブクログ
ノーベル文学賞受賞作家の初期の短編し6作品を収録した一冊です。6作品の中からタイトルとなっている「死者の奢り」と「飼育」を紹介します。
まず「死者の奢り」。
主な登場人物は、「僕」「女子大生」「管理人」で名前は無し。従って、登場人物のパーソナリティや物語性ではなく、彼ら彼女らの言葉や行動に描かれる心象描写に、著者「大江健三郎」さんの主張が込められているのだと思いました。
「僕」は文学部の学生で、「僕は希望を持っていない。毎日の生活に希望はいらない。子どものとき以外は希望を持って生きたことが無いし、その必要もなかった。」と、はっきり言いきるほど虚無的な思想を持った学生で、目的は分かりませんが、大学医学部の事務室でアルバイトに応募します。地下にある死体処理室の、アルコールで満たされた水槽に保存されている解剖用死体を新しい水槽に移し替える仕事でした。そのアルバイトには「女子学生」も応募していて、彼女は妊娠していて胎児を堕ろす手術費用を稼ぐために応募していたのでした。2人は、この死体処理室に30年間勤めている「管理人」の指示に従って、アルコールと遺体の異臭にまみれながら、アルバイトに従事します。
「僕」はアルコール水槽の中に浮かんでいるたくさんの死体たちを見て、初めは、存在はしていても意識のない「物」あるいは単なる「物体」として考えていましたが、通常死体は火葬によって、「物」としても存在しなくなってしまうのに対して、アルコールの中に浮かぶ死体たちは、死んでも依然として、むしろ死を終わりではなく始まりとして、沈黙したままその存在感を残していることを強く感じ、生きていながらも希望もなく虚無的に毎日を過ごしている自分と、なんら変わらない存在であるように思われ、少しずつ気持ちを変化させているように感じられます。
一方、「女子学生」は、自分のなかの胎児を葬ってしまうための手術費を稼ぐために、死体を処理するという作業の中で、足を滑らせて転倒し自身の身体の異常とともに流産の危機に瀕します。アルコールの水槽に浮かぶ死者たちの憤りとまではいいませんが、新たな命を葬るために死体の処理をするという行動への死者たちからの仕打ちかと、思わず考えてしまいました。
「管理人」は30年間の実務経験で培われた技術を発揮しながら、何の感情もなく惰性的に淡々と作業を進めます。死体を「物」として扱い、何の意思も感情もなく存在しているという点では、死者と同じなのかもしれません。
ところが、医学部教授会での正式な決定により、古い死体は全部火葬し、両方の水槽は清掃することになってしまい、「僕」たちの仕事は徒労に終わってしまうのでした。
「僕」や「女子学生」が、その存在感によって気持ちを動かされた多くの死体が、火葬によりその存在すらも無に帰してしまうことになったわけですが、アルコールの水槽の中で存在し続けてきた死体たちが、無気力に惰性的に生きている自分たちと何も変わらないことに気づき、このままではいけないと考えあらためるところが、この作品のテーマであり、著者大江健三郎の当時の無気力な人間たちに対する訴えだったのだろうか、と思いました。
そして「飼育」。
戦時中のある夏、山奥の村に敵国アメリカ軍の爆撃機が墜落し、生き残った黒人兵が村人に捕らえられます。
捕えられた黒人兵の扱いについて、村では町役場に問い合わせた結果、県の指示が来るまで、この物語の語り手である少年の家の地下倉で「飼う」ことになります。少年の父親の言葉をそのまま表現すると、「あいつらは獣同然だ」、だから「黒人兵を獣のように飼育する」ということになるのですが、現代社会では考えられない、当時の山奥の村に住む人々の感情が露骨に描かれていて、この考え方には不快感しか感じられませんでした。
「飼育」という言葉の通り、村人は黒人兵を非人間的な扱いをしますが、村の子供たちとは次第に人間的な触れ合いを持つようになります。
しかし、黒人兵の移送が決まると、身の危険を感じた黒人兵は、少年を人質にして地下倉に立て篭もります。少年を助けるため村人たちが黒人兵に襲いかかると、少年の父親は、黒人兵の頭上に鉈を振り下ろします。
黒人兵は死に、少年は左手に深い傷を負いますが、この夏の出来事を通じて、少年は、仲が良くなったと思っていた黒人兵に裏切られたことに衝撃を受け、また危うく黒人兵とともに自分も殺されそうになった大人たちの対応に、もはや大人も信用でなくなります。「僕はもう子供ではない」という思いが強くなります。
こんな山奥の村へはやって来ないと思っていた戦争が、突然この村にもやって来て、自分の左手に深い傷を負わせ、唐突な人の死に対しても慣れてしまったと、しみじみ少年が思うというこの小説の最後の描写は、前述の、敵国の黒人兵を「あいつらは獣同然だから、獣のように飼育する」とした村人の考え方と同じく、閉鎖的な山奥の小さな村をも容赦なく巻き込んでいく戦争の理不尽さを描いた作品であると思いました。
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『飼育』大江健三郎の短編小説。芥川賞を取った作品です。この小説は文章、構成、筆致と流石の巧みぶり。
23歳の天才。初期作品はみずみずしい。
難点はセンテンスが長い。だが、このことで視点や焦点がぼやけないのが素晴らしい。他の作品にも挑戦してみたい。
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閉塞感むきだしで、そのなかにある生身の人間関係。今日明日の生存に無駄なものを削ぎとったギリギリの状態の人間性。反戦のメッセージと偽善者に対する嫌悪感が私達を締め付ける。
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初めて大江健三郎を読んだが、三島由紀夫の金閣寺を読んだときの感覚に近いものを感じた。
「人間の羊」と「不意の啞」が特に良かった。両作品とも進駐軍をテーマにしたものだが、どうやってプロットを練ったのだろうか。まさか実体験ではないだろうし...
また一人、作品を渉猟したい作家が増えた。
Posted by ブクログ
やっぱり大江健三郎はすごかった。
かつて大江氏は、自分にわからない世界について、そのギャップを埋めてまで小説を書こうとは思わないし、自分があえて書く必要性も感じないというようなことを言っていた。
本作に出てくる短編は、児童期が戦時中であった彼だからこそ書けた話であり、学生らしさを失っていない時代だからこその初々しさに溢れている。
それにしても天才にしか考えつかないようなシチュエーションが設定されている話ばかりである。
こんな設定、どうやって思いついたんだと舌を巻くような作品ばかりである。
一方でアメリカ兵を否定的に描写している場面も多く、アメリカ人は大江氏の作品をどのように読むのだろうとかなり気になったりもした。
大江氏の才能を感じることができる贅沢な一冊であった。
Posted by ブクログ
どれも読んでいると、生々しい感覚と気持ち悪い感覚が襲ってくる。
何か凄いことを伝えようとしているのが分かる。
だけど正直、抽象的すぎて政治的なメッセージや思想はあまり伝わってこなかった。
個人的には人間の羊が分かりやすくて好き
被害者にしか分からない葛藤や、被害者を取り巻く人々の気持ちが伝わってきて面白かった
Posted by ブクログ
ある日突然貸してくれた本。初めて一緒に働いた日に、私が伊丹十三の話をすると彼は大江健三郎を私に教えてくれた。マニュアルの端に急いでメモをとり、マニュアルに書くのはあんまよくないかってそのあと自分のメモ帳に書き写した。今もそれを使ってる。少し朽ちている。
当時芥川賞を受賞したときの年齢が23歳。それぐらいの年齢の子たちと今暮らしてる。朝椅子に座って、夜ソファに転がって、同じ空気を吸いながら読んでた。海で読んだら気持ちいいだろうなって港へも連れて行った。読みたがっている女の子がいたけれど、彼女は借りずに帰った。
彼に読んだことを伝えると急に人が死ぬでしょって笑ってた。本を貸してくれたことをどれだけの人に自慢しちゃったかな。初めて読んだ彼の本。
Posted by ブクログ
義父の本棚にあったので何気なく手に取ってみた
人間が複数存在する状況において否応なく発生する緊張感や暗黙の了解についての、解像度や描写力がバケモンすぎる…
Posted by ブクログ
1950年代後半から1960年代にかけて、戦後の鬱屈とした社会が生々しく描かれている。
実存主義から構造主義に移行していくような、社会規範のあり方が大きく変わろうとしていた時代。
どの短編にも共通するのは、変わりゆく時代に敏感な(何かを期待されている)若者たちが主人公ということだ。
社会正義を押し付けられ、何者かにならなければならないような空気感に抑圧されている学生や、残酷で不寛容な社会で成長せざるを得ない子どもたち。
当時の人たちが外国人をどのように客観していたのか、令和に生きる私は、私たちの主観で、大江健三郎の文体によって、それを生々しく、悲しく体感させられた。
Posted by ブクログ
著者が書いた初期作品を収録した本。どの作品も人間の惨たらしさ、醜悪を生々しく書いており、日本人であろうと外国人であろうと容赦ない。残酷な描写ばかり続くが、一方で本作に収録された作品は戦争と密接な関係を持っており、戦争が招いた人間の凶悪的な様が嫌というほど読者に見せつける。
Posted by ブクログ
ノーベル文学賞受賞作家の短編集。療養所にいる子の話や米兵がバスで乱暴を働き屈辱を受ける話など時代を感じる。
表題作の『死者の奢り』は死体洗いのバイトの元ネタと思われる。メインは主役の学生(僕)、女学生、管理人の3名。劇的にドラマチックな話ではないが特異なシチュエーション故に印象に残る。
『飼育』は大島渚が後に監督した作品。戦時中の黒人捕虜の話だが子どもというより日本人の持つ残酷性が表現されている様に思う。
Posted by ブクログ
なんとも形容しがたい気持ちにさせる短編ばかり。
残酷で目を背けたくなる醜い心情や場面が多いのはずなのに、読んでいて気持ち悪くならないというか、、、
村上龍の限りなく〜を読んだときは生理的拒否反応が生まれたのに、この違いはなんだろう。
単に暴力とか、残酷な現実を描いているわけではないからかな。主人公と読者である自分の心理的距離の違いかも、良い意味でどこか現実味がないというか、恍惚状態に夢をみてるような感覚の文体だった。
大江健三郎の作品は2冊目だけど、こんな本書いちゃうこの人一体何者なのー!もっと他の作品読んでみたい
Posted by ブクログ
人間の醜い感情のうねりや嫌厭を緻密に繊細に(かつ、くどすぎるぐらいにしつこく)描いていて、読んでいて重く締め上げられる気分。特に人間の汗や脂だとか汚物だとか、外も泥や泥濘の汚れだとか獣臭だとかドブ川だとか、とにかく穢らわしさ、粘っこい気持ち悪さなどの描写が多くて、ずぶずぶと嫌厭の情がすごい。
文体はややクセありたまに迷子になるが、中身に惹かれて意外にあっさりと読み切ることができた。
個人的には、表題作よりも「人間の羊」が一番刺さった。傍観者、偽善者、自己中心的な押し付けがましい”正義”に陶酔する者の醜悪さと、やるせ無い怒りや諦め、疲労感をまざまざと見せられた。
氏が戦後の混沌の中で描きたかったものはなんだろう。復興の希望を語るよりも、やり場のない激情や鬱屈の吐き出し口、社会批判、人間の愚かさとか、とにかくネガティヴ寄りなもの(怒り?も?)が毒々しく滲み出していたように感じられる。
当時の空気を吸ったうえで読んでいた人ならもう少し違った見え方もあるのだろうか、と思った。
Posted by ブクログ
現代の価値観と違い過ぎて物語の繊細さが理解できなかった。
水槽に沈む死体に対して湿度の高い激重感情を頭の中で炸裂させる文学青年、身体や足が動かなくなる病に侵され希望なく暮らす少年たちの元に現れた両足骨折の青年、病棟内を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して健常者の世界へ戻っていく無責任さ、黒人兵士を家畜のように世話をし交流するグロテスクさ、屈辱感に必死に耐えようとする人に付き纏う傍観者の行き過ぎた正義感と加害、外国人兵士の通訳をする日本人が日本人を見下す滑稽さ。
誰もが持っている陰湿な部分をチクチクされるような話
Posted by ブクログ
「飼育」などは、なんだかとてつもないモノを読んでしまった、という感想。心情描写がすばらしく、人間の心理を深掘りして示してくれる。ストーリーも奥が深い。
Posted by ブクログ
深い孤独感や戦争の影響、死の意味が何であるかを読者に強く投げかけてくる作品。
言葉遣いは美しいものの、内容が重たく読みにくく、詠み終わったあとも憂鬱な気持ちになる。
簡単には、人にオススメできない作品となっている。
【主人公の孤独と隔たり】
本作の主人公たちは他者との間に大きな隔たりを抱えており、その孤独感が物語の根底に流れています。主人公の内面的な葛藤や感情の複雑さが際立っています。
【主人公の内的葛藤】
主人公は、死体を「物」として扱う一方で、死を意識の面で捉えようとします。仕事を終えた後の快楽的な感覚と、他者からの軽蔑を感じることで生じる苦悩が対照的に描かれています。この葛藤が、彼の生きることの意味や人間関係の難しさを際立たせています。
【生々しい表現方法】
死や戦争を想起させる生々しく、どろどろとした表現が多彩であり、これによって読者は強い印象を受けます。特に、主人公がホルマリン漬けの死体を扱う過程での描写は、死の物質的な側面と意識の対比を浮き彫りにしています。
【戦前・戦後の閉塞感】
物語には、戦前や戦後の閉塞感が色濃く反映されており、特に戦争の影響が人々の生活にどのように浸透しているかが描かれています。主人公たちが感じる戦争の現実は、彼らの日常において遠くの出来事でありつつも、無視できない存在感を持っています。
【村の生活と戦争の影響】
「飼育」では、村での生活が描かれ、戦争が村の若者たちに与える影響が表現されています。村の子供たちにとって、戦争は遠い出来事であり、敵兵を捕虜とすることも「獲物」としての興奮を伴う体験に過ぎないという冷徹な視点が示されています。
Posted by ブクログ
ノーベル賞作家として名高い大江氏による芥川賞受賞作も含む初期短編集。どれも政治的・社会的テーマで、とても二十代が書いたとは思えない内容であった。好き嫌いの分かれる作家のようだが、共感する部分は多く、個人的には面白く読めたので、他の作品も読んでみたいと思う。
Posted by ブクログ
生々しくて厳しい世界観。その中で生きていく人間の、生物としての生命の躍動をどくどくと感じられる。
場面は端から一つ一つ丁寧に、そして正確に表現されていく。それによりじわじわと空気感が体に染み渡っていく読書感がクセになる。
文体に関しては熟語が多く、厳格でかちっとしていて、これも世界観にマッチしていて好み。
大江健三郎いいな。この作品で初めて読んだが、かなり好きだなと思える作家で、出会えて嬉しい。
Posted by ブクログ
芥川賞受賞の表題作「飼育」を含む初期の短編をまとめたもの。
ほかにもノーベル賞も受賞。受賞理由はからっきし意味不明ですが、ネットに落ちているNHKの方の解説を読むと、どうやら現代日本社会を描いたから、ということ!? よくわからん。
ただ、本作を読んでありありと感じたのは、偽善へのシニカルな目線・退廃的ムード・諦めと閉鎖性、このようなワードが思い浮かぶ作品群であったと思います。
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以下は作品と寸評です。
「死者の奢り」・・・表題作。解剖用死体を大型水槽からもう一つへ移し替えるというバイトをした「僕」。場面設定が特殊であるものの、得も言われぬ退廃的なムードが印象的な小品。
「他人の足」・・・未成年の脊椎カリエス患者を収容した一種の閉鎖病棟の話。退廃的な慰みを看護師に強要?しているような病棟であったものの、とある「新入り」大学生患者が皆を感化し良化していく。しかし、最後にこの大学生が何とかここを出ることが出来るとなると、もとよりいる患者を汚らわしいものを見るかのように突き放す。ここに善意の欺瞞の薄っぺらさが見て取れる。
「飼育」・・・とある隔絶された村に不時着した米軍飛行機。生きていた黒人兵を指示があるまでその村にとどめおく(まさに「飼育」)様子を綴る。牧歌的な交流が大部分を占めるも、移送される段になり、黒人が逆上し、最後はあっけない結末に。
「人間の羊」・・・占領下のバスでの出来事。米兵に屈辱的な仕打ちを受けた「僕」と、眼前では無抵抗の観客であるも、事後の「僕」に告発させようと躍起になる「教員」との偏執狂的やり取り。居合わせた当事者としては何もしなかった「教員」の第三者的物言いが鼻につく。これもまた「外野」の偽善的欺瞞が匂う作品。
「不意の唖」・・・上記の「飼育」を彷彿とさせるとある山村。今度は米兵とその通訳がこの村に訪れる。強い側についた通訳の高飛車な態度が次第に村人の気持ちを逆撫でし、遂に通訳は。。。ホラーチックな作品。
「戦いの今日」・・・朝鮮戦争時の日本で、米兵に脱走を唆すビラを配る兄弟。ちょっとしたバイト感覚のビラ配りも、脱走志望者が出てきてたじろぐ兄弟。引き受けたくない兄と、何とかしたい弟。結局かくまうことになるも、とある晩に脱走兵に潜むアジア人蔑視を嗅ぎ付けた兄は当の兵士をぼこぼこにして。。。
・・・
ということで久方ぶりの大江作品でした。
とんがっていてなかなか面白かったです。他の作品もまた読んでみたいと思います。
Posted by ブクログ
テーマがすごい。描写がすごい。
冒頭の一節から、足し引きのない形容によって衝撃的な光景が生々しく描かれ、作者独特のその描写は最終話まで途切れることなく続きます。閉鎖された空間、そこに置かれた人たちの心理、行動、息遣い、発する言葉、見えないけれども確かに存在する外界との境界、その全てに生臭い人のさがが見え隠れします。ページをめくる度にその隙間から体臭の混じる湿り気を帯びた空気が漏れ出てくるようです。
好みはさておき、すごい作品群です。気になる一節を読み返してみると、作者の意図する世界感を体温や感触をともなって自分なりに体現できて、よくこんな文章が書けるものだと感心してしまいます。芥川賞、ノーベル文学賞受賞は伊達ではないな、などと偉そうに思う次第です。気が向いたら是非ご一読ください。
追伸 食事の前後と就寝前は避けて読んでいただいたらと思います。折角の料理が美味しくいただけなくなるかもしれません。美味しくいただいたはずの食事が残念なデザートで台無しになったような気持ちになるかもしれません。妙に頭が冴えて寝つきが悪くなったり、目覚めの悪い朝を迎えたりするかも知れません。
余計なお世話でした。
Posted by ブクログ
死者の驕りはすれ違った老人のシーンがビシッと印象に残ってる。1番好きなのは飼育で、短編として完璧すぎると思ったのは他人の足、最後の一文が忘れられないのは人間の羊、でしょうか。
Posted by ブクログ
芥川賞受賞作「飼育」を含む6編の短編集。
初めて大江健三郎氏の作品を読んだが、大変良かった。
時代を背景に、生と死、田舎の村の閉塞感、米兵と日本人の関係、子どもの好奇心と残酷さ、罪悪感と勝手な正義感、大人になるという事…などが描かれている。
ジワジワ追い詰められていく感じが、たまらない。
本作のテーマを理解できたかどうかはわからないが、共感、納得できる箇所は随所にあった。
どの作品も深くて、読後は余韻が残り考えさせられる。文学の良さって、こういう事か。
印象深かったのは、「死者の奢り」「飼育」「人間の羊」
今後は、大江氏の作品を少しずつ読み進めながら、
追悼の意を表したい。
Posted by ブクログ
初の大江健三郎
芥川賞受賞した「飼育」を読みたくて購入
6編の短編集
すごく印象に残ってるのは「人間の羊」
登場人物全員狂ってる!善意の塊だった教員も、執拗に付き纏い恐ろしい
人間の醜さが詰まった本でした
とても湿っていて臭くて汚い人間達
Posted by ブクログ
2ヶ月くらい前からおすすめと言われて貸してもらってずっと放置していた
繰り返し読みたくはならない
気に入ったのは「他人の足」。それ以外はふつうかなー
身体中の孔が粘ついた腐敗臭で満たされていくような閉塞感が不快だった、じめじめしすぎていた。
でもその湿っぽさこそが、死者や胎児のような物体、飼育されて観察対象となった黒人兵士と一般的な人間とを隔てている気持ち悪さなのだろうけど(湿気は人間側の特徴として
何かに身を費やさないと存続できないのかというほど無意識に観念に追い立てられ、根拠で生を掌握しようとする様子も嫌気がさす
そしてその差を感じることで優位(人間側としての優位性ではなく、存在としての違いを理解しているかのような立場にたって中途半端にどちらをも見下すような)に立っているような幻想を抱くのはもっと嫌だ
生理的不快感のある描写を全部拒絶したいわけじゃないんだけどもっと淡々としていた方が読みやすいな
「人間の羊」にあったような、正義や自分の納得のいくストーリーに他を当てはめ、燃え上がる感情で先を照らして突き進もうとする盲目的な態度(「他人の足」の学生も)は、同じ側に組み込まれていたら違和感なく受け入れられるのかもしれないが、羞恥心すらも彼らの都合のいいストーリーに利用される動物側だと、話の通じない異生物にしか感じられない
教師のような直接的接触はなかったとしても、この構図は普段の生活でよく見られるものだと思う
「戦いの今日」は親愛で結ばれているように見える人間関係も結局は、日本人-外国人、庇護者-保護対象など先に存在する関係性があって無条件にそれに騙される形で自分の感情や正義が形成される
気づかずに役を全うし、結局は、心のうちではこういうふうにあるべき、あるはずのものと相手の姿をコントロールしているという意味で、互いに互いを見下げ合い、あらゆる人間関係は人間-動物のような関係と大差ないように感じられてくる
最初人間を人間たらしめるものとして湿気があるのかなと思っていたけど、関係性において動物も物体も人間も差がなく全てがじめっとした一塊となってお互い通じ合えないグロテスクさが最後に残った
読んでいる最中弱いもの側というか主人公がいる側に同調していたが、どっちもどっちだし、そのグロテスクな一塊に、話が通じない種々の異生物が混じり合っているのがやっぱり気持ち悪すぎるなー
Posted by ブクログ
どの作品にも、差別や格差、人権といったテーマが描かれている。
『飼育』は芥川賞を受賞した作品で、弱者となった黒人兵を“獲物”のように扱い、次第に親しくなれたかと思えば、関係が突如として一変する過程が描かれている。
現代でも差別が完全になくなったわけではないが、昔に比べると社会はずいぶん平和になり、表面的であっても受け入れようとする姿勢が広がってきたのだなあと思った。
Posted by ブクログ
著者の作品は初めて読んだが、特に“飼育“では遠藤周作みを感じた。黒人を“獣“として見物する描写が特に。飼育の前半は少し読みずらかった。
死者の奢りは芥川賞特有の雰囲気があり、まさか死体整理のバイトの話とは、題材が衝撃であったが、妊娠中の女学生が登場するのは取ってつけたように感じた。段取りが異なるとして作業がやり直しになるなど、面白いことは面白いが。
他人の足では、同士としてどんな話をしようが例え仲良くなろうが、あくまで同士だからという前提がとても強く、同士ではなくなる(足を得る)と根底が崩れ、もう元の関係には戻れないという当たり前ながらも複雑な現実について。
一番好みの話だった。