【感想・ネタバレ】死者の奢り・飼育のレビュー

あらすじ

死体処理室の水槽に浮沈する死骸群に託した屈折ある抒情「死者の奢り」、療養所の厚い壁に閉じこめられた脊椎カリエスの少年たちの哀歌「他人の足」、黒人兵と寒村の子供たちとの無残な悲劇「飼育」、傍観者への嫌悪と侮蔑をこめた「人間の羊」など6編を収める。“閉ざされた壁のなかに生きている状態”を論理的な骨格と動的なうねりをもつ文体で描いた、芥川賞受賞当時の輝ける作品集。

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Posted by ブクログ

閉塞感むきだしで、そのなかにある生身の人間関係。今日明日の生存に無駄なものを削ぎとったギリギリの状態の人間性。反戦のメッセージと偽善者に対する嫌悪感が私達を締め付ける。

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2025年09月08日

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初めて大江健三郎を読んだが、三島由紀夫の金閣寺を読んだときの感覚に近いものを感じた。

「人間の羊」と「不意の啞」が特に良かった。両作品とも進駐軍をテーマにしたものだが、どうやってプロットを練ったのだろうか。まさか実体験ではないだろうし...

また一人、作品を渉猟したい作家が増えた。

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2025年05月31日

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やっぱり大江健三郎はすごかった。

かつて大江氏は、自分にわからない世界について、そのギャップを埋めてまで小説を書こうとは思わないし、自分があえて書く必要性も感じないというようなことを言っていた。
本作に出てくる短編は、児童期が戦時中であった彼だからこそ書けた話であり、学生らしさを失っていない時代だからこその初々しさに溢れている。

それにしても天才にしか考えつかないようなシチュエーションが設定されている話ばかりである。
こんな設定、どうやって思いついたんだと舌を巻くような作品ばかりである。

一方でアメリカ兵を否定的に描写している場面も多く、アメリカ人は大江氏の作品をどのように読むのだろうとかなり気になったりもした。

大江氏の才能を感じることができる贅沢な一冊であった。

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2025年05月10日

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どれも読んでいると、生々しい感覚と気持ち悪い感覚が襲ってくる。

何か凄いことを伝えようとしているのが分かる。
だけど正直、抽象的すぎて政治的なメッセージや思想はあまり伝わってこなかった。

個人的には人間の羊が分かりやすくて好き
被害者にしか分からない葛藤や、被害者を取り巻く人々の気持ちが伝わってきて面白かった

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2024年11月27日

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芥川賞受賞作の『飼育』と表題作の『死者の奢り』
大江健三郎さんの小説は気軽に感想が書けないほどに文章もテーマも全てが重厚

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2025年05月20日

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ある日突然貸してくれた本。初めて一緒に働いた日に、私が伊丹十三の話をすると彼は大江健三郎を私に教えてくれた。マニュアルの端に急いでメモをとり、マニュアルに書くのはあんまよくないかってそのあと自分のメモ帳に書き写した。今もそれを使ってる。少し朽ちている。
当時芥川賞を受賞したときの年齢が23歳。それぐらいの年齢の子たちと今暮らしてる。朝椅子に座って、夜ソファに転がって、同じ空気を吸いながら読んでた。海で読んだら気持ちいいだろうなって港へも連れて行った。読みたがっている女の子がいたけれど、彼女は借りずに帰った。
彼に読んだことを伝えると急に人が死ぬでしょって笑ってた。本を貸してくれたことをどれだけの人に自慢しちゃったかな。初めて読んだ彼の本。

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2024年11月02日

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義父の本棚にあったので何気なく手に取ってみた
人間が複数存在する状況において否応なく発生する緊張感や暗黙の了解についての、解像度や描写力がバケモンすぎる…

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2024年08月04日

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1950年代後半から1960年代にかけて、戦後の鬱屈とした社会が生々しく描かれている。
実存主義から構造主義に移行していくような、社会規範のあり方が大きく変わろうとしていた時代。
どの短編にも共通するのは、変わりゆく時代に敏感な(何かを期待されている)若者たちが主人公ということだ。
社会正義を押し付けられ、何者かにならなければならないような空気感に抑圧されている学生や、残酷で不寛容な社会で成長せざるを得ない子どもたち。

当時の人たちが外国人をどのように客観していたのか、令和に生きる私は、私たちの主観で、大江健三郎の文体によって、それを生々しく、悲しく体感させられた。

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2024年06月08日

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初めて大江健三郎を読んだ。
彼の文章からは、グロテスクとも言えるほどの迫力と緻密な論理表現が共存している感じを受ける。人間の中のドロドロとした感覚をここまで明確に表現できるのかと、鳥肌が立つ。
そして、大江が抱えている問題意識や鬱積がまざまざと伝わってくるストーリー。価値観の転回やコンプレックスを社会に引き起こした戦後に青年期を過ごした大江の描く物語は、平穏な時代をのうのうと過ごす私にとって、得体の知れない獣のように迫ってくるものがあった。

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2023年09月05日

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ネタバレ

現代の価値観と違い過ぎて物語の繊細さが理解できなかった。

水槽に沈む死体に対して湿度の高い激重感情を頭の中で炸裂させる文学青年、身体や足が動かなくなる病に侵され希望なく暮らす少年たちの元に現れた両足骨折の青年、病棟内を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して健常者の世界へ戻っていく無責任さ、黒人兵士を家畜のように世話をし交流するグロテスクさ、屈辱感に必死に耐えようとする人に付き纏う傍観者の行き過ぎた正義感と加害、外国人兵士の通訳をする日本人が日本人を見下す滑稽さ。

誰もが持っている陰湿な部分をチクチクされるような話

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2025年08月25日

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「飼育」などは、なんだかとてつもないモノを読んでしまった、という感想。心情描写がすばらしく、人間の心理を深掘りして示してくれる。ストーリーも奥が深い。

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2025年07月17日

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4.0/5.0

死や性、病気といったものに対する著者の感性、そして今よりもその境目がはっきりしていたであろう戦後間もない時期の、日本人としての自意識と、外国人に対する純粋な興味と、敵対心を感じた。

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2025年03月21日

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深い孤独感や戦争の影響、死の意味が何であるかを読者に強く投げかけてくる作品。
言葉遣いは美しいものの、内容が重たく読みにくく、詠み終わったあとも憂鬱な気持ちになる。
簡単には、人にオススメできない作品となっている。


【主人公の孤独と隔たり】
本作の主人公たちは他者との間に大きな隔たりを抱えており、その孤独感が物語の根底に流れています。主人公の内面的な葛藤や感情の複雑さが際立っています。

【主人公の内的葛藤】
主人公は、死体を「物」として扱う一方で、死を意識の面で捉えようとします。仕事を終えた後の快楽的な感覚と、他者からの軽蔑を感じることで生じる苦悩が対照的に描かれています。この葛藤が、彼の生きることの意味や人間関係の難しさを際立たせています。

【生々しい表現方法】
死や戦争を想起させる生々しく、どろどろとした表現が多彩であり、これによって読者は強い印象を受けます。特に、主人公がホルマリン漬けの死体を扱う過程での描写は、死の物質的な側面と意識の対比を浮き彫りにしています。

【戦前・戦後の閉塞感】
物語には、戦前や戦後の閉塞感が色濃く反映されており、特に戦争の影響が人々の生活にどのように浸透しているかが描かれています。主人公たちが感じる戦争の現実は、彼らの日常において遠くの出来事でありつつも、無視できない存在感を持っています。

【村の生活と戦争の影響】
「飼育」では、村での生活が描かれ、戦争が村の若者たちに与える影響が表現されています。村の子供たちにとって、戦争は遠い出来事であり、敵兵を捕虜とすることも「獲物」としての興奮を伴う体験に過ぎないという冷徹な視点が示されています。

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2025年01月23日

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飼育に関して……
心理描写が凄いのかなー、細かいっていうのか。
セクスって言葉がちょいちょい出てくるなー。
表紙がなんか怖い。

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2025年01月08日

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ノーベル賞作家として名高い大江氏による芥川賞受賞作も含む初期短編集。どれも政治的・社会的テーマで、とても二十代が書いたとは思えない内容であった。好き嫌いの分かれる作家のようだが、共感する部分は多く、個人的には面白く読めたので、他の作品も読んでみたいと思う。

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2024年11月14日

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生々しくて厳しい世界観。その中で生きていく人間の、生物としての生命の躍動をどくどくと感じられる。
場面は端から一つ一つ丁寧に、そして正確に表現されていく。それによりじわじわと空気感が体に染み渡っていく読書感がクセになる。
文体に関しては熟語が多く、厳格でかちっとしていて、これも世界観にマッチしていて好み。
大江健三郎いいな。この作品で初めて読んだが、かなり好きだなと思える作家で、出会えて嬉しい。

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2024年10月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

芥川賞受賞の表題作「飼育」を含む初期の短編をまとめたもの。

ほかにもノーベル賞も受賞。受賞理由はからっきし意味不明ですが、ネットに落ちているNHKの方の解説を読むと、どうやら現代日本社会を描いたから、ということ!? よくわからん。

ただ、本作を読んでありありと感じたのは、偽善へのシニカルな目線・退廃的ムード・諦めと閉鎖性、このようなワードが思い浮かぶ作品群であったと思います。

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以下は作品と寸評です。

「死者の奢り」・・・表題作。解剖用死体を大型水槽からもう一つへ移し替えるというバイトをした「僕」。場面設定が特殊であるものの、得も言われぬ退廃的なムードが印象的な小品。

「他人の足」・・・未成年の脊椎カリエス患者を収容した一種の閉鎖病棟の話。退廃的な慰みを看護師に強要?しているような病棟であったものの、とある「新入り」大学生患者が皆を感化し良化していく。しかし、最後にこの大学生が何とかここを出ることが出来るとなると、もとよりいる患者を汚らわしいものを見るかのように突き放す。ここに善意の欺瞞の薄っぺらさが見て取れる。

「飼育」・・・とある隔絶された村に不時着した米軍飛行機。生きていた黒人兵を指示があるまでその村にとどめおく(まさに「飼育」)様子を綴る。牧歌的な交流が大部分を占めるも、移送される段になり、黒人が逆上し、最後はあっけない結末に。

「人間の羊」・・・占領下のバスでの出来事。米兵に屈辱的な仕打ちを受けた「僕」と、眼前では無抵抗の観客であるも、事後の「僕」に告発させようと躍起になる「教員」との偏執狂的やり取り。居合わせた当事者としては何もしなかった「教員」の第三者的物言いが鼻につく。これもまた「外野」の偽善的欺瞞が匂う作品。

「不意の唖」・・・上記の「飼育」を彷彿とさせるとある山村。今度は米兵とその通訳がこの村に訪れる。強い側についた通訳の高飛車な態度が次第に村人の気持ちを逆撫でし、遂に通訳は。。。ホラーチックな作品。

「戦いの今日」・・・朝鮮戦争時の日本で、米兵に脱走を唆すビラを配る兄弟。ちょっとしたバイト感覚のビラ配りも、脱走志望者が出てきてたじろぐ兄弟。引き受けたくない兄と、何とかしたい弟。結局かくまうことになるも、とある晩に脱走兵に潜むアジア人蔑視を嗅ぎ付けた兄は当の兵士をぼこぼこにして。。。

・・・
ということで久方ぶりの大江作品でした。

とんがっていてなかなか面白かったです。他の作品もまた読んでみたいと思います。

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2024年04月22日

Posted by ブクログ

テーマがすごい。描写がすごい。
冒頭の一節から、足し引きのない形容によって衝撃的な光景が生々しく描かれ、作者独特のその描写は最終話まで途切れることなく続きます。閉鎖された空間、そこに置かれた人たちの心理、行動、息遣い、発する言葉、見えないけれども確かに存在する外界との境界、その全てに生臭い人のさがが見え隠れします。ページをめくる度にその隙間から体臭の混じる湿り気を帯びた空気が漏れ出てくるようです。

好みはさておき、すごい作品群です。気になる一節を読み返してみると、作者の意図する世界感を体温や感触をともなって自分なりに体現できて、よくこんな文章が書けるものだと感心してしまいます。芥川賞、ノーベル文学賞受賞は伊達ではないな、などと偉そうに思う次第です。気が向いたら是非ご一読ください。

追伸 食事の前後と就寝前は避けて読んでいただいたらと思います。折角の料理が美味しくいただけなくなるかもしれません。美味しくいただいたはずの食事が残念なデザートで台無しになったような気持ちになるかもしれません。妙に頭が冴えて寝つきが悪くなったり、目覚めの悪い朝を迎えたりするかも知れません。

余計なお世話でした。

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2023年10月24日

Posted by ブクログ

死者の驕りはすれ違った老人のシーンがビシッと印象に残ってる。1番好きなのは飼育で、短編として完璧すぎると思ったのは他人の足、最後の一文が忘れられないのは人間の羊、でしょうか。

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2023年10月11日

Posted by ブクログ

芥川賞受賞作「飼育」を含む6編の短編集。
初めて大江健三郎氏の作品を読んだが、大変良かった。
時代を背景に、生と死、田舎の村の閉塞感、米兵と日本人の関係、子どもの好奇心と残酷さ、罪悪感と勝手な正義感、大人になるという事…などが描かれている。
ジワジワ追い詰められていく感じが、たまらない。
本作のテーマを理解できたかどうかはわからないが、共感、納得できる箇所は随所にあった。
どの作品も深くて、読後は余韻が残り考えさせられる。文学の良さって、こういう事か。
印象深かったのは、「死者の奢り」「飼育」「人間の羊」
今後は、大江氏の作品を少しずつ読み進めながら、
追悼の意を表したい。

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2023年09月17日

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1.著者;大江氏(故人)は、小説家。「死者の奢り」で、学生作家としてデビュー。豊かな想像力と独自の文章で、現代に深く根ざした小説を執筆。核兵器・天皇制等の社会問題、故郷の四国の森の伝承、知的障害を持つ長男との生活・・を重ね合わせた作品を構築。「飼育」で当時最年少の23歳で芥川賞受賞。さらに「洪水はわが魂に及び」で野間文芸賞・・などの多数の文学賞と、日本で二人目となるノーベル文学賞受賞。民主主義の支持者で国内外における社会問題に積極的に発言を続けた。
2.本書;大江氏の初期作品集。6短編を収録➡①死者の奢り(解剖用の死体を運ぶアルバイト)②他人の足(脊椎カリエスの病院)③飼育(黒人兵を村で預かる)➃人間の羊(バスの中での屈辱)⑤不意の唖(村に来た外国兵)⑥戦いの今日(朝鮮戦争時に日本に来た米兵)。前三作は監禁状態、後三作は社会問題がテーマ。大江氏は書いています。「監禁されている状態、閉ざされた壁の中に生きる状態を考える事が、一貫した僕の主題でした」と。
3.個別感想(印象に残った記述を3点に絞り込み、感想を付記);
(1)『第1編 死者の奢り』より、『「《教授》こんな仕事(死体を移す仕事)をやって、君は恥ずかしくないのか?君たちの世代には誇りの感情がないのか?」→「《アルバイト学生》生きている人間と話すのは、なぜこんなに困難で、思がけない方向にしか発展しないで、しかも徒労な感じがつきまとうのだろう、と僕は考えた。・・僕は眼をあげ、教授の嫌悪にみち苛立っている顔を見た。・・蔑みの表情があらわなのを見て、僕は激しい無力感にとらえられた』
●感想⇒人には生きていく為に生活事情があります。この学生は報酬に魅力を感じ、大学病院の解剖用死体を運ぶアルバイトをしたと思います。それ自体決して、非難されるものではありません。❝職業に貴賤無し❞と言います。法令に違反しない限り、どんな職業も理由があって、存在しているのです。教授の言う「こんな仕事(死体を移す仕事)をやって、君は恥ずかしくないのか?」にはあきれます。この仕事を誰かがやらなければ、教授は研究出来ないのです。感謝するのが当然でしょう。彼は、人を色眼鏡で見て差別しています。世の中には、このように❝特権階級❞を自任し、振りかざす人が少なくありません。自らの立場やこれまでの人生を振返り、感謝の心を忘れず、真摯な態度で人に接したいものです。社会的地位が高い程、人格をを疑われる言動は慎むべきです。❝人のふり見て我がふり直せ❞です。
(2)『第3編 飼育』より、『《村の少年》黒人兵を獣のように飼う。・・黒人兵が柔順でおとなしく、優しい動物のように感じられてくる。・・僕らは黒人兵と急激に深く激しい、ほとんど❝人間的❞なきずなで結びついた事に気付く。・・黒人兵が捕らえられて来た時と同じように、理解を拒む黒い野獣、危険な毒性をもつ物質に変化している。・・黒人兵の頭蓋の打ち砕かれる音を聞いた』
●感想⇒村という外部と隔離された社会、主人公が黒人を支配できるという優越感、無残な最期の悲劇・・。「飼育」は残酷で恐ろしい話です。戦時下とは言え、人間を動物の様に扱う(飼育)のは、身の毛がよだちます。世間ではペットブームと言い、動物を人間の様に飼育している人をよく見かけます。私も以前はペットを飼っていたので、その気持ちはよく理解出来ます。しかし、人間を❝飼育❞するという感覚が私には理解出来ません。ペットは人間の様に❝裏切らない❞という事かもしれませんが、人間には尊厳があるのです。道徳心もあります。本短編は戦時中のフィクションとは言え、❝人間を飼育する❞という発想で書き上げた偉才ならではの作品です。驚きです。
(3)『第4編 人間の羊』より、『「《主人公》外国兵らは(バスの中で)僕のズボンのベルトをゆるめ荒々しくズボンと下履きとを引きはいだ。・・両手首と首筋はがっしり押さえられ、僕の動きの自由を奪っていた。・・狼狽の後から、焼け付く羞恥が僕をひたしていった」・・「《同乗の教員》・・君は泣寝入りするつもりなのか?・・黙って誰からも自分の恥をかくしおおすつもりなら、君は卑怯だ。・・名前だけでも言ってくれよ。僕らはあれを闇に葬る事は出来ないんだ。・・(名前を隠すつもりなら)お前達(僕と外国兵)に死ぬほど恥をかかせてやる。・・俺は決してお前から離れないぞ」』
●感想⇒被害者と傍観者に関する感想です。先ず、被害者の学生。衆人の前で酷い屈辱を受けても、反発できない惨めな気持ちに耐え抜く態度に感心。背景には、敗戦国での治安の悪さ(警察も当てにならない?)とバス同乗の傍観者の❝面倒な事は避けたい❞という態度にあると思います。バスを降りて、傍観者の一人(教師)が被害者にこの事を訴えようと纏わりつきます。外国兵が居なくなってからしつこく迫り、思い通りならないと捨て台詞。「お前達(僕と外国兵)に死ぬほど恥をかかせてやる」。教育者にあるまじき発言、こういう教育者は許せません。大江氏の「傍観者に対する嫌悪と侮蔑」を思い、胸を打たれます。最近では、交通機関の中での不祥事に、同乗者達が加害者を非難している報道をよく見聞きします。正義は健在だと思うと同時に、この火種を絶やさない社会にしたいものですね。
4.まとめ;本書は、大江氏の出発点となる作品で、芥川賞受賞、100万部超の大ベストセラーです。今回レビューを書くために再読。若い頃に読んだ時は、正直難解な作品でした。私は、6短編の中で、「人間の羊」に感銘。傍観者の❝他人事❞と言わんばかりの態度、歪んだ正義感を振りかざす教師。戦後間もない時の出来事と言えど、人間の醜さ・弱さに傷心です。大江さんは、ノーベル文学賞受賞後も、反原発デモの先頭に立つ等、行動する知識人としての人生を貫きました。書斎にこもる事なく行動し、発言し続けたのです。氏の作品が時代を超えて世界レベルで読み続けられる事を願います。(以上)

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2023年07月08日

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初・大江健三郎。国語の教科書に出てきそうなくらい文章が上手。一言で簡潔に言えるものを、叙情的かつ具体的に例えて言い換えているのがすごい。「かわいい」をもっと詳しくどんなふうにかわいいのか説明してる的な。その言葉が何を指しているのか考えなければならず、頭を空っぽにしてボーッと読めるわけではないけど、文章のリズムが非常によくメッセージ性もある。さすがノーベル賞を受賞するだけのことはあると感じた。

死者の奢り:大学生の僕が死体運搬のアルバイトをしたときの話で、水槽に浮かぶ死体や妊娠中の女子大生、12歳の少女の死体に漂う性的魅力など「生」と「死」の対比が見事。何より文章が上手。人生の真理や滑稽さも考えさせられる。

他人の足:脊椎カリエスの病棟で閉鎖的な日々を送る少年たちの元に新しく学生が入院し、外部との関わりを持つよう働きかけるが…。障害者と健常者、異常と正常という対立から人生の真理を追求。そこには厚い壁があってお互いに関わろうとしていないのが現実。自分の足で立つ人間は非人間的だ。

飼育:「町」か差別的な扱いを受ける谷底の村の人々が、黒人兵に対してまた差別的な扱いを行うという構造がおもしろい。短いけれど黒人兵との交流を通して親睦を深める様子がよくわかり、時には情欲的な何とも言えない感情が起こる描写も見事。生と死、子供と大人の違いなど、オチまで読むといろいろと考えさせられる。

人間の羊:当事者の気持ちを無視して勝手に盛り上がる外野との対比が見事。フィクションなのにノンフィクションかのようなリアルな心情描写で、ああいう教師みたいな迷惑おせっかいの人っているなと感じた。

不意の啞:外国兵に対する興味関心が、あるできごとをきっかけに急速に失われる。それは戦後の日本がどうなっていくのかという期待がなくなっていく様を表しているのかもしれない。権力・暴力を盾にするのは人間として非常に滑稽で、対等に語り合おうとしないのは穢らしい。

戦いの今日:読み終わってからタイトルをあらためて見ると「なるほど」と思う。戦いはまだ終わっていない。左翼は煽るだけ煽って責任を取らずただそのときの鬱憤をビラを撒くという行為で晴らしていたのかなと少し思った。米国人に情欲が掻き立てられても、結局日本人は米国人から侮辱され、対等の立場にはなり得ない。いつまで経っても日本人は負けるのだ。

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2023年07月13日

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これまで大江健三郎を読んだことがなかった。メガネをかけたいかにもものかきといった風貌が好きなれず、確か万延元年のフットボールを購入したが、読まずにそのまま本棚に突っ込んでいる。(はず)大江が亡くなられてこの際読んでおかなくてはと処女作を購入してみた。飼育、人間の羊、不意の唖、戦いの今日と戦中から戦後の占領下の状況とその中で翻弄される人々の生活に目を向ける視点が印象的だった。これから少しづつ大江も読んでいこうと思わせる大江ワールドの幕開けだった。

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2023年06月15日

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短編集ですが、後の作品になるにつれてどんどん面白く感じました。主人公は、みんな怒っていますね。最初の方の作品は、読点の位置が変わっていて読みづらく感じました。

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2023年06月01日

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 これを20代前半で書いた人間はどんな人生を生き、そしてどのような人間性でもってこれを書いたのだろうか。その疑問は本作の内容よりも私の心を捉えたが、残念ながら読めば読むほどわからなくなっていった。
 読む前に、大江健三郎について私が持っていた手がかりというのは彼が愛媛の田舎の大自然のなかで育ったらしいということだけだった。私はそれがある程度本作の土壌を形成する要素となっているのだろうかと想定していたが、本書からその印象は全く感じられなかった。それよりもむしろ、村、僕の家、黒人が囚われていた監獄といった暗く四角い空間が生む暗鬱な閉塞感が強く印象に残った。

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2023年06月01日

Posted by ブクログ

どの作品にも、差別や格差、人権といったテーマが描かれている。
『飼育』は芥川賞を受賞した作品で、弱者となった黒人兵を“獲物”のように扱い、次第に親しくなれたかと思えば、関係が突如として一変する過程が描かれている。
現代でも差別が完全になくなったわけではないが、昔に比べると社会はずいぶん平和になり、表面的であっても受け入れようとする姿勢が広がってきたのだなあと思った。

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2025年10月13日

Posted by ブクログ

「人間の羊」は、主人公が全く喋らず、心の中の言葉で表されている。

教員の正義感は、主人公のためではなく、自分のためにやっているように感じる。

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2025年06月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

著者の作品は初めて読んだが、特に“飼育“では遠藤周作みを感じた。黒人を“獣“として見物する描写が特に。飼育の前半は少し読みずらかった。

死者の奢りは芥川賞特有の雰囲気があり、まさか死体整理のバイトの話とは、題材が衝撃であったが、妊娠中の女学生が登場するのは取ってつけたように感じた。段取りが異なるとして作業がやり直しになるなど、面白いことは面白いが。

他人の足では、同士としてどんな話をしようが例え仲良くなろうが、あくまで同士だからという前提がとても強く、同士ではなくなる(足を得る)と根底が崩れ、もう元の関係には戻れないという当たり前ながらも複雑な現実について。
一番好みの話だった。

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2024年08月02日

Posted by ブクログ

末尾の江藤淳の解説を読むと、暗さの中に美が〜、という評があった。しかし私はこの短編集を読んで、粘り気の強い暗さが終始付き纏う感覚があった。どの短編も結末が好きで、久しぶりにスッキリした読み応えだった。
特に、「死者の奢り」「他人の足」が好き。けれど粘っこいセクスは好きではない。
全体を通して20代に発表した作品とは思えない。
障害を持つ人々、外国兵や人種に関して、大江の抱く考えが知りたい。

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2023年09月11日

Posted by ブクログ

ネタバレ

死体処理のアルバイトの話「死者の奢り」、山奥に墜落した黒人兵と村人との間に起こった悲劇「飼育」のほか、「他人の足」「人間の羊」「不意の唖」「戦いの今日」の計六編収録。

これらの作品は「監禁されている状態、閉ざされた壁のなかに生きる状態を考えること」だったという。(「解説」より)

隔離病棟で鬱屈と暮らす少年たちのもとに新しい患者がやってきて、社会の注意を寄せようと活動を行うさまを描いた「他人の足」はわかりやすく面白い。

また、バスのなかで外国人兵から辱めを受けた青年に、その様子を傍観していた教員が、社会に公表するために恥をさらす犠牲を迫る「人間の羊」も、ぞっとする読後感。

「人間の羊」「不意の唖」「戦いの今日」は他者からの圧力に耐える(静かに反抗する)様子を描いている。(「戦いの今日」では耐えきれずに爆発してしまうが)

文節の順序、読点の少なさと位置などの影響で、修飾・被修飾の関係や目的語がわかりづらく、スムーズに読み進めるのが難しい。

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2023年06月24日

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