あらすじ
死体処理室の水槽に浮沈する死骸群に託した屈折ある抒情「死者の奢り」、療養所の厚い壁に閉じこめられた脊椎カリエスの少年たちの哀歌「他人の足」、黒人兵と寒村の子供たちとの無残な悲劇「飼育」、傍観者への嫌悪と侮蔑をこめた「人間の羊」など6編を収める。“閉ざされた壁のなかに生きている状態”を論理的な骨格と動的なうねりをもつ文体で描いた、芥川賞受賞当時の輝ける作品集。
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Posted by ブクログ
現代の価値観と違い過ぎて物語の繊細さが理解できなかった。
水槽に沈む死体に対して湿度の高い激重感情を頭の中で炸裂させる文学青年、身体や足が動かなくなる病に侵され希望なく暮らす少年たちの元に現れた両足骨折の青年、病棟内を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して健常者の世界へ戻っていく無責任さ、黒人兵士を家畜のように世話をし交流するグロテスクさ、屈辱感に必死に耐えようとする人に付き纏う傍観者の行き過ぎた正義感と加害、外国人兵士の通訳をする日本人が日本人を見下す滑稽さ。
誰もが持っている陰湿な部分をチクチクされるような話
Posted by ブクログ
芥川賞受賞の表題作「飼育」を含む初期の短編をまとめたもの。
ほかにもノーベル賞も受賞。受賞理由はからっきし意味不明ですが、ネットに落ちているNHKの方の解説を読むと、どうやら現代日本社会を描いたから、ということ!? よくわからん。
ただ、本作を読んでありありと感じたのは、偽善へのシニカルな目線・退廃的ムード・諦めと閉鎖性、このようなワードが思い浮かぶ作品群であったと思います。
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以下は作品と寸評です。
「死者の奢り」・・・表題作。解剖用死体を大型水槽からもう一つへ移し替えるというバイトをした「僕」。場面設定が特殊であるものの、得も言われぬ退廃的なムードが印象的な小品。
「他人の足」・・・未成年の脊椎カリエス患者を収容した一種の閉鎖病棟の話。退廃的な慰みを看護師に強要?しているような病棟であったものの、とある「新入り」大学生患者が皆を感化し良化していく。しかし、最後にこの大学生が何とかここを出ることが出来るとなると、もとよりいる患者を汚らわしいものを見るかのように突き放す。ここに善意の欺瞞の薄っぺらさが見て取れる。
「飼育」・・・とある隔絶された村に不時着した米軍飛行機。生きていた黒人兵を指示があるまでその村にとどめおく(まさに「飼育」)様子を綴る。牧歌的な交流が大部分を占めるも、移送される段になり、黒人が逆上し、最後はあっけない結末に。
「人間の羊」・・・占領下のバスでの出来事。米兵に屈辱的な仕打ちを受けた「僕」と、眼前では無抵抗の観客であるも、事後の「僕」に告発させようと躍起になる「教員」との偏執狂的やり取り。居合わせた当事者としては何もしなかった「教員」の第三者的物言いが鼻につく。これもまた「外野」の偽善的欺瞞が匂う作品。
「不意の唖」・・・上記の「飼育」を彷彿とさせるとある山村。今度は米兵とその通訳がこの村に訪れる。強い側についた通訳の高飛車な態度が次第に村人の気持ちを逆撫でし、遂に通訳は。。。ホラーチックな作品。
「戦いの今日」・・・朝鮮戦争時の日本で、米兵に脱走を唆すビラを配る兄弟。ちょっとしたバイト感覚のビラ配りも、脱走志望者が出てきてたじろぐ兄弟。引き受けたくない兄と、何とかしたい弟。結局かくまうことになるも、とある晩に脱走兵に潜むアジア人蔑視を嗅ぎ付けた兄は当の兵士をぼこぼこにして。。。
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ということで久方ぶりの大江作品でした。
とんがっていてなかなか面白かったです。他の作品もまた読んでみたいと思います。
Posted by ブクログ
著者の作品は初めて読んだが、特に“飼育“では遠藤周作みを感じた。黒人を“獣“として見物する描写が特に。飼育の前半は少し読みずらかった。
死者の奢りは芥川賞特有の雰囲気があり、まさか死体整理のバイトの話とは、題材が衝撃であったが、妊娠中の女学生が登場するのは取ってつけたように感じた。段取りが異なるとして作業がやり直しになるなど、面白いことは面白いが。
他人の足では、同士としてどんな話をしようが例え仲良くなろうが、あくまで同士だからという前提がとても強く、同士ではなくなる(足を得る)と根底が崩れ、もう元の関係には戻れないという当たり前ながらも複雑な現実について。
一番好みの話だった。
Posted by ブクログ
死体処理のアルバイトの話「死者の奢り」、山奥に墜落した黒人兵と村人との間に起こった悲劇「飼育」のほか、「他人の足」「人間の羊」「不意の唖」「戦いの今日」の計六編収録。
これらの作品は「監禁されている状態、閉ざされた壁のなかに生きる状態を考えること」だったという。(「解説」より)
隔離病棟で鬱屈と暮らす少年たちのもとに新しい患者がやってきて、社会の注意を寄せようと活動を行うさまを描いた「他人の足」はわかりやすく面白い。
また、バスのなかで外国人兵から辱めを受けた青年に、その様子を傍観していた教員が、社会に公表するために恥をさらす犠牲を迫る「人間の羊」も、ぞっとする読後感。
「人間の羊」「不意の唖」「戦いの今日」は他者からの圧力に耐える(静かに反抗する)様子を描いている。(「戦いの今日」では耐えきれずに爆発してしまうが)
文節の順序、読点の少なさと位置などの影響で、修飾・被修飾の関係や目的語がわかりづらく、スムーズに読み進めるのが難しい。