【感想・ネタバレ】個人的な体験のレビュー

あらすじ

わが子が頭部に異常をそなえて生れてきたと知らされて、アフリカへの冒険旅行を夢みていた鳥(バード)は、深甚な恐怖感に囚われた。嬰児の死を願って火見子と性の逸楽に耽ける背徳と絶望の日々……。狂気の淵に瀕した現代人に、再生の希望はあるのか? 暗澹たる地獄廻りの果てに自らの運命を引き受けるに至った青年の魂の遍歴を描破して、大江文学の新展開を告知した記念碑的な書下ろし長編。

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Posted by ブクログ

村上春樹は大江健三郎から影響受けてるのだろうか?書き方や作品の雰囲気が似ていると思ったら、大江健三郎自身も自分のことを「20世紀の作家」、村上春樹のことを「21世紀の作家」と称して交流があったみたい

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2024年10月27日

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面白かったです。
描かれたことのない場所を精緻に描いている小説だった。
最後、大江健三郎がアスタリスク後のこだわりを語ってるところも良かった。

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2024年10月22日

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産まれてきた息子が異常を持っているという未だかつて経験したことのない現実に27歳の「大人」が直面するとどうなるか?という内容の小説。

一言で言うとずっと面白い。

ほんの数日間の出来事が描かれているにも関わらず、一才が緊迫したシーンで埋め尽くされている、恐ろしい長編。

予想できない展開、ユーモア、メタファー、回想シーンへの導入、魅力溢れるキャラ、アフォリズム、官能的な文体。

挙げたら切りが無いが、どれを取ってもピカイチ。
無限に味わい深い。

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2024年09月09日

購入済み

前から読んでみたかった大江健三郎さんの作品。初めてページ数を見た時には存外短いなと思いましたが、実際に読んでみたらページ数から想像する10倍は重たく、濃い内容の作品でした。面白い、などと形容していい作品ではないですが、出産や障害、仕事といったリアルな側と、憧れの外国の地や光の差さない愛人の部屋での逢瀬といった非現実な側の対比が美しく、長く心に残りそうな作品だと思いました。読んでよかったです。

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2024年07月02日

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素晴らしかった。
読み終わった後のなんともいえない余韻。これだから読書はやめられない。
作者によるとこれは青春小説ということだが、なるほど、テーマは大変なことだが、青年が悩み、葛藤し、迷い、経験し、蘇生し、決断する。
まさにこれは青春小説か。
主人公をバードと一貫して、表現したり、独特の病み付きになる表現の文体は、驚愕する。
一気に読んでしまった。
後半急に心変わりする感じて急転直下するが、バードは最初からこうしたかったんじゃないか。
ラストのアスタリスク以降の文はいらないんじゃないかと、いろいろ批判があるようだが、自分はいいと思う。

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2023年08月08日

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大江健三郎が後書きでこの小説を「青春の小説」だと言っていた。書いている時はバードを青春とは切り離した存在としていたようだった。しかし、自分の子供のことで悩み、堕落し、逃げようとしながらも最後は自分のために子供を受け入れていこうとする姿はまさに青春だった。どんな国際問題よりも自分の子供をめぐる家庭の問題の方が重くのしかかっているので、他のことに対して落ち着いて超然としていられるのは当たり前とバードは考えていた。だからと言って自分のような体験をしていない人が、自分を羨望する理由はないだろう。と言うところがなんとも苦しい。やはり、どこまでも個人的な体験であり、他者とは共有できないものだった。
最後、火見子とアフリカに行かない現実がありながらも、二人でアフリカに行くという世界がどこかにあるという考えは切なくもちょっと夢があっていいなと思った。

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2023年05月14日

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ネタバレ

主人公“鳥(バード)”は脳ヘルニア(実はそうではなかったが)をもって生まれた嬰児の存在に苦しめられる。嬰児を直接手にかけることも、受容して育てていくこともできない。鳥は恥と欺瞞の混沌に落ち込んでいく。

最後数ページの、混沌から脱出した後のシーンについて、発表当時、世間からは必要でないと批評されることもあったそう。個人的には、それまでのページで読んでいるこちらまで混沌に呑まれつつあったので、あのシーンは私をも救済してくれた。

相変わらず、メモしてしまうほどの巧みな比喩表現
や、息を呑む生々しい描写が目立った。
「ああ、あの赤んぼうは、いま能率的にコンベアシステムの嬰児殺戮工場に収容されて穏やかに衰弱死しつつあるわけね、それは、よかったですね!」

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2023年04月23日

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素晴らしかった。
小説を読んだ後に呆然となるあの感覚に久しぶりに襲われた。その感覚にしばらく呆然と身を浸していた。

読んでいてとても苦しかった。
主人公の異形の赤ん坊に対する心の動き、つまり直接は手を下さず彼を死に追いやろうとすることへの渇望と恐怖と欺瞞とに苦しめられている様子が克明に描かれすぎていて、とてもつらかった。

だから最後のバーでのくだりは圧巻だった。
「赤んぼうの怪物から逃げだすかわりに、正面から立ちむかう欺瞞なしの方法は、自分の手で直接に縊り殺すか、あるいはかれをひきうけて育ててゆくかの、ふたつしかない。始めからわかっていたことだが、ぼくはそれを認める勇気に欠けていたんだ」
「それはぼく自身のためだ。ぼくが逃げまわりつづける男であることを止めるためだ」
ああこの言葉をようやく聞けた時私は読者として本当に何かにうたれる思いで、心が震えた。
理由が赤んぼうのためではなく自分のためであることはとても重要だと思う。葛藤は一貫して自分との闘いとして描かれており、なのに最後の最後に赤んぼうのためなどと言い出したらそれこそ欺瞞、偽善だと思うから。

それから火見子の乳房の描写が自分のに似ていてとても好き。セックスの後に健やかに眠りにつく描写も。

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2023年03月25日

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ネタバレ

鳥が世界中でただ1人、彼の身に降りかかる異常児を巡る運命と信じる悲惨に、人間が元来備えるニヒルで利己的な心情を当人の堕落と衰退にのせて壮大に描いた作品。
自身にとって、前身だろうが後退だろうが、自分を取り囲む欺瞞の罠を掻い潜り、解放しながら受け止めて対処することが生きるということ。

鳥が見舞われていた異常児の問題は、周りの他人たちが共有している時間や運命からは完全に孤立した「個人的な体験」であった。
だからこそ、自身が受け止めて対処することが重要。

「個人的な体験」に情人である火見子が自ら参入し、共通の体験として解決に精進するのは、感慨深かった。

また、突発的に「脆い」という概念の素晴らしさにも気づいた。
今にも崩壊しそうだが、自らの姿形を保つために重力に抗う性質がこの言葉には含まれている。
脆いとは、力に抗う反骨心。脆いとは、攻撃され続けても、それでも尚、立ち続ける反逆精神。

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2023年02月27日

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若々しいオーケンの漲るパワーが籠った一作。
結末の纏め方は賛否あり、作者本人も葛藤があったとコメントしているが、それを差し引いても当時の文学作品の中ではインパクトと熱量で抜けている作品だと感じる。

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2022年09月09日

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ネタバレ

あまりにも考えられない病院側の反応に困惑したことから始まりました。嫌な現実から逃げようとする主人公。それを受け入れる関係をもった女性。しかし主人公は前向きに変わっていった。
スワヒリ語のくだりと、沢蟹を探す熊みたいなんて感じの表現が好き。

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2021年06月15日

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ネタバレ

いやはや、これは凄いですね。とんでもねえな、って思いました。大江健三郎、とんでもねえなあ。小説家・エッセイストの原田宗典が好きなのですが、その原田さんが、確か著書の中で大江健三郎を評して「でえれえ」みたいに言っていた気がするのですが(違ったらすみません)確かにでえれえよ、こりゃすげえよ、ノーベル文学賞、恐るべし、ですよ。この作品、1964年の作品だそうです。2018年現在からすると、54年前!ですか!遥か昔やん。そんな昔に、こんなとんでもねえ作品が書かれていたのかあ。驚きだなあ世の中って。

障害を持った子が生まれる、という出来事は、そらもう、その夫婦の間の(この小説でいいますと、奥さんには最後の最後の方まで、生まれた子が障害を持っているのは秘密にされますので、父である鳥(バード)にとっての)極めて個人的なできごと、体験、となるのでしょうが、そのごく個人的な現象を突き詰めて突き詰めて突き詰めまくった結果、大げさに言うならば、人類全部に突きつけた作品、という感じでしょうか?どうでしょうか?違うか?そんな認識を持ちました。極めて個人的な問題、経験は、突き詰めると、究極の所、人類全体の問題なのです、という壮大さを感じた、気がします。錯覚かもしれませんが、、、うーむ、凄い。

なにしろ、文章が、文体が持つ、おっとろしいまでの熱量、というか破壊力、というか、すっげえな、って思いました。パンクだぜ大江健三郎、とか思ったのです。全然見当違いな認識だとも思うのですが、これ、この作品、圧倒的にパンクだなあ、と。ロックンロールだなあ、と。言い回しや文体や表現や、なにしろもう、とんでもねえ。文字の力、というのは、数値化できるものではないと思うのですが、そのモジヂカラが、とんでもねえ数値をはじき出してるんではなかろうか、と思ってしまいました。ドラゴンボールでいう所の、戦闘力を計ることのできるスカウターみたいなのが欲しいな、って思いました。文学力を計るスカウターが。100メートル走を何秒で走る、とか、砲丸投げを何メートル飛ばす、とか、そういう目に見える数字が凄いんじゃない、目に見えない、数値化できない何かがとんでもなく凄い。そんな所も、大江健三郎さん、パネえな、って思いました。なんとなく、読んでて、町田康や村上春樹の文章みたい、って感じました。町田さんや村上さん、大江健三郎さんの影響、受けているのだろうか、、、どうなんでしょうね?

すっげえ滅茶苦茶に乱暴にこの作品を要約すると、
子供が障害持って生まれたもんだからテンパって現実逃避しちゃった父ちゃんが、家族を捨てて昔の学校の同級生の女の家に入り浸ってセックスばっかして嫌な現実から逃げようとして、でもいよいよ抜き差しならんくなったから「よし。俺の子供、殺そう」って思ってそのセックスフレンドになった同級生の愛人に協力してもらって闇医者紹介してもらって我が子を殺してもらう寸前まで行くんだけど、こと其処に至る直前でまさかまさかの180度心が入れ替わって大回心改心、俺は真人間になりました、我が子を認めて育てていくことにしました自分のために。そして家族の絆も戻りハッピーで一件落着。という話?
という、なんだこりゃ?な纏め方なのですが、自分はそんな話だと認識したのですが、その話の持って行き方がホンマ凄い。エグい。文章まじパネえ。

こんな話、書いちゃっていいの?と言う意味では、ホンマに凄いですよね。ミもフタも無い。自分の子供の事を、障害持っているっていうことで「化け物」とか言っちゃってるんだもの。本当にひどい。でも、これが、剥き出しの現実なんだよなあ。それを書き切った。と言う意味では、もう凄い、としか、いいようがない。ブランキー・ジェット・シティの大名曲「ディズニーランドへ」を思い出しました。冷たい人間の仲間入り、とはこのことか、、、いやもう、なにしろ、なにしろ、凄い。

でも、それだからこそ?って言ったら変な言いかたかもしれませんが、こんな話だからこそ、物語最終盤の、あの、とってつけたような?ハッピーエンド、個人的には大賛成です。「現実を引き受ける」という行為を、大江健三郎さんは、真実リアルに「体験」したんだろうな。ブルーハーツでいうならば、終わらない歌。本当の瞬間はいつでも死ぬほど怖いものだが、それを、受けいれた、乗り越えた、ということかなあ、と。そこはもう、何よりも尊い事だし、本当に凄いことなんだろうなあ。と。そんな体験をしたことがない自分としては、想像することしか、できないのですが。

それにしても、主人公の本名は、登場せず、物語中ずっと、彼は「鳥(バード)」というニックネームで呼ばれ続けるのですが、学校の同級生の火見子がそう呼んだり、地の文でそう呼んだりするのは分かる。そら分かる。ニックネームだもん。でも、主人公の義父や義母や妻ですら、主人公を「鳥(バード)」って呼ぶのって、相当シュールですよね。ある意味コント。でも、きっとそこには、この作品の肝であり、大江健三郎さんの確固とした考えが、あるのだろう。それは僕には分かりませんでした。すみません。

あと、主人公の義父の大学教授は、何故にあの時。主人公が、生まれた子供の障害を告げに行ったときに「ウイスキーもっていきなはれ」って、ジョニー・ウォーカーを主人公にプレゼントしたんだ?あの意図がさっぱりわかりません。主人公をからかったのか?試したのか?義父も事実の衝撃にテンパって混乱していたのか?むう、、、読解力が欲しいな、って思いました。あの意味、わかりませんでした。無念。

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2018年07月26日

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大江健三郎の2冊目。昭和39年8月に出版されたこの小説の20代後半の主人公と大江とは合い重なる設定。大江の子供「光」も脳瘤によって知的障害者として生きている。新潮文庫の巻末には大江が昭和56年1月に書いた一文が置かれている。その中で小説の終幕への三島由紀夫などの批判に対して、「経験による鳥(バード)の変化・成長を表現するという、最初の構想をまもりたかった」と記している。20代の大江が突っ伏して動けなくなるほど困惑していた子供を抱えた父親としての姿は、大江自身の言葉のように「青春」そのものを切り取っていると感じた。これから読み進めていこうと思っている大江の作品が楽しみになってきた。

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2023年12月17日

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子どもが産まれる前の「自分の生活が変わってしまう」という不安、障害があるってわかってからの「道徳的には育てるべきだが育てられる自信がない」という葛藤が、非常に巧みに言語化されている。自分がすでに子持ちだから、共感できる部分は大いにあった。

子どもが産まれるのはすばらしいことだけれども、障害の有無に関わらず、子育ては綺麗事ばかりではない。鳥の現実からの逃げ方はまさにクズと言える所業。しかし、自分にも通ずる部分があると考えさせられた。

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2023年10月04日

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 鳥は邪魔者だと思っていた赤んぼうを最終的には受容し自らに父親としての責任を感じるが話はそんなに簡単なのか?
 私は常に子供から逃避していた人間が最後にケロッと父親とならねばならないと、この赤んぼうと生きねばならないと思えるようになるとは素直に納得できない。本当にその責任を感じられる人間とは、赤んぼうを目の前にその将来への暗さや不安をなんとかして受け止めようと試みた人間ではなかろうか。赤んぼうから離れ、情人と逢瀬を重ねている人間より、一度その子供の首に手をかけてしまうほど絶望した人間の方がまだ救済の希望は大きい。自分の子供を殺そうと思った人間は、鳥言うように、引き受けるか殺すかの境地に至っているのだから。
 一方鳥といえば、赤んぼうとほとんど一緒にいることがない。彼はどれほどまじまじとその瘤を、その赤んぼうを見ただろうか。私は鳥があの境地へとあまりにも容易に至ったように思えた。
 また、不良少年グループの存在も必然性を感じなかった。

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2023年04月12日

Posted by ブクログ

ネタバレ

終わり方が自然で、ああ、実際こうなるんだろうなあ、と納得感のある最後だった。
ただ、自己中心的なバードの行動には苛々するし、女友達の厄介さといったらない。一方で内面の描写が非常に飾らなくて人間らしく共感してしまう部分があるので、彼を真っ向から責められない自分にも呆れるという始末。
優れた作品で面白いが、読後感は清々しくないので気力のある時に読んでほしい。

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2023年03月29日

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はじめての大江健三郎作品を読みました。
1964年に発表された作品です。

作者の子どもが、脳瘤のある障害を持って生まれたことをきっかけにして書かれた作品。主人公は同じ立場で描かれますが私小説ではなくあくまで体験に着想を得て書かれた小説です。

最初から半分くらいまで読むに耐えない話で、主人公の自意識過剰さと、ろくでもなさ、自分勝手で鬱陶しい性格にほとほと嫌気がさし

『なんでみんなこれを名作だと言うのか?
これが人間の本質だというなら
自分も含めて全員滅んだ方がいい』

と思うほどの残念さと倦怠感がありました。
こらえて読もうと半分を超えた頃から、
嫌悪感が共感に変わり、見守り願い気がついたら読み終わっていました。

あの気持ちから、ここまで連れてこられたことにとても驚きました。読んでよかったです。

また、形容する言葉や表現が面白く
突飛な例えが出る度に、これはクセになる。と自分の中に作者の言葉が染み込んでいく感覚がありました。

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2020年11月25日

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自身の体験を基にした小説、なのだろうか。脳ヘルニアの子供の出産を受けて本作品を執筆した大江氏であるが、作中の様は子供に対する愛情や希望ではなく嫌悪である。脳ヘルニアを抱えた子を出産した青年の葛藤や苦悩ではなく逃避である。極めて衝撃的な独白である。それは小説のなかの話であったか私小説であったのか。三島由紀夫氏には評判が悪かったようだが、ラストのある種の希望溢れたハッピーエンドは大江氏自身の現実逃避であったように思う。

逃避した現実の未来、脳ヘルニアを持して生まれた大江健三郎氏の息子大江光氏は一流の演奏家・作曲家として活躍している。

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2020年10月31日

Posted by ブクログ

まぁなんちゅうてもグイグイ引き込まれました。
ずっと打ちのめされたボクサーみたいな気分で読み進めました。

ページをめくるのが惜しいくらい楽しませてもらいました。
セオリー通りに主人公は変わりながらも、ゲームセンターにたむろする少年たち、変な名前のヒロイン、堕胎医、石ころの少年、菊比古、物分かりの良い義父など、無造作に整列させている。

なんかボコボコにされた気分。





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2020年08月20日

Posted by ブクログ

8割読み進めて、ああこの主人公は赤ん坊から逃げているんだなと、彼の苦悩を理解しながら読み進めることが出来た。彼のどことなく周りの荒波から離れて静かな池の中にポツンと浮かんでいる様な他人事の様な心情。それでも遂に、自己欺瞞の罠から這い出て新しい命を受け止めようとする姿。

人間の闇を照らし、光を見つけようともがく様が
力強く、そして達観された文章で著されている。

読み始めて暫くは、様々な視点からあらゆる生々しい比喩を用いて描いている所に急速に惹かれていった。しかし、終盤の主人公【気づき】にもっと理性的なものを含ませて欲しかった。現実世界と混乱させてしまっているかもしれないが、物語に埋もれさせず、パンチ力のある自己欺瞞からの解放を描いてほしかった、、という勝手な思いから、
評価は星四つです。

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2020年08月15日

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男(なのか、人なのか)の身勝手さを感じた。
時代背景が違うにも関わらず、今読んでも古くない、人間の本質を描いている。

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2020年07月20日

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はじめての大江健三郎作品。著者が長男誕生を題材にした小説であるとあとがきで知る。主人公の鳥(バード)は、当初、難産の末、長男が生まれた際には頭に大きく醜い瘤があり、うまく生き延びても植物以下だと担当の医師から脳内ヘルニアという診断を受ける。それを妻に知らせることが出来ず、大学時代からの女友達である日見子との性とウィスキーに倒錯していく。終盤、知人の医師に赤ん坊の処理を委ね、兼ねてより興味のあったアフリカへ逃亡を画策するも…。
結末が急に意外な方向に振れ、少々戸惑う。

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2018年09月24日

Posted by ブクログ

読み終わって一言、文中の言葉を借りるなら
「怪談だ!正常じゃない(183項)」だなぁ。急に打ち切りが決まった連載漫画よろしくラストシーンは怒涛の展開を見せるわけだが、当時としては(今もか)珍しい作者のあとがきと合わせて読むと、人だもの感じるものはある。まぁ赤ん坊を抹殺して火見子とアフリカに渡る夢のような選択肢を手に入れた時も、どうにも晴れないもやもやを鳥は抱えていたわけだし。

何にせよ、文中の「不幸の鬼」は実は火見子だったというオチで、最後のゲイカウンターの場面なんかは、火見子は昔の鳥本人に化けていたんじゃないかと思えた。別の人と行くと言う選択肢にああもあっさり火見子が辿り着くのは、作者の都合でもなんでもなく、取り付いていた鬼が退散したから or アフリカに連れて行く男の子は多次元的な宇宙に生きるもう何人かの鳥のうちのひとりだと火見子は思い直したからだとか、読み終わった後に考えると面白い。

死者の奢りやら飼育やら戦いの今日やら読んだ後の2作目だったので、そのギャップに驚く一方で鳥のコミカルにもすぎるあまりの屑人間っぷりを多彩なレトリックで表現する大江健三郎の文才っぷりには感動した。

中でも冒頭の、少年たちに絡まれるシーンにある「弱い連中を見るといじめないではいられない粗暴な子供の欲望に身震いしてかれらは、パンチ力500の哀れな羊を襲撃すべく追いかけてきたのだ」

涙流して笑った。一生忘れないと思う。笑

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2018年03月06日

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鳥(バード)という男の 個人的体験についての物語

妊娠 そして 出産
27歳四ヶ月   生まれたのは 脳ヘルニアの赤ん坊だった。
飼育される バード
檻の中で アフリカに行くことのみが 願い。バードの希望。
なぜ飼育されるようになったのか?
誰に飼育されているのか?

大学院の中退 アルコールの飲み過ぎによる。
自由なバードからの変化  義父、義母、妻に 飼育された。

火見子とバードの奇妙なつながり。
赤ん坊が死ぬことへの熱望
火見子との共同作業。殺すことへの共同策謀。

ソビエトの核実験とのかかわり合い。

結果として 脳ヘルニアの子供を たとえ 植物的な存在になろうとも
命を大切にしようとする意志とアフリカを捨て、この現実に生きようとする決意をもつ。
それは もはや バードでなくなる過程である。
結末は ハッピイエンド。

バードの過程のなかで 火見子の役割は。
菊比古との過去と現在は?
どのような意味をバードに持つのか?
社会とバードの乖離。いかなる交渉を持つのか?

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2013年10月03日

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鳥(ばーど)の成長(といっていいのだろうか)の記録みたいな小説。登場人物である鳥は大江自身だと思われるが、あとがきによると小説内で共通しているのは障害をもった赤ん坊を持ったという点のみだそうだ。正直なところ初期作品のような緊張感のあるじめっとした感じの筆致が重苦しい。
なにより不憫なのは火見子じゃないかと思う。p.291では火見子の後ろ姿を見て最良の教育を受けたがそれを生かせず子供を持ちそうにない彼女に憐憫を感じたとあるが、そう思ってもこの時点で鳥は彼女を利用し自分のために行動していた。最終的には父親として子供の人生を請け負うと決めた時の彼女の心境は…。彼女の救いはどこにあるだろうかと考えてしまった。
自選短編の中期のような作風のほうが個人的には好みです。作家自身の転換期となったこの作品(そして障害児をもつ子供を授かったということも)は読んでおきたい、そういう思いでこの小説を読んだ。

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2024年10月24日

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同じモチーフを保有し、同時期に発表された姉妹作として『空の怪物アグイー』があるけれど、個人的にはそちらの方が面白い文章が多くて好み。こちらはより実験作という方が相応しいように現在進行形で思考を連ねていくスリリングさがある。けれどその分、大江健三郎という作家のトレードマークのようなあの緻密でソリッドでハードな文章からは離れた幾分隙のある古臭い文章にも感じた。

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2024年08月13日

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大江健三郎の小説を読むのは初めてなのだけど、想像してたのと随分 違っていた。とても独特で 比喩が多く なんとも言えない不思議な世界観。読むのにすごく時間がかかった。世界観が独特すぎて。悪くはないのだけども、大江健三郎ってこんな感じなんや…ということが知れてよかった。

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2024年02月24日

Posted by ブクログ

読書会課題図書
今更気づいた
かの有名な著者の作品を読んでいなかったことに
読書会に感謝

表現はすごいと思う
でも、小説だと理解していても共感できないものはどうしようもない

ラストはストンと落ち着いたが、むしろこれがない方がいいとも言われたとか
それでは救いがないのではないか

すごい作品群を残して逝かれた大江健三郎氏を追悼する

≪ 自らの 運命受けた 魂よ ≫

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2023年06月21日

Posted by ブクログ

とにかく重厚、濃密な文章で書かれている。
文体の範囲内において、物語の主人公は行動や思考をすることになる。液晶の解像度のようなもので、多彩な語彙や表現によって形作られた文体があってこそ、人間の複雑な心理を映し出すことができる、とまでは必ずしも言い切れないのかもしれないが、この作品の世界観はやはりこの文体によってこそ支えられているのではないか、と感じた。

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2020年01月02日

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話の本質が掴めるまで時間がかかった。読み終わった後に初めて物語の全体像が見えてくる。後味が強烈な作品。

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2017年09月24日

Posted by ブクログ

27歳の「バード」というあだ名の青年は名前のとおりちょっとふわふわした男の子。子供が頭部に異常を持って生まれてきて、アフリカ旅行の夢が潰えたと自暴自棄な生活を送り、悩みを深めていくが、最後にはわが子とともに生きる選択をする。ちょっとふわふわした頼りないけれど憎めない男性が父親として目覚める時を描いた作品であると解釈した。バードだけじゃなくて、登場人物誰もが、諦めとか覚悟とか妥協を持ちながら生きている姿がなんとも人間臭くてよかった。

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2016年06月10日

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