【感想・ネタバレ】個人的な体験のレビュー

あらすじ

わが子が頭部に異常をそなえて生れてきたと知らされて、アフリカへの冒険旅行を夢みていた鳥(バード)は、深甚な恐怖感に囚われた。嬰児の死を願って火見子と性の逸楽に耽ける背徳と絶望の日々……。狂気の淵に瀕した現代人に、再生の希望はあるのか? 暗澹たる地獄廻りの果てに自らの運命を引き受けるに至った青年の魂の遍歴を描破して、大江文学の新展開を告知した記念碑的な書下ろし長編。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

社会的役割と感情との乖離がある男が、その乖離と責任から、情欲と退廃に逃げる物語

具体的には頭に腫瘍のある奇形児が生まれてしまい、それを妻に見せず義母と共犯で殺す合理的な役割と、妻の手前や仕事先や病院で与えられる感情的な父親としての役割とに板挟みされた主人公が、そのどちらの演技も必要とせず、理解と議論とカウンセリングと性の解消を与えてくれる母親のようなヒミコに傾倒していく。
赤ん坊を確実に殺してヒミコとアフリカに駆け落ちしようとしたところで、主人公が昔裏切ったゲイの経営するバーに行くことになる。そこで突如、逃げ続けた結果どんな自分を守りたいのか?と自分に問いかけてみたところ、答えは出ず、ただ逃げるための逃避でしか無かったことに気づく。
最終的に赤ん坊の手術を受けたら、脳ヘルニアではなく、ただの腫瘍だったというオチ。

メタファーがすごく多く、主人公が極限状態で全てに対して疑心暗鬼になっている主観を追体験で来てたのしかった。これは大江健三郎の文体だから、"この主人公が'という訳ではないんだろうけど。
特児室での看護師の権力と監視の試練、医者に無理な反論を続け"白便"という言葉を生み出した荒唐無稽なチビ男、義眼の医者、ヒミコの同級生である守護霊の狸のような女、3p僻のある少年に、ハゲ頭の産婦人科医、ドラゴンのジャケットを着たハイティーン。

自分とバードを重ね合わせて、社会的役割から逃れたい気持ちに共感していたから、最後急に正気に戻られて裏切られたような気持ちになった。
自分はきっと、ヘッセの荒野の狼でも感じたけれど、自分よりも頭が良く寛容でカウンセリングのような対話をしてくれる女性が好きなんだな

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2026年03月11日

Posted by ブクログ

ネタバレ

火見子の多元宇宙論を聞いて余計に頭を悩ませる鳥のシーンが、読み終えた後も頭に残る。それは慰めにはならずむしろ鳥を悲観的にさせてしまったから。

鳥と正反対の人間として、医者と闘う肝臓のない子の父親や女プロデューサーを登場させるのが良かった。鳥の目からは彼が理想であり、同時になぜそんな子のために行動できるのかと奇怪に思える人物だったのではないか。エゴイズムのかけらもない彼は昔の日本人らしいと私には映った。彼女は鳥の自己欺瞞を指摘するが、父親とは違い責任の無い立場から自由に見解を述べているだけなので反駁する気持ちが強く鳥に宿ったのだと思う。鳥の意志を揺らがせるという点では2人は共通しているが。
しかし奇怪な赤ん坊と職業の喪失という大事件が立て続けに起こったことで得たものもある。それは陥穽の恐怖からの自由や日常生活の余裕。皮肉でしかないが今の私にとって羨ましくもある。

火見子という自己欺瞞を後押しする存在はこの物語の中で群を抜いて重要な人物だろう。性衝動のはけ口となり、アフリカに行きたいとまで言ってくれる彼女は理想的な存在であるに違いない。でもその誘惑というよりかは、一つの魅力的な選択肢を断ち切り、最終的に鳥が赤ん坊と共に生きる選択をしたのは普通なし得ないことだと思う。それに赤ん坊が想定よりもましな症状で、義父や妻からの信頼も回復するという結末はそれこそマルチバースの一つ、正解の選択肢を選び続けた末の偶然の結果のように思える。そこまで限定された結末を用意する必要があるのかと思ったが、それについての見解を作者があとがきで述べてくれていて嬉しかった。
火見子の視点から見ると鳥はエゴの塊で、振り回され続けた哀れな存在に見えるが、最初からそのエゴを理解した上で受け入れていたのがはっきりと描かれている。そこがとても秀逸だと思った。

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2026年01月29日

Posted by ブクログ

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社会的規範(倫理的規範)の中には位置付けることのできない欲望(それは我が子の死を願う欲望であり、現実逃避のために火見子との性交に身を任せる欲望である)、そしてそうした欲望を抱える自分を恥じる葛藤を、読んでてドキッとするくらい、剥き出しに描き出す。もし自分の息子が障害を持って生まれてきたらどうするのか。誰もが心の中では考えたくない、目を背けたいことを、真正面から突きつけられる。退廃的な作品なのに、なぜかずっと読み続けてしまう大江健三郎の凄さ。

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2026年01月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

障害を持った子が産まれてくるという状況で、自身の感情と世界での倫理に挟まれるとても苦しい状況。その中で葛藤や矛盾を繰り返す心理描写が本当に現実的であり、感動した。最後は倫理を優先するが、それは結局、社会からの圧力に敗北するしかなかったのではないか。私は、簡単にハッピーエンドだとは捉えられなかった。それを含めて非常にリアルな作品だった。

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2025年07月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

主人公“鳥(バード)”は脳ヘルニア(実はそうではなかったが)をもって生まれた嬰児の存在に苦しめられる。嬰児を直接手にかけることも、受容して育てていくこともできない。鳥は恥と欺瞞の混沌に落ち込んでいく。

最後数ページの、混沌から脱出した後のシーンについて、発表当時、世間からは必要でないと批評されることもあったそう。個人的には、それまでのページで読んでいるこちらまで混沌に呑まれつつあったので、あのシーンは私をも救済してくれた。

相変わらず、メモしてしまうほどの巧みな比喩表現
や、息を呑む生々しい描写が目立った。
「ああ、あの赤んぼうは、いま能率的にコンベアシステムの嬰児殺戮工場に収容されて穏やかに衰弱死しつつあるわけね、それは、よかったですね!」

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2023年04月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

4.2/5.0

頭部に異常を持って生まれてきた息子に対して、現実を見つめる事が出来ずに、現実から逃れようとする男。現実から遠く離れたアフリカを夢見て、不倫と性に溺れるその姿が鮮明に描かれていて、その葛藤が苦しい。
最後は現実を受け入れ、対峙することを選択するが、実際に息子を葬り去る一歩手前まで傾いており、その選択がいかに酷なことであったかが窺える。
文学として、厳しい現実に対する逃避と対峙の葛藤模様の緻密さが面白かった。

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2025年04月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

脳瘤がある息子と向き合えず、アルコールとセックスに溺れて現実逃避する男という、まあ近現代文学あるあるな内容にそっか〜なんて思いながら読んでたんだけど終盤に全部持ってかれて今割りと呆然としている。
こういうストーリーで近現代といったらめっちゃ辛いラストになっちゃうんだろうなとか疑った私が大馬鹿だった。
ウルトラハッピーエンディングを掴み取って譲らない大江健三郎が凄すぎてちょっと泣いてしまった。
これ、本当に1960年代に書かれた小説なのか??????????
正直読んでてうげえってなるところもあるのは確かだが(現実逃避をする男のために尻の穴まで捧げちゃう女友達が本当にわからない。どういうこと?????)、ラストで全部報われた。
障害者が大量に殺害される現実を生きているからこそ、余計に揺さぶられるものがあった。

ラストに関して大批判してる奴大多数なんだけどマジでうるせえ〜〜〜〜!!!!!!!と声を大にして言いたい。
作品の質を高めるために弱者(この作品でいうと脳瘤を持った息子)を殺さないから良いんだろうが!?!?!?!?!?!?!?!?
Wikipediaに書いてある三島由紀夫の評論とか読んだけど意味がわからなさすぎて逆に笑った。ウルトラハッピーエンディングの!!!!!どこが悪いんだよ!!!!!!!!!!!!!!

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2025年01月05日

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