大江健三郎のレビュー一覧

  • 懐かしい年への手紙

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    読み終えるのに3週間ほどかかってしまいました。大江健三郎の文体が、漫然と流し読みするのを許してくれません。
    その分、文章と取っ組み合いをするように読むのですが、能動的鑑賞を強いる芸術と向き合うときと同様、理解したとたん、もともと自分を構成する一部であったかのように、自分自身の芯に溶け込む感覚があります。

    主に万延元年フットボールを、さらにそれ以前の大江作品を取り込んだ、壮大なメタフィクションでした。この3週間、ダンテの「神曲」が響き渡る四国の谷間、そしてギー兄さんが構想する魂の浄化のためのコミューンに身を置いていた気がします。

    ギー兄さんにとっては四国の谷間の森が、Kちゃんにとっては東京の

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    2023年05月26日
  • 同時代ゲーム

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    ストーリーのみを追えばSFファンタジー小説だが、緻密に練り上げられた文章で読書の醍醐味を堪能させてくれる文学小説だ。

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    2023年05月21日
  • 個人的な体験

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    大江健三郎が後書きでこの小説を「青春の小説」だと言っていた。書いている時はバードを青春とは切り離した存在としていたようだった。しかし、自分の子供のことで悩み、堕落し、逃げようとしながらも最後は自分のために子供を受け入れていこうとする姿はまさに青春だった。どんな国際問題よりも自分の子供をめぐる家庭の問題の方が重くのしかかっているので、他のことに対して落ち着いて超然としていられるのは当たり前とバードは考えていた。だからと言って自分のような体験をしていない人が、自分を羨望する理由はないだろう。と言うところがなんとも苦しい。やはり、どこまでも個人的な体験であり、他者とは共有できないものだった。
    最後、

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    2023年05月14日
  • 個人的な体験

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    ネタバレ

    主人公“鳥(バード)”は脳ヘルニア(実はそうではなかったが)をもって生まれた嬰児の存在に苦しめられる。嬰児を直接手にかけることも、受容して育てていくこともできない。鳥は恥と欺瞞の混沌に落ち込んでいく。

    最後数ページの、混沌から脱出した後のシーンについて、発表当時、世間からは必要でないと批評されることもあったそう。個人的には、それまでのページで読んでいるこちらまで混沌に呑まれつつあったので、あのシーンは私をも救済してくれた。

    相変わらず、メモしてしまうほどの巧みな比喩表現
    や、息を呑む生々しい描写が目立った。
    「ああ、あの赤んぼうは、いま能率的にコンベアシステムの嬰児殺戮工場に収容されて穏や

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    2023年04月23日
  • 個人的な体験

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    素晴らしかった。
    小説を読んだ後に呆然となるあの感覚に久しぶりに襲われた。その感覚にしばらく呆然と身を浸していた。

    読んでいてとても苦しかった。
    主人公の異形の赤ん坊に対する心の動き、つまり直接は手を下さず彼を死に追いやろうとすることへの渇望と恐怖と欺瞞とに苦しめられている様子が克明に描かれすぎていて、とてもつらかった。

    だから最後のバーでのくだりは圧巻だった。
    「赤んぼうの怪物から逃げだすかわりに、正面から立ちむかう欺瞞なしの方法は、自分の手で直接に縊り殺すか、あるいはかれをひきうけて育ててゆくかの、ふたつしかない。始めからわかっていたことだが、ぼくはそれを認める勇気に欠けていたんだ」

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    2023年03月25日
  • 水死

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    私事ではあるが、買ったすぐ後に父親が亡くなったこともあってずっと手をつけられなかった本であり、数年ぶりにやっと読み終えることができた。主人公の父の死はテーマのひとつではあるが、意外と話は四方八方に広がっていて一口には要約できない。このもやもやまとまったものを紐解くのが再読時の楽しみなんだろうと思う。静かな、ゆったりした中に、緊張感が微妙にありつつも飄々としたこのかんじは、大江の後期作特有のものだと思った。日々少しづつ読むにもいいと思う。

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    2023年03月15日
  • 同時代ゲーム

    購入済み

    『ツバサ・クロニクル』とともに

    大江さんが2023年3月3日に亡くなられ、
    13日の今日その発表がありました。
    もっとお言葉をお聞きしたかったのですが。

    『洪水はわが魂に及び』の子のように
    繰り返しが特徴。太字の「壊す人」など。
    日本の中の双子の国家、双子の妹への手紙、
    天体学者の、アポ爺、ぺリ爺も双子。

    妹はモンローのパロディか米大統領と関係。
    日露戦争相手国ロシアの血。
    この国、貿易(?)までしてる。

    歯痛とか悪臭とかペインティングとか、
    感覚的にわかりやすく刺さってきますね。

    社畜の方が息をついたろうキャバレーとか
    そんな俗悪なものと神話の巨人が併記され、
    聴覚で村人を誘導、

    #深い #シュール #タメになる

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    2023年03月18日
  • 大江健三郎全小説 第4巻

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    「大江健三郎全小説」は、講談社から2018年から2019年にかけて刊行された15巻構成の、大江健三郎の小説全集であり、本書はその第4巻にあたる。全集に収載されている小説は、基本的に年代順となっている。本書に収められている作品で発表が最も古いのは、「走れ、走りつづけよ」であり、「新潮」誌に1967年に掲載されているものだ。その他の作品も、1968年から1972年くらいに発表されたものであるが、本書の最後に掲載されている「水死」という長編小説は、その他の小説の発表時期から40年程度の間が空いており、2009年の12月に書下ろしとして発表されたものである。
    「水死」が本巻に収載された理由に何故かにつ

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    2023年03月10日
  • 懐かしい年への手紙

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    ネタバレ

    柳田国男が現在の成城に居を構えたことがあると知って、ぎくりとした。Kちゃんがやろうとしたことがまさに民俗学であったからだ。共同体で語られる物語/歴史としての神話をまとめる者。

    ギー兄さんは作者自身をも含むさまざまな人物像の集合だと著者が言っててなるほどなと思った。長兄の投影でもあるし、自分の理想像の投影でもある、またその他多くの人の断片の結集としてのギー兄さん。

    カトー=ギー兄さんとも読めるような気がする。先導者かつ巡礼者であるギー兄さんを案内する異端者かつ自殺者のカトー=ギー兄さん。「ギー兄さん」のモデルの多面性を考えるとあり得ると思うのだけれど。ただこの辺りは『神曲』を読み通してないと

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    2023年02月16日
  • 性的人間

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    ネタバレ

    今回も著者の問いが感覚的にわかりやすく面白い作品集だった。
    3作品に共通して、「視覚」による拘束からの、逸脱や脱走がテーマに描かれている。
    現在は、監視カメラやSNS等の「視覚の権力が」強いパノプティコン的な社会だからこそ、本作のような視覚からの逃避を目指す作品は痛烈に、現代社会への問いを提示するのでは無いか。

    全部面白かったな。まじで。

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    2023年01月31日
  • ヒロシマ・ノート

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    戦後78年の2023年に読破。
    これを読むまでは、抑止力のための核保有の考え方に賛同派でした。
    しかし、これを読んで改めて感じたことは、抑止力といいながら、明らかに使用することが前提の核保有説であるということでした。
    戦争を知らない世代の私は、はっきり言って原子力爆弾の惨さ、人間がもたらした醜悪さ、悲惨さの極みといったものを知らない、全く無知な人間でした。
    ナチスのホロコーストは、歴史に語り継がれ、人々が忘れないように何度も映画化やメディアでとりあげられるのに、なぜ、広島長崎の原爆を克明に記した書籍や映画はメディアで取り上げられず(ときには残酷だといわれR指定もされるけれど、それこそ馬鹿げた話

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    2023年01月29日
  • 大江健三郎全小説 第2巻

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    この「大江健三郎全小説2」には、9編の小説が収められている。1959年から1962年、大江健三郎が24歳から26歳の間に書かれたものである。

    大江健三郎は、「大江健三郎 作家自身を語る」の中で、以下のように書いている。
    【引用】
    自分の人生を振り返って、あの時をよく生き延びたな、とぞっとする時期がいくつかあります。それが一番はっきりしているのが、小説を書くようになってからの四年ないし五年だったと思います。
    【引用終わり】

    また、「大江健三郎全小説2」の解説の中で、尾崎真理子は、大江健三郎のコメントの引用として、下記のように書いている。
    【引用】
    このように小説を書きつづけることで、自分は、

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    2023年01月29日
  • 大江健三郎全小説 第3巻

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    「大江健三郎全小説3」のハイライトの一つは、「政治少年死す(「セヴンティーン」第二部)」の掲載だ。本作品は、「文學界」1962年2月号にて発表されたが、それ以降、57年間、一度も単行本等の形で再録されることがなかったものだ。その作品が57年ぶりに、この「大江健三郎全小説3」で再録されることになった。
    その背景は以下の通りである。
    1960年10月12日に、右翼団体である大日本愛国党の元党員である山口二矢、17歳が、日本社会党浅沼委員長を東京の日比谷公会堂で行われていた公開演説会の場で刺殺するという事件が起きた。「政治少年死す(「セヴンティーン」第二部)」は、この事件を扱ったものである。「中央公

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    2023年01月20日
  • 大江健三郎全小説 第1巻

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    本書には、1957-1959年に執筆された19編の小説が収載されている。
    1957年に「奇妙な仕事」で東大の五月祭賞を受賞し、それが「東京大学新聞」に掲載されたのが、大江健三郎の実質的なデビューである。1958年1月の芥川賞では「死者の奢り」が候補となり、同年の7月に「飼育」によって、実際に芥川賞を受賞している。
    当時がどういう時代であったかと言うと、1955年には保守合同・社会党統一による「55年体制」が始まり、1956年の経済白書には「もはや戦後ではない」という言葉が登場する。1990年前後の東西冷戦の終焉やバブル崩壊までの間の、いわゆる高度成長期を含む、日本の発展がまさに始まろうとしてい

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    2023年01月14日
  • 「雨の木」を聴く女たち

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    お得意のノンフィクション風フィクション。
    人外の想像力を感じさせる、個人的大江文学全盛期の傑作。
    高安カッチャンを筆頭とした登場人物と描かれるオーケンの分身のやり取りがとにかく滑稽で面白い。
    その滑稽さと、作者が心のうちに秘めている“雨の木”へのひたむきで純粋な想いのコントラストに胸を打たれる。

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    2022年12月13日
  • 水死

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    著者の作品をある程度読んだ人間以外門前払い、というところに目を瞑り評価すれば、本人が描けるレベルを遥かに超えた自己批判・批評が面白い。
    『死んだ犬』のくだりなど、一部最盛期を彷彿とさせる箇所もあり、後期には無かったパワーの燃焼を感じた。

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    2022年09月21日
  • 万延元年のフットボール

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    文学的な位置でも自身の中の位置でも最重要な一冊。
    この特濃の内容とゴテゴテの文体を1人の人間が描いているのが恐ろしい。
    初オーケンでこれを選ぶと胸焼けする可能性があるが、本作以降も擦られ続ける主題であり向き不向きを決める上でも必読書だと思う。

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    2022年09月15日
  • われらの狂気を生き延びる道を教えよ

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    キレキレのオーケン中期。
    文の生々しさと滑稽さのバランスが絶妙で、作中の作者の分身に愛おしさを感じる。
    当時のコテコテ多弁気味“私小説風小説”の作品群の中、表題の通り救いを求める作者の魂に触れた気がした一冊。

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    2022年09月15日
  • 個人的な体験

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    若々しいオーケンの漲るパワーが籠った一作。
    結末の纏め方は賛否あり、作者本人も葛藤があったとコメントしているが、それを差し引いても当時の文学作品の中ではインパクトと熱量で抜けている作品だと感じる。

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    2023年08月16日
  • 懐かしい年への手紙

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    作者の人生遍歴に、“架空のギー兄さん”(モデルはちゃんとある)を登場させ話を導かせるという、私小説であって私小説でないトンデモ作品。
    私小説にオリジナルを加えるのは彼がよく使う手法だが、これは過去の長編の中でも断トツの完成度では。
    当然他作をしっかり読み込んだ読者でなければ、門前払いな面もあり、万人にオススメ出来ないのが口惜しい所。

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    2022年09月03日