大江健三郎のレビュー一覧

  • われらの時代
    敗戦を否定的に捉えた写実小説。めちゃくちゃ面白い!現代人からしたら、当時の若者が戦争に希望を抱いていたことは信じ難いことなのかもしれない。でも、これを現代におきかえてみると、彼らの心境を理解できると思う。
    私達にとっての絶望ってなんだろう。
    この本を読むことで息苦しさについて考えることができると思う...続きを読む
  • 叫び声
    だれか一人が遥かな救いを求めて叫び声を上げる時、それを聞くものはみな、その叫びが自分自身の声でなかったか、考えたくなるものだ。

    小説の中に描かれた人間模様は、「青春」とか一言で表されるような生易しい様相ではなかった。しかし若者たちの抱える叫び声は、少しずつ自分の中に染み込む気がしたのも事実である。...続きを読む
  • 私という小説家の作り方
    幾つかのエッセイを読むと、大江健三郎には自意識過剰なところがあると思う。
    彼に影響を与えた詩について語る。
    『私という小説家の作り方』というタイトルから想像されるように、大江健三郎自身が、彼の作品について語る。
    同時に、ちょっぴり創作の秘密も。
    彼の作品においてブレイクが、いかに大きな役割を果たした...続きを読む
  • 同時代ゲーム

    硬派なファンタジー

     解説では、文化人類学やら神話学やらという小難しいことが書かれていますが、それはこの本の文体の難解さの所以でしょう(でもクセになるんですよねぇ)。
     この本以降の大江文学を読んでも、「死と再生」についてはより深く書かれることはあっても、神話についてはこの本より詳しく書かれたものはありません。そうい...続きを読む
  • 芽むしり仔撃ち
    戦争末期
    山奥の谷のむこう側に、外界と隔絶された村があって
    そこに町の「不良少年」たちが集団疎開する
    村人たちからしてみれば、厄介者を押しつけられる形だった
    しかし数日後、村に疫病が流行ったため
    村人はみんな隣村に逃げ出してしまい
    少年たちは全員取り残されて
    それだけならまだしも
    線路の橋をバリケー...続きを読む
  • 万延元年のフットボール
    大江健三郎はあまり好きじゃないけど、これは面白かった。人が暴徒化する過程がしつこく書かれていて読み応えある。

    でも、この“しつこさ”が活きたのは初期の頃までかな。後の「同時代ゲーム」とかは読んでいられなかった。
    正直言って、この人がノーベル賞とったのは日本の文学界にとって不幸だったと思う。わかりづ...続きを読む
  • 大江健三郎自選短篇
    厚さに尻込みせずに読んだ方がいい。
    初期から中期の暗く鬱々とした作品群、中期から後期にかけての抽象画のような美しい、同時に深い思索がある作品群。
    時代を色濃く写した作品群を読み進める面白さもある。
  • 取り替え子
    超良かったです。こんなのも書けるのかと驚いた、なんか初期作品読んだだけのイメージではもっと文章固くて泥臭くて何書いてるのかわからないけど力押しで読め!って押し付けてくる感じだったのが、だいぶ透き通った文体になってたのも衝撃。死者と「これから生まれてくる者」との間のChangeling。なんて優しい祈...続きを読む
  • 洪水はわが魂に及び(上)
    彼の長編小説で一番、面白かったです。
    障害者の子供、鯨の話、浅間山荘事件を想わせる
    リンチ、放水、「荒唐無稽だって?」の台詞が
    ずっと心に残ってました。
  • 個人的な体験
    いやはや、これは凄いですね。とんでもねえな、って思いました。大江健三郎、とんでもねえなあ。小説家・エッセイストの原田宗典が好きなのですが、その原田さんが、確か著書の中で大江健三郎を評して「でえれえ」みたいに言っていた気がするのですが(違ったらすみません)確かにでえれえよ、こりゃすげえよ、ノーベル文学...続きを読む
  • 「雨の木」を聴く女たち
    「「雨の木(レイン・ツリー)」を聴く女たち」(大江健三郎)を読んだ。救済の象徴であるような『雨の木』をめぐる物語はしかし読み手の感情を抉るように鋭利である。自分の中に一本の『雨の木』があればと思う。最後の「泳ぐ男---水のなかの「雨の木」」に対する違和感が拭えないよ。難しいなあ。
  • 叫び声
    芽むしり仔撃ち~性的人間の間くらいの時期、のはず。序盤の陽気さからそれぞれ破滅に向かっていく様子は、若者特有の精神的な危機をなぞるかのよう。大江健三郎を未読の人におすすめしたい。
  • 洪水はわが魂に及び(下)
    アンチクライマクスが代名詞のような大江にあって、驚くほどストレート、かつ見事なカタストロフィ小説。ここまでコートームケイなストーリーでありながら絶妙に現実とリンクする、この時期の大江の咲き乱れる想像力の凄まじさ、充実は何度考えても震えがくる
  • 叫び声
    フィクションをあまりに切実に受けとめすぎるというのは欠点である。しかし記憶に残るのは自分と合わせ鏡のような小説ばかりだ。おもしろい小説は苦痛を伴う。

    ところで岸政彦には彼ら3人にまたこう言って励ましてあげてほしい。
    「若いやつ頑張れよ。だいじょうぶやで、もうすぐ若くなくなるから。そうなったら楽にな...続きを読む
  • 叫び声
    かなり読みやすい。
    皮膚をえがくのにもいちいちつきまとうじめじめとした失望感が、青春のどうしようもなく輝かしい・淡い希望にもおよんで、彼らを失意の底に陥らせる。
    この青年たちに固有の絶望感はしかし、やけに生々しく実に青春的で、どこか清々しい。
  • 万延元年のフットボール
    当時の大江健三郎のあらゆるエッセンスが詰め込まれた意欲作。
    物語の設定とストーリーは、自身の故郷である愛媛の山間の村落、障害を患ったであろう子の誕生、戦後民主主義の中のアメリカ文化、学生運動と命をかける青春(跳ぶ、ほんとうのことなど)などの作者のバックグラウンドが複合して形作られている。
    同時に、冒...続きを読む
  • 万延元年のフットボール
    日本人でありながら、自国からのノーベル賞受賞作家作品を読んだことがないのもいかがなものか、と思いまして。で、その大江作品の中、例の福田書評集で最も高評価だった本作をチョイス。勝手な印象だけど、何となく読み心地は村上春樹風。それをもっと小難しくした感じというか。あと思ったのは、英語みたいな日本語だな、...続きを読む
  • ピンチランナー調書
    『同時代ゲーム』でも感じたが、大江のあまりに濃密な文章は作中に入り込んだSF的要素を一切の違和感なく読者に認めさせてしまう。原発や「転換」について様々に述べるところはあるが、愚かな一読者として、この文体に浸れることの幸せ、もうha、ha!が頭から離れないのだけれども、それだけは声高にいいはりたい。
  • 懐かしい年への手紙
    大江健三郎は難解のように思われていて、じっさい簡単に読み解けるというわけではないのだが、言うほど難しくもないと思う。ただ、何通りもの読みかたができたり、いくつもの意味が込められたりしていて、たんに読むだけならまだしも、そのすべてに自分なりの解釈を与えてゆくという作業を加えると、やはり読むのにものすご...続きを読む
  • 大江健三郎
    収録作品の是非については賛否両論あると思うが、どれを収録しても大江氏の全てっを語ったといえるものではない。
    どれもよかったと思う。個人的には治療塔が好きだ。パルガス・リョサの作風に影響を受けているのが感じられた。