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絶望的な"閉ざされた"状況にあって、疎外された少年たちが築き上げる奇妙な連帯感。知的な抒情と劇的な展開に、監禁された状況下の人間存在という戦後的主題を鮮やかに定着させた長編。ノーベル賞を受賞した大江健三郎の処女長編。
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Posted by ブクログ
ー 土間の焚火は殆ど消えかかろうとし、谷を囲む森の獣の吠え声、鳥の不意の羽ばたき、そして樹皮の寒さにひびわれる音が響いた。僕は眠るために苦しい努力をしながら、腹立たしく絶望的に重苦しい死のイメージに圧倒されていたので、安らかに天使的な弟の寝息が聞えはじめると嫉妬のあまりに弟への優しい感情をすっかり無...続きを読むくしてしまうほどだった。村の内側では見棄てられた者らと埋葬されない死者があるいは眠り、あるいは不眠に苦しみ、村の外側では、悪意にみちた数しれない者らが、これは一様にぐっすり眠っていた。 ー 何となく大江健三郎が読みたい今日この頃。 初期の作品は面白いよね。味わい深い。 反抗的精神というか、客観的にはちっぽけな自由意志の問題とか、服従すべきか自分の価値観を守るべきか、そんな意固地な少年の葛藤が今となっては新鮮。
戦争末期 山奥の谷のむこう側に、外界と隔絶された村があって そこに町の「不良少年」たちが集団疎開する 村人たちからしてみれば、厄介者を押しつけられる形だった しかし数日後、村に疫病が流行ったため 村人はみんな隣村に逃げ出してしまい 少年たちは全員取り残されて それだけならまだしも 線路の橋をバリケー...続きを読むドで封鎖され、閉じ込められてしまうのだった ところがこれを幸い 病原菌の蔓延した村で、少年たちは限られた食糧を分け合い 同じく取り残された疎開者の少女や、朝鮮部落の少年 それに予科練の脱走兵も加え 村を自分たちの理想郷に作りかえようとする それがしょせん短い夢にすぎないことは 事の初めからわかっていたはずで 疫病か、餓えか、いずれ帰還する村人たちとの戦争か なんにせよ、死と隣り合わせの休暇にすぎなかったのだけど そうであればこそ、大人たちへの憎悪を杖に 甘い夢の世界へ逃避する権利が、少年たちにはあったし 不安の種から目を背けることだってできた 大江健三郎初の長編作品 政治的なものも含む全キャリアを通じて 繰り返されたイメージの原型である
世界で一番好きな作品。何度読んでも自分が経験したことのない時代、場所、興奮に出会うことができる。完璧に世界をパッキングした作品。ぜひ読むべき。
自由思想について書かれていると感じた。 いかに自由意思にもとづいて生きることが難しいか。。。 無人になった村で初めて自由に生きる子どもたち。 でもせっかく自由を手に入れたのに、大人の指示が恋しくなるのがアイロニカルである。 人の残酷さ、冷酷さ、自己中心性は環境によってどこまで強化されるのか。 本作...続きを読むはノンフィクションであるが、現実感がある。解説者は設定が非現実的であると執拗に固執するが、戦時下で起こり得る、起こっていたかもしれない事態ではある。間違いなく、大人の保護下になかった子ども達が大人達から非人道的な扱いを受けることは日常であっただろうと思う。 芽むしり、仔撃ち。 日本でもほんの少し前まで違和感ない感覚であったことに現実感がない。
4.2/5.0 閉鎖的な村を舞台に、弱者の視点で権力の不平等や、世間の理不尽さを描いているように感じた。 閉じ込められた子供たちが徐々に打ち解け合いながら、仲間意識を強めていくというジュブナイル的な魅力もあり、その様子が可愛らしい。 村人たちが帰ってきた後の、子供たちが必死に抗う姿や、仲間を思いや...続きを読むる姿に胸を打たれる。 世間の圧力に抑えつけられる子供、弱者というテーマはいつの時代も普遍。
まったくもって好みである。これは性癖の告白だといっても間違ってはいない。そこに羞恥心はなく、むしろ堂々と胸を張った自分がいる。 どういったジャンルなのかと聞かれても答えようがない。どうしてこんなにも変態的な性的描写をするのだろう。書かなくてもいいのにと思うのだけど、読後なぜか耳鳴りのような余韻が残...続きを読むり、その響きに共鳴してしまっている自分がいて、喜びを感じ感動し、さらには感謝さえしている。 芸術としての文学に改めて感動させてもらった。 一度読んだが自分にはあわず、十数年間読まずにいた本。ちょっとした敬遠もあった。なのにずっと手元に置いてあった。すべてはタイミングなんだと改めて思った。
大江健三郎さんの本は亡くなってから読み、これがまだ4冊目だが、こんな面白いとは思わなかった。難しくて自分には合ってないと思ってたのかもしれない。恥ずかしい。 この作品も、人間の嫌なところ、人間の習性を、独特の文体でこれでもかと、読み手の心に刻み付ける。 大江さんはそんなに人物に感情移入させないので、...続きを読む少年たちが虐げられるシーンも第三者の目で読める。
疫病などに接した際の人間の暴力性が見事に描かれている。最近のコロナの中の同調圧力でも分ったように人間は閉塞された環境ではこういうことをする生き物なんだなぁと、そういう本質を突きつけられた。
ちょっとクレージーな男の子の自立の物語。と言っても、読書会で賛同は得られなかった(^_^;) 凶暴化した社会は主人公の凶暴と呼応している。その中で、純粋なものを失っていくのは、暴力と直接リンクしているわけでなく、暴力の周縁で発生し、主人公を揺さぶる。 現代の10代にもそうしたことがあるのか、私に...続きを読むは分からない。 しかし仮にあったとしても、ある小説家としてのその一部にあったと思えば、やり抜ける気がしてくるんじゃないだろうか。
大江健三郎作品は短編以外では初でした。大江健三郎さんの文章を読んで自信を無くし小説を書くのを諦めた人も多いと言う話を聞きました。 少し回りくどく慣れるのに時間がかかったのですが、慣れてしまうと、こんな事まで文章で表現出来てしまうんだと驚きます。 自然の描写、人間の心の動き、複数の人間の間に流れる空気...続きを読むの変化など。 動物の死骸の描写や、戦時中の貧しい人達の見窄らしさ、惨めさが内面も含めて、とても細やかに描写されており、何だか堪らなくなりました。 始終陰鬱な雰囲気に包まれた話ですがそれだけでは終わらないよい意味での裏切りもかい見えて読後感は予想よりは悪くなかったです。 第二次世界大戦終結直前の山村が舞台との事ですが、どことなく架空の世界のような雰囲気が漂っていることに関してはあとがきを読んで腑に落ちました。
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