大江健三郎のレビュー一覧
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薩摩の血を持つ北海道人のシャモである当方にとって、この本はまた別の意味を持つ。
琉球王室の、薩摩の、日本の暴力に常に晒されてきた沖縄が戦後日本の生贄として米国に支配される状況、そのあらゆる意味を、大江氏は日本人である自分を絶えず問い直すことで可能な限り誠実に可視化しようと試みる。沖縄の状況の、なんと北海道侵略及び支配に似通っていることか。そしてその沖縄がベトナム侵略のベースとなり、北海道がイラク侵略のベースとなるさまのなんと似通っていることか。
琉球の人々をかくのごとく搾取した薩摩が近代において北海道でこれを上回る過酷さをもって先住民族の命と文化を破壊したのは偶然ではあるまいと思う。
当時の日本人の男としての限界性を覗かせつつも、当時の日本人の男として可能な限りの誠実さをもって、そこに向かい続けようとする若き日の大江氏に共感と拍手を送りたい。 -
Posted by ブクログ
僕が思う良い小説ってのは実は読むのがどれだけ苦しかったかってことに起因しているかもしれない。
この『叫び声』はまさに僕が思うそれ的な小説だということが出来る。(今回は電子辞書が手放せない位生きていく中で聞くことの無い響きの言葉が頻出していてそういう面でも苦しんだ;; 純文学度が高いってこと?)
自分の核をどれだけ深く下げて生きていくかが、精一杯生きるってことなのかなとも思った。ずっとどうにか追いかけてきたんだけど呉鷹男の第四章怪物で完全においてかれてしまった。
僕が一番好きな小説家、伊坂幸太郎さんが影響を受けた本ということで何度かあげていたので読みたいと思っていた。
確かに影響を受けているなと感じた。特に、伊坂さんの中で一番僕が好きな『砂漠』はまさに伊坂版『叫び声』だなと気付いた。(全く違うけれど雰囲気や設定が?)
誰もが一度は経験する《黄金の青春の時》を経て、絶望的に帰ることの出来ない現状を嘆く。奇抜な仲間に対して一歩引いた主人公の立ち位置から見た青春模様。はぁ。
読んでいる期間は(読んでいる以外の時間でも)溜め息が止まらなかった。むなしい・・・ 何が言いたいのか分からない僕もまた、むなしい・・・
(2008.08.09)
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日本の「私」からの手紙
- カート
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試し読み
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一度読んだ本は、よっぽど気に入るか、読んだことを忘れていない限りは再読しないのに、
なぜかこの本は3回読んでいる。理解している自信はまったくないにもかかわらず(ノーベル賞で一瞬ブームになったとき、「燃え上がる緑の木」などを買い求めた人々はちゃんと読破できたのであろうか)。
いつも同じシーンでどきっとする。息子ふたりを、あまりにもむごい出来事で同時に失ってしまったまり恵さんが、
「こんなに疲れ果てているのに、死んでしまったら、あの子たちのことを覚えている人間が残らなくなってしまう、だから死ねない」というようなことを話すところ。
愛していたから死にたいのに、愛しているから死ねない。強く過酷な人生の物語。 -
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難物です。本人が全部書いてまた第一章を書き直したというくらいなので、最初から生真面目に読むとそこでもう挫折しそうです(笑)。けれどこれは、全部読み終えたときのその独創性、重量感たるや類をみないものです。初期大江作品が必ずといっていいほど書評にあがるのに対して、この頃以後はあまり語られませんが、万延元年と折り返して向い側にあるような作品ではないかと。大江作品の中では傑作の1つだと信じております。この不可思議で民俗的な世界は、作品の通り、まるで遡行していく旅でもあります。脳髄に。全部読むと第一章に戻りたくなるんですが、ほんっとに最初でかなりの人が挫折するかと思う手強さなもんで(笑)
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初・大江健三郎作品
何度か読もうとしたが、とにかく読みにくい。
そこで映画「飼育」を見てから挑むことにした。
予め何らかの(映画の原作としての)世界観を掴むと良いと思ったから。
映画「飼育」をみたあとだからこそ、共通のモチーフがあるのに驚いた。
そして、この箇所は「飼育」の下敷きなっているのではないかと思った。
「火山」86ページより
あなた達は確に外国兵士団S火山支隊とは無関係ですか。もし、はっきりした証拠がなければ私達はあなた達をスパイであると考えます。すぐこの場所を離れていただくか一応あの小屋へ収容して取調べをやらしていただく。
「火山」については次の話からも元ネタではないと言われている。
1953年の浅間山米軍演習地化計画は、東大地震研究所の火山観測断絶への懸念を最大の武器に、思想や立場を超えた長野県民の猛烈な反対運動によってわずか3カ月半で撤回された。
大江作品は同モチーフが異なる作品に頻出する。しかし、それが同じ意味を持つのではなく、大江はその時々の時代背景や大江自身の変化により、モチーフの意味を変えてきているので注意が必要だ。
この本の年譜が好きだ。どうも作品よりこちらに惹かれる。それを見て作品を読むとさらに大江の世界が掴める。その時代に何があったか、要素を入れ込んで作品を読んでいく。改めて歴史を知っておくことの大切さはここにある。とにかく深く掘る思考ができる。自己満足的な知的好奇心が満たされる。
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1963年の原水爆禁止世界大会の話から始まる。
正直なところ、背景がよくわからないまま、その深刻な状況に引っ張り込まれる感じだった。
もともとは原爆は人類にとって最悪の悲惨な体験であった。しかし、原爆の「悲惨」よりも「威力」がもてはやされるようになり、ロシア、中国と原爆の開発を進めた。ロシアの核実験再開がアメリカへの抑止力になるとして、共産党がそれを支持した。それにより、「いかなる国の核実験にも反対する」という社会党・総評系と足並みが揃わなくなり、大会が政治の場に変えられてしまった。大江はこれに暗澹たる気持ちになっている。
これに対置されるのが、広島的なるもの、広島の市民が有する威厳である。大江のこの威厳の概念は独特で、子供のころに見た映画で仲間を守るために黙秘を貫き敵兵に殺される兵士に威厳を見る。広島市民の中にこの種の威厳を見出す。
どこまでも広島で起こった悲惨の方を見つめながら、なんとかヒューマニズムに希望を見出そうとする真摯な試み。 -
Posted by ブクログ
ノーベル文学賞受賞作家である大江健三郎氏の代表作にも挙げられることが多い三部作の第一作目。十分の一も理解出来ていないが、深い思想と独特な視点で描かれる本作の凄みは感じる。文章的卓越性と言えば良いだろうか。
テーマは「魂救済」。四国の片田舎を舞台にギミック的な「救い主」であるギー兄さんと物語を綴る両性具有の主人公。浮世離れした旧弊たる慣習と宗教的な幻想、そこに妙に現実的な現代カルチャーが入り乱れる不思議な世界観を打ち出す。本編のピークはその名の通り「「救い主」が殴られる」場面。物語の本流に自身で懐疑を挟みグッと物語を進めていく。第二部が楽しみ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ自分は、この人の作品の良さを確かに感じ取って読んでいたがそれが何なのかうまく説明することができない。
死者の奢りにみられる、死体処理というモチーフの独特さ、だけではなくて、そのモチーフと作者の叙述が示す直接文章には現れない抽象的なものがうまく読み取ることができなかった。その抽象的なものが根底を支えているから、この話はただ死体処理をする不思議な話、では終わらない。自分はそこを読み取る力が足りないと思う。ここが分かるようになればもっと面白いものが見えてくるに相違ない。
モチーフ、及び作中世界の描写がなまめかしい程に鮮明で一種の活力を帯びている。それが戦前の文学とは一線を画したような世界に見えた。
飼育における「僕」たちと異邦の者である黒人兵との関わりは、本能的な緊張感をはらんでいた。それは互いに言葉を交わすことができないから、意志疎通を言語によるものではなくもっと直感的なものに頼らざるを得なかったからなのか、もしくは「敵」と「味方」という立場の違いによるものなのかは分からないが、そこには義理や人情といった複雑な人間関係はなく、ただ純粋な「楽しみ」を中心とした人間関係が描かれていた点で衝撃だった。人と人との関係はこのようにも描けるものなのかと思った。