大江健三郎のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
難物です。本人が全部書いてまた第一章を書き直したというくらいなので、最初から生真面目に読むとそこでもう挫折しそうです(笑)。けれどこれは、全部読み終えたときのその独創性、重量感たるや類をみないものです。初期大江作品が必ずといっていいほど書評にあがるのに対して、この頃以後はあまり語られませんが、万延元年と折り返して向い側にあるような作品ではないかと。大江作品の中では傑作の1つだと信じております。この不可思議で民俗的な世界は、作品の通り、まるで遡行していく旅でもあります。脳髄に。全部読むと第一章に戻りたくなるんですが、ほんっとに最初でかなりの人が挫折するかと思う手強さなもんで(笑)
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Posted by ブクログ
ネタバレ学生時代、友人が、卒論代わりに大江健三郎の書誌を作った。
身近に大江健三郎を読む友人などいなかったので「好きなの?」と聞いたら、「難しいけど、好きなんだよね。特に『芽むしり 仔撃ち』が」との返事に、「めむしりこうち」という音が意味するところが分からず、当惑した。
後に漢字表記を見て、間引きの話か、と思った。
感化院(昔の少年院)の少年たちが、集団疎開のために山奥の村に連れてこられる。
彼らはもちろん良い子ではないが、イメージするほど悪い子たちだとも思えない。
戦時中という時代を考えれば、子どもたちの心がすさんでいるのもしょうがないと思う。
谷を渡るトロッコに乗らなければ村に入ることはできな -
Posted by ブクログ
大江健三郎の長編小説。叙事詩的な展開で、歴史と時間を切り抜いて、村=国家=小宇宙として大江の創造空間を存在させる試みである。とても大きなスケールで読み進めていくのにずいぶん時間がかかったが、不思議に読み通していきたいとエネルギーをもらえる小説だった。不順国神(まつろわぬくにかみ)不逞日人(ふていにちじん)とのろしを上げて大日本帝国と屹立する戦いを始める展開はスリリングであったし、何をものみこんでいく巫女の妹の存在も魅力的であった。登場する一人一人の姿が浮かび上がるように緻密に作られた世界が最後まで展開されていく。大江ワールド感服しました。四国の奥深く分け入った山間地を想像しながら、大江が生まれ
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Posted by ブクログ
ネタバレ大江健三郎は以前読んだ短編集が途中でしんどくなってしまったのでこれもあまり気は進まなかった。読んでみると読みにくいところはあるものの面白くて一気に読んでしまった。
ページ数も少ないのに内容が濃くて何ヶ月にもわたる話かと思っていたら5日程度の話と明かされた驚いてしまった。
結末は当初いまひとつに感じたが習俗の壁に屈服せず突破したという解説を読んですごく腑に落ちた。
この解説がすごく秀逸でここまで読んで1つの物語とすら思う。読んでる間ずっとちらついていたそもそも感化院が3週間の行軍で疎開するって言うのが現実味があるのか断じてくれたのも良かった。
実際刑務所とかって空襲どうしていたんだろう?破獄 -
Posted by ブクログ
短編集といえど、800ページ以上あり、全て読み終わるのに4ヶ月半ほどかかった。
本書は初期、中期、後期で分かれて読むことができたが、初期は面白く読める作品が多かったが、中期から後期にかけては私小説風に描かれる小説が増え、個人的にはそのあたりから面白さが減退した。
初期短編は全部面白かった。といっても暗めの話が多かった。特に「死者の奢り」は大学でそれにまつわる論文をまとめ、発表する機会があり、思い出深い。
中期短編は私小説が強めで、あまり面白くなかったが、「静かな生活」と「河馬に噛まれる」はよかった。
後期短編も印象深いものはあまりなかったが、「マルゴ公妃のかくしつきスカート」はかなりよかっ -
Posted by ブクログ
自由思想について書かれていると感じた。
いかに自由意思にもとづいて生きることが難しいか。。。
無人になった村で初めて自由に生きる子どもたち。
でもせっかく自由を手に入れたのに、大人の指示が恋しくなるのがアイロニカルである。
人の残酷さ、冷酷さ、自己中心性は環境によってどこまで強化されるのか。
本作はノンフィクションであるが、現実感がある。解説者は設定が非現実的であると執拗に固執するが、戦時下で起こり得る、起こっていたかもしれない事態ではある。間違いなく、大人の保護下になかった子ども達が大人達から非人道的な扱いを受けることは日常であっただろうと思う。
芽むしり、仔撃ち。
日本でもほんの少し前