大江健三郎のレビュー一覧

  • 人生の親戚

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    一度読んだ本は、よっぽど気に入るか、読んだことを忘れていない限りは再読しないのに、
    なぜかこの本は3回読んでいる。理解している自信はまったくないにもかかわらず(ノーベル賞で一瞬ブームになったとき、「燃え上がる緑の木」などを買い求めた人々はちゃんと読破できたのであろうか)。
    いつも同じシーンでどきっとする。息子ふたりを、あまりにもむごい出来事で同時に失ってしまったまり恵さんが、
    「こんなに疲れ果てているのに、死んでしまったら、あの子たちのことを覚えている人間が残らなくなってしまう、だから死ねない」というようなことを話すところ。
    愛していたから死にたいのに、愛しているから死ねない。強く過酷な人生の

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    2009年10月04日
  • 私という小説家の作り方

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    作者の文学に対する熱意、動機が伝わる。
    「だから私は大江作品を好むのか」と再認識させてくれた書。
    大江作品を敬遠していた人にとっても、この本は大江作品に触れるきっかけとなると思う。
    何故なら彼は「切実に」作品を書いてきた現存する最後の文学者だと思うからだ。

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    2009年10月04日
  • 見るまえに跳べ

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    10編もの小説を収録する短編集なのに、ハズレが1つもないのは本当に凄い。『死者の奢り』を読んだ時も感じたが、この作家は何と言うか…抜きん出ていて、他とは違う所にいると思う。1994年ノーベル文学賞。

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    2009年10月04日
  • 沖縄ノート

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    本書はまさに沖縄返還直前の1970年〜71年に書かれたものであるから、現代にあてはめて考えるのは無理だと思うし、実際こういった解釈で世の中に対峙するのは逆に危険な訳だが、知っててばちの当たるもんでもないけど、知っていないとばちが当たるかもしれん。過去に対して何を言う権利も無く、ただ与えられる言葉を理解して考えるだけという地味な読書だが、何がしかの種は残る筈。印象的な挿絵カットは儀間比呂志氏版画集「沖縄」ほかより。丸みを帯びた輪郭ながら力強いタッチに迫力アリ。

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    2009年10月07日
  • 洪水はわが魂に及び(上)

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    大江作品の中でも読みやすい。主人公、勇魚が名乗ってる「樹木と鯨の代理人」にときめいた。なんかロマンチック!

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    2009年10月04日
  • 同時代ゲーム

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    難物です。本人が全部書いてまた第一章を書き直したというくらいなので、最初から生真面目に読むとそこでもう挫折しそうです(笑)。けれどこれは、全部読み終えたときのその独創性、重量感たるや類をみないものです。初期大江作品が必ずといっていいほど書評にあがるのに対して、この頃以後はあまり語られませんが、万延元年と折り返して向い側にあるような作品ではないかと。大江作品の中では傑作の1つだと信じております。この不可思議で民俗的な世界は、作品の通り、まるで遡行していく旅でもあります。脳髄に。全部読むと第一章に戻りたくなるんですが、ほんっとに最初でかなりの人が挫折するかと思う手強さなもんで(笑)

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    2024年10月18日
  • 燃えあがる緑の木―第一部 「救い主」が殴られるまで―

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    この時点の大江のまさに集大成的作品。イェーツを媒介にして、過去作、「懐かしい年〜」は言うに及ばず、「M/T〜」、「人生の親戚」、「静かな生活」、「僕が本当に若かった頃」に収録の短編や、驚いたのは「治療塔/惑星」の続編構想の話まで、捉え直しをしながら、「信仰のないものの祈り」というテーマに実に大江健三郎らしい取り組み方をしている。

    聖書原典の読み解きよりも、読み解きを行なった「作家」たちの作品をさらに深く参照しているところが大江の魂のこととは文学に他ならないのだと思わされる。

    それが過激なカルトの台頭という時代性とシンクロしてしまうところが、また作家の「炭坑のカナリア」たる所以なのだろう。

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    2026年02月25日
  • 万延元年のフットボール

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    四国の大窪村物語の読破2作目。万延元年のフットボールが実は第1作だったことを同時代ゲームを読んだときに知り、発表された時間軸を逆行することになった。しかし万延元年の曾祖父の弟、戦後のS兄など逆行したからこそ把握しやすい設定だった。それにしても文芸誌に発表しながら書き進めていく作業は、当初の設定からこの全容がプロットできていたわけではなく、話を展開させていくうちに姿が見えてきたのだろうと思う。同時代ゲームより叙事詩的要素は薄いものの、蜜と鷹の濃厚な関係は二重身のように思え、当初は妻と呼ばれていた菜採子(ナツコ)と二人の関係が-挑戦的で自己破壊的な鷹を殺してもその鷹の子を生き残り続ける蜜と菜採が育

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    2026年02月12日
  • 同時代ゲーム

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    想像力の果てしなき広がりに、ただただ圧倒される。聖書を読んでいるような感じなので、確実に人を選ぶ作品。『個人的な体験』が読みやすいからといって安易には手を出すべきではない。

    最初の50ページくらいは本当に眠くて、引き返すなら今だぞ、今しかないと思いつつ、いざ村=国家=小宇宙の歴史について語られ始めると、のめり込むように読んでしまった。日本史が好きだから、伝承や絵から歴史を紐解いていく感じをすごく楽しめた。出来事の因果がとにかく緻密に積み重ねられていて、とても0から作ったとは思えない。

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    2026年02月09日
  • 万延元年のフットボール

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    久しく大江健三郎の作品を読んでなかった。
    改めて読むと今の文学にはない確かな、かつて日本に存在していた偉大な小説家の思想を垣間見る。日本語の難しさはあれど、物語や登場してくる人物の魅力は今の時代も通じる確かなものだと思う。他の作品も読もうと感じた。

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    2026年02月08日
  • 死者の奢り・飼育

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    人間の醜い感情のうねりや嫌厭を緻密に繊細に(かつ、くどすぎるぐらいにしつこく)描いていて、読んでいて重く締め上げられる気分。特に人間の汗や脂だとか汚物だとか、外も泥や泥濘の汚れだとか獣臭だとかドブ川だとか、とにかく穢らわしさ、粘っこい気持ち悪さなどの描写が多くて、ずぶずぶと嫌厭の情がすごい。

    文体はややクセありたまに迷子になるが、中身に惹かれて意外にあっさりと読み切ることができた。

    個人的には、表題作よりも「人間の羊」が一番刺さった。傍観者、偽善者、自己中心的な押し付けがましい”正義”に陶酔する者の醜悪さと、やるせ無い怒りや諦め、疲労感をまざまざと見せられた。

    氏が戦後の混沌の中で描きた

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    2026年01月30日
  • 治療塔

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    短編の「夢の師匠」に出てきた予言の世界で、「宇宙船団が出発して行く、頭のいい人、美しい人、強い人はみな乗り込ませ、、放射線に汚れた地球で、、」という文章にかなり惹かれたのもあり期待高まっていた。大江初の女性主人公ものだが、受難と立ち回りは変わらず、イェーツの詩やまた強き母(祖母として)の登場もあり、かなり面白く読めた。

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    2026年01月23日
  • 新しい人よ眼ざめよ

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    ブレイクの詩が私には難解でどう解釈したら良いのかさっぱりわからなかった。ブレイクの詩を理解できたら、この本への理解もまた変わりそうだけれど、
    不思議な光さんの言動に、人間の本質が表れているような気がして、光さんの言動を、よく理解しようと思いながら読みました。寄宿舎から帰ってきた時、イーヨーと呼ばれることに抵抗した。イーヨーと呼ばれること、光と呼ばれることの違いをどう感じたのかな?
    それから、誘拐された時に辛かった想いは、なぜ吐き出さずに内に留めようとするのかな?
    光さんは頭が良くて、内にたくさんの情報を溜め込んでいるのに、「父は死んだ」と思い込み、「善い足」の定義が思い浮かんだことで、よみがえ

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    2026年01月04日
  • 大江健三郎自選短篇

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    大江健三郎が亡くなったニュースをみて、この作家の本を全く読んでいないことに気づいた。あれから数年が経ち、読む機会を得ることが出来た。
    それぞれの作品ごとの感想を書くと長すぎるので、全体の感想のみまとめる。
    初期短編は有名な死者の驕りをはじめ、大江作品としては読みやすい。ただ暗鬱な世界観ではある。そして覇気がない主人公(セブンティーンは覇気だらけだが、あれは異質だろう)でありながら、作品そのものには強い推進力があるのが特色だろう。どの作品も面白い。傑作といってよいのではないか。
    問題は中期以降だ。ここから主人公が大江自身をモデルにした小説家となることが多く、思考がいろんなところに飛んでいく。読者

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    2025年12月26日
  • 人生の親戚

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    2人の息子を自殺で亡くした悲しみを正面から迎え入れるための集会での瞑想と、担いなおすためのメキシコの農場での労働を経験するが、それらの場所で救済を媒介するかのようなまり恵の働きとその働きに励まされる周囲の人々のような形で魂の癒しが語られる。
    最後には以前の作品でも語られていた小説(を書くこと)の罪が、本作ではまり恵=マリアとしてまり恵の生涯を了解し得るものとして書いたことへの葛藤として書かれている。

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    2025年11月25日
  • 万延元年のフットボール

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    ネタバレ

    村上春樹『1973年のピンボール』のタイトルの由来といわれる作品で、村の共同体やスーパーマーケットに対する暴動、また主人公の弟鷹四が過去に犯した行為など、美しい自然の描写に反して、内容としてはグロテスクな場面が多い。

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    2025年11月16日
  • 沖縄ノート

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    個人的にはヒロシマ・ノートほどではなかった。変換前の沖縄のレポートとして、また沖縄を見る日本人として読者も自分も他人事にしないという強い情念で内側へ検証していこうという姿勢は誠実かもしれないが、歴史が響かせる怒りの前に慄きすぎていて、ヒロシマ・ノートより言葉の普遍性に欠けているように感じます。また現代の沖縄問題について考える上ではむしろ精神的に深掘りしすぎて発展させるのが難しい。裁判沙汰になった集団自決についてより他の部分のほうがいま見ると評価が難しいところかな。

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    2025年10月30日
  • 芽むしり仔撃ち

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    ネタバレ

    学生時代、友人が、卒論代わりに大江健三郎の書誌を作った。
    身近に大江健三郎を読む友人などいなかったので「好きなの?」と聞いたら、「難しいけど、好きなんだよね。特に『芽むしり 仔撃ち』が」との返事に、「めむしりこうち」という音が意味するところが分からず、当惑した。
    後に漢字表記を見て、間引きの話か、と思った。

    感化院(昔の少年院)の少年たちが、集団疎開のために山奥の村に連れてこられる。
    彼らはもちろん良い子ではないが、イメージするほど悪い子たちだとも思えない。
    戦時中という時代を考えれば、子どもたちの心がすさんでいるのもしょうがないと思う。

    谷を渡るトロッコに乗らなければ村に入ることはできな

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    2025年10月23日
  • 沖縄ノート

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    戦後の沖縄、特にアメリカ統治下の時代に著者が実際に沖縄に行って感じたことを記載した内容。単に、著者の沖縄に対する感じ方を書いているのではなく、沖縄のアイデンティティーや文化、本土に対する沖縄県民の劣等感と抑圧された苦しみを記載していた。

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    2025年09月30日
  • 同時代ゲーム

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    大江健三郎の長編小説。叙事詩的な展開で、歴史と時間を切り抜いて、村=国家=小宇宙として大江の創造空間を存在させる試みである。とても大きなスケールで読み進めていくのにずいぶん時間がかかったが、不思議に読み通していきたいとエネルギーをもらえる小説だった。不順国神(まつろわぬくにかみ)不逞日人(ふていにちじん)とのろしを上げて大日本帝国と屹立する戦いを始める展開はスリリングであったし、何をものみこんでいく巫女の妹の存在も魅力的であった。登場する一人一人の姿が浮かび上がるように緻密に作られた世界が最後まで展開されていく。大江ワールド感服しました。四国の奥深く分け入った山間地を想像しながら、大江が生まれ

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    2025年09月21日