大江健三郎のレビュー一覧

  • 芽むしり仔撃ち

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    生々しい異質たる文体。その異質さは妙に現実味を帯びており、より奇妙である。坊主であろう少年たちの、小さなどんぐりのような性器も、糞に犯された血まみれの尻も、汚くも輝きは純白な恋も、動物の重層化した液体も、その色が、その匂いが、その形が、まるで叩き込まれるように脳内に浮かんでくる。少年たちと少女。これらの、関係性が本当に好きで好きで仕方がない、主人公が少女と恋仲になり、仲間には口笛を吹かれ、冷やかされる。その様は、微笑ましいがら白々とした雪の世界の中で起こるのは、赤色の糞に塗れ、紅の血を吐き出し喘ぐ少女の姿。異質たる文体がより一層に、それを充満に華々しく、血生臭くしている。ここの描写愛おしいほど

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    2026年03月17日
  • ヒロシマ・ノート

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    読んでいて辛くなる場面が多々ある。
    ヒロシマの人々は自分の想像など及びもつかないような過酷な世界の中で生き死にをされてきたのだと、改めて衝撃を受けた。
    原爆症を宣告されたときに自ら死を選択する動機の一つとして、「ヒロシマの一例としてでなく名前のある個人としての尊厳ある死を選びたい」という気持ちが存在するなど、思いを馳せたことがなかった。

    本当に壮絶で凄惨な、筆舌に尽くし難いほどの過酷な経験を経て、それでもなお自殺しない人々の威厳。
    特に重藤病院長のような、被害者になったその瞬間から、一方で同時に人命救助の最前線に立たされて、休む間もなく白血病やそのほかの未知の症状と戦い続けた”正統的な人間”

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    2026年03月10日
  • あいまいな日本の私

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    「あいまいな日本の私」ということについては、そのタイトルのノーベル賞受賞講演よりも、「回路を閉じた日本人でなく」の方がその意図するところについて詳しい。1992年から、1994年末の表題作までの講演から採られたものだが、憂もありながら、どれもユーモアに溢れ、分かりやすく、面白い。後書にあるように、テーマや引用は重複する部分も多いが、これに限らず小説や評論で度々引用されてきたものなので、大江読者なら馴染み深い話題だばかりだ。しかし、ノーベル賞受賞の4日後にされた「世界文学は日本文学たりうるか?」には爆笑。受賞直後の興奮も勿論あったのだろうが、これも後書にあるようにこの時期書き進めていた「燃え上が

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    2026年03月05日
  • 燃えあがる緑の木―第一部 「救い主」が殴られるまで―

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    この時点の大江のまさに集大成的作品。イェーツを媒介にして、過去作、「懐かしい年〜」は言うに及ばず、「M/T〜」、「人生の親戚」、「静かな生活」、「僕が本当に若かった頃」に収録の短編や、驚いたのは「治療塔/惑星」の続編構想の話まで、捉え直しをしながら、「信仰のないものの祈り」というテーマに実に大江健三郎らしい取り組み方をしている。

    聖書原典の読み解きよりも、読み解きを行なった「作家」たちの作品をさらに深く参照しているところが大江の魂のこととは文学に他ならないのだと思わされる。

    それが過激なカルトの台頭という時代性とシンクロしてしまうところが、また作家の「炭坑のカナリア」たる所以なのだろう。

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    2026年02月25日
  • 万延元年のフットボール

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    四国の大窪村物語の読破2作目。万延元年のフットボールが実は第1作だったことを同時代ゲームを読んだときに知り、発表された時間軸を逆行することになった。しかし万延元年の曾祖父の弟、戦後のS兄など逆行したからこそ把握しやすい設定だった。それにしても文芸誌に発表しながら書き進めていく作業は、当初の設定からこの全容がプロットできていたわけではなく、話を展開させていくうちに姿が見えてきたのだろうと思う。同時代ゲームより叙事詩的要素は薄いものの、蜜と鷹の濃厚な関係は二重身のように思え、当初は妻と呼ばれていた菜採子(ナツコ)と二人の関係が-挑戦的で自己破壊的な鷹を殺してもその鷹の子を生き残り続ける蜜と菜採が育

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    2026年02月12日
  • 同時代ゲーム

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    想像力の果てしなき広がりに、ただただ圧倒される。聖書を読んでいるような感じなので、確実に人を選ぶ作品。『個人的な体験』が読みやすいからといって安易には手を出すべきではない。

    最初の50ページくらいは本当に眠くて、引き返すなら今だぞ、今しかないと思いつつ、いざ村=国家=小宇宙の歴史について語られ始めると、のめり込むように読んでしまった。日本史が好きだから、伝承や絵から歴史を紐解いていく感じをすごく楽しめた。出来事の因果がとにかく緻密に積み重ねられていて、とても0から作ったとは思えない。

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    2026年02月09日
  • 万延元年のフットボール

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    久しく大江健三郎の作品を読んでなかった。
    改めて読むと今の文学にはない確かな、かつて日本に存在していた偉大な小説家の思想を垣間見る。日本語の難しさはあれど、物語や登場してくる人物の魅力は今の時代も通じる確かなものだと思う。他の作品も読もうと感じた。

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    2026年02月08日
  • 死者の奢り・飼育

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    人間の醜い感情のうねりや嫌厭を緻密に繊細に(かつ、くどすぎるぐらいにしつこく)描いていて、読んでいて重く締め上げられる気分。特に人間の汗や脂だとか汚物だとか、外も泥や泥濘の汚れだとか獣臭だとかドブ川だとか、とにかく穢らわしさ、粘っこい気持ち悪さなどの描写が多くて、ずぶずぶと嫌厭の情がすごい。

    文体はややクセありたまに迷子になるが、中身に惹かれて意外にあっさりと読み切ることができた。

    個人的には、表題作よりも「人間の羊」が一番刺さった。傍観者、偽善者、自己中心的な押し付けがましい”正義”に陶酔する者の醜悪さと、やるせ無い怒りや諦め、疲労感をまざまざと見せられた。

    氏が戦後の混沌の中で描きた

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    2026年01月30日
  • 治療塔

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    短編の「夢の師匠」に出てきた予言の世界で、「宇宙船団が出発して行く、頭のいい人、美しい人、強い人はみな乗り込ませ、、放射線に汚れた地球で、、」という文章にかなり惹かれたのもあり期待高まっていた。大江初の女性主人公ものだが、受難と立ち回りは変わらず、イェーツの詩やまた強き母(祖母として)の登場もあり、かなり面白く読めた。

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    2026年01月23日
  • 新しい人よ眼ざめよ

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    ブレイクの詩が私には難解でどう解釈したら良いのかさっぱりわからなかった。ブレイクの詩を理解できたら、この本への理解もまた変わりそうだけれど、
    不思議な光さんの言動に、人間の本質が表れているような気がして、光さんの言動を、よく理解しようと思いながら読みました。寄宿舎から帰ってきた時、イーヨーと呼ばれることに抵抗した。イーヨーと呼ばれること、光と呼ばれることの違いをどう感じたのかな?
    それから、誘拐された時に辛かった想いは、なぜ吐き出さずに内に留めようとするのかな?
    光さんは頭が良くて、内にたくさんの情報を溜め込んでいるのに、「父は死んだ」と思い込み、「善い足」の定義が思い浮かんだことで、よみがえ

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    2026年01月04日
  • 大江健三郎自選短篇

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    大江健三郎が亡くなったニュースをみて、この作家の本を全く読んでいないことに気づいた。あれから数年が経ち、読む機会を得ることが出来た。
    それぞれの作品ごとの感想を書くと長すぎるので、全体の感想のみまとめる。
    初期短編は有名な死者の驕りをはじめ、大江作品としては読みやすい。ただ暗鬱な世界観ではある。そして覇気がない主人公(セブンティーンは覇気だらけだが、あれは異質だろう)でありながら、作品そのものには強い推進力があるのが特色だろう。どの作品も面白い。傑作といってよいのではないか。
    問題は中期以降だ。ここから主人公が大江自身をモデルにした小説家となることが多く、思考がいろんなところに飛んでいく。読者

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    2025年12月26日
  • 人生の親戚

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    2人の息子を自殺で亡くした悲しみを正面から迎え入れるための集会での瞑想と、担いなおすためのメキシコの農場での労働を経験するが、それらの場所で救済を媒介するかのようなまり恵の働きとその働きに励まされる周囲の人々のような形で魂の癒しが語られる。
    最後には以前の作品でも語られていた小説(を書くこと)の罪が、本作ではまり恵=マリアとしてまり恵の生涯を了解し得るものとして書いたことへの葛藤として書かれている。

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    2025年11月25日
  • 万延元年のフットボール

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    ネタバレ

    村上春樹『1973年のピンボール』のタイトルの由来といわれる作品で、村の共同体やスーパーマーケットに対する暴動、また主人公の弟鷹四が過去に犯した行為など、美しい自然の描写に反して、内容としてはグロテスクな場面が多い。

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    2025年11月16日
  • 沖縄ノート

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    個人的にはヒロシマ・ノートほどではなかった。変換前の沖縄のレポートとして、また沖縄を見る日本人として読者も自分も他人事にしないという強い情念で内側へ検証していこうという姿勢は誠実かもしれないが、歴史が響かせる怒りの前に慄きすぎていて、ヒロシマ・ノートより言葉の普遍性に欠けているように感じます。また現代の沖縄問題について考える上ではむしろ精神的に深掘りしすぎて発展させるのが難しい。裁判沙汰になった集団自決についてより他の部分のほうがいま見ると評価が難しいところかな。

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    2025年10月30日
  • 芽むしり仔撃ち

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    ネタバレ

    学生時代、友人が、卒論代わりに大江健三郎の書誌を作った。
    身近に大江健三郎を読む友人などいなかったので「好きなの?」と聞いたら、「難しいけど、好きなんだよね。特に『芽むしり 仔撃ち』が」との返事に、「めむしりこうち」という音が意味するところが分からず、当惑した。
    後に漢字表記を見て、間引きの話か、と思った。

    感化院(昔の少年院)の少年たちが、集団疎開のために山奥の村に連れてこられる。
    彼らはもちろん良い子ではないが、イメージするほど悪い子たちだとも思えない。
    戦時中という時代を考えれば、子どもたちの心がすさんでいるのもしょうがないと思う。

    谷を渡るトロッコに乗らなければ村に入ることはできな

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    2025年10月23日
  • 沖縄ノート

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    戦後の沖縄、特にアメリカ統治下の時代に著者が実際に沖縄に行って感じたことを記載した内容。単に、著者の沖縄に対する感じ方を書いているのではなく、沖縄のアイデンティティーや文化、本土に対する沖縄県民の劣等感と抑圧された苦しみを記載していた。

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    2025年09月30日
  • 同時代ゲーム

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    大江健三郎の長編小説。叙事詩的な展開で、歴史と時間を切り抜いて、村=国家=小宇宙として大江の創造空間を存在させる試みである。とても大きなスケールで読み進めていくのにずいぶん時間がかかったが、不思議に読み通していきたいとエネルギーをもらえる小説だった。不順国神(まつろわぬくにかみ)不逞日人(ふていにちじん)とのろしを上げて大日本帝国と屹立する戦いを始める展開はスリリングであったし、何をものみこんでいく巫女の妹の存在も魅力的であった。登場する一人一人の姿が浮かび上がるように緻密に作られた世界が最後まで展開されていく。大江ワールド感服しました。四国の奥深く分け入った山間地を想像しながら、大江が生まれ

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    2025年09月21日
  • 性的人間

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    大江健三郎の変態度maxの小説を集めた中・短編集ですね!アホらしい程下劣で変態なんだけど、人間の生きる意味や方向性なんて所詮はその下劣な欲望に基づいてるんじゃないかと、不思議な説得力と文学的な高尚さも感じます。
    特にセヴンティーンが素晴らしかったですね!女子生徒が生理で体育を休んでいる日をチェックして全生徒の生理日を把握し、且つオギノ式で安全日も割り出すアホ同級生に何故か愛しさを感じてしまいました。

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    2025年09月21日
  • 死者の奢り・飼育

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    ネタバレ

    現代の価値観と違い過ぎて物語の繊細さが理解できなかった。

    水槽に沈む死体に対して湿度の高い激重感情を頭の中で炸裂させる文学青年、身体や足が動かなくなる病に侵され希望なく暮らす少年たちの元に現れた両足骨折の青年、病棟内を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して健常者の世界へ戻っていく無責任さ、黒人兵士を家畜のように世話をし交流するグロテスクさ、屈辱感に必死に耐えようとする人に付き纏う傍観者の行き過ぎた正義感と加害、外国人兵士の通訳をする日本人が日本人を見下す滑稽さ。

    誰もが持っている陰湿な部分をチクチクされるような話

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    2025年08月25日
  • 芽むしり仔撃ち

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    ネタバレ

    大江健三郎は以前読んだ短編集が途中でしんどくなってしまったのでこれもあまり気は進まなかった。読んでみると読みにくいところはあるものの面白くて一気に読んでしまった。
    ページ数も少ないのに内容が濃くて何ヶ月にもわたる話かと思っていたら5日程度の話と明かされた驚いてしまった。

    結末は当初いまひとつに感じたが習俗の壁に屈服せず突破したという解説を読んですごく腑に落ちた。
    この解説がすごく秀逸でここまで読んで1つの物語とすら思う。読んでる間ずっとちらついていたそもそも感化院が3週間の行軍で疎開するって言うのが現実味があるのか断じてくれたのも良かった。

    実際刑務所とかって空襲どうしていたんだろう?破獄

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    2025年08月16日