大江健三郎のレビュー一覧

  • 性的人間
    言葉を的確に重ねていくことで、言語化することの難しいある特殊な状況や心情を読者に飲み込ませる能力がとにかくずば抜けていると感じる。

    日常の陰に隠れた微細な心のありようや関係性をファンタジーのような鮮やかさでほじくり出す手法は予測が付かなくて本当に面白い。この人の書くものならどんなものでもきっと面白...続きを読む
  • 空の怪物アグイー
    敬老週間―人を食ったようなユーモアのある短編で、今の時代にこんな老人がいたとして、嘘で渡り合える人なんてごくまれじゃないかな、と思う。

    アトミック・エイジの守護神―主人公の作家が目で追う中年の男が場面場面で善人にも悪人にも変化するけれど、読みやすく大江には珍しくショート・ショートのような肌触りさえ...続きを読む
  • 沖縄ノート
    大江さんは『死者の奢り・飼育』しか読んだことなかったけど、小説作品にも増して難解やね・・・。
    けど謝花昇の生涯に関する箇所だとか、かの有名な渡嘉敷島の悲劇なんかは読んでてなかなか心打たれるものがある。
    大江さんお得意の内面をえぐりこむような日本人の精神分析は圧巻。
    ユングの集合的無意識に通じる部分が...続きを読む
  • 芽むしり仔撃ち
    戦時中、感化院の少年たちが、疫病の流行とともに集団疎開先の山村に閉じこめられる。村を占有した少年たちは、感情豊かに、生き生きとした生活を送る。猟で捕った鳥を焼いて食べながら歌をうたう場面が印象的だった。焼鳥がすごくおいしそう。
  • 見るまえに跳べ
    初期短編集。

    「奇妙な仕事」「動物倉庫」「見るまえに跳べ」など特に面白く読んだ。

    反面、読みづらく感じたものもいくつかあった。
    『死者の奢り』に比べて色々試している実験的な作品がピックアップされた短編集という印象がある。若かりし大江健三郎が思想を物語に定着させようとして試行錯誤しているように読み...続きを読む
  • 日常生活の冒険
    「主人公」が自殺をした趣旨を手紙で知り、主人公との出会いから現在までの思いでを物語として「私」こと語り手が綴る、といった物語。
    正直、主人公である斎木犀吉は、モラリストだの哲学者だのと書いておいて、身勝手で奔放な男だと思っていたのですが、最後の章でのやり取りや、海外へと出ていくさいの葛藤など、書き手...続きを読む
  • 同時代ゲーム
    純文学を大きな声で好きだといえる人でないかぎり読みきれないでしょう。それくらい難解で、ストーリーの流れなどから簡単に面白いと感じるところはない作品です。ですがノーベル文学賞作品ですから純文学好きには避けられないところなんですね。実際に読んでみるとあまりの文の巧みさに驚き、慣れないうちは1ページに10...続きを読む
  • 沖縄ノート
    「日本は沖縄に属する」という文章が衝撃的だった。

    沖縄問題を民族レベルにまで掘り下げて、議論している本。

    柳田邦男の民俗学を思い出すような内容であった。
  • われらの時代
    戦後すぐの若者の「割り食った」感を、象徴性の強いエピソードで綴った長編。

    割り食ったっていうのは「命をかける機会」を失ったことについてで、その点は今と違うけど、割り食ったって思っちゃう時代に対する怒りは共感できた。今は何が原因かはっきりしないあたりもっと悪くなってるかもしれない。

    エピソードも展...続きを読む
  • われらの時代
    初期の長編。このころから虚飾や装飾を抑えた直接的なことばを使ってイメージを排除した性を描いている。遍在する自殺の機会につねに監視されながら生きるしかない現代の若者のすがたは読んでいてとても共感できた。
  • 「雨の木」を聴く女たち
    頭のいい「雨の木」を発端とした連作短編集。アレンギンズバーグがなんでもないふうにでてくるところもカッコいいし、どの短編をとってもすごくおもしろかった。現実からはじまってうまくフィクションの形におとしこむ力もすごい。あいかわらずエロいのもいい。楽しかった。
  • キルプの軍団
    初めて大江氏の本を手に取りました。 題材が社会思想等、重くなりがちなモノをあたりの柔らかい言葉で書かれていて、意識してゆっくり読みたくなりました。(*^^*)
  • 叫び声
    文章がエロい。性的な意味ではなく。
    個別の文章と全体、両方を見てキラキラした美しい要素を感じる。

    ジャギュア、いいね。
  • 同時代ゲーム
    大江健三郎の持つ創造性と民族の土地への執着、そして寓意的神話の結晶。20世紀日本文学の収穫とだけあって読み応え抜群です。
    メタ文学としては国内最高峰。
    と、ここまでベタ褒めですが、星4つの理由としては万人向けでなさ過ぎるという点。
    村上春樹、伊坂幸太郎などを好む人にとっては『難解』という幻想に苛立ち...続きを読む
  • 沖縄ノート
    [ 内容 ]
    米軍の核兵器をふくむ前進基地として、朝鮮戦争からベトナム戦争にいたる持続した戦争の現場に、日本および日本人から放置されつづけてきた沖縄。
    そこで人びとが進めてきた苦渋にみちたたたかい。
    沖縄をくり返し訪れることによって、著者は、本土とは何か、日本人とは何かを見つめ、われわれにとっての戦...続きを読む
  • 性的人間
    セブンティーンを勧められ読んでみたが、いまいちだったが
    性的人間は、少年の自分を持つためにあそこまでやる気概、深い自己洞察に感銘を受けた
    あれだけの使命を見つけたいものだ
    共同生活は、一人になれないとストレスがマッハな俺にとって、恐怖以外の何者でもない


    死者の奢りは好きになれなかったが
    やはり流...続きを読む
  • 叫び声
    相変わらず盛り上がりまでがスローな大江健三郎氏のご本。
    物語の2/3を過ぎたあたりからガンガン負の方向に展開していってもう大好きです。

    物語の最後は最低でした。
    読むんじゃなかった、金返せ!の最低ではなく、鬱なシメ方というのでしょうか、こういう類の最低な話は素晴らしい。

    11.05.08
  • ヒロシマ・ノート
    [ 内容 ]
    広島の悲劇は過去のものではない。
    一九六三年夏、現地を訪れた著者の見たものは、十数年後のある日突如として死の宣告をうける被爆者たちの“悲惨と威厳”に満ちた姿であり医師たちの献身であった。
    著者と広島とのかかわりは深まり、その報告は人々の胸を打つ。
    平和の思想の人間的基盤を明らかにし、現...続きを読む
  • われらの狂気を生き延びる道を教えよ
    三つの短篇と二つの中篇で構成された内容。この本を読み始めてから読み終えるまでに、間に8冊も違う本を読んでしまった。すごく読んでて苦痛になり、また疲労感を感じるほどパワーがある。完全に自分はパワー負けしたため、違う本(簡単に読める本)へと逃げ込んだ。飼育・死者の奢りも含めて大江氏の本はすごく陰鬱なイメ...続きを読む
  • 洪水はわが魂に及び(下)
    大学の授業中(授業も聞かずに)一生懸命読んでいたころが懐かしい。

    「すべてよし!」
    壮大な展開に圧倒されます。

    各個人の思想の自由が一応許されておりますが、いくら当初は尤もな理想を掲げていても、閉鎖された集団だと理論がこじ付けとなり暴走するのだとつくづく感じた。
    近年だとオウム真理教の一連の事件...続きを読む