大江健三郎のレビュー一覧

  • 芽むしり仔撃ち

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    大江健三郎作品は短編以外では初でした。大江健三郎さんの文章を読んで自信を無くし小説を書くのを諦めた人も多いと言う話を聞きました。
    少し回りくどく慣れるのに時間がかかったのですが、慣れてしまうと、こんな事まで文章で表現出来てしまうんだと驚きます。
    自然の描写、人間の心の動き、複数の人間の間に流れる空気の変化など。
    動物の死骸の描写や、戦時中の貧しい人達の見窄らしさ、惨めさが内面も含めて、とても細やかに描写されており、何だか堪らなくなりました。
    始終陰鬱な雰囲気に包まれた話ですがそれだけでは終わらないよい意味での裏切りもかい見えて読後感は予想よりは悪くなかったです。
    第二次世界大戦終結直前の山村が舞台との事ですが、どことなく架空の世界のような雰囲気が漂っていることに関してはあとがきを読んで腑に落ちました。

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    2021年05月16日
  • 同時代ゲーム

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    そこまで読みにくいとは思わなかった。取り替え子は凄く読みにくかったが、それに比べると全然大丈夫だった。
    大江さんのつくった世界にじっくり浸かれる小説。途中で読み疲れする部分もあったが、神話的で性的で悲劇的で感傷的な世界観をとても楽しめた。

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    2021年04月28日
  • 性的人間

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    ネタバレ

    『性的人間』の「痴漢は捕まって罰せられるまでが痴漢」という考え方や、『セブンティーン』の漠然とした不安から一時的に逃れるために自涜するところがすごく良かった。

    ただ、最近は本を読めるタイミングが早朝か公園で子どもを遊ばせているのを横目で見ているときくらいしかないので、精神的にも環境的にもこの本を楽しめる状況というのがなかなか整わなくて読み進められなかった。

    大江健三郎の積ん読はまだまだあるのでまた読み進めていきたい。

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    2021年02月19日
  • 小説のたくらみ、知の楽しみ

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    大江健三郎が同時代の作家、研究者を論じる語り口が好きなので、それだけでも大満足だが、ちょうど中期の短・中編を読み終わって、新たな長編期に入る前の箸休めとして読んだのだけれど、作家による解題の様に自作について語ってあり、充実した短・中編の副読本としても最適。

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    2021年01月16日
  • 芽むしり仔撃ち

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    太平洋戦争末期の感化院の集団疎開のお話。もちろんこれは小説で、本当にこんな世界があったとは思いたくはないが、情景描写が生々しく、ノンフィクションとしてさせ感じられた。孤立は自由を与えてくれるが、不安や恐怖がその大半を占めていると感じた。ただ、孤立の不安や恐怖を乗り越えてとった行動によって、新しい世界が広がるように思えた。

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    2021年01月02日
  • 燃えあがる緑の木―第三部 大いなる日に―

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    大江健三郎 「 燃えあがる緑の木 」 3部 大いなる日に

    土地の伝承から始まった宗教集団が、個の信仰に分裂し、魂として土地に帰還する物語

    神に帰依する信仰でなく、死者と共に生き、人間と集団をつなぐ信仰を対象としている。伝承、詩、文学など読み継がれてきた言葉が人間と人間、人間と集団をつなげている。

    集団化によって起きる問題に対して、弱い人間、障害のある人間が 暗闇の中のヒカリになっている。両性具有や燃えあがる緑の木(露が滴りながら燃える木)などの両義的なモチーフは、弱い人間と強い人間の共生や集団維持の象徴として用いている

    救い主の自己犠牲による死は必要だろうか。キリストの復活を想起させることが、神に帰依する信仰との類似性を強調しているようにも感じた

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    2020年12月05日
  • 燃えあがる緑の木―第一部 「救い主」が殴られるまで―

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    大江健三郎 「 燃えあがる緑の木 」 1部 救い主が殴られるまで

    100分de名著により 人物イメージと主要テーマを学習済みなのでスイスイ読める。

    1部の内容は 土着宗教の誕生プロセス と 魂の動きに関する思考実験と捉えた。これから宗教と魂、人間と命、記録としての文学を考察するための伏線だと思う

    土着宗教の誕生プロセス
    *土地の伝承を蘇らせる 救い主が現れる
    *救い主の言葉と神秘的な力により、信仰者と糾弾者が現れる
    *救い主と信仰者が一体となり 教会を建てる

    魂の動き
    魂が 身体の中で生き、身体を残して浮かび上がり、自分に割り当てられた樹木の根におさまる

    救い主の言葉(死の恐怖の克服)
    *一瞬よりはいくらか長く続く間〜自分が深く経験した生きたしるし
    *永遠に近いほど永い時に対して 限られた生命の私たちが対抗するには〜一瞬よりはいくらか長く続く間を経験するほかない


    名言「人生に失敗はない。愚痴があるだけだ」


    ランボオの詩が盛り込まれているとは知らなかった
    「永遠」もとより希望があるものか〜黙って黙って勘忍して〜苦痛なんざ覚悟の前


    大江健三郎 の文学テーマ
    *障がいを持つ息子との共生〜ケアする側も される側と同じくらい多くのものを受けている〜大江健三郎は 息子の誕生によって生まれ直した
    *人間は続いている〜私たちは死んだ人間の代わりに生きている〜私たちは 未来の人間につながっている

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    2020年12月01日
  • 大江健三郎自選短篇

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    大江健三郎という作家は、自らの作品を改稿する癖で知られているが、2014年に出版された本書は、1957年のデビュー当時から60年代までの初期作品、80年代の中期作品、90年代前半の後期作品という3つの時代の短編を、自らの改稿に基づき編集し直された自作短編アンソロジーである。

    長きに渡って活躍している作家であるが故に、決して執筆ペースが早い作家ではないものの、トータルでの作品数もそれなりに多くなる。それなりに彼の作品を読んでいる自身であっても未読(特に短編は)のものが多いため、改めて大江健三郎という作家の面白さを実感することができた。比較的初期作品は昔に読んでいたが、生々しいグロテスクさを詩的な言語というオブラートで微妙に包み込んだかのような世界観はやはり読んでいて感嘆させられる。端的にいって、とても面白い。

    また、自身の息子、大江光との家族との関係性をテーマにした中期の連作短編『新しい人よ眼ざめよ』は未読の作品であり、静かな感動があった。

    大江健三郎の作品は、集中して読み進める必要があるので、また時間ができたタイミングでゆっくり読み進めたい。

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    2020年09月05日
  • 芽むしり仔撃ち

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    想像の世界を実に現実的に感じるのは、自然描写といい、心象表現といい、卓越した筆力にあるようだ。20代での作品というのも驚かされる。「擬する」を銃を突きつけるという意味でさらっと使う人はあまりいないんじゃないか。2020.8.13

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    2020年08月13日
  • 大江健三郎賞8年の軌跡 「文学の言葉」を恢復させる

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    少し前の新聞に中村文則の「掏摸」が紹介されていた。中村さんは今や海外でも名を知られた作家だが、そのきっかけになったのが大江健三郎賞を受賞した本作が、賞の特典として翻訳されたからだ、という内容だった。
    大江健三郎賞は聞いたことがあったが、選考委員は大江健三郎さんひとりで、賞金の代わりに海外に翻訳されて紹介される、賞は八年続いて既に終了しているということも知らなかった。
    で、その賞の始めから終わりまでの受賞作の紹介とそれぞれの著者との対談を収録されているのが本作。
    なかなか手ごわい本だったがおもしろかった。
    受賞作のどれも読んだことが無いが、長島有の本は読んでみたいと思った。対談も一番楽しかった。
    大江さんも最後の方で言及されている。
    大江健三郎もよく知らなかったが、ご自身のことに触れられている部分も多く、知ることができた。
    大江さんの文学に対する誠実さで成り立っていた賞だった。それを支えていた優秀な編集者も。

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    2020年07月24日
  • 芽むしり仔撃ち

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    読んだのは、昭和40年発行、昭和47年11月30日の11版です。

    読書会の課題本で知りました。大江健三郎さんの本は難解とイメージがあり避けてました。
    これは23歳のときに書かれたと知り驚きでした。
    感化院の少年が村へ疎開するのですが、村では謎の疫病で動物たちが次々に死んでいるところでした。村人は少年たちを村に置き去りにして逃げ出します。朝鮮の人と疎開してきた小さな女のこも置き去りにされてました。マイノリティの連帯、正義が常に反転していて、少年たちの目線で物語を読み進められ。脱走兵もみなから侮辱をうけながら、ちゃんと学問を修めつつある人物だとわかります。

    戦時中の全体主義の狂気がいまのコロナ時代に、なんか合ってる気がしました。

    無垢な弟が犬を殺され居なくなってしまうシーンに胸がしめつけられ。
    村長がお前らを許すと言った嘘の寛大さに怒りを感じ。
    すごい作品だなぁ。

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    2020年07月15日
  • 晩年様式集

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    「赤革のトランク」に入っていた古い手紙類などは
    ほとんど資料的価値のないもので
    長江古義人は結局
    父の不可解な死にまつわる謎を解くことができなかった
    そんなわけで、長江には父についての核心的な思い出がない
    ただし、父に代わって彼の人格形成に深い影響を与えた人物は2人いた
    ひとりは松山の高校に入ったとき出会った親友で
    のちには義兄ともなった映画監督の塙吾良
    もう一人は、戦後「森」に帰ってきた本家筋のギー兄さんである
    ところが前作「水死」では
    老齢を迎えた長江じしんが、おそらくは人生初といっていいだろう
    父親としての試練を前に立ちすくむこととなった
    それは、長男アカリの善意による「イタズラ書き」に端を発した
    父への反抗と、家庭内不和である
    劇団関係の仕事に乗じ、四国の森にアカリとの共同生活を営むうち
    問題はなんとなくウヤムヤになってしまったが
    きちんとした結論があって落ち着いたわけではなかった
    女たちのあいだにくすぶったそのわだかまりが
    近親者のみに配布するプライベートな雑誌づくりというアイデアを
    思い立たせたのだろう
    それはまず、小説の題材として扱われてきた家族たちからの
    異議申し立てを形にするという意図ではじまる
    アメリカに拠点を置くギー・ジュニアや
    塙吾良の若い「女友達」だったシマ浦さんも加えて
    雑誌は号数を重ねていくが
    それにつれ読者の前で明らかになっていくのは
    それぞれに不可解な死に方をした塙吾良とギー兄さんのことが
    実はまったくわかっていないまま
    根拠の乏しい思い込みで納得しようとする長江の姿だった
    それはひょっとすると
    読者へのわかりやすさを言い訳に
    …それで必ずしも読者の理解を得られたとは言い切れないにせよ…
    事実を簡略化、あるいは
    ねじ曲げてきた姿勢と通じる安易さそのものかもしれないし
    もっと言えば自分自身の核心から目を背けている証拠かもしれなかった

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    2019年08月04日
  • 性的人間

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    中編3つ。三作とも自己の内面を追求した(押しやられた)結果、陥穽に落ちた青年の話。青年ならではの心の動きとも言えそう。「共同生活」が一番わかりやすくてよかった。「セブンティーン」の終わり方が半端で、作者が右翼とは思えず不可解だったが、実は第ニ部があって公開されていないということを知って納得とともに興味をもった。2019.6.26

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    2019年06月26日
  • 芽むしり仔撃ち

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    解像度の高い文章。読んでいて心地よい。
    「蝿の王」っぽい設定だが、少年たち同士の対立は弱い。
    章の題名は分かりやすくする効果があるが、ネタバレにもなるから一長一短だと思う。

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    2019年06月23日
  • 遅れてきた青年

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    ネタバレ

    大江健三郎の描く戦後文学は、戦後生まれの僕達にとって、もはや神話である。
    鬱屈した自意識過剰な主人公。
    19世紀西洋小説的。
    ロマン・ロラン的。
    文庫本あとがきによると、大江健三郎自身が終戦当時、そのような感慨を抱いていたらしいが、この長編は、第2次世界大戦の戦線に立つのに”遅れた”という意識を持つ青年が主人公であるところが、戦争を全く知らない僕には興味深い。
    ある意味、必然的でない後半の犯罪が、小説に影を彩る。

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    2019年11月27日
  • 水死

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    天皇主義の戯画を演じて死んだ三島由紀夫に対し
    戦後民主主義の戯画を引き受けて生きる大江健三郎は
    三島の死をトリックスターのそれと決めつけ
    影響力を無効化するために
    天皇との和解を目論んだのだと思う
    「あいまいな日本の私」とは、まさに天皇のことでもあるわけだ
    それはもちろん逆説的に不敬だった
    とはいえ、天皇との和解
    小説を使ってのことにせよ
    さすがの大江も、そんなご都合主義をやらかすほど
    恥知らずにはなれなかった
    それはあるいは、障害持ちの息子という心残りを置いた
    老年の弱気なんだろう
    そこでかわりに、三島のホモソーシャル志向を叩くべく持ち出したのが
    メイトリアークという概念だった
    天皇の家系をつないでいるのも、結局は産む存在としての女である
    それを視野に入れない三島の思想は、尻切れトンボで未来がない
    そういう考え方はしかし
    女性の権利がうたわれる時代において
    即「おもねり」と化す危険性をはらんだものであろう
    そして実際のところ三島由紀夫は
    子らに対する圧制者としての母たちと、常に向き合う存在でもあった

    ただし、以上のことはすべて僕の妄想であって
    「水死」という小説には三島のみの字も出てこないのであるが
    序盤で問題にされる
    「みずから我が涙をぬぐいたまう日」に関しては
    三島の切腹を受けて執筆されたものという見方が一般的のようだ

    ノーベル賞作家の長江古義人は
    長年の懸案だった「水死小説」への着手にあたり
    地元・愛媛県の劇団員に頼まれて
    ワークショップを並行することになる
    「水死小説」…実家近くの川で溺れ死んだ父親の名誉回復を
    長江は、それによって果たそうとしたものであった
    しかしその試みは早々に頓挫してしまう
    アテにしていた当時の資料が、ぜんぶ空振りだったから
    そしてさらに気落ちする暇もなく
    老齢の長江にとって、あまりに厳しい家庭の危機が訪れるのだが
    この窮地を救ったのは、劇団員ウナイコとのつながりだった
    孤立した「リア王」のように
    放り出される寸前の長江が救い出されたのは
    ウナイコと、長江の妹アサがコミットメントしてくれたおかげだ
    ただし
    それは要するに、ノーベル賞作家の威光を争奪する劇団内の対立で
    ウナイコが主導権を握ったということでもある
    彼女はその威をかりて
    高級官僚だった伯父への、ある復讐を実行しようと目論んでいた

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    2018年12月11日
  • ヒロシマ・ノート

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    1963年から65年にかけて、広島を訪れた著者が、いまもなおのこる原爆の後遺症にさいなまれながらも静かに今を生きている人びとの姿をえがいたノンフィクション作品です。

    すこし気になったのは、「偶然にひとつの都市をおとずれた旅行者が、そこで困難な事件にまきこまれ、それをひきうけて解決すべくつとめる、というのは、ポピュラーな小説家が、たびたび採用してきた公式だった」という、蓮實重彦の問題提起を思わせるような文が記されていることです。本書には、政治的に対立する陣営の喧騒から距離を置くことで、文学を生業とする著者自身の観点から広島の真実にアプローチをおこなっているのですが、上の問題はそうした著者の態度そのものに反照してくることを避けられません。

    おそらくこうした問題を踏まえてのことと思われますが、本書の冒頭に置かれた「プロローグ 広島へ……」という文章のなかで、「広島について沈黙する唯一の権利をもつ人々について書いた」著者の文章に共感を送る被爆者のことばを引きつつ、「僕はそれにはげまされながらも、同時に広島の外部の人間である自分の文章全体に、もっとも鋭い批判のムチが加えられたことにも気づかざるを得ない」と述べています。同時に、こうした批判を浴びるような立場にみずからが立っていることを引き受けながら、なおも広島について語ろうとする著者の強い意志をも感じ取ることができます。

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    2018年10月26日
  • ピンチランナー調書

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    1回目はスラップスティックについていけず、再読して漸く面白く読めた。
    まず、われわれの子どもについてを巡る対話が面白い。「私小説ではない」のだか、こういった挿話はまさにリアルな感情に根差していると感じられる。転換のドタバタはまさに道化の語りだが、ピンチランナーという言葉に込めた祈り、決意は、この長大なアンチクライマクスの物語を作り上げる作家の祈り、決意そのものであり、敬意を禁じ得ない

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    2018年06月16日
  • 「雨の木」を聴く女たち

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    甘ったれた男の物語と読むこともできる。初期の短編の完成度に比べれば、どこか未整理なままを見せることを目的としているような節もある。ただ、凝り固まった思い込みを捨てれば、やっぱり豊かなイメージに溢れた氏の作品は単純に面白く(首吊り男は笑っちゃうし、泳ぐ男はミステリー調にも読める)、短編は読みやすい。

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    2018年05月28日
  • 空の怪物アグイー

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    「敬老週間」はちょっと大江らしくないので意外であったが、あとは読んでいてニヤニヤしてしまういつもの大江であった。「ブラジル風のポルトガル語」なんかはいつにも増して他者性というものがきわだって描かれていたように思う、けっこう好きな作品が多かった。

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    2018年04月09日