大江健三郎のレビュー一覧
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第二次世界大戦末期、現在の少年院にあたる「感化院」の少年たちはある僻村へ集団疎開させられる。しかし到着直後に疎開先で疫病が流行り始め、村人たちは村外へ避難し、感化院の少年たちを置いて村を隔離してしまう。山村に監禁された少年たちを襲う不安と恐怖、しかし彼らは健気にも自分たちの「自由の王国」を創り上げようとする。だが狩りの成功を祝す祭りの後に少女が発症し、彼らは再び恐怖の底へと突き落とされる。そして村人たちの帰村により、その恐怖は絶望へと変わる…。ノーベル文学賞作家・大江健三郎のデビュー1年後に発表された初の長編小説。
著者の作品は初めて読んだが、圧倒的な表現力に驚かされた。力強く緻密な情景 -
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「性的人間」
フリーセックス思想の限界に触れて
彼はテロリストになった
すなわち痴漢である
加虐者であり、被虐者である彼は
同時にあきらかな敗北主義者でもあったが
たのもしい2人の痴漢仲間とともに
めくるめく性倒錯の世界を切り開いてゆくのだった
その終わりには何があるというのだろう?
本当にろくでもない
「セブンティーン」
ナショナリズム・パトリオティズムに対しては誰もが恐れと羨望を感じ
とりあえず悪と決めつけるしかない
そんな時代
与えられた自由よりも、あえて選び取った束縛に
身を投じることでしか反抗期を得られなかった少年の
悲しみと恍惚を描いた物語である
二律背反が彼を果てしのない狂熱へ -
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今期,大学の非常勤でテッサ・モーリス=スズキの『日本を再発明する』を教科書として使っている。今回はとてもいい選択だったと思う。とても授業がやりやすいし,学生の反応もまずまず。もちろん,理解が浅い部分もあるが,そのくらいの難しさを兼ね備えているところも理想的。
ということで,レポートのテーマとして「日本論・日本人論・日本文化論を読む」という課題を設定した。この件については,西川長夫『地球時代の民族=文化理論』を読んだ時にも,主要な日本論については読んでおかなくてはと思ったが,今回そのいくつかをレポートの課題図書として設定することで自らも読むことにした。
まず,読み始めたのがこちら。ノーベル文学賞 -
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後にノーベル文学賞を受賞(1994年)した大江健三郎が、1963~1965年に雑誌「世界」で発表したエッセイをまとめたものである。
大江氏は、その期間に繰り返し広島を訪れ、多くの、20年を経てもある日突如として死の宣告を受ける被爆者たち、そうした被爆者に対して献身的に治療に当たる医師たちと話をし、戦争の悲惨さと人間の威厳を訴えるメッセージとして本作品を著している。
私にとって強く印象に残ったのは、“人間の威厳”として、「広島で生きつづける人びとが、あの人間の悲惨の極みについて沈黙し、それを忘れ去るかわりに、それについて語り、研究し、記録しようとしていること、これはじつに異常な努力による重い行為 -
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まつろわぬ人・大江健三郎が
地元に語り継がれてきたとされる(ホントかな?)伝承を
モデルとして書いた小説作品
具体的な地名は伏せられていたり変更されていたりして
いちおう創作のスタンスを保っているが
もろもろから察するに
宇和島藩の城下町を追放となったならず者たちが
宇和海賊の娘から船を借り
佐田岬半島を迂回して肱川河口からさかのぼっていって
新天地を発見するといった筋書きだろう
ならず者のリーダーは「壊す人」と呼ばれ
神がかり的な力を発揮する
また
村の創建者たちが「故郷でありふれた人生を送っている自分」を
夢に見ながら消滅するというエピソードには
アナザーワールドの可能性も感じられるのだっ -
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もうお腹いっぱい。
大江健三郎さんの短編が23編収録されています。
文庫で840ページだから、まるでレンガみたいな厚さ。
デビュー作「奇妙な仕事」から「空の怪物アグイー」まで初期短篇8編は愉しむことができました。
緊密な文体で独特の緊張感が漂っていて、読む方も気が抜けません。
芥川賞受賞作の「飼育」も好きですが、私は「セブンティーン」に結構な衝撃を受けました。
正視に耐えないグロテスクな心情と鬱屈を抱え、学校に居場所のない17歳の「おれ」が、右翼の大物に認められたことで急速に右傾化していく様子を描いた作品です。
これは今、「ネトウヨ」と呼ばれる人たちにも重なるのではないかと思いました。
右翼的 -
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ネタバレ"上下巻合わせての感想です。
ある少年(育男)と少女(踊り子(ダンサー))が、奇妙で劇的な出会いをする場面から始まる。その場に居合わせた国際的に活動する画家木津と、少年と少女の3人が15年後に再会し、踊り子(ダンサー)がある教団の指導者(師匠(パトロン)と案内人(ガイド))の住み込みの秘書をしていたことから、木津と育男はその教団に関わることになる。その教団は、十年前、急進派による無差別テロ計画の実行を阻止するために、師匠(パトロン)がテレビで「すべては冗談でした」と棄教を宣言し、活動を停止していた。案内人(ガイド)が元急進派に殺されたことから、物語は教団の活動再開へと急展開する。。 -
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大江健三郎著。詩を書くために痴漢を行う少年と性倒錯した主人公達「性的人間」、劣等感の塊である少年が右翼思想に目覚める「セヴンティーン」、部屋で謎の猿達との生活を送る「共同生活」の三篇収録。
性的人間:前半の乱交をする人物達の話はさほどインパクトがなかったが、後半の痴漢の話はすさまじいものがあった。そもそも詩と痴漢が結びつくことが驚きだし、それを深く見つめて実存的問題にまで繋ぎ、振り切るようなエネルギーでラストシーンを描いている。痴漢について、単に表面的なグロテスクな部分だけでなく、哲学的に描けるのは大江健三郎だけだろう。長編小説を読んだような密度だった。
セヴンティーン:まず、大江健三郎 -
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・大江健三郎「大江健三郎自選短篇」(岩波文庫)を 読んだ。帯に「全収録作品に加筆修訂が施された大江短篇の最終形」とある。本書収録の23編に関しては、以前の「全作品」や「全集」ではなく、これが最終形、もしかしたら定本になるといふことであらう。それを意識して読んだと書いたところで、私にはそれ以前との違ひなど分かりやうはずがない。ただ、かうして初期から最近の作品まで通して読むと、大江の変貌の具合と文体の推移、つまり読みにくくなつていく過程がよく分かる。私が大江を読み始めた時、既にかなりの作品が文庫になつてゐた。それらは初期の作品であつたはずだが、それゆゑにそんなに読みにくいとは思はなかつた。もちろん