大江健三郎のレビュー一覧
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死者の奢りや飼育を読んだ時のような震えるほどの感動とか、これこそが魂の救済かもしれないと思う実感とか、そういうものは全くなかった。長編として均整の取れていて主軸もしっかりしていて日本文壇的な作品。でもデビュー時の何が何でも、というようなみずみずしさとか絶望感とかが感じられない。優れた文学と、性への執着はわたしに古風な日本文壇を思い起こさせて、三島由紀夫のような、そんな。死者の奢りがあまりに心を震わせる素晴らしいものだったので意気込んで読んだところを挫かれた感じ。春樹が周囲は大江健三郎を読んでいたが自分は好んで読むことはなかったみたいなことを言っていたのが、分かる気がする。いき過ぎた執着は気持ち
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「一瞬よりいくらか長いあいだ」としての「永遠」!このくだりを見たとき私は大変驚愕して、というのも大江健三郎がここまではっきりこの言葉を口にするとは思ってもいなかったので…『嘔吐』では似た言葉が、存在の罪が一瞬だけぬぐわれるとき、などという表現されていたアレ…『嘔吐』以後サルトルが触れなくなってしまったアレ…。私にとってはこの「瞬間としての永遠」はサルトルとバタイユをつなぎ、または作中に引用されているランボーとも、プルーストとも強固に繋がるキーワードである。しかしこれを掲げて宗教を始めることが可能なのか…。自分の存在というものの途方もない無意味さ、偶然性を乗り越えることが出来るのは、自分の身を以
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ネタバレ概要
狂気と自由,作家と障がい者の息子,閉塞的な集落・田舎町などを共通の要素とする3つの短編と2つの中編を収録。1969年発行。
・走れ,走りつづけよ
・核時代の森の隠遁者
・生け贄男は必要か
・狩猟で暮らしたわれらの先祖
・父よ,あなたはどこへ行くのか?
感想
大江健三郎の作品を読むのはほぼ初めて。10年以上も前に初期の作品を読んだ気がするけれど,まったく覚えていない。
正直なところ,難解でよくわからなかった。しかし,よくわからないながらも,つい読み進めてしまう魅力のある中短編集だった。通常,難解な小説というのは読み進めるのが苦痛なのに,この作品はそんなことはなかった。ただし,「父よ -
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もうこれ、たいへんだー。
大江健三郎さんは本当に妥協しない人ですね。
信仰を背負う人を真面目に書くって、もうとんでもなく疲れるはずなのに…
新・ギーおにいが現代のキリストでありブッダであって、でも宗教=インチキの図式も人々の中にある。
宗教や奇跡や祈りなんて曖昧なもの、今時力を持たないんですよね。
原発の方が余程信頼されてしまう。
そういう部分を物語に都合よく誤魔化したりしないで、新・ギーおにいの葛藤をちゃんと言語化して、投石で殺してしまう。
あまりに真っ当過ぎてハラハラ感がなかったのは残念ですが、もうこういう話が書ける作家なんてほとんどいないんだろうなぁ。
12.06.25 -
Posted by ブクログ
「戦争が終わったあと、その当時の人々は無条件に喜んで、戦争なんかもう2度とごめんだと思った」と私は思っていた。
しかしこの本を読んでその考えは間違っていたと思った。
戦中の教育を受けた人間の中には本作の主人公のように「英雄的に死にたい」と思い、平和になった世の中を「人を殺す機会もない老後までの執行猶予」としてみていた人もいたのかもしれないと気づかされ、愕然とした。「平和=無条件によいもの」という考え方を自分は教育を通して感じていたが、それは一面的なものの見方だったのかもと思った。
果たしてこの作中には希望が感じられないが、この閉塞感は現代ではなお増幅されている気がする。
物語として、この内容