【感想・ネタバレ】われらの狂気を生き延びる道を教えよのレビュー

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Posted by ブクログ 2022年09月15日


キレキレのオーケン中期。
文の生々しさと滑稽さのバランスが絶妙で、作中の作者の分身に愛おしさを感じる。
当時のコテコテ多弁気味“私小説風小説”の作品群の中、表題の通り救いを求める作者の魂に触れた気がした一冊。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2013年05月28日

単純に好みや自分へのフィット感の問題なのかもしれないけれど、個人的に「生きるために書かねばならぬ」という逼迫性が感じられる作家は少なくて、ある時期までの村上春樹もそうだったと思うのだけれど、もうここ10年以上彼は自分ではなく他者のために小説を書いていて、そういうのを成長と呼ぶのかもしれず、ある程度ま...続きを読むで行ったら天井に手が届いてしまうものかと思ったけれど、大江健三郎を読むにつけ、彼程、スタイルはその時々によって変更されつつも、基本的には長きに渡って自分の為に書き続けている人は私の知る限り他にいない。やはり『燃え上がる…』のような、K伯父さんとして自分は三歩程度下がって他者に語らせるスタイルよりも、『取り替え子』のように田亀とぶつぶつ対話するような、「自分」(もちろん大江健三郎そのものとは言わないけれど、小説の中での、あるいは象徴的大江健三郎とでも言おうか)が直接コトに巻き込まれていくスタイルのほうがしっくりくる。
なぜならば、彼は今も生きていて、自分の大切な人が死んでいったとしても、自分だけは何故だか死なずに生きていて、「自分」が消えないのだから生き続けるキツさは永遠につきまとって、自分の中に流れている音楽のようなものが、少しずつ、しかし執拗に変奏されながらも流れ続けているのはとても自然なことだ。

極めて個人的な体験が、普遍的なものとなりうる、という、彼が29歳?の時に語った言葉に私はここ10年くらいずっと励まされているけれど、その言葉は彼自身をも長く支えていると思う。とても長く。
そして『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』という壮大なタイトルのこの本、一体どういう内容なのかと思ったけれど、感触としては一番、彼流に言うならばもっとも「猛然」としていると私には感じられた。『同時代ゲーム』や『新しい人よ目覚めよ』から遡った形での読書になったけれど、それらほど冷静でもなく(といっても…というかんじだけど笑)、『個人的な体験』や『叫び声』の頃程、まとめきらねばならぬ、という小説的配慮にとらわれている感じも薄く、かといってその二つの間の転換期というような迷いもなく、なんかもう必死に、猛然と憤然と書かれている感じが、生々しく、今の私にもっともぴったり来た。

ところでわれわれは直截に他人のために書くことなんてできるのだろうか?

以下はメモ。

「あまりにも根源的にわれわれを急襲する認識は、まずわれわれの存在の根に直接突き刺さり、それからやっと意識の表層にコダマを返してくる。そしてその時われわれの意識は自分がかつてその衝撃を経験したことがある、というニセの感覚を持つのである。」p.298

あるいはその「認識」はあまりにもしっくり来すぎるが故に「発見」という形を取らないのではないだろうか。この文の前に「沈んだボールが水面に戻るように浮かび上がって来ていなかったのだ」とあるけれど、ボールはもともとあって、それがその「認識」をきっかけとして浮上してくるような…。

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Posted by ブクログ 2009年10月04日

われらの狂気を生き延びる道か術かがこの本(とかこうする行為)、ていう話。(しらんけど)実は意味もなく恥ずかしいけど大江健三郎の作った言葉の端々にはハッとこれだよと気付かせられるおれなので、恥ずかしいけど(にかいいった)☆5つにしまつ。恥ずかしいのはシャイだからです。しるかー

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Posted by ブクログ 2023年09月18日

初期の短中編5編が入っている。この大江健三郎さんの独特の文体は初めて読んだときはまどろっこしくて戸惑ったが、慣れてくると逆にこの詳細な遠回しな比喩含めた文体が、気持ちよくなってきてこれじゃないと駄目だなと思ってしまうほどだ。
どの作品も興味深かったけど、「走れ、走りつづけよ」が自分的にはブラックユー...続きを読むモア的にも感じ、大変面白かった。
「核時代の森の隠匿者」は名作【万延元年のフットボール】の後日談的な話なので、さきに【万延~】を先に読むのをお勧めします。

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Posted by ブクログ 2023年05月06日

人間の内奥に居座る、根源的な黒いものを「狂気」として捉えている。
福永光司著の「荘子」にて、人間は非合理で混沌な存在であると述べられているのを思い出したが、この説明のつかない非合理性は「狂気」の表出ではないだろうか。

詩、私小説、エッセイを総合した、40年前の短編・中編集でありながら、「新しい」文...続きを読む学の試みだと思う。

「走れ、走りつづけよ」も好きだが、やはり最後の中編「父よ、あなたはどこへ行くのか」は難解ながらも味わったことのない読書体験を得られた。掴みきれていない部分もあるので、必ず読み直したい。

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Posted by ブクログ 2013年02月23日

5本の短編(中編)集。それぞれの物語にて人間のグロテスクな内面が描かれている。どの作品も面白かった!

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Posted by ブクログ 2011年04月12日

三つの短篇と二つの中篇で構成された内容。この本を読み始めてから読み終えるまでに、間に8冊も違う本を読んでしまった。すごく読んでて苦痛になり、また疲労感を感じるほどパワーがある。完全に自分はパワー負けしたため、違う本(簡単に読める本)へと逃げ込んだ。飼育・死者の奢りも含めて大江氏の本はすごく陰鬱なイメ...続きを読むージがあり、奇妙な設定を詳細に書かれた内容だと思う。

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Posted by ブクログ 2009年10月04日

時代の疾走感を感じる、難解さは日本トップクラスの暗号小説群。
「みずから我が涙をぬぐいたまう日」とセットでどうぞ。

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Posted by ブクログ 2012年08月19日

概要
狂気と自由,作家と障がい者の息子,閉塞的な集落・田舎町などを共通の要素とする3つの短編と2つの中編を収録。1969年発行。

・走れ,走りつづけよ
・核時代の森の隠遁者
・生け贄男は必要か
・狩猟で暮らしたわれらの先祖
・父よ,あなたはどこへ行くのか?

感想
大江健三郎の作品を読むのはほぼ...続きを読む初めて。10年以上も前に初期の作品を読んだ気がするけれど,まったく覚えていない。

正直なところ,難解でよくわからなかった。しかし,よくわからないながらも,つい読み進めてしまう魅力のある中短編集だった。通常,難解な小説というのは読み進めるのが苦痛なのに,この作品はそんなことはなかった。ただし,「父よ,あなたはどこへ行くのか?」はダメで,読むのが苦痛だった。

以下,作品の内容に具体的に触れるので,未読の方はご注意ください。

「走れ,走りつづけよ」で,ホテルの最上階から,化粧をして全裸で落ち,下肢がぐしゃぐしゃに砕かれた従兄の末路,「核時代の森の隠遁者」で隠遁者ギーが焼け死ぬシーンなどハッとするような結末が印象的だった。

大江健三郎の他の作品が読みたくなった。

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Posted by ブクログ 2011年04月18日

3.11以降のこの時代に、この時期の大江を読むことには感慨を覚える。核の時代の孤独と閉塞感は今に通じる感覚があるのではないか。恐怖によってのみ連帯する人々の中で自由とは狂気と同義なのだろうか。
しかし、詩篇を核とした大江流の私小説が見事に結実し、見事な完成度を誇る作品群である。

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Posted by ブクログ 2010年06月21日

今回も重かった…。もう自己欺瞞と障害を持った子供から逃げられません。
考えて考えて、考え続けていることの副産物。

10.06.20

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Posted by ブクログ 2009年10月04日

<目次>
第一部 なぜ詩でなく小説を書くか、というプロローグと四つの詩のごときもの
第二部 ぼ自身の詩のごときものを核とする三つの短編
 走れ、走り続けよ
 核時代の森の隠遁者
 生け贄男は必要か
第三部 オーデンとブレイクの詩を核とする二つの中編
 狩猟で暮らしたわれらの先祖
 父よ、あなたはどこ...続きを読むへ行くのか?
 a 裏
 b 表

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Posted by ブクログ 2009年10月07日

走れよ、走り続けよ!が好きです。後は何というかまあ、いつもどおり。というか。まあすべていつもどおりですが。しかし短編と長編でこれだけイメージが揺るがないというのも珍しいんじゃないかという気がしますよ。どうだか知りませんが。「食べ物をいかにもまずそうに描写する」のが上手ですよねー。コーラと排骨麺って絶...続きを読む対遠慮したい組み合わせだと思う。何か、こういうの上手ね。(意図してやってないとゆー可能性もあるが)作中で異常な程不味そうに描かれていたオックステイルスープは、大江健三郎本人の得意料理らしい。実際おいしいらしい。(大江健三郎にインタビューしたSwitch編集者の弁)

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