【感想・ネタバレ】われらの狂気を生き延びる道を教えよのレビュー

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2013年05月28日

単純に好みや自分へのフィット感の問題なのかもしれないけれど、個人的に「生きるために書かねばならぬ」という逼迫性が感じられる作家は少なくて、ある時期までの村上春樹もそうだったと思うのだけれど、もうここ10年以上彼は自分ではなく他者のために小説を書いていて、そういうのを成長と呼ぶのかもしれず、ある程度ま...続きを読むで行ったら天井に手が届いてしまうものかと思ったけれど、大江健三郎を読むにつけ、彼程、スタイルはその時々によって変更されつつも、基本的には長きに渡って自分の為に書き続けている人は私の知る限り他にいない。やはり『燃え上がる…』のような、K伯父さんとして自分は三歩程度下がって他者に語らせるスタイルよりも、『取り替え子』のように田亀とぶつぶつ対話するような、「自分」(もちろん大江健三郎そのものとは言わないけれど、小説の中での、あるいは象徴的大江健三郎とでも言おうか)が直接コトに巻き込まれていくスタイルのほうがしっくりくる。
なぜならば、彼は今も生きていて、自分の大切な人が死んでいったとしても、自分だけは何故だか死なずに生きていて、「自分」が消えないのだから生き続けるキツさは永遠につきまとって、自分の中に流れている音楽のようなものが、少しずつ、しかし執拗に変奏されながらも流れ続けているのはとても自然なことだ。

極めて個人的な体験が、普遍的なものとなりうる、という、彼が29歳?の時に語った言葉に私はここ10年くらいずっと励まされているけれど、その言葉は彼自身をも長く支えていると思う。とても長く。
そして『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』という壮大なタイトルのこの本、一体どういう内容なのかと思ったけれど、感触としては一番、彼流に言うならばもっとも「猛然」としていると私には感じられた。『同時代ゲーム』や『新しい人よ目覚めよ』から遡った形での読書になったけれど、それらほど冷静でもなく(といっても…というかんじだけど笑)、『個人的な体験』や『叫び声』の頃程、まとめきらねばならぬ、という小説的配慮にとらわれている感じも薄く、かといってその二つの間の転換期というような迷いもなく、なんかもう必死に、猛然と憤然と書かれている感じが、生々しく、今の私にもっともぴったり来た。

ところでわれわれは直截に他人のために書くことなんてできるのだろうか?

以下はメモ。

「あまりにも根源的にわれわれを急襲する認識は、まずわれわれの存在の根に直接突き刺さり、それからやっと意識の表層にコダマを返してくる。そしてその時われわれの意識は自分がかつてその衝撃を経験したことがある、というニセの感覚を持つのである。」p.298

あるいはその「認識」はあまりにもしっくり来すぎるが故に「発見」という形を取らないのではないだろうか。この文の前に「沈んだボールが水面に戻るように浮かび上がって来ていなかったのだ」とあるけれど、ボールはもともとあって、それがその「認識」をきっかけとして浮上してくるような…。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2011年04月12日

三つの短篇と二つの中篇で構成された内容。この本を読み始めてから読み終えるまでに、間に8冊も違う本を読んでしまった。すごく読んでて苦痛になり、また疲労感を感じるほどパワーがある。完全に自分はパワー負けしたため、違う本(簡単に読める本)へと逃げ込んだ。飼育・死者の奢りも含めて大江氏の本はすごく陰鬱なイメ...続きを読むージがあり、奇妙な設定を詳細に書かれた内容だと思う。

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Posted by ブクログ 2012年08月19日

概要
狂気と自由,作家と障がい者の息子,閉塞的な集落・田舎町などを共通の要素とする3つの短編と2つの中編を収録。1969年発行。

・走れ,走りつづけよ
・核時代の森の隠遁者
・生け贄男は必要か
・狩猟で暮らしたわれらの先祖
・父よ,あなたはどこへ行くのか?

感想
大江健三郎の作品を読むのはほぼ...続きを読む初めて。10年以上も前に初期の作品を読んだ気がするけれど,まったく覚えていない。

正直なところ,難解でよくわからなかった。しかし,よくわからないながらも,つい読み進めてしまう魅力のある中短編集だった。通常,難解な小説というのは読み進めるのが苦痛なのに,この作品はそんなことはなかった。ただし,「父よ,あなたはどこへ行くのか?」はダメで,読むのが苦痛だった。

以下,作品の内容に具体的に触れるので,未読の方はご注意ください。

「走れ,走りつづけよ」で,ホテルの最上階から,化粧をして全裸で落ち,下肢がぐしゃぐしゃに砕かれた従兄の末路,「核時代の森の隠遁者」で隠遁者ギーが焼け死ぬシーンなどハッとするような結末が印象的だった。

大江健三郎の他の作品が読みたくなった。

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