大江健三郎のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
とても難しい純文学小説。著者の大江健三郎自身と、自殺した映画監督で大江の義兄、伊丹十三をモデルにしているということで興味深く読んだ。
作家の古義人は、映画監督の義兄、吾良の自殺の理由を探ろうとする。吾良が古義人に残した録音メッセージとの対話や、映画の絵コンテから、共通のトラウマである少年時代の記憶がよみがえる。ただし、その核心は本書からだけではよくわからない。
また古義人の妻であり吾良の妹である千樫も重要な位置づけを担っている。本書のテーマの一つである、「取り替え子」は生み替えともいえるだろうか。趣旨は少し違うが、トニ・モリソンのSulaという本を思い出した。
大江は義兄の自殺を悶々と悔やんだ -
Posted by ブクログ
【本の内容】
かつてチャイルド・ポルノ疑惑を招いて消えた映画企画があった。
それから30年、小説家の私は、その仲間と美しき国際派女優に再会。
そして、ポオの詩篇に息づく永遠の少女アナベル・リイへの憧れを、再度の映画制作に託そうと決意するのだが。
破天荒な目論見へ突き進む「おかしな老人」たちを描く、不敵なる大江版「ロリータ」。
[ 目次 ]
[ POP ]
長く小説を書いてきた作家である「私」、少女の頃「アナベル・リイ」という8ミリ映画に撮られ、今は国際派女優のサクラさん、新しい映画のプロデュースをする大学時代の同級生……幾重にも時間が重なり、四国の森で起きた一揆の記憶が読み返される -
Posted by ブクログ
隠喩に富んで、いたのだろうか。
大江に先にはまったのは、私の方だった。ただ、万延元年のフットボールだけは友人が先で、とにかく感銘を受けたからと、こちらの積ん読を一つずつ崩す楽しみを無視して割り込まんとしてきたのである。しかし、このような義務感から、技巧的にもテーマ的にも考え抜かれたであろうこの著書をあらぬことか斜め読みしてしまったのである。
含蓄やギミックの多い物語を斜め読みすることは、一夜の夢を見るようだ。思考は途切れ、飛び、気まぐれに繋がり、そしてまた散る。同じくノーベル文学賞を受賞した莫言との比較や、スーパーマーケット襲撃を百姓の一揆と重ねたようなストーリーを、次には関東大震災時の朝 -
Posted by ブクログ
クライストの小説「ミヒャエル・コールハースの運命」を映画化するという
国際的なプロジェクトの一端に
シナリオライターとして参加することになった語り手は
「万延元年のフットボール」に書ききれなかった民衆蜂起のエネルギーを
その映画で再現しようともくろむ
しかし、企画は思わぬところで頓挫した
集められた子役のフィルムと、それを撮影したカメラマンに
児童ポルノ制作の疑いがかけられたのである
主演女優のサクラ・オギ・マガーシャックなる人物は
幼い頃、戦争で焼け出されてひとりぼっちだったところを
アメリカ人将校に引き取られ
後にはその将校との結婚に至ったという過去を持っている
彼女自身は、そんな人生を