「死者の屠り」
「物」になる過程と、「人」が産まれる前の描写が印象深い。死と生のあわいに位置することとなった語り手が、生者の幾つもを死側から向ける冷ややかな目線が妙に生々しくて、良かった。
「飼育」
捕虜となった黒人と、語り手含む少年少女との関係は、飼われる者と飼う者であった。それは事実としてあって、子供は彼をいかにも「人間的」な生き物として扱い、子供と同じ遊びに混ぜて快楽を得た。硬い表皮の外からやってきた自身らとは異なる生物は、子供の関心を総なめするには充分で、加えて飼育する立場にあるのだから、尚更だろう。人々は、捕虜という立場を忘れ、愛玩対象として黒人を扱うことに慣れてしまった。本来の彼は敵であって、今の飼育関係においてもそれは不変であるはずにも関わらず、語り手含む村民はそれが分からない。戦禍の真っ只中、人的な感情を表に置いてみせた黒人に、愛着が湧いたのか。戦争によってこの村にやってきた黒人は、戦争によって語り手との立場が逆転する。黒人が上に這い上がるというよりは、語り手が堕ちてくるというのが正しいかも知れないが、その事を語り手が分かっていなかったというのが大切だと思う。語り手は戦争によって、大人になり得る。自らを踏み躙った存在は、戦争によって生まれた大人であって、黒人であったからこそだろう。それでも、弟に対する愛や、友人に対する情は捨てて欲しく無いと思えるからこそ、好きな一篇だった。
自らの世界の外からやって来たものは、どんな形であれ自らに多大な影響を及ぼし、それは望んでいたものかはたまた逆か、何れにせよその過程を描いた本書は面白い。戸惑いや昂りが、とんでもない筆力で描かれるのだから、閉塞的な世界が好きな自分は熱中せざるを得ない。上記以外の作品なら、「人間の足」が印象深い。語り手に自らを預けることとなった故、私に似た視点が楽しめた。
本書のように、文学界の中でも屈指の名作を読んだ時、私でも楽しめるのだなとどこか安心する。読解力や、文学性の有無の判断力は全くといって無いような私でも、素晴らしい作品だと分かるからこそ、時代を超えて多くの人々に愛されるのだなと思う。