大江健三郎のレビュー一覧

  • 取り替え子

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    伊丹十三が倒錯的な性愛にこだわりつつも
    常に社会正義を踏まえて作品づくりをしていたことは
    「女」シリーズを見ればよくわかる
    そういう、きわめて人間的な矛盾が
    彼を一種の自家中毒に追いやったということは
    言えるのかもしれない
    伊丹の死後
    日本の芸術映画をリードしたのは北野武だった

    小説家の長江古議人と映画監督の塙吾良は高校時代からの親友である
    共に、教師たちから目をつけられる存在だった
    しかし同じはみ出し者といっても
    自己の内面にこもりがちな古義人に比べ、外交的な吾良は
    その分、他者のエゴイズムとまともに向き合いすぎるところがあった
    良く言えば自信家、悪く言えば鼻持ちならないやつで
    人によって

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    2019年10月17日
  • あいまいな日本の私

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    四国の山奥に生まれた大江健三郎
    彼は少年時代、海外の児童文学にふれて広い世界に憧れ
    やがて小説家になるのだが
    初期の作風は、実存主義的なものであった
    それは一口に言えば、外に目を向けようとする自分に対して
    抑圧をかけてくる社会への反発であり
    そういう社会を象徴する存在として、天皇を仮想敵とするものだった
    しかし1964年の「個人的な体験」以降、作風は大きく変化する
    きっかけは、脳に障害を持って生まれてきた息子だった
    息子の存在は、世界に跳ぼうとする大江にとって
    言ってしまえば足枷だったが
    そんな息子との向き合いを書いた「個人的な体験」は
    国際的な評価を得て
    結果的に、大江を飛躍させた
    そういっ

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    2019年07月20日
  • 大江健三郎

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    「人生の親戚」…障害をもった兄弟が自殺するというなんて悲惨でどうしようもなくいやな設定を思いつくのだろう。特に知的障害を持つ子どもがというのが。その瞬間の描写や経緯が何度もでてきてやり切れない。これを抱えて生きていく女性に焦点が当たっているのはわかるが。設定の後味の悪さが全てを覆ってしまう感じ。
    「治療塔」…エリート層のみが新しい地球へ行く、という設定が面白い。が、そうした科学の進んだ未来設定なのに電話を待ってたり、特急列車で移動したり古い生活スタイルのままなのが踏み込み不足という感じ。とは言え、世の中が行き詰まるとみんな一緒にという美話が通用せず、分断が起こるというのはありそうな話だと思った

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    2019年07月27日
  • 性的人間

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    読書量が足りないような人間には、睡眠導入剤となる。
    寝る前の数分間でコツコツ読んでいたので、読み終わるのに1ヶ月はかかった。
    日本文学の古典を読むというようなノリで開始したので、この長期間にわたる性的人間生活は苦にはならなかった。

    寝る前の虚ろな状態で読み進めたため、話の内容等に関する感想はほとんどない。カオスティックな情景が常に漂い、暗澹とした雰囲気。寝る前の本としては最適なのでは?

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    2019年03月15日
  • 「雨の木」を聴く女たち

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    暗宙に伸び、世界を覆い尽くすレインツリー。
    それは暗黒の中でも目の前に在る。詳しい描写はないし、連作短編集だけどレインツリーの関連が希薄なんだけど(カッチャンやペニーの方が分かりやすい)、イメージとしての存在感がすごい。
    劣等感と誰かと繋がってなにかの意味を生み出そうとする切望と。
    言葉が連綿と続き修飾節だらけで格も変わり、述語がもはや対応してるのかよく分からない。そういう意味では読みにくいけど後半は割り切って流すことにした。

    あまり大江健三郎を読まないのだけど、ちらちら知的障害を持つ息子と原爆のワードが出てくるのは共通なのかしら?

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    2018年12月13日
  • 見るまえに跳べ

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    この作品集中に頻出するイメージ、徒労感、屈服感、行動に対する焦燥のようなものは、やはり時代精神を書き取ったものなのだと、あらためて思う。

    今読むと(現在にそんなものがあるか怪しいが)時代精神は大きく異なるため、奇異な感触を受ける。であるが青年期特有の焦燥や徒労感に対する敏感さが特異的に強調された、イカレた物語として、十二分に命脈を保っている。いわゆる「一周回って」あたらしい、というべき世界。

    世代が大きく違えども、現役作家である大江健三郎と、同じ時代を生きる読者としては、上記のイメージが、再生につながっていき、Rejoyce!に至る道筋に興味を持たざるを得ない。

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    2018年11月11日
  • 万延元年のフットボール

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    身勝手で頭のおかしい家族とその周辺の話し。肛門に胡瓜指して縊死した友人、近親相姦、不倫(?)や朝鮮からの渡来人に対する事実誤認など盛りだくさん。

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    2018年10月18日
  • 文学の淵を渡る(新潮文庫)

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    ネタバレ

    初読。外国文学、古典、近代文学と幅広い分野にわたっての対談。長年にわたって文学と真摯に向き合い、もがき続けて、書き続けてきた二人が、晩年にいたってなお書くのをやめることに恐怖しつつ新しい何かを手に入れようとしているのが印象的。対談も明快な難解さでいっぱいです。

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    2018年05月29日
  • 宙返り(下)

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    魅力あるストーリーなのか、内容に感動、共感を覚えることはできたのか・・・文庫2冊で1000ページの長編を一気に読ませ、ページをめくる手を休ませないだけの力はあったのか、残念ながら、まったくおもろない作品であった。これが素直なわたしの感想である。ノーベル文学賞の大江健三郎って何、分からないので次の作品に挑戦しよう

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    2018年01月22日
  • 宙返り(上)

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    大江健三郎を語りたくって読んでみた。初期からはじまり晩年へとつづく大江作品は多数出版されていて、過去に短編集を読んだ程度だったので、今回は晩年作品の長編『宙返り』に挑戦してみた。レビューは下巻で

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    2017年12月31日
  • われらの時代

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    若者は何を考え、活動に耽るのか?今の時代とのギャップは何なのか?想像してもきりがありませんが、果てしない世界がそこには広がっているんだとおもいます。

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    2017年11月12日
  • 叫び声

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    大江健三郎が描く、黄金の青春時代とその幻影についての作品。過激な性描写とトピックスが荒々しい青春の光と影を描写する。

    若者特有の青春に対する焦燥感や孤独感を、性描写や突飛な行動で荒々しく描写することで、がつがつとした雰囲気を巧みに表現されている。それが読む人の心にずかずかと突き刺さる感じがする。しかし、ずかずか部分が太すぎて、表現が痛い。読んでいて辛い。青春の明るさよりも、野放図に取り組み、跳ね返される、まるでドン・キホーテを地で行っているような。ドン・キホーテは正しいと信じる道を、たとえ勝ち目はなくとも突っ込んで行くという正しさへの希求があるが、本作品では正しいかどうかよりもやりたいかどう

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    2017年11月12日
  • ピンチランナー調書

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    知的障害をもつ子どもを持つ親の思いと核開発あるいは原子力発電に関する反対活動とそれに連なる安保闘争の考え方が主なテーマである。

    そして、著者がゴーストライターとして記述するという形式で述べることで、大江健三郎とは別人格の少しフワフワした形になることで、喜劇調を醸し出しているのだろうか。

    また「転換」という現象で、親子の関係が変化することがまたおもしろい。そこは変化でも交代とも違う転換ということで親子の関係性は保ちつつ、息子は一気に成長した姿を、父親は若々しい肉体を手に入れ、思うとおりの活動に踏み出していけるのだ。

    それは著者の願望なのか、それとも世間への訴えなのか?いずれにしろしろ息子は

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    2017年11月12日
  • 芽むしり仔撃ち

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    太平洋戦争末期、疎開先の村で少年が一時得た「自由の王国」と、刹那的解放。 終盤一気に訪れる、ムラ社会の圧殺と裏切りと絶望感。ラストの村長が本当に怖い。 読み難さはあるが、鬱屈した時代の空気感。土着感のある情景がヒシヒシと伝わって来る。

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    2017年06月11日
  • 定義集

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    大江健三郎の初期作品は、いかにも小説らしい小説で、日本的な平穏さ(退屈さ)や湿潤さを抜きにした、それでいて三島由紀夫のような嘘くささはない、期待の作品群だった。それが、障害をもって生まれた息子の誕生によって、残酷な運命の一撃を食らったように彼の小説世界は一転し、私小説ででもあるかのような、個人的なリアルに密着した地点から物語が紡がれるスタイルに変わってしまった。
    『個人的な経験』以降の作品は、私はあまり好きではなかったが、「翻訳調」と初期から言われていたぎくしゃくしたまがりくねった文体は健在で、一方、反核、沖縄擁護の運動家としての活躍についていくぶん知っていた。
    本書は最近、つまり老年期の大江

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    2017年05月09日
  • 晩年様式集

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    難しい。複雑な事情を複雑なまま表現していようとしているんじゃないかと感じた。はちゃめちゃな文体だ。そしてそれは、確かに読者をいい具合にも刺激させる。

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    2017年04月01日
  • 晩年様式集

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    試みが成功しているかはともかく、相当意欲的な作品だ。群像での連載時に最初の数回のテンションに、これは!と思ったけど、ギー・ジュニア登場以降について行けなくなり一旦断念。文庫化で読み直したけど、そこの印象は変わらずも何とか読破。しかし、途中でそのようなブレに対して作中の登場人物(真木)が同様の批評をしていたのにはちょっと笑った。

    自らのテキストをメタ的に批評する手法、社会状況を個人の体験と重ねて消化しようとする手法。前作では長年の宿題としていた父の死に対し、今回はまた伊丹十三、また後期作品の核であるギー兄さんの死に向き合う。自らの老年の危機、それと直結するアカリ、家族の危機、また、長年のテーマ

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    2017年01月16日
  • 芽むしり仔撃ち

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    疫病が発生し始めた僻村に棄てられた感化院(今の児童自立支援施設)の少年と仲間の話。垢、傷、泥にまみれた臭いが伝わってきた。どうしようもなく大きなものに踏み躙られながらも、断固として抗う少年は(使い古された例えだけれど)硝子の破片を思わせた。割られてバラバラにされてしまったが、その先は鋭い。

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    2016年09月21日
  • 持続する志 現代日本のエッセイ

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    ネタバレ

    初読。分厚い本で時間がかかりました。書かれた時期は1960年代、時代の色が出ている内容で、知っているようで実は知らない時代の空気に大江さんを通して触れることができました。でもその空気は確実に現在にまでつながっていることを感じ、大江さんの変わらない姿勢に思いをはせました。

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    2016年06月09日
  • 大江健三郎自選短篇

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    初期短篇に含まれている、「奇妙な仕事」「死者の奢り」「飼育」などは再読でも十分楽しめました。ところが中期短篇でさっぱりわからず1年ほどほっておいて、続きを読み始めました。とにかく読み終えようとして読み終えましたが、なにも得るものは無し。評価は初期★★★★、中期後期★★、自分で理解できない為

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    2016年02月10日