大江健三郎のレビュー一覧
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2021年 41冊目
「性的人間」
性的少数派の嗜好の追及を描いた作品。最初の妻を自殺に追い込んだ嗜虐的趣味のある青年が痴漢行為に傾倒する。孤独感を抱える退廃的な作風を更に冷めた目線で読んでしまうのは令和世代だからかしらん。。独り善がりで作品丸ごと自慰行為を見せられてるようで好みでなかった。
「セブンティーン」
現代において確固たる主義や思想を持ち声高に発言する人はそう多くないだろう。主人公の少年は最初左翼だが、彼の政治意識は観念的なものにすぎない。不安定な10代。ある日右翼の党首の演説を聞いて右翼活動にのめり込む。不吉な変身の瞬間。死を以て人を脅迫し自ら死に飛び込む右翼青年を形付けるの -
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「文学とは、小説とは、哲学とは、そこから見えてくる世界とはこういうものである/こういうものであった」という点においては色褪せず参考になる本だと思う。しかし、「こうなるであろう」という点においてはコロナ前に書かれた本であるため、「本当に?」となる。そのくらいコロナで世界は不可逆に変わってしまった。文学も小説も2人の言う通りエネルギーを無くして、2人の願い叶わず衰退はするだろうけど、そこまでの道筋はこのとき見えていたものと大きく変わってしまったと思う。たとえば誰かの抱えた花束が手放されるのは、花が枯れたときではなく、その人が死んだ時かもしれない。
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ノーベル文学賞作家、大江健三郎さんの初長編。
難解。
太平洋戦争末期、感化院の少年たちが疎開した先の閉ざされた山村で疫病が流行る。村民が避難をして、少年たちは束の間の自由を得て…という物語。
感化院とは、少年犯罪者を感化(考え方や行動に影響を与えて、自然にそれを変えさせること)する施設。
今の少年院みたいなものか?
少年院の少年たちが疎開する、という状況がそもそも想像することが難しい上に、疎開先の村の村民が疫病から逃れるため少年たちを宿舎に閉じ込めたまま避難してしまう、という設定もなぁ…
戦時ということもあるのだが、昔の人っていい加減だなぁと。
人権なんてない。
この本も伊坂幸太郎さ -
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大江健三郎 「 燃えあがる緑の木 」
2部 揺れ動く(ヴァシレーション)
2部は 宗教集団が イェーツの詩の世界観の象徴である「燃えあがる緑の木」のもとに集い、祈りの意味を見出す までの歩みを描いている
登場人物が増えていくが、それぞれの人物の役割設定は明確。著者自身もK伯父として 息子ヒカル氏とともに登場し、自身の文学テーマとの関係性を明示している
著者が伝えたかったのは「その場所で 時が循環し、死者と共に生きることにより、人間が続き、物語が作られる」だと思う
祈りの意味
神がいない教会が 中心が空洞な繭のような存在であっても、繭に向けて集中するだけで、充実した生き方をしていることに -
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集団疎開である村落にきた感化院の少年達の話。
戦後の貧しい暮らし、自然を擬態化した文章が生々しく、リアルに景色を捉えた作品となっている。
感化院の少年達が疫病の流行る村の中に閉じ込められた時の怒り、自活していく壮絶な生死の境目を語った、力強い筆力が魅力的だ。美的感覚的に言えば美しいとは言えない内容だと思うが、生きる為に奔走する主人公の前向きな主張が現れている作品となっている。
ある意味世の中の風情を描いているような感じもした。昨今の小説では主人公ありきで進んで歩く物語が多い。しかしこの物語では世の中とは残酷な人間達が多く存在し、理不尽な犠牲が多く存在する事を生々しく書いたことに意味がある。 -
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当初、「治療塔」の存在は秘密とされていたのだが
帰還者と残留者の和解事業が進む中で漏洩した情報などから
様々な噂やデマが飛び交うこととなった
その結果、不法に「新しい地球」へと旅立つ者たちや
独自の「治療塔」を建設したという者が現れ
世界に再び混乱がもたらされた
一方で、実際に「治療塔」を体験した帰還者たちの身体からは
すでにその効能が失われつつあった
しかし「治療塔」の分析・再現という基本路線に変更はなく
スターシップ公社も新たな調査船の派遣を決定した
そしてそれが「新しい地球」における
公社側と、不法移民たちとの戦いへと発展していくことになるのだ
「治療塔」を占拠する不法移民たちは
その -
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治療塔とは、「もうひとつの地球」に発見された遺跡である
先史文明など存在しえなかったはずの星になぜ
そのような人工物が建っていたのか
誰にもわからなかった
しかも不思議なことに
治療塔の内部空間には人間を若返らせる力があった
そのためキリスト教徒たちは、それを「生命の樹」とも呼んだ
宇宙移民の失敗で「古い地球」に帰還したエリート達は
非エリートを労働力に用い
あらたな貴族社会の建設を目論んでいる
「大出発」の後、古い地球の混乱を生き抜いてきた残留者には
そのように信じて
帰還者に反感を持つ者も少なくなかったが
一方では、帰還者と残留者との間に
禁断の愛が芽生えてしまうこともあった
そこで帰還 -
購入済み
心に残して置きたい言葉
NHK の100分de名著で紹介されて読んでみた。
文学素人の自分には難解で、ダラダラ読みをしつつ何とか読み終えた。
「一瞬よりいくらか長く続く時間」と言う言葉を産み出したことで、この作品は完成していたのだろう。
登場人物たちの「祈り」への考え方の違いも、ストーリーがどんなものであろうと、この一言があれば小説として成り立ったんじゃないかと思わせる強く心に残る言葉だ。 -
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90年代はじめの大江健三郎は
文体に霊的パワーを込めようとして空回りしていた
井伏鱒二から継承したフォルマリズムが
そのための方法論、というよりドグマだった
当時の作品にも現れているように
やがては新しい神話を創造することが目標だったのかもしれない
しかしオウム事件以降
おそらく、ここに収められた古井由吉との対談も転機のひとつだろうが
世界の文学史そのものを多神教的にとらえる方向へと向かったらしい
いずれにせよその鍵は
異なる概念を柔らかく繋げる日本語表現にこそあるようだ
日本語への翻訳による異化作用を用いれば
あらゆる価値観の相違と
ロシア・フォルマリズム本来の用法を超えて
歴史の背後にある