大江健三郎のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
小説における舞台としては現実から遠い感じはするが、世間から一方的な印象で除外されてしまう少年たちの姿はいつの時代にも通じる。
置かれた状況から否応なしに犯してしまう行動は残酷なのだが、登場する少年たちには仲間意識、心底にある強さや優しさがある。
そしてところどころにみられる詩的な表現に動揺しながら、樹木や土、腐蝕した(何者かの)匂いまでもが漂う錯覚があり、疫病を恐れて無人になった山里の陰鬱な情景の中に引き込まれていく。
リアルな表現なだけに不快な気分になりながらも、差別問題や疫病に対する意識などの重大なテーマがあり、必要な読書ではあった。
大江健三郎さんが「監禁状態」をテーマにして描いた小 -
Posted by ブクログ
本作品「ピンチランナー調書」は雑誌「新潮」に、3カ月に渡って連載されたものを1976年10月に書籍化したものである。私は、高校生の頃から、大江健三郎の初期の作品を中心に読んでいた。この「ピンチランナー調書」が発行されたのも、私が高校生の頃であるが、実際にこの本を読んだのは、大学生の頃だったと思う。当時の私には、この「ピンチランナー調書」は難解すぎるものであったし、ストーリーとしても、当時の私には、決してわくわくするようなものではなく、むしろ、退屈な話に感じられ、途中で読むのを断念した記憶がある。そういう意味では、今回、私にとっては、この「ピンチランナー調書」を読むことは、それから40年以上を経
-
Posted by ブクログ
ネタバレ大江健三郎ならではダンテの神曲を頼りに自作の捉え直しを含んだ「自伝」的小説。
個人的には発表順に氏の著作を読んで来たので、面白く読んだ。ただ、この前に読んだのが「M/T〜」と「同時代ゲーム」の再読だったので、物語としてのダイナミズムは少し欠けるかと思った。
「懐かしい年」というのは、文字通りのイメージの昔を懐かしむという事ではなく、まさにここ数年の流行りの並行世界(しかもタイムリープ)と捉えられるのが面白い。(この後には純粋なSFにもトライすることになる。)
ただ、必ずしもここでの(懐かしい年そのものである)ギー兄さんの死がその(理想的な)世界が失われたことを表すわけではないのだけど、再生 -
Posted by ブクログ
雑誌『図書』に連載された著者のエッセイをまとめた本です。
あつかわれている主題はさまざまですが、障がいをもつ息子の光との関係や、彼の音楽活動をめぐる文章が、やや多いように感じられます。心理療法家である河合隼雄について述べた文章でも、河合のことばから著者と息子との関係へと連想が動き出し、河合の「コンステレーション」ということばが、著者とその家族のありかたについて著者自身が考えをおよぼす契機となって、著者のなかで河合の方法論があたらしく息づきはじめたことが述べられています。
著者自身の作品について語った文章では、「雨の木」(レイン・ツリー)をめぐる著者の考えの変遷がうかがえるものが含まれており -
Posted by ブクログ
ネタバレ妹への手紙という形で語られる、四国の山奥にある故郷の村の歴史と伝承、兄弟の逸話。序盤は、現在の生活と村の神話・歴史がリンクするかたちで語られるので頭のなかで整理する必要があるが、次第に神話と歴史にフォーカスされていく。
面白いが、クセのある文章ですこし読みづらい。
以下、村の神話と歴史における主な出来事、および語り手の家族について
・藩を追放された武士集団が「壊す人」を主導として川をさかのぼり、行き詰まりの大岩塊を爆破して、森に囲まれた盆地に隠れ住む。(そのときに流れ出した大洪水によって追跡隊は押し流される) のちに「吾和地(あわじ)」と呼ばれるようになる。
・村の開拓がひと段落した -
Posted by ブクログ
聖書の物語は、神に選ばれた者たちを中心に進行するが
大江健三郎の場合
「選ばれなかった者たちの語り」としての神話を
構想していたようである
例えば「治療塔」のストーリーにそれは明快であるし
また、そう考えれば
解体と再構築の作業を読者に強いるがごとき難渋な文体も
集合的無意識の行なう要領を得ない語りであると
説明することはできる
そしてその根底に
「母」の存在が担保する性善説の世界観があるわけだ
ただし、そういった方向性は
ノーベル賞に「選ばれた」ことで骨抜きになったし
なにより作品として読者を選ぶものだった
「火をめぐらす鳥」
若い頃、伊東静雄という詩人に影響を受けた筆者は
その詩の一節 -
Posted by ブクログ
2021年 41冊目
「性的人間」
性的少数派の嗜好の追及を描いた作品。最初の妻を自殺に追い込んだ嗜虐的趣味のある青年が痴漢行為に傾倒する。孤独感を抱える退廃的な作風を更に冷めた目線で読んでしまうのは令和世代だからかしらん。。独り善がりで作品丸ごと自慰行為を見せられてるようで好みでなかった。
「セブンティーン」
現代において確固たる主義や思想を持ち声高に発言する人はそう多くないだろう。主人公の少年は最初左翼だが、彼の政治意識は観念的なものにすぎない。不安定な10代。ある日右翼の党首の演説を聞いて右翼活動にのめり込む。不吉な変身の瞬間。死を以て人を脅迫し自ら死に飛び込む右翼青年を形付けるの -
Posted by ブクログ
「文学とは、小説とは、哲学とは、そこから見えてくる世界とはこういうものである/こういうものであった」という点においては色褪せず参考になる本だと思う。しかし、「こうなるであろう」という点においてはコロナ前に書かれた本であるため、「本当に?」となる。そのくらいコロナで世界は不可逆に変わってしまった。文学も小説も2人の言う通りエネルギーを無くして、2人の願い叶わず衰退はするだろうけど、そこまでの道筋はこのとき見えていたものと大きく変わってしまったと思う。たとえば誰かの抱えた花束が手放されるのは、花が枯れたときではなく、その人が死んだ時かもしれない。