【感想・ネタバレ】僕が本当に若かった頃のレビュー

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Posted by ブクログ 2023年06月30日

「火をめぐらす鳥」を読んだ時点で。

大江健三郎という小説家を表すいくつもの側面があるけど、そのうちの一つは「小説の言葉で『詩』を書く作家」というものがあるだろう。この短編はその側面の最良の一つではないか。

読み終わって

大江の最後の短編集であり、まさに円熟の筆致ということもあるが、語り直し、捉...続きを読むえ直しや新たな作品への習作となっている作品ばかりで、継続して大江を読んできた読者にはとても楽しめた。

余談ながら「読者に向けて」の「人生の親戚」誕生に関する挿話に思わず笑ってしまった。深刻な出来事を語っていてもいつもどこかにユーモアの感覚が必ず潜んでいる、とても大江健三郎らしいエピソードだった。

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Posted by ブクログ 2023年03月25日

半分くらいは自選短編集に掲載されていたが、表題作が読みたくて購入。
なるほど、自選短編集には選ばないだろうなという完成度だったが、好みの構成で「やりますか!」「ギルティ」などの迷言、迷フレーズもあって楽しく読めた。

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Posted by ブクログ 2015年12月09日

私小説的枠をとった連作短編集のうちの一つ。後期の大江はだいたいそうだが文体は凝ったもので一筋縄ではいかない。しかし経験を言語として、徹底的に自己をテクスト化してゆき、多層的に織り上げられたそれに、言葉に対する著者の姿勢、執念、愛着を感じる。『治療塔』、『夢の師匠』には著者の、暗いながらもかすかな希望...続きを読むのある新しい人に対するビジョンをみて感動的である。解説、作家案内も共に優れたものであった。

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Posted by ブクログ 2009年10月04日

ある事件がきっかけで日本を「亡命」し、渡米した人と、その事件に関わった筆者の話。日本人であることを否定しアメリカで生きてきた彼。なーんてね。
自分が犯した?罪の意識と戦ってきた彼の気持ちが、どこか夏目漱石の「こころ」を彷彿とさせた。まったく違うんだけどね。いろいろな要素がつまってて、引き込まれるよう...続きを読むな構成になっていて、一気に読んでしまいました。

個人的にはすごく気に入ったけど、多分今の自分の状況がそう思わせてるんだと思う。。人に依ってはすごくオススメしますが、そうでない人は微妙かも。

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Posted by ブクログ 2022年02月04日

聖書の物語は、神に選ばれた者たちを中心に進行するが
大江健三郎の場合
「選ばれなかった者たちの語り」としての神話を
構想していたようである
例えば「治療塔」のストーリーにそれは明快であるし
また、そう考えれば
解体と再構築の作業を読者に強いるがごとき難渋な文体も
集合的無意識の行なう要領を得ない語り...続きを読むであると
説明することはできる
そしてその根底に
「母」の存在が担保する性善説の世界観があるわけだ

ただし、そういった方向性は
ノーベル賞に「選ばれた」ことで骨抜きになったし
なにより作品として読者を選ぶものだった

「火をめぐらす鳥」
若い頃、伊東静雄という詩人に影響を受けた筆者は
その詩の一節からひとつの世界観をつくっていた
個人の魂は、死後に集まって一体化し
すべての記憶が集合無意識として共有され
その上で魂たちは、それぞれに生まれ直していくという…
結局その世界観は、新しく出た評論に否定されてしまうんだけど
それでも障害を持った長男に接するとき
我々の魂は孤独ではないと信じるに足る瞬間が
確かにあるのだった

「涙を流す人の楡」
ベルギーの日本大使と会食中
とある形の木が見えたもので憂鬱になり
その理由を釈明するという話
それはおそらく
怒れる少年を立ったまま水死させるという
雨の木のイメージではないか

「宇宙大の雨の木」
筆者は「不死の人」について書こうとしている
それは筆者の前にもしばしばあらわれ
なんらかの啓示を与えてくれた人たちのことである
だがフォークナーの「野性の棕櫚」を通じ
「不死の人」とは人ではなく、啓示そのものではないかと
筆者は考えるようになった
イデア論の一種と捉えることも可能だろう
では、そのイデアないし啓示は
いったいどこから来るのであろうか
おそらくは「雨の木」が養分としたもののなかから…

「夢の師匠」
音楽家のTさん(武満徹?)からの依頼で
オペラの脚本を書くことになる
幼い頃出会った二人組の占い師をタネに
話はやがて宇宙移民へと膨らんでいく
「治療塔」の前段階的な作品

「治療塔」
長編「治療塔」の短縮バージョンというか
三幕構成の梗概という体裁
「新しい地球」の人々は
治療塔と呼ばれる遺跡のなかで若返りを果たすのだけど
それはひょっとすると
人として大切な何かを吸い取られたということではあるまいか

「ベラックヮの十年」
十年前、ダンテの「神曲」を読むために
イタリア語の家庭教師を雇ったことがあった
それはうら若き女学生だったが
彼女の性的挑発を見てみぬふりしたことにより
授業は中途半端で終わった
十年後、「神曲」をベースにして
「懐かしい年への手紙」を書き上げたさい
彼女と再会するのだけど
やはりセックスの誘いには乗れず惨めな思いをする

「マルゴ公妃のかくしつきスカート」
とある映像作家が、フィリピーナを囲っている
しかしセックスレスで
フィリピーナは同国人の「救い主」と、時折寝ている
フィリピーナは「赤革のトランク」をいつも持ち歩き
その中に、何かを…
おそらくは子供の死体を隠している
映像作家には、秘密を悪と捉えているふしがあるのだが
その秘密への興味だけが
実はふたりをつなぐ唯一の接点かもしれなかった

「僕が本当に若かった頃」
小説を書き始めた頃、「僕」はアルバイトで家庭教師をやっていた
生徒の繁君は「僕」の小説を読み
それが「成功する小説」ではないことを見抜いた上で
自分の構想を小説にするよう、焚きつけてきた
車で実際に北海道まで旅し
それをロードムービー的に書けという
「僕」もそのプランに乗って、自動車免許をとろうとしたのだが
片眼に問題のあることが発覚し
断念せざるをえなかった
あきらめきれない繁君は、かわりに叔父の靖一さんを誘って
北海道へ旅立ったのだけど
トラックと正面衝突する大事故を起こしてしまった
結局「僕」はこの体験を小説にすることなく
やがて、アンチクライマックス指向を深めていく
しかしひょんなことから繁君と再会することになり
当時の真相を知ることともなった

「茱萸の木の教え・序」
従姉弟のタカチャンは不遇な晩年を送って死んだ
タカチャンは行動の人であったが
大学紛争に加わった際の怪我がもとで、脳障害を負っていた
彼女の死後、関係の深かった人々で文集を作ることになり
「僕」がその序文を担当することになった
晩年、寝たきりになったタカチャンは
本人の印象からかけ離れたような空想的な文章を書いていた
実家の茱萸の木の、迷宮のような枝ぶりのなかに小人が住んでいて
自分の未来を演じているというものだった

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