大江健三郎のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
「戦争が終わったあと、その当時の人々は無条件に喜んで、戦争なんかもう2度とごめんだと思った」と私は思っていた。
しかしこの本を読んでその考えは間違っていたと思った。
戦中の教育を受けた人間の中には本作の主人公のように「英雄的に死にたい」と思い、平和になった世の中を「人を殺す機会もない老後までの執行猶予」としてみていた人もいたのかもしれないと気づかされ、愕然とした。「平和=無条件によいもの」という考え方を自分は教育を通して感じていたが、それは一面的なものの見方だったのかもと思った。
果たしてこの作中には希望が感じられないが、この閉塞感は現代ではなお増幅されている気がする。
物語として、この内容を楽しめたかというと、吐き気を感じるような胸の苦しさを感じる。だが、閉塞した現在の自分に、別の視点を与えてくれたこの小説のおかげで、久しぶりに頭が回転し、「考える」事ができたことに感謝したい。 -
Posted by ブクログ
これまでおよそ時系列で大江健三郎の著作を読んできましたが、ピンチランナー調書辺りから主題と言うか、小説を書く目的みたいなものが少しずつ変わってきている気がします。
前期は人間の虚飾や欺瞞や、ありとあらゆる醜い部分を徹底的にほじくっていますが、後期は虚飾や欺瞞をバイパスに、その先にあるものを書こうとしている様です。
私は作家としての大江健三郎自身に強い思い入れはなく、単純に作品のみを好んでいます。従って好みの問題で言えば、前期の方が圧倒的に好きです。だいたい作者が30代以前の作品が特に。
ただし若いころの作品は、若かったから書けたんじゃないかとも思います。
大江氏の場合、負の部分をほじくるなんて自分をずたずたにするようなものでしょう。そんなことを続けていたら、とっくに人間壊れてしまいますよ。
そこをうまくシフトして、ずっと日本の文学に関わり続けてきたのは日本のノーベル文学賞作家として誇るべきことだと思います。
もともと脆かったサリンジャーはすぐにトンズラしたくらいですから。
現在76歳の大江氏ですが、あとどれだけ書けるんでしょう。長生きして欲しいな。
なんかつらつら書いてますけど、本作に関しては健三郎もサクラさんも木守もなんだかバラバラでした。
三者三様の、沈殿した薄暗い気持ちをちゃんと描いていないように思います。だから微妙な濁度の上澄み部分だけ見せられたような、中途半端な気持ちになってしまいました。
11.05.26