大江健三郎のレビュー一覧
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クライストの小説「ミヒャエル・コールハースの運命」を映画化するという
国際的なプロジェクトの一端に
シナリオライターとして参加することになった語り手は
「万延元年のフットボール」に書ききれなかった民衆蜂起のエネルギーを
その映画で再現しようともくろむ
しかし、企画は思わぬところで頓挫した
集められた子役のフィルムと、それを撮影したカメラマンに
児童ポルノ制作の疑いがかけられたのである
主演女優のサクラ・オギ・マガーシャックなる人物は
幼い頃、戦争で焼け出されてひとりぼっちだったところを
アメリカ人将校に引き取られ
後にはその将校との結婚に至ったという過去を持っている
彼女自身は、そんな人生を幸福なものだったと考えているけれど
しかし映画の中では、女性の自立を叫ばずにいられない
そしてなぜか夜毎の悪夢にうなされている
高校時代の語り手は
かつて松山市の堀端にあったとされるアメリカ文化センターにおいて
後に映画監督となり、義兄となる年長の友人とともに
幼いサクラさんの出演するフィルムを見ていた
ポーの「アナベル・リイ」を題材とした美しい映像であったが
それにはおぞましい秘密が隠されていたのだった -
Posted by ブクログ
死者の奢りや飼育を読んだ時のような震えるほどの感動とか、これこそが魂の救済かもしれないと思う実感とか、そういうものは全くなかった。長編として均整の取れていて主軸もしっかりしていて日本文壇的な作品。でもデビュー時の何が何でも、というようなみずみずしさとか絶望感とかが感じられない。優れた文学と、性への執着はわたしに古風な日本文壇を思い起こさせて、三島由紀夫のような、そんな。死者の奢りがあまりに心を震わせる素晴らしいものだったので意気込んで読んだところを挫かれた感じ。春樹が周囲は大江健三郎を読んでいたが自分は好んで読むことはなかったみたいなことを言っていたのが、分かる気がする。いき過ぎた執着は気持ちが悪い。結局、何になるんだろう。この優れた、ノーベル賞作家の文学は、何になるんだろう。そんな気持ちがぽっかりと、世代のせいかなあ。
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Posted by ブクログ
「一瞬よりいくらか長いあいだ」としての「永遠」!このくだりを見たとき私は大変驚愕して、というのも大江健三郎がここまではっきりこの言葉を口にするとは思ってもいなかったので…『嘔吐』では似た言葉が、存在の罪が一瞬だけぬぐわれるとき、などという表現されていたアレ…『嘔吐』以後サルトルが触れなくなってしまったアレ…。私にとってはこの「瞬間としての永遠」はサルトルとバタイユをつなぎ、または作中に引用されているランボーとも、プルーストとも強固に繋がるキーワードである。しかしこれを掲げて宗教を始めることが可能なのか…。自分の存在というものの途方もない無意味さ、偶然性を乗り越えることが出来るのは、自分の身を以て体験出来るこの「瞬間」以外にない。しかしこの「瞬間」は純粋には偶発的なものであって、いわゆる「企て」はそれ待ちきれない人々の暇つぶしでしかないように私には思える。後に覆されたとしても一度は自らの本の集大成として、とても積極的な社会参加とは呼べないこの宗教の本を据えた大江の学生時代のサルトル解釈は一体どのようなものだったのだろう…。
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ネタバレ概要
狂気と自由,作家と障がい者の息子,閉塞的な集落・田舎町などを共通の要素とする3つの短編と2つの中編を収録。1969年発行。
・走れ,走りつづけよ
・核時代の森の隠遁者
・生け贄男は必要か
・狩猟で暮らしたわれらの先祖
・父よ,あなたはどこへ行くのか?
感想
大江健三郎の作品を読むのはほぼ初めて。10年以上も前に初期の作品を読んだ気がするけれど,まったく覚えていない。
正直なところ,難解でよくわからなかった。しかし,よくわからないながらも,つい読み進めてしまう魅力のある中短編集だった。通常,難解な小説というのは読み進めるのが苦痛なのに,この作品はそんなことはなかった。ただし,「父よ,あなたはどこへ行くのか?」はダメで,読むのが苦痛だった。
以下,作品の内容に具体的に触れるので,未読の方はご注意ください。
「走れ,走りつづけよ」で,ホテルの最上階から,化粧をして全裸で落ち,下肢がぐしゃぐしゃに砕かれた従兄の末路,「核時代の森の隠遁者」で隠遁者ギーが焼け死ぬシーンなどハッとするような結末が印象的だった。
大江健三郎の他の作品が読みたくなった。 -
Posted by ブクログ
もうこれ、たいへんだー。
大江健三郎さんは本当に妥協しない人ですね。
信仰を背負う人を真面目に書くって、もうとんでもなく疲れるはずなのに…
新・ギーおにいが現代のキリストでありブッダであって、でも宗教=インチキの図式も人々の中にある。
宗教や奇跡や祈りなんて曖昧なもの、今時力を持たないんですよね。
原発の方が余程信頼されてしまう。
そういう部分を物語に都合よく誤魔化したりしないで、新・ギーおにいの葛藤をちゃんと言語化して、投石で殺してしまう。
あまりに真っ当過ぎてハラハラ感がなかったのは残念ですが、もうこういう話が書ける作家なんてほとんどいないんだろうなぁ。
12.06.25