大江健三郎のレビュー一覧

  • 静かな生活

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    フィクションだって分かっているのに、どうしても、この本は大江健三郎じゃなくて大江健三郎の娘さんが書いているんだという意識で読んでしまった。最後まで。

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    2012年11月11日
  • あいまいな日本の私

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    たいへん良かったです。
    文学に対して、このくらい真剣に考えていないと、素晴らしい話は書けないですよね。
    「あいまいな日本の私」って、川端康成のスピーチを受けてのことだったんですね。

    これを読みながら、ノーベル文学賞の発表を待っていたのですが・・・今年も残念でした。

    12.10.14

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    2012年10月28日
  • 美しいアナベル・リイ

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    アナベル・リイの夏目訳が読みたくて気になる。”ろうたし”がきいてる。それから強烈な甘い思い出。追体験してみたくもなる。
    誰しも心の中に”アナベル・リイ”なり”ロリータ”なるファム・ファタールがいるものだろう。彼女はわすれられない思い出をまとって、甘い甘い魅力をふりまきながらふてぶてしくどうどうとしている。クライマックスの鮮烈さに思春期の圧倒的な影響力と、目の前という今の力の恐ろしさを感じた。すごく面白かった!

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    2012年09月12日
  • 「雨の木」を聴く女たち

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    雨の木のイメージをめぐる様々な物語。どの登場人物も心に傷を負っていて、その心のひだや闇が、優しく、神秘的に描かれている。メッセージがまだ読み取れていないので、また読み返したい一冊。

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    2012年09月02日
  • みずから我が涙をぬぐいたまう日

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    ここ一年ぐらい封印していた「大江氏を読むこと」を、ついにやぶってしまった。

    相変わらず、ずるずると引きずり込まれる、この人の世界に。

    「みずから我が涙をぬぐいたまう」という不思議なタイトルについて、読み進めていって、なるほど、とわかった。

    また、「懐かしい年への手紙」などと通じるモチーフが随所に登場するあたりも楽しめる。

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    2012年08月19日
  • 静かな生活

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    ここ数年前から、大江さんの作品をコンスタントに少しずつ、味わいながら、読み進めていこう、と暗に決めている。これは伊丹十三の映画のほうは見たけれど、原作としては読んでいなかったので。面白かったなぁ、ほんとに、この人の作品は、読んでいて、楽しい。(12/1/4)

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    2012年08月08日
  • 静かな生活

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    私小説に近い作風の小説。イーヨー、マーちゃん、オーちゃんの3兄弟が遭遇するちょっとした事件や、心的風景がテーマとなった6つの短編から構成される連作です。
     読後、知的障害を持つイーヨーの一貫した純粋さ、明るさに救われた気持ちになります。

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    2012年08月07日
  • 同時代ゲーム

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    ネタバレ

    物語として内容を読み取ろうとすると、難解で冗長とも感じられるこの作品、最後まで読んでみると、その文脈を楽しんでいけばいいのだなと気づきます。
    その世界観は、のちの宮崎駿や村上春樹にも影響を与えたのではというところがあります。

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    2012年07月06日
  • 日常生活の冒険

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    われわれが日常生活で想像力を働かせるというのは、過去の観察のこまかなな要素を再構築してひとつの現実をくみたてることにほかならない。p417

    「この長編の題名には、その冒険の可能性なき世界を冒険的いきなければならないというひとつのモラルが、すでに含まれている」(渡辺広士の解説より)

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    2012年07月02日
  • 性的人間

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    「性的人間」について

    痴漢歴のある人に読んでもらって感想を聴きたい作品。
    この痴漢嗜好はどこまでリアリティを持っているのか?

    後半の詩人が最期に出した結論は何だったのか。
    彼は嵐のような詩を書くために、自身が最大級の興奮を得られる痴漢を実現しようとしていた。
    その結果彼が起こした行動は、幼女を誘拐した上で電車の迫る線路上に幼女を投げ出し、自分の生命と引き換えに幼女救出を自演することだった。

    彼の行動は一見、痴漢とはかけ離れている。
    救出された幼女の母親は言った。「あの人は神様です」。
    つまり母親の本心におさわりしたかったと・・・?
    ・・・うん、わかんない。


    「セヴンティーン」について

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    2012年03月15日
  • ヒロシマ・ノート

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    プロローグで、広島の人が「ヒロシマ」でひとくくりにされることの苦痛の吐露、そして、沈黙する権利がある、とのくだりを常に、心の片隅に置きながら読むべき本だろう。それを意識しないと、大江氏の感情の起伏の激しさに呑まれてしまうからだ。はっきり言って冷静さを欠いていると思う。

    しかし、大江氏の優れているのは、たしかな耳と眼をもっていることである。大江氏の洞察は決して深くはない。しかし、事実を探り当て、拾い出し、ありままに記述する、たしかな耳と眼があることは信じられる。

    今の時代の若い人には、歴史的、政治的な背景が分からないために、著者の悔しさは伝わりにくいかもしれない。けれども、原水爆禁止運動

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    2012年03月06日
  • ピンチランナー調書

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    全体の構成がこれほど奇異な長編もなかなかないだろうけど、その中で章を追うごとに小説の中の常識・世界観・思想がずれて現実から全く掛け離れていく感覚がある。もともと始まりから常識とは微妙に違う位相にあるようで、それが他者の言葉を受け止める・投げ返すという構造に途中から変わるとまったく新しくもはや手に余るものになってしまった。
    所々で(やたら)現れるカタカナで書かれた台詞(というか切実な叫び)は読みにくくて苛々するけれど、わざと読みにくい小説を読むような人間にはいいみたい。転換後の森・父はいい具合にたがが外れているし、作中の人物が驚いたときにあげるン!?といった書き方もなぜか"残る&quo

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    2012年03月05日
  • 美しいアナベル・リイ

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    物語は、現在、70代になった作者が、大学時代の級友、木守に再会する場面から始まります。
    そこから、二人が30年前に、とある映画を撮影する企画を通して再会し、また疎遠になっていく過程が回想されます。

    国際的に映画のプロデューサーをしていた木守は、計画中の映画のシナリオを書かないか、と、級友だった作者を訪ねて来ます。その時、木守が連れて来た、海外で活躍する日本人女優のサクラさんは、作者が高校生の頃に故郷で偶然観た、プライベートに作られた映画、『アナベル・リイ』に登場した少女でした。
    今回作られようとしている映画は、原作が外国のものですが、それを日本の農民一揆に置き換えようという事になり、そこで、

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    2012年02月26日
  • M/Tと森のフシギの物語

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    今までにない魅力のある本。四国の山間の村に伝わる神話と幕末の歴史及び、作者が何故これに深く関わるか?が書かれた本。

    作者が神隠しに会い、神秘的な体験を通して、村の物語の継承者として選ばれた理由。また、作者の知能障害の息子と村の繋がり。

    人の一生は産まれたときから死ぬときではなく、「かれがふくみこまれている人びとの輪の、大きな翳のなかに生まれてきて、そして死んだあともなんらかの、続いていくものがあるはず」というメッセージが美しく響く小説

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    2012年02月06日
  • 性的人間

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    言葉を的確に重ねていくことで、言語化することの難しいある特殊な状況や心情を読者に飲み込ませる能力がとにかくずば抜けていると感じる。

    日常の陰に隠れた微細な心のありようや関係性をファンタジーのような鮮やかさでほじくり出す手法は予測が付かなくて本当に面白い。この人の書くものならどんなものでもきっと面白くなるはずだと、読んでみたいと、そんな風に思わせる視点の豊かさがあった。

    表題作の中編『性的人間』が特に良い。

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    2012年01月28日
  • 空の怪物アグイー

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    敬老週間―人を食ったようなユーモアのある短編で、今の時代にこんな老人がいたとして、嘘で渡り合える人なんてごくまれじゃないかな、と思う。

    アトミック・エイジの守護神―主人公の作家が目で追う中年の男が場面場面で善人にも悪人にも変化するけれど、読みやすく大江には珍しくショート・ショートのような肌触りさえ感じられる。
    けれど、この中年の男が特に誇張されているだけで、人はみんなこの彼みたいに善いところも悪いところも持っているのだ。

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    2012年01月26日
  • 沖縄ノート

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    大江さんは『死者の奢り・飼育』しか読んだことなかったけど、小説作品にも増して難解やね・・・。
    けど謝花昇の生涯に関する箇所だとか、かの有名な渡嘉敷島の悲劇なんかは読んでてなかなか心打たれるものがある。
    大江さんお得意の内面をえぐりこむような日本人の精神分析は圧巻。
    ユングの集合的無意識に通じる部分がある気が。
    沖縄戦よりは基地問題・返還問題のほうがメイン。

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    2012年01月16日
  • 芽むしり仔撃ち

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    戦時中、感化院の少年たちが、疫病の流行とともに集団疎開先の山村に閉じこめられる。村を占有した少年たちは、感情豊かに、生き生きとした生活を送る。猟で捕った鳥を焼いて食べながら歌をうたう場面が印象的だった。焼鳥がすごくおいしそう。

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    2014年10月19日
  • 見るまえに跳べ

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    初期短編集。

    「奇妙な仕事」「動物倉庫」「見るまえに跳べ」など特に面白く読んだ。

    反面、読みづらく感じたものもいくつかあった。
    『死者の奢り』に比べて色々試している実験的な作品がピックアップされた短編集という印象がある。若かりし大江健三郎が思想を物語に定着させようとして試行錯誤しているように読み取れた。その工夫が成功していると感じるものもあれば、よくわからないものもあった。

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    2011年12月01日
  • 日常生活の冒険

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    「主人公」が自殺をした趣旨を手紙で知り、主人公との出会いから現在までの思いでを物語として「私」こと語り手が綴る、といった物語。
    正直、主人公である斎木犀吉は、モラリストだの哲学者だのと書いておいて、身勝手で奔放な男だと思っていたのですが、最後の章でのやり取りや、海外へと出ていくさいの葛藤など、書き手目線で捉えると「嫌なやつ」としか思えませんでしたが、主人公である斎木目線で見てみると、それとはまた別の思いが浮かぶなど、大江が得意とする本人の体験に基づいた書き方もあり、著者の傾向がわかるような作品です。

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    2011年10月02日