大江健三郎のレビュー一覧

  • 死者の奢り・飼育
     これを20代前半で書いた人間はどんな人生を生き、そしてどのような人間性でもってこれを書いたのだろうか。その疑問は本作の内容よりも私の心を捉えたが、残念ながら読めば読むほどわからなくなっていった。
     読む前に、大江健三郎について私が持っていた手がかりというのは彼が愛媛の田舎の大自然のなかで育ったらし...続きを読む
  • 新しい文学のために
    文学作品を読むための方法について、著者がみずからの創作体験を踏まえながら考察をおこなっている本です。

    著者は、文学について「客観的な尺度」が存在するという考えが、たちまち裏切られるものであることを知りながらも、「小説を書きながら、あるいは小説を読みながら……ある客観的な尺度による批評、しかも自分と...続きを読む
  • 静かな生活
    静かな生活といふ表題作
     以前ツイッターで、気分が滅入った時には短篇「静かな生活」を読むと恢復するといふ趣旨のツイートを見かけ、表題作だけは三度目くらゐの再読になるが読んでみて、本当にその通りだと思った。
     今回映画で感動したのをきっかけに初めて通して読んだが、表題作は連作中で群を抜いておもしろいと...続きを読む
  • 静かな生活

    オーケンの入門にとても適したソフトさを感じる。
    内容は長男の光さんを題材にした必勝のフォーマット(?)、私小説的小説で自分の好みだがソフトなあまりハッとする箇所が少なかった様に感じた。
    総じて楽しく読めたので、大衆にも適した素敵な作品。
  • 取り替え子

    この辺から後期オーケンとでも言うのだろうか。
    文から角というかクセが取れている(それでも読み易い文ではないが)。
    息子の光氏につき特に丁寧な扱いをしているが、唸る様な描写が少なく若干物足りなさを感じた。
  • 空の怪物アグイー

    どれも安定して面白い貴重な短編集。
    オーケンが文字で表したい事がしっかり明示され、最初期と比べるとライトさも感じる。彼の入門書として最適解かもしれない。
  • 万延元年のフットボール
    なぜこれを読もうと思ったのか?
    ノーベル賞受賞の根拠となったらしい作品だから、というミーハーな動機・・・

    冒頭だけ読んだ時点では、蛭子能収のマンガみたいな不条理作品なのかこれは?と思ってしまい、文章の読みにくさもあってげんなりしてしまったけど、読み進めていくにつれて意外と普通に理解していけばよい作...続きを読む
  • 死者の奢り・飼育
    デビュー作の「死者の奢り」。死体処理室のホルマリンプールに浮いた死体を移動させるアルバイトという設定にいきなり引き込まれる。あり得ない筈なのだが、巧みな表現を通して光景が目に浮かぶ。芥川賞作品の「飼育」より、個人的にはこちらの方が印象に残った。
  • 河馬に噛まれる
    大江健三郎といえば、「左翼」のイメージを持つ人が多い
    僕もそうである
    しかし、それはやはりそう単純な話ではないのだ
    というのも80年代以降
    大江は、朝日ジャーナルの本多勝一から
    激しいバッシングを受け続けているからだ
    「反核のくせに核推進派の文藝春秋から仕事をもらっている」
    というのが、批判のとっか...続きを読む
  • 空の怪物アグイー
    これはA子さんの恋人から。

    作者の的確な描写により、体臭やら、汗臭さ、街の埃臭さなどの「生の人間」が生きる環境をジリジリと感じ、喫茶店でコーヒーとか軽食取りながら読んでいたら気分が悪くなってしまう。いや、僭越ながら…凄まじい褒め言葉です。

    こう,その当時の時代の空気を想像するに十分な描写。もっと...続きを読む
  • 空の怪物アグイー
    1950年代〜1960年代を舞台にした青春小説。

    「異常な世界を平気な様子で生きなければならない時代」という意味では今とそうは変わらないのかもしれない。

    この異常な世界に放り込まれた主人公たちを導くのが、いずれも精神異常者や地下社会の人間など「同じ時間を生きているのに、別の世界を生きている人間」...続きを読む
  • われらの時代
    面白い!
    読みにくい比喩や暗喩かあり、読むのがしんどく不要なのではと思う部分もあったけど、終盤は小説の世界に没頭してしまった。
  • 芽むしり仔撃ち
    少し読みにくい表現もあったが、登場人物の心理や人間の悪意、悲劇の描写など、圧倒的な密度に心を奪われっぱなしだった。ただ余りに救いが無く、読んで悲しい気持ちしか残らなかったので星4。
  • 芽むしり仔撃ち
    大江健三郎作品は短編以外では初でした。大江健三郎さんの文章を読んで自信を無くし小説を書くのを諦めた人も多いと言う話を聞きました。
    少し回りくどく慣れるのに時間がかかったのですが、慣れてしまうと、こんな事まで文章で表現出来てしまうんだと驚きます。
    自然の描写、人間の心の動き、複数の人間の間に流れる空気...続きを読む
  • 同時代ゲーム
    そこまで読みにくいとは思わなかった。取り替え子は凄く読みにくかったが、それに比べると全然大丈夫だった。
    大江さんのつくった世界にじっくり浸かれる小説。途中で読み疲れする部分もあったが、神話的で性的で悲劇的で感傷的な世界観をとても楽しめた。
  • 性的人間
    『性的人間』の「痴漢は捕まって罰せられるまでが痴漢」という考え方や、『セブンティーン』の漠然とした不安から一時的に逃れるために自涜するところがすごく良かった。

    ただ、最近は本を読めるタイミングが早朝か公園で子どもを遊ばせているのを横目で見ているときくらいしかないので、精神的にも環境的にもこの本を楽...続きを読む
  • 小説のたくらみ、知の楽しみ
    大江健三郎が同時代の作家、研究者を論じる語り口が好きなので、それだけでも大満足だが、ちょうど中期の短・中編を読み終わって、新たな長編期に入る前の箸休めとして読んだのだけれど、作家による解題の様に自作について語ってあり、充実した短・中編の副読本としても最適。
  • 芽むしり仔撃ち
    太平洋戦争末期の感化院の集団疎開のお話。もちろんこれは小説で、本当にこんな世界があったとは思いたくはないが、情景描写が生々しく、ノンフィクションとしてさせ感じられた。孤立は自由を与えてくれるが、不安や恐怖がその大半を占めていると感じた。ただ、孤立の不安や恐怖を乗り越えてとった行動によって、新しい世界...続きを読む
  • 燃えあがる緑の木―第三部 大いなる日に―
    大江健三郎 「 燃えあがる緑の木 」 3部 大いなる日に

    土地の伝承から始まった宗教集団が、個の信仰に分裂し、魂として土地に帰還する物語

    神に帰依する信仰でなく、死者と共に生き、人間と集団をつなぐ信仰を対象としている。伝承、詩、文学など読み継がれてきた言葉が人間と人間、人間と集団をつなげている。...続きを読む
  • 燃えあがる緑の木―第一部 「救い主」が殴られるまで―
    大江健三郎 「 燃えあがる緑の木 」 1部 救い主が殴られるまで

    100分de名著により 人物イメージと主要テーマを学習済みなのでスイスイ読める。

    1部の内容は 土着宗教の誕生プロセス と 魂の動きに関する思考実験と捉えた。これから宗教と魂、人間と命、記録としての文学を考察するための伏線だと思う...続きを読む