大江健三郎のレビュー一覧

  • 個人的な体験
    はじめての大江健三郎作品を読みました。
    1964年に発表された作品です。

    作者の子どもが、脳瘤のある障害を持って生まれたことをきっかけにして書かれた作品。主人公は同じ立場で描かれますが私小説ではなくあくまで体験に着想を得て書かれた小説です。

    最初から半分くらいまで読むに耐えない話で、主人公の自意...続きを読む
  • 個人的な体験
    自身の体験を基にした小説、なのだろうか。脳ヘルニアの子供の出産を受けて本作品を執筆した大江氏であるが、作中の様は子供に対する愛情や希望ではなく嫌悪である。脳ヘルニアを抱えた子を出産した青年の葛藤や苦悩ではなく逃避である。極めて衝撃的な独白である。それは小説のなかの話であったか私小説であったのか。三島...続きを読む
  • 大江健三郎自選短篇
    大江健三郎という作家は、自らの作品を改稿する癖で知られているが、2014年に出版された本書は、1957年のデビュー当時から60年代までの初期作品、80年代の中期作品、90年代前半の後期作品という3つの時代の短編を、自らの改稿に基づき編集し直された自作短編アンソロジーである。

    長きに渡って活躍してい...続きを読む
  • 個人的な体験
    まぁなんちゅうてもグイグイ引き込まれました。
    ずっと打ちのめされたボクサーみたいな気分で読み進めました。

    ページをめくるのが惜しいくらい楽しませてもらいました。
    セオリー通りに主人公は変わりながらも、ゲームセンターにたむろする少年たち、変な名前のヒロイン、堕胎医、石ころの少年、菊比古、物分かりの良...続きを読む
  • 個人的な体験
    8割読み進めて、ああこの主人公は赤ん坊から逃げているんだなと、彼の苦悩を理解しながら読み進めることが出来た。彼のどことなく周りの荒波から離れて静かな池の中にポツンと浮かんでいる様な他人事の様な心情。それでも遂に、自己欺瞞の罠から這い出て新しい命を受け止めようとする姿。

    人間の闇を照らし、光を見つけ...続きを読む
  • 芽むしり仔撃ち
    想像の世界を実に現実的に感じるのは、自然描写といい、心象表現といい、卓越した筆力にあるようだ。20代での作品というのも驚かされる。「擬する」を銃を突きつけるという意味でさらっと使う人はあまりいないんじゃないか。2020.8.13
  • 大江健三郎賞8年の軌跡 「文学の言葉」を恢復させる
    少し前の新聞に中村文則の「掏摸」が紹介されていた。中村さんは今や海外でも名を知られた作家だが、そのきっかけになったのが大江健三郎賞を受賞した本作が、賞の特典として翻訳されたからだ、という内容だった。
    大江健三郎賞は聞いたことがあったが、選考委員は大江健三郎さんひとりで、賞金の代わりに海外に翻訳されて...続きを読む
  • 個人的な体験
    男(なのか、人なのか)の身勝手さを感じた。
    時代背景が違うにも関わらず、今読んでも古くない、人間の本質を描いている。
  • 芽むしり仔撃ち
    読んだのは、昭和40年発行、昭和47年11月30日の11版です。

    読書会の課題本で知りました。大江健三郎さんの本は難解とイメージがあり避けてました。
    これは23歳のときに書かれたと知り驚きでした。
    感化院の少年が村へ疎開するのですが、村では謎の疫病で動物たちが次々に死んでいるところでした。村人は少...続きを読む
  • 晩年様式集
    「赤革のトランク」に入っていた古い手紙類などは
    ほとんど資料的価値のないもので
    長江古義人は結局
    父の不可解な死にまつわる謎を解くことができなかった
    そんなわけで、長江には父についての核心的な思い出がない
    ただし、父に代わって彼の人格形成に深い影響を与えた人物は2人いた
    ひとりは松山の高校に入ったと...続きを読む
  • 性的人間
    中編3つ。三作とも自己の内面を追求した(押しやられた)結果、陥穽に落ちた青年の話。青年ならではの心の動きとも言えそう。「共同生活」が一番わかりやすくてよかった。「セブンティーン」の終わり方が半端で、作者が右翼とは思えず不可解だったが、実は第ニ部があって公開されていないということを知って納得とともに興...続きを読む
  • 芽むしり仔撃ち
    解像度の高い文章。読んでいて心地よい。
    「蝿の王」っぽい設定だが、少年たち同士の対立は弱い。
    章の題名は分かりやすくする効果があるが、ネタバレにもなるから一長一短だと思う。
  • 遅れてきた青年
    大江健三郎の描く戦後文学は、戦後生まれの僕達にとって、もはや神話である。
    鬱屈した自意識過剰な主人公。
    19世紀西洋小説的。
    ロマン・ロラン的。
    文庫本あとがきによると、大江健三郎自身が終戦当時、そのような感慨を抱いていたらしいが、この長編は、第2次世界大戦の戦線に立つのに”遅れた”という意識を持つ...続きを読む
  • 水死
    天皇主義の戯画を演じて死んだ三島由紀夫に対し
    戦後民主主義の戯画を引き受けて生きる大江健三郎は
    三島の死をトリックスターのそれと決めつけ
    影響力を無効化するために
    天皇との和解を目論んだのだと思う
    「あいまいな日本の私」とは、まさに天皇のことでもあるわけだ
    それはもちろん逆説的に不敬だった
    とはいえ...続きを読む
  • ヒロシマ・ノート
    1963年から65年にかけて、広島を訪れた著者が、いまもなおのこる原爆の後遺症にさいなまれながらも静かに今を生きている人びとの姿をえがいたノンフィクション作品です。

    すこし気になったのは、「偶然にひとつの都市をおとずれた旅行者が、そこで困難な事件にまきこまれ、それをひきうけて解決すべくつとめる、と...続きを読む
  • 個人的な体験
    はじめての大江健三郎作品。著者が長男誕生を題材にした小説であるとあとがきで知る。主人公の鳥(バード)は、当初、難産の末、長男が生まれた際には頭に大きく醜い瘤があり、うまく生き延びても植物以下だと担当の医師から脳内ヘルニアという診断を受ける。それを妻に知らせることが出来ず、大学時代からの女友達である日...続きを読む
  • ピンチランナー調書
    1回目はスラップスティックについていけず、再読して漸く面白く読めた。
    まず、われわれの子どもについてを巡る対話が面白い。「私小説ではない」のだか、こういった挿話はまさにリアルな感情に根差していると感じられる。転換のドタバタはまさに道化の語りだが、ピンチランナーという言葉に込めた祈り、決意は、この長大...続きを読む
  • 「雨の木」を聴く女たち
    甘ったれた男の物語と読むこともできる。初期の短編の完成度に比べれば、どこか未整理なままを見せることを目的としているような節もある。ただ、凝り固まった思い込みを捨てれば、やっぱり豊かなイメージに溢れた氏の作品は単純に面白く(首吊り男は笑っちゃうし、泳ぐ男はミステリー調にも読める)、短編は読みやすい。
  • 空の怪物アグイー
    「敬老週間」はちょっと大江らしくないので意外であったが、あとは読んでいてニヤニヤしてしまういつもの大江であった。「ブラジル風のポルトガル語」なんかはいつにも増して他者性というものがきわだって描かれていたように思う、けっこう好きな作品が多かった。
  • 個人的な体験
    読み終わって一言、文中の言葉を借りるなら
    「怪談だ!正常じゃない(183項)」だなぁ。急に打ち切りが決まった連載漫画よろしくラストシーンは怒涛の展開を見せるわけだが、当時としては(今もか)珍しい作者のあとがきと合わせて読むと、人だもの感じるものはある。まぁ赤ん坊を抹殺して火見子とアフリカに渡る夢のよ...続きを読む