大江健三郎のレビュー一覧

  • われらの狂気を生き延びる道を教えよ

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    初期の短中編5編が入っている。この大江健三郎さんの独特の文体は初めて読んだときはまどろっこしくて戸惑ったが、慣れてくると逆にこの詳細な遠回しな比喩含めた文体が、気持ちよくなってきてこれじゃないと駄目だなと思ってしまうほどだ。
    どの作品も興味深かったけど、「走れ、走りつづけよ」が自分的にはブラックユーモア的にも感じ、大変面白かった。
    「核時代の森の隠匿者」は名作【万延元年のフットボール】の後日談的な話なので、さきに【万延~】を先に読むのをお勧めします。

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    2023年09月18日
  • 死者の奢り・飼育

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    芥川賞受賞作「飼育」を含む6編の短編集。
    初めて大江健三郎氏の作品を読んだが、大変良かった。
    時代を背景に、生と死、田舎の村の閉塞感、米兵と日本人の関係、子どもの好奇心と残酷さ、罪悪感と勝手な正義感、大人になるという事…などが描かれている。
    ジワジワ追い詰められていく感じが、たまらない。
    本作のテーマを理解できたかどうかはわからないが、共感、納得できる箇所は随所にあった。
    どの作品も深くて、読後は余韻が残り考えさせられる。文学の良さって、こういう事か。
    印象深かったのは、「死者の奢り」「飼育」「人間の羊」
    今後は、大江氏の作品を少しずつ読み進めながら、
    追悼の意を表したい。

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    2023年09月17日
  • ピンチランナー調書

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    自身は一般的に言われている程難解ではないと感じた。
    “転換”という要素も、作者が息子との関係に求めたifの一部分に過ぎない気がする。
    息子の光氏が題材にされている作品群の中でも、SFや動きを加えた大江流エンタメ小説として読むと割合違和感を感じず楽しめる。

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    2023年09月08日
  • 大江健三郎 作家自身を語る

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     各章は時系列に分割した複数の作品をテーマにしている。私は彼の作品を全て読んでいるわけではなく、特に万永元年のフットボール以降の作品はほとんど読んでいないので、読んでいない本がテーマになっている章は読み飛ばした。
     尾崎真理子さんという聞き手もとても力を持っている人物である。彼女の質問によって彼が気づくと言うシーンが見られた。

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    2023年09月03日
  • みずから我が涙をぬぐいたまう日

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    1文が10行にわたることもあり、さらに側から見れば発狂した者の口述記録でもあるため、完全に排他的な文体となっており、私も数ヶ月前に一度読み始め、途中で断念することとなった。
    今回また読み始めたのは、大江の晩年の作品『水死』を読むことを目指すにあたって避けては通れない作品だからである。

    「純粋天皇」というセンシティヴかつ荘厳なテーマを、なかば発狂した者の口述を通したユーモラスな文体を採用したおかげで、また小説という“フィクション”が保険として働いてくれるおかげで、重々しくなり過ぎずに扱えている。

    この本を読んで、自分は大江作品の中でも神秘主義に重きを置いた作品の方が好きだと気づいた。もちろん

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    2023年09月01日
  • 空の怪物アグイー

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    相変わらず、大江健三郎さんの短編集は、どの話もダークな雰囲気の中に皮肉や人間の本質が描かれていてとても面白い。これは他の短編集に比べるとちょっと難解だったかな。
    しかし、「敬老週間」はとても皮肉が込められたラストで笑っちゃうし、「スパルタ教育」「犬の世界」などは自分は大好物。「空の怪物アグイー」は長編「個人的な体験」の逆のモチーフでとても興味深かった。
    大江作品は亡くなってから読み始めたけど、こうなったら全作品読破するしかないな。

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    2023年08月14日
  • 性的人間

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    「性的人間」「セブンティーン」「共同生活」と衝撃的な三篇収録。
    特に「性的人間」「セブンティーン」は今の時代コンプラ的にもアウトだと思うが、今こうして売られている。大江健三郎さんはやはり凄い。どんなに性的な話も独特の文体で高尚な作品に仕上げる。考えてみたら滑稽な話ばかりなんだけど、高尚な話を読んだ気分になって読後の満足感は最高である。
    痴漢クラブって……笑っちゃうけどメチャ面白い。
    人間と性と変態性、きってもきれない関係。

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    2023年08月06日
  • 死者の奢り・飼育

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    1.著者;大江氏(故人)は、小説家。「死者の奢り」で、学生作家としてデビュー。豊かな想像力と独自の文章で、現代に深く根ざした小説を執筆。核兵器・天皇制等の社会問題、故郷の四国の森の伝承、知的障害を持つ長男との生活・・を重ね合わせた作品を構築。「飼育」で当時最年少の23歳で芥川賞受賞。さらに「洪水はわが魂に及び」で野間文芸賞・・などの多数の文学賞と、日本で二人目となるノーベル文学賞受賞。民主主義の支持者で国内外における社会問題に積極的に発言を続けた。
    2.本書;大江氏の初期作品集。6短編を収録➡①死者の奢り(解剖用の死体を運ぶアルバイト)②他人の足(脊椎カリエスの病院)③飼育(黒人兵を村で預かる

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    2023年07月08日
  • 芽むしり仔撃ち

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    大江健三郎さんの本は亡くなってから読み、これがまだ4冊目だが、こんな面白いとは思わなかった。難しくて自分には合ってないと思ってたのかもしれない。恥ずかしい。
    この作品も、人間の嫌なところ、人間の習性を、独特の文体でこれでもかと、読み手の心に刻み付ける。
    大江さんはそんなに人物に感情移入させないので、少年たちが虐げられるシーンも第三者の目で読める。

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    2023年07月08日
  • 見るまえに跳べ

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    大江健三郎さんの作品は亡くなってから、読み始めたくちだけど、もっと若いうちに読んどきたかったなと思う。
    難しいイメージだけど良く噛み砕いて読めば、ユーモアや皮肉を込めたメッセージ性のある大衆的な作家だと思った。性的な話も文学的になってしまうから凄い。10編の短編集。面白い。自分的には最後の話が一番好き。

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    2023年06月26日
  • 死者の奢り・飼育

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    初・大江健三郎。国語の教科書に出てきそうなくらい文章が上手。一言で簡潔に言えるものを、叙情的かつ具体的に例えて言い換えているのがすごい。「かわいい」をもっと詳しくどんなふうにかわいいのか説明してる的な。その言葉が何を指しているのか考えなければならず、頭を空っぽにしてボーッと読めるわけではないけど、文章のリズムが非常によくメッセージ性もある。さすがノーベル賞を受賞するだけのことはあると感じた。

    死者の奢り:大学生の僕が死体運搬のアルバイトをしたときの話で、水槽に浮かぶ死体や妊娠中の女子大生、12歳の少女の死体に漂う性的魅力など「生」と「死」の対比が見事。何より文章が上手。人生の真理や滑稽さも考

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    2023年07月13日
  • 死者の奢り・飼育

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    これまで大江健三郎を読んだことがなかった。メガネをかけたいかにもものかきといった風貌が好きなれず、確か万延元年のフットボールを購入したが、読まずにそのまま本棚に突っ込んでいる。(はず)大江が亡くなられてこの際読んでおかなくてはと処女作を購入してみた。飼育、人間の羊、不意の唖、戦いの今日と戦中から戦後の占領下の状況とその中で翻弄される人々の生活に目を向ける視点が印象的だった。これから少しづつ大江も読んでいこうと思わせる大江ワールドの幕開けだった。

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    2023年06月15日
  • 大江健三郎全小説 第1巻

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     読み終えたとか言ってますが、正確には、今回読み終えたのは「芽むしり仔撃ち」だけです。
     初期の大江作品を読むのは、40年前の自分と出会うようなところがって、懐かしいとか面白いとばかり言っていられない、なんだかめんどくさい作業です。ああ、それから、この第1巻に収められているほどんどの作品が、20代の自分にはリアルだったことを思い出して、ちょっと不思議でした。
     しかし、それでも大江健三郎について「そうだったのか!」という新たな発見はあります。そこがこの作家のすごい所なのでしょうね(笑)
     

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    2023年06月11日
  • 死者の奢り・飼育

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    短編集ですが、後の作品になるにつれてどんどん面白く感じました。主人公は、みんな怒っていますね。最初の方の作品は、読点の位置が変わっていて読みづらく感じました。

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    2023年06月01日
  • 僕が本当に若かった頃

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    「火をめぐらす鳥」を読んだ時点で。

    大江健三郎という小説家を表すいくつもの側面があるけど、そのうちの一つは「小説の言葉で『詩』を書く作家」というものがあるだろう。この短編はその側面の最良の一つではないか。

    読み終わって

    大江の最後の短編集であり、まさに円熟の筆致ということもあるが、語り直し、捉え直しや新たな作品への習作となっている作品ばかりで、継続して大江を読んできた読者にはとても楽しめた。

    余談ながら「読者に向けて」の「人生の親戚」誕生に関する挿話に思わず笑ってしまった。深刻な出来事を語っていてもいつもどこかにユーモアの感覚が必ず潜んでいる、とても大江健三郎らしいエピソードだった。

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    2023年06月30日
  • 芽むしり仔撃ち

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    疫病などに接した際の人間の暴力性が見事に描かれている。最近のコロナの中の同調圧力でも分ったように人間は閉塞された環境ではこういうことをする生き物なんだなぁと、そういう本質を突きつけられた。

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    2023年05月26日
  • 治療塔

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     「著者初の本格的近未来SF」と銘打たれているが、発表当時の評価はあまり芳しくなかったような記憶がある。スペースシャトル「チャレンジャー」事故など、1980年代後半の出来事から作り上げられた世界観なので、古いと言えば古いのだが、東京電力福島第一原発事故を経た現在から見ると、作中に描かれた核戦争後の「残留者」たちの生活が奇妙なリアリティを持って迫って来るから不思議である。
     ストーリーとしては決して起伏がある作品ではない。エクリチュールの緊張感という意味でも、直前に読んだ『万延元年のフットボール』に比べるべくもない。しかし、核に汚染された土地にうっそうと生える木々や雑草の力強い様子が、なぜだか印

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    2023年05月09日
  • われらの狂気を生き延びる道を教えよ

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    人間の内奥に居座る、根源的な黒いものを「狂気」として捉えている。
    福永光司著の「荘子」にて、人間は非合理で混沌な存在であると述べられているのを思い出したが、この説明のつかない非合理性は「狂気」の表出ではないだろうか。

    詩、私小説、エッセイを総合した、40年前の短編・中編集でありながら、「新しい」文学の試みだと思う。

    「走れ、走りつづけよ」も好きだが、やはり最後の中編「父よ、あなたはどこへ行くのか」は難解ながらも味わったことのない読書体験を得られた。掴みきれていない部分もあるので、必ず読み直したい。

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    2023年05月06日
  • ヒロシマ・ノート

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    大江健三郎氏の訃報を受け、ずっと積読となっていたこちらを。
    終戦後何年も広島の原爆被災者から、その苦悩や悲惨さは語られなかった。ずっと存在していた被爆者に対する差別。誤った原爆症に関する情報。。。
    忘れてはならない事、持ち続けなければならない信念がある。
    大江氏のご冥福をお祈りします。

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    2023年04月30日
  • 個人的な体験

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     鳥は邪魔者だと思っていた赤んぼうを最終的には受容し自らに父親としての責任を感じるが話はそんなに簡単なのか?
     私は常に子供から逃避していた人間が最後にケロッと父親とならねばならないと、この赤んぼうと生きねばならないと思えるようになるとは素直に納得できない。本当にその責任を感じられる人間とは、赤んぼうを目の前にその将来への暗さや不安をなんとかして受け止めようと試みた人間ではなかろうか。赤んぼうから離れ、情人と逢瀬を重ねている人間より、一度その子供の首に手をかけてしまうほど絶望した人間の方がまだ救済の希望は大きい。自分の子供を殺そうと思った人間は、鳥言うように、引き受けるか殺すかの境地に至ってい

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    2023年05月06日