1964年発表、大江健三郎著。塾講師をしている27歳の青年バードに脳瘤のある子供が生まれた。彼は愛人火見子の元へ逃げ、秘密裏に子供を殺してほしいと病院側に頼み込む。葛藤した彼は最終的に子供を受け入れることを決意する。
どこか寓話的な小説だった(おそらく医者の露骨な態度と赤いスポーツカーがその雰囲
...続きを読む気を醸し出しているのだろう)。個人的な体験を私小説ではなく物語として昇華したところがすばらしい。これこそまさに「小説」だと思う。
ラストのアスタリスク以降は不要だと感じた。なぜならこの話は「バードが障害児を受け入れる」ことがテーマだからだ。安直なメッセージを付け加えて分かりやすい美談として丸め込むのは若い小説家が陥りやすい失敗だろう(娯楽用の小説ならそれでいいのだろうが)。ただ後書きを読むと、著者本人としてはこうせざるを得なかったというのは理解できる。
しかし厳しいことを言えば、もし仮にラストシーンで親戚連中に「そんな障害児など一族の汚点だ。今後お前らとはかかわりたくない」というようなことを言われたらどうだろうか(現代の日本ではあり得ないとしても、世界を見渡せば現実にそのような境遇の人がいるかもしれないのだ)。それでもバードが父親として障害児を育てていくと宣言できたなら、ようやく真の意味で「受け入れた」と言えるのではないだろうか。