大江健三郎のレビュー一覧

  • 小説のたくらみ、知の楽しみ

    Posted by ブクログ

    大江健三郎が同時代の作家、研究者を論じる語り口が好きなので、それだけでも大満足だが、ちょうど中期の短・中編を読み終わって、新たな長編期に入る前の箸休めとして読んだのだけれど、作家による解題の様に自作について語ってあり、充実した短・中編の副読本としても最適。

    0
    2021年01月16日
  • 芽むしり仔撃ち

    Posted by ブクログ

    太平洋戦争末期の感化院の集団疎開のお話。もちろんこれは小説で、本当にこんな世界があったとは思いたくはないが、情景描写が生々しく、ノンフィクションとしてさせ感じられた。孤立は自由を与えてくれるが、不安や恐怖がその大半を占めていると感じた。ただ、孤立の不安や恐怖を乗り越えてとった行動によって、新しい世界が広がるように思えた。

    0
    2021年01月02日
  • 燃えあがる緑の木―第三部 大いなる日に―

    Posted by ブクログ

    大江健三郎 「 燃えあがる緑の木 」 3部 大いなる日に

    土地の伝承から始まった宗教集団が、個の信仰に分裂し、魂として土地に帰還する物語

    神に帰依する信仰でなく、死者と共に生き、人間と集団をつなぐ信仰を対象としている。伝承、詩、文学など読み継がれてきた言葉が人間と人間、人間と集団をつなげている。

    集団化によって起きる問題に対して、弱い人間、障害のある人間が 暗闇の中のヒカリになっている。両性具有や燃えあがる緑の木(露が滴りながら燃える木)などの両義的なモチーフは、弱い人間と強い人間の共生や集団維持の象徴として用いている

    救い主の自己犠牲による死は必要だろうか。キリストの復活を想起させる

    0
    2020年12月05日
  • 燃えあがる緑の木―第一部 「救い主」が殴られるまで―

    Posted by ブクログ

    大江健三郎 「 燃えあがる緑の木 」 1部 救い主が殴られるまで

    100分de名著により 人物イメージと主要テーマを学習済みなのでスイスイ読める。

    1部の内容は 土着宗教の誕生プロセス と 魂の動きに関する思考実験と捉えた。これから宗教と魂、人間と命、記録としての文学を考察するための伏線だと思う

    土着宗教の誕生プロセス
    *土地の伝承を蘇らせる 救い主が現れる
    *救い主の言葉と神秘的な力により、信仰者と糾弾者が現れる
    *救い主と信仰者が一体となり 教会を建てる

    魂の動き
    魂が 身体の中で生き、身体を残して浮かび上がり、自分に割り当てられた樹木の根におさまる

    救い主の言葉(死の恐怖の克服

    0
    2020年12月01日
  • 大江健三郎自選短篇

    Posted by ブクログ

    大江健三郎という作家は、自らの作品を改稿する癖で知られているが、2014年に出版された本書は、1957年のデビュー当時から60年代までの初期作品、80年代の中期作品、90年代前半の後期作品という3つの時代の短編を、自らの改稿に基づき編集し直された自作短編アンソロジーである。

    長きに渡って活躍している作家であるが故に、決して執筆ペースが早い作家ではないものの、トータルでの作品数もそれなりに多くなる。それなりに彼の作品を読んでいる自身であっても未読(特に短編は)のものが多いため、改めて大江健三郎という作家の面白さを実感することができた。比較的初期作品は昔に読んでいたが、生々しいグロテスクさを詩的

    0
    2020年09月05日
  • 芽むしり仔撃ち

    Posted by ブクログ

    想像の世界を実に現実的に感じるのは、自然描写といい、心象表現といい、卓越した筆力にあるようだ。20代での作品というのも驚かされる。「擬する」を銃を突きつけるという意味でさらっと使う人はあまりいないんじゃないか。2020.8.13

    0
    2020年08月13日
  • 大江健三郎賞8年の軌跡 「文学の言葉」を恢復させる

    Posted by ブクログ

    少し前の新聞に中村文則の「掏摸」が紹介されていた。中村さんは今や海外でも名を知られた作家だが、そのきっかけになったのが大江健三郎賞を受賞した本作が、賞の特典として翻訳されたからだ、という内容だった。
    大江健三郎賞は聞いたことがあったが、選考委員は大江健三郎さんひとりで、賞金の代わりに海外に翻訳されて紹介される、賞は八年続いて既に終了しているということも知らなかった。
    で、その賞の始めから終わりまでの受賞作の紹介とそれぞれの著者との対談を収録されているのが本作。
    なかなか手ごわい本だったがおもしろかった。
    受賞作のどれも読んだことが無いが、長島有の本は読んでみたいと思った。対談も一番楽しかった。

    0
    2020年07月24日
  • 芽むしり仔撃ち

    Posted by ブクログ

    読んだのは、昭和40年発行、昭和47年11月30日の11版です。

    読書会の課題本で知りました。大江健三郎さんの本は難解とイメージがあり避けてました。
    これは23歳のときに書かれたと知り驚きでした。
    感化院の少年が村へ疎開するのですが、村では謎の疫病で動物たちが次々に死んでいるところでした。村人は少年たちを村に置き去りにして逃げ出します。朝鮮の人と疎開してきた小さな女のこも置き去りにされてました。マイノリティの連帯、正義が常に反転していて、少年たちの目線で物語を読み進められ。脱走兵もみなから侮辱をうけながら、ちゃんと学問を修めつつある人物だとわかります。

    戦時中の全体主義の狂気がいまのコロナ

    0
    2020年07月15日
  • 晩年様式集

    Posted by ブクログ

    「赤革のトランク」に入っていた古い手紙類などは
    ほとんど資料的価値のないもので
    長江古義人は結局
    父の不可解な死にまつわる謎を解くことができなかった
    そんなわけで、長江には父についての核心的な思い出がない
    ただし、父に代わって彼の人格形成に深い影響を与えた人物は2人いた
    ひとりは松山の高校に入ったとき出会った親友で
    のちには義兄ともなった映画監督の塙吾良
    もう一人は、戦後「森」に帰ってきた本家筋のギー兄さんである
    ところが前作「水死」では
    老齢を迎えた長江じしんが、おそらくは人生初といっていいだろう
    父親としての試練を前に立ちすくむこととなった
    それは、長男アカリの善意による「イタズラ書き」に

    0
    2019年08月04日
  • 性的人間

    Posted by ブクログ

    中編3つ。三作とも自己の内面を追求した(押しやられた)結果、陥穽に落ちた青年の話。青年ならではの心の動きとも言えそう。「共同生活」が一番わかりやすくてよかった。「セブンティーン」の終わり方が半端で、作者が右翼とは思えず不可解だったが、実は第ニ部があって公開されていないということを知って納得とともに興味をもった。2019.6.26

    0
    2019年06月26日
  • 芽むしり仔撃ち

    Posted by ブクログ

    解像度の高い文章。読んでいて心地よい。
    「蝿の王」っぽい設定だが、少年たち同士の対立は弱い。
    章の題名は分かりやすくする効果があるが、ネタバレにもなるから一長一短だと思う。

    0
    2019年06月23日
  • 遅れてきた青年

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    大江健三郎の描く戦後文学は、戦後生まれの僕達にとって、もはや神話である。
    鬱屈した自意識過剰な主人公。
    19世紀西洋小説的。
    ロマン・ロラン的。
    文庫本あとがきによると、大江健三郎自身が終戦当時、そのような感慨を抱いていたらしいが、この長編は、第2次世界大戦の戦線に立つのに”遅れた”という意識を持つ青年が主人公であるところが、戦争を全く知らない僕には興味深い。
    ある意味、必然的でない後半の犯罪が、小説に影を彩る。

    0
    2019年11月27日
  • 水死

    Posted by ブクログ

    天皇主義の戯画を演じて死んだ三島由紀夫に対し
    戦後民主主義の戯画を引き受けて生きる大江健三郎は
    三島の死をトリックスターのそれと決めつけ
    影響力を無効化するために
    天皇との和解を目論んだのだと思う
    「あいまいな日本の私」とは、まさに天皇のことでもあるわけだ
    それはもちろん逆説的に不敬だった
    とはいえ、天皇との和解
    小説を使ってのことにせよ
    さすがの大江も、そんなご都合主義をやらかすほど
    恥知らずにはなれなかった
    それはあるいは、障害持ちの息子という心残りを置いた
    老年の弱気なんだろう
    そこでかわりに、三島のホモソーシャル志向を叩くべく持ち出したのが
    メイトリアークという概念だった
    天皇の家系を

    0
    2018年12月11日
  • ヒロシマ・ノート

    Posted by ブクログ

    1963年から65年にかけて、広島を訪れた著者が、いまもなおのこる原爆の後遺症にさいなまれながらも静かに今を生きている人びとの姿をえがいたノンフィクション作品です。

    すこし気になったのは、「偶然にひとつの都市をおとずれた旅行者が、そこで困難な事件にまきこまれ、それをひきうけて解決すべくつとめる、というのは、ポピュラーな小説家が、たびたび採用してきた公式だった」という、蓮實重彦の問題提起を思わせるような文が記されていることです。本書には、政治的に対立する陣営の喧騒から距離を置くことで、文学を生業とする著者自身の観点から広島の真実にアプローチをおこなっているのですが、上の問題はそうした著者の態度

    0
    2018年10月26日
  • ピンチランナー調書

    Posted by ブクログ

    1回目はスラップスティックについていけず、再読して漸く面白く読めた。
    まず、われわれの子どもについてを巡る対話が面白い。「私小説ではない」のだか、こういった挿話はまさにリアルな感情に根差していると感じられる。転換のドタバタはまさに道化の語りだが、ピンチランナーという言葉に込めた祈り、決意は、この長大なアンチクライマクスの物語を作り上げる作家の祈り、決意そのものであり、敬意を禁じ得ない

    0
    2018年06月16日
  • 「雨の木」を聴く女たち

    Posted by ブクログ

    甘ったれた男の物語と読むこともできる。初期の短編の完成度に比べれば、どこか未整理なままを見せることを目的としているような節もある。ただ、凝り固まった思い込みを捨てれば、やっぱり豊かなイメージに溢れた氏の作品は単純に面白く(首吊り男は笑っちゃうし、泳ぐ男はミステリー調にも読める)、短編は読みやすい。

    0
    2018年05月28日
  • 空の怪物アグイー

    Posted by ブクログ

    「敬老週間」はちょっと大江らしくないので意外であったが、あとは読んでいてニヤニヤしてしまういつもの大江であった。「ブラジル風のポルトガル語」なんかはいつにも増して他者性というものがきわだって描かれていたように思う、けっこう好きな作品が多かった。

    0
    2018年04月09日
  • 遅れてきた青年

    Posted by ブクログ

    10年ぶりくらいに再読。以降の長い作家生活の中での作品を思うと、これは初期の総括と言える作品かもしれない。政治的と対比させた大江健三郎の性的な、負け犬的なモチーフが些か中二病的な趣きを讃えながら、漲っている。

    0
    2017年12月24日
  • 万延元年のフットボール

    Posted by ブクログ

    「万延」と「フットボール」というミスマッチな単語を重ね合わせた軽妙な題名とは異なり、推敲に推敲を重ね無駄を排した独特な文章と、段落を極力無くし畳み掛ける緻密な描写は読者に緊張さえ与える。初めての大江健三郎作品であったが、いやはや鬼気迫る作品であった。

    日本人に古来より根付く暗澹たる気質を浮き彫りにし、万延元年の一揆と鷹四が隆起する暴動の共通項による事件性を謳いながらも、結局は大江自身の自己反芻の物語であるのかもしれない。内包する狂気性が自己に向かった場合に起こることを鷹と蜜という対立軸で思考実験を重ねた産物のように思えた。

    0
    2017年08月21日
  • 懐かしい年への手紙

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    評価が非常に難しい本(笑) 巨大な物語であり、作者なりの大きい構成(目次)などを見てもそれはワクワクするのだが、登場人物たちにいちいちイライラさせられるのである笑 基本的にはギー兄さんの物語(を僕のいじらしい視線によって眺め通す)ということになるのだが、ギー兄さんも魅力的とは言えないし、あと大江らしき主人公の妹のムカつくこと。なんともいえない読後感です。まぁ大作だとは思いますが。作者にとって重要になったという点では間違いないと思うのですがねぇ……。

    0
    2017年04月27日