大江健三郎のレビュー一覧
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短編集。めちゃくちゃ心震え感動に胸打たれた!というものはなかったが、どれもそれなりに面白かった。『不満足』は暗すぎて好きではないが。
全体的に暗いのはいつも通りだが、それプラス諧謔、皮肉が効いている印象を受けた。
『スパルタ教育』、『敬老週間』、『アトミックエイジの守護神』は特にそう。『スパルタ教育』は特に好き。「恐怖は負け犬でいるよりマシ」というメッセージがとてもストレートに描かれている。
『空の怪物アグイー』は、『個人的な体験』と同じテーマを扱いながらだいぶ軽やかだなと思った。
解説の「副題をつけるとしたら『現代の恐怖』」というのは的確だなと思った。様々な恐怖が描かれていて暗い。 -
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これを20代前半で書いた人間はどんな人生を生き、そしてどのような人間性でもってこれを書いたのだろうか。その疑問は本作の内容よりも私の心を捉えたが、残念ながら読めば読むほどわからなくなっていった。
読む前に、大江健三郎について私が持っていた手がかりというのは彼が愛媛の田舎の大自然のなかで育ったらしいということだけだった。私はそれがある程度本作の土壌を形成する要素となっているのだろうかと想定していたが、本書からその印象は全く感じられなかった。それよりもむしろ、村、僕の家、黒人が囚われていた監獄といった暗く四角い空間が生む暗鬱な閉塞感が強く印象に残った。 -
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文学作品を読むための方法について、著者がみずからの創作体験を踏まえながら考察をおこなっている本です。
著者は、文学について「客観的な尺度」が存在するという考えが、たちまち裏切られるものであることを知りながらも、「小説を書きながら、あるいは小説を読みながら……ある客観的な尺度による批評、しかも自分としてそれを喜び、心から同意できる批評ということを夢想しないものがいるだろうか」と語ります。そこには、「客観的な尺度」を求める個の態度が、文学をつくり出す、あるいは文学を読み解くという試みにつながり、それを共同の場へもたらしたあと、ふたたび個の作業へと帰っていくというプロセスを後押ししているという著者 -
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静かな生活といふ表題作
以前ツイッターで、気分が滅入った時には短篇「静かな生活」を読むと恢復する。といふ趣旨のツイートを見かけた。表題作だけは三度目くらゐの再読になるが読んでみて、本当にその通りだと思った。
今回映画で感動したのをきっかけに初めて通して読んだが、表題作は連作中で群を抜いておもしろいと思ふ。アクション的な描き方と伏線のために。
むしろ「この惑星の棄て子」と「案内人」はキリスト教色が鼻につく感じ(前者は情景描写も長いと思った)で、「自動人形の悪夢」と「小説の悲しみ」はイーヨーに対する思ひを吐露してゐるが、表題作に比べて幾分あっさりしてゐる。「家としての日記」は表題作同様にス -
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なぜこれを読もうと思ったのか?
ノーベル賞受賞の根拠となったらしい作品だから、というミーハーな動機・・・
冒頭だけ読んだ時点では、蛭子能収のマンガみたいな不条理作品なのかこれは?と思ってしまい、文章の読みにくさもあってげんなりしてしまったけど、読み進めていくにつれて意外と普通に理解していけばよい作品なんだと気づいた。
乱暴に要約するなら、主人公兄弟が「本当のこと」を自他に認められるようになるまで、という至極真っ当な話、ではある。
加えて、60年安保闘争の空気感とか、歴史的事件を踏まえた神話的ストーリー展開とか、開化されゆく地方の習俗とか、重層的なテーマが絡み合ってとても読み応えがある。人類 -
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大江健三郎といえば、「左翼」のイメージを持つ人が多い
僕もそうである
しかし、それはやはりそう単純な話ではないのだ
というのも80年代以降
大江は、朝日ジャーナルの本多勝一から
激しいバッシングを受け続けているからだ
「反核のくせに核推進派の文藝春秋から仕事をもらっている」
というのが、批判のとっかかりだったらしい
大江じしんはそれを「不当としか思えない」と言い切ってるし
僕もまあそう思う
しかしこのバッシングが
80年代の大江を、ある意味停滞させ
また「晩年」への出発点ともなったのは間違いあるまい
「河馬に噛まれる」はその発表時
本多への回答であるとされた
左派赤軍のイメージを、本多に当ては -
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大江健三郎作品は短編以外では初でした。大江健三郎さんの文章を読んで自信を無くし小説を書くのを諦めた人も多いと言う話を聞きました。
少し回りくどく慣れるのに時間がかかったのですが、慣れてしまうと、こんな事まで文章で表現出来てしまうんだと驚きます。
自然の描写、人間の心の動き、複数の人間の間に流れる空気の変化など。
動物の死骸の描写や、戦時中の貧しい人達の見窄らしさ、惨めさが内面も含めて、とても細やかに描写されており、何だか堪らなくなりました。
始終陰鬱な雰囲気に包まれた話ですがそれだけでは終わらないよい意味での裏切りもかい見えて読後感は予想よりは悪くなかったです。
第二次世界大戦終結直前の山村が