大江健三郎のレビュー一覧

  • 芽むしり仔撃ち

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    疫病などに接した際の人間の暴力性が見事に描かれている。最近のコロナの中の同調圧力でも分ったように人間は閉塞された環境ではこういうことをする生き物なんだなぁと、そういう本質を突きつけられた。

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    2023年05月26日
  • 治療塔

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     「著者初の本格的近未来SF」と銘打たれているが、発表当時の評価はあまり芳しくなかったような記憶がある。スペースシャトル「チャレンジャー」事故など、1980年代後半の出来事から作り上げられた世界観なので、古いと言えば古いのだが、東京電力福島第一原発事故を経た現在から見ると、作中に描かれた核戦争後の「残留者」たちの生活が奇妙なリアリティを持って迫って来るから不思議である。
     ストーリーとしては決して起伏がある作品ではない。エクリチュールの緊張感という意味でも、直前に読んだ『万延元年のフットボール』に比べるべくもない。しかし、核に汚染された土地にうっそうと生える木々や雑草の力強い様子が、なぜだか印

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    2023年05月09日
  • われらの狂気を生き延びる道を教えよ

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    人間の内奥に居座る、根源的な黒いものを「狂気」として捉えている。
    福永光司著の「荘子」にて、人間は非合理で混沌な存在であると述べられているのを思い出したが、この説明のつかない非合理性は「狂気」の表出ではないだろうか。

    詩、私小説、エッセイを総合した、40年前の短編・中編集でありながら、「新しい」文学の試みだと思う。

    「走れ、走りつづけよ」も好きだが、やはり最後の中編「父よ、あなたはどこへ行くのか」は難解ながらも味わったことのない読書体験を得られた。掴みきれていない部分もあるので、必ず読み直したい。

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    2023年05月06日
  • ヒロシマ・ノート

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    大江健三郎氏の訃報を受け、ずっと積読となっていたこちらを。
    終戦後何年も広島の原爆被災者から、その苦悩や悲惨さは語られなかった。ずっと存在していた被爆者に対する差別。誤った原爆症に関する情報。。。
    忘れてはならない事、持ち続けなければならない信念がある。
    大江氏のご冥福をお祈りします。

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    2023年04月30日
  • 個人的な体験

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     鳥は邪魔者だと思っていた赤んぼうを最終的には受容し自らに父親としての責任を感じるが話はそんなに簡単なのか?
     私は常に子供から逃避していた人間が最後にケロッと父親とならねばならないと、この赤んぼうと生きねばならないと思えるようになるとは素直に納得できない。本当にその責任を感じられる人間とは、赤んぼうを目の前にその将来への暗さや不安をなんとかして受け止めようと試みた人間ではなかろうか。赤んぼうから離れ、情人と逢瀬を重ねている人間より、一度その子供の首に手をかけてしまうほど絶望した人間の方がまだ救済の希望は大きい。自分の子供を殺そうと思った人間は、鳥言うように、引き受けるか殺すかの境地に至ってい

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    2023年05月06日
  • 空の怪物アグイー

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    短編集。めちゃくちゃ心震え感動に胸打たれた!というものはなかったが、どれもそれなりに面白かった。『不満足』は暗すぎて好きではないが。

    全体的に暗いのはいつも通りだが、それプラス諧謔、皮肉が効いている印象を受けた。
    『スパルタ教育』、『敬老週間』、『アトミックエイジの守護神』は特にそう。『スパルタ教育』は特に好き。「恐怖は負け犬でいるよりマシ」というメッセージがとてもストレートに描かれている。
    『空の怪物アグイー』は、『個人的な体験』と同じテーマを扱いながらだいぶ軽やかだなと思った。
    解説の「副題をつけるとしたら『現代の恐怖』」というのは的確だなと思った。様々な恐怖が描かれていて暗い。

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    2023年04月10日
  • 個人的な体験

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    ネタバレ

    終わり方が自然で、ああ、実際こうなるんだろうなあ、と納得感のある最後だった。
    ただ、自己中心的なバードの行動には苛々するし、女友達の厄介さといったらない。一方で内面の描写が非常に飾らなくて人間らしく共感してしまう部分があるので、彼を真っ向から責められない自分にも呆れるという始末。
    優れた作品で面白いが、読後感は清々しくないので気力のある時に読んでほしい。

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    2023年03月29日
  • 僕が本当に若かった頃

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    半分くらいは自選短編集に掲載されていたが、表題作が読みたくて購入。
    なるほど、自選短編集には選ばないだろうなという完成度だったが、好みの構成で「やりますか!」「ギルティ」などの迷言、迷フレーズもあって楽しく読めた。

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    2023年03月25日
  • われらの時代

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    行動しないことの絶望、行動したらしたでまた次の選択を迫られて結局行き詰まりとなる絶望、閉塞感。戦争に敗れた国を覆うそれらが性を通じて個人の不能として襲いかかる。言葉もまた、国語であるという点においても不自由をもたらす。プールの犯罪者が捕らえられたのちの静けさが好きだった。

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    2023年03月19日
  • 芽むしり仔撃ち

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    ちょっとクレージーな男の子の自立の物語。と言っても、読書会で賛同は得られなかった(^_^;)

    凶暴化した社会は主人公の凶暴と呼応している。その中で、純粋なものを失っていくのは、暴力と直接リンクしているわけでなく、暴力の周縁で発生し、主人公を揺さぶる。

    現代の10代にもそうしたことがあるのか、私には分からない。
    しかし仮にあったとしても、ある小説家としてのその一部にあったと思えば、やり抜ける気がしてくるんじゃないだろうか。

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    2023年03月02日
  • 死者の奢り・飼育

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     これを20代前半で書いた人間はどんな人生を生き、そしてどのような人間性でもってこれを書いたのだろうか。その疑問は本作の内容よりも私の心を捉えたが、残念ながら読めば読むほどわからなくなっていった。
     読む前に、大江健三郎について私が持っていた手がかりというのは彼が愛媛の田舎の大自然のなかで育ったらしいということだけだった。私はそれがある程度本作の土壌を形成する要素となっているのだろうかと想定していたが、本書からその印象は全く感じられなかった。それよりもむしろ、村、僕の家、黒人が囚われていた監獄といった暗く四角い空間が生む暗鬱な閉塞感が強く印象に残った。

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    2023年06月01日
  • 新しい文学のために

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    文学作品を読むための方法について、著者がみずからの創作体験を踏まえながら考察をおこなっている本です。

    著者は、文学について「客観的な尺度」が存在するという考えが、たちまち裏切られるものであることを知りながらも、「小説を書きながら、あるいは小説を読みながら……ある客観的な尺度による批評、しかも自分としてそれを喜び、心から同意できる批評ということを夢想しないものがいるだろうか」と語ります。そこには、「客観的な尺度」を求める個の態度が、文学をつくり出す、あるいは文学を読み解くという試みにつながり、それを共同の場へもたらしたあと、ふたたび個の作業へと帰っていくというプロセスを後押ししているという著者

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    2022年11月13日
  • 静かな生活

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    静かな生活といふ表題作
     以前ツイッターで、気分が滅入った時には短篇「静かな生活」を読むと恢復する。といふ趣旨のツイートを見かけた。表題作だけは三度目くらゐの再読になるが読んでみて、本当にその通りだと思った。

     今回映画で感動したのをきっかけに初めて通して読んだが、表題作は連作中で群を抜いておもしろいと思ふ。アクション的な描き方と伏線のために。
     むしろ「この惑星の棄て子」と「案内人」はキリスト教色が鼻につく感じ(前者は情景描写も長いと思った)で、「自動人形の悪夢」と「小説の悲しみ」はイーヨーに対する思ひを吐露してゐるが、表題作に比べて幾分あっさりしてゐる。「家としての日記」は表題作同様にス

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    2022年10月09日
  • 空の怪物アグイー

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    どれも安定して面白い貴重な短編集。
    オーケンが文字で表したい事がしっかり明示され、最初期と比べるとライトさも感じる。彼の入門書として最適解かもしれない。

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    2023年09月08日
  • 取り替え子

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    この辺から後期オーケンとでも言うのだろうか。
    文から角というかクセが取れている(それでも読み易い文ではないが)。
    息子の光氏につき特に丁寧な扱いをしているが、唸る様な描写が少なく若干物足りなさを感じた。

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    2022年09月15日
  • 静かな生活

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    オーケンの入門にとても適したソフトさを感じる。
    内容は長男の光さんを題材にした必勝のフォーマット(?)、私小説的小説で自分の好みだがソフトなあまりハッとする箇所が少なかった様に感じた。
    総じて楽しく読めたので、大衆にも適した素敵な作品。

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    2022年09月15日
  • 万延元年のフットボール

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    なぜこれを読もうと思ったのか?
    ノーベル賞受賞の根拠となったらしい作品だから、というミーハーな動機・・・

    冒頭だけ読んだ時点では、蛭子能収のマンガみたいな不条理作品なのかこれは?と思ってしまい、文章の読みにくさもあってげんなりしてしまったけど、読み進めていくにつれて意外と普通に理解していけばよい作品なんだと気づいた。

    乱暴に要約するなら、主人公兄弟が「本当のこと」を自他に認められるようになるまで、という至極真っ当な話、ではある。
    加えて、60年安保闘争の空気感とか、歴史的事件を踏まえた神話的ストーリー展開とか、開化されゆく地方の習俗とか、重層的なテーマが絡み合ってとても読み応えがある。人類

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    2022年08月27日
  • 河馬に噛まれる

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    大江健三郎といえば、「左翼」のイメージを持つ人が多い
    僕もそうである
    しかし、それはやはりそう単純な話ではないのだ
    というのも80年代以降
    大江は、朝日ジャーナルの本多勝一から
    激しいバッシングを受け続けているからだ
    「反核のくせに核推進派の文藝春秋から仕事をもらっている」
    というのが、批判のとっかかりだったらしい
    大江じしんはそれを「不当としか思えない」と言い切ってるし
    僕もまあそう思う
    しかしこのバッシングが
    80年代の大江を、ある意味停滞させ
    また「晩年」への出発点ともなったのは間違いあるまい
    「河馬に噛まれる」はその発表時
    本多への回答であるとされた
    左派赤軍のイメージを、本多に当ては

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    2022年02月21日
  • 空の怪物アグイー

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    これはA子さんの恋人から。

    作者の的確な描写により、体臭やら、汗臭さ、街の埃臭さなどの「生の人間」が生きる環境をジリジリと感じ、喫茶店でコーヒーとか軽食取りながら読んでいたら気分が悪くなってしまう。いや、僭越ながら…凄まじい褒め言葉です。

    こう,その当時の時代の空気を想像するに十分な描写。もっと読んでみたくなりました。

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    2021年10月29日
  • 空の怪物アグイー

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    1950年代〜1960年代を舞台にした青春小説。

    「異常な世界を平気な様子で生きなければならない時代」という意味では今とそうは変わらないのかもしれない。

    この異常な世界に放り込まれた主人公たちを導くのが、いずれも精神異常者や地下社会の人間など「同じ時間を生きているのに、別の世界を生きている人間」であるのが興味深い。

    危ういバランスで存在している“この世界”と“もうひとつの世界”を私たちは多元的に生きているのだ。

    「不満足」の、遺体を積んだオート三輪が早朝の町を駆け抜けるラストシーンは美しかった。

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    2021年10月09日