【感想・ネタバレ】晩年様式集のレビュー

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ 2023年11月10日

大江の後期をいくつか読んできて、一番面白かった。変なエロとか暴力(殺人)がないのがいい。『水死』も最後にどちらも唐突に出てくるし。とはいうものの、そこはかとない"不穏"は一番かも。いままで作中で声を上げられなかった、書かれた女性陣からの反撃や若い世代との考え方の違い。違和のあるま...続きを読むまにヘンにまとめようとせず、最後は祈りに似た詩で終わる。いつもは正確な文章がところどころで破綻してたり、ずっと硬い散文を書いてきたのにその最後の作品の締めくくりが詩だったり、、これは新しい境地なのか単なる衰えなのか。興味深い。

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Posted by ブクログ 2019年08月04日

「赤革のトランク」に入っていた古い手紙類などは
ほとんど資料的価値のないもので
長江古義人は結局
父の不可解な死にまつわる謎を解くことができなかった
そんなわけで、長江には父についての核心的な思い出がない
ただし、父に代わって彼の人格形成に深い影響を与えた人物は2人いた
ひとりは松山の高校に入ったと...続きを読むき出会った親友で
のちには義兄ともなった映画監督の塙吾良
もう一人は、戦後「森」に帰ってきた本家筋のギー兄さんである
ところが前作「水死」では
老齢を迎えた長江じしんが、おそらくは人生初といっていいだろう
父親としての試練を前に立ちすくむこととなった
それは、長男アカリの善意による「イタズラ書き」に端を発した
父への反抗と、家庭内不和である
劇団関係の仕事に乗じ、四国の森にアカリとの共同生活を営むうち
問題はなんとなくウヤムヤになってしまったが
きちんとした結論があって落ち着いたわけではなかった
女たちのあいだにくすぶったそのわだかまりが
近親者のみに配布するプライベートな雑誌づくりというアイデアを
思い立たせたのだろう
それはまず、小説の題材として扱われてきた家族たちからの
異議申し立てを形にするという意図ではじまる
アメリカに拠点を置くギー・ジュニアや
塙吾良の若い「女友達」だったシマ浦さんも加えて
雑誌は号数を重ねていくが
それにつれ読者の前で明らかになっていくのは
それぞれに不可解な死に方をした塙吾良とギー兄さんのことが
実はまったくわかっていないまま
根拠の乏しい思い込みで納得しようとする長江の姿だった
それはひょっとすると
読者へのわかりやすさを言い訳に
…それで必ずしも読者の理解を得られたとは言い切れないにせよ…
事実を簡略化、あるいは
ねじ曲げてきた姿勢と通じる安易さそのものかもしれないし
もっと言えば自分自身の核心から目を背けている証拠かもしれなかった

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Posted by ブクログ 2017年04月01日

難しい。複雑な事情を複雑なまま表現していようとしているんじゃないかと感じた。はちゃめちゃな文体だ。そしてそれは、確かに読者をいい具合にも刺激させる。

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Posted by ブクログ 2017年01月16日

試みが成功しているかはともかく、相当意欲的な作品だ。群像での連載時に最初の数回のテンションに、これは!と思ったけど、ギー・ジュニア登場以降について行けなくなり一旦断念。文庫化で読み直したけど、そこの印象は変わらずも何とか読破。しかし、途中でそのようなブレに対して作中の登場人物(真木)が同様の批評をし...続きを読むていたのにはちょっと笑った。

自らのテキストをメタ的に批評する手法、社会状況を個人の体験と重ねて消化しようとする手法。前作では長年の宿題としていた父の死に対し、今回はまた伊丹十三、また後期作品の核であるギー兄さんの死に向き合う。自らの老年の危機、それと直結するアカリ、家族の危機、また、長年のテーマである核へも対峙せざる得なくなるという状況。凡百の作家であればお茶を濁すものを、この作家はとにかく正面切って向き合おうとだけはする。あまりにもテーマが多岐に渡り、商業作品として必ずしも消化し切れていない嫌いは確かにあるが、そのようなスタイルを示す、それで書いてみるということこそがこの作家の本領なのだ。(一点、どうしても残念なのはタイトル。そもそもの着想からいけばしょうがないが、この作家の無二のタイトルセンスを味わいたかった)

老齢の極み(度々失礼)にあって、このように作家として誠実に生きる彼を映し出す作品を我々は読まなければいけないと思う。個々の作品の出来のみがその本を読むかどうかの判断基準にならない、継続的な歴史を持った作家というのは本当に少ないのだ。もっともっとみんな大江を読むべき。今のうちに!

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