彩瀬まるのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
別れた男に片腕をもらい、その片腕と共に暮らす女。ある日、男の妻が訪ねてきて、意外な要求を受ける(『くちなし』)。
繊細で不思議な幻想世界を描く愛の短編集。
表題作を含め7篇を収録していますが、別れた男の片腕と暮らす女、運命の恋人同士に見えるという幻の花、難民の少年との人形遊びなど、どれも現実とは少しだけ乖離した不思議な物語。けれど、描かれるのは淡々としていつつ繊細で、その中にとろりとした熱の籠った愛の世界。
本当に7篇全てがそれぞれ唯一無二で、それでいてどの話も本当に良いです。
幻想作品めいたものばかり取り上げてしまいましたが、現代日本を舞台にしていると思しき作品も2作ほど収録されています。
一番心に残ったのは、やっぱり表題作の『くちなし』。主人公と共に暮らす貰った「片腕」が、無垢でありながらどこか艶っぽく、とても可愛らしく見えます。
ラストのすっと醒めた感じも好き。 -
Posted by ブクログ
思ってた以上に、読んでいて苦しくなってしまった。
知らず知らずにかけられてしまった、「みっともない人間になるな」「あなたは頭が悪い」という呪い。そのせいで、主人公は、自分を否定する思考が当たり前になっていて、辛そうだ。誰にでも、生きていればいつの間にか自分の中に漠然とした縛りが生まれる。それは大抵自分を制御するもの、本当の自分を否定するものになり得るんじゃないかと思う。
誰にでも歪んだ部分があって、どうしようもない部分があって、それを上塗りするために時には誰かを嘲笑ったりして、生きている。
彩瀬さんの作品を読むのは3作目だけど
人の弱さや黒い部分を包み隠さず表現してくれて、
そっと寄り添ってくれるような物語が多くて好きだ。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ親子感の悩み、人とは話せないことをこうやって小説が相談相手になってくれる
主人公が抱える親に対して、親が辛い目にあったから私は側にずっといてあげないと、親が言う通りにしないと、って自分がしたいことを自然とできなくなるし言えなくなる。それが社会にでても人と接するのにすごく影響してしまう、
本当に人に言えなかったことを彼女が代弁してくれてるような気がして救われた。
恋愛小説って感じは私には一つも感じなくて
1人の女性がそういう呪縛?束縛?閉鎖的?なことから徐々に解放されて自分として生きていく本だと思った。すごく良かった、読めてよかった -
Posted by ブクログ
前情報なく入りました。
最初主人公が何なのか分からずに読み進めて、やっとチャボが主人公で茂が人間だということが分かりました。そこからは読みやすく、難しい表現もそんなにない。
途中、これはどんな結末だ?着地点はなんだ?と多少不安になりますが、中盤以降でグイグイ読めました。
読み終えた後は、仕事や家事で悩んでいる自分を誇らしく思えるような、そんな温かい元気をもらえた気がします。
動物目線で描かれるので、周りの人に対する想いがフラット。周りで起きていることは意外と波風が立っていて、普通だったら結構大きな出来事なのに、桜の目線から語られるとあまり大したことないように思えてそこも良かったです。
また、桜の茂に対する想いも屈託がなくまっすぐで、愛するとはこういうことなのだろうと思い知らされました。
綾瀬まるさんらしい、ぬくぬくあったか小説でした! -
Posted by ブクログ
彩瀬まる、怒涛の三連続読破。ちょっと中毒性があるね。私の前には他の本も読んでくださいと言って並んでいるから、そちらの方も無視はできない。ひとしきり読んだら、また戻って来るから、安心して待っていて下さい。
今回は、本の題名と同じ作品は無く、各作品に「朝が来るまでそばにいる」という状況が共通して出てくる。こういった短編のまとめ方は初めて体験した。最初からこういった短編集を出版するために作品に共通概念を組み込んだのだろうか。そうだったら素晴らしい。今回もその素晴らしさを書き記して永遠に心に留めておきたい。そのためには今回も各作品についてコメントしたい。ただし、共通部分には敢えて触れないでおく。
〇「君の心臓をいただくまで」
強い人だなぁ、本当に強い。どうしたらこんなに強くなれるのだろうか。そばにいて心の隙間を狙って入って来る存在。あくまでも自分に自然に溶け込んでいく存在。逆に入って来てもらった方が楽になるかもしれない。でも、確固たる信念でそれを拒否して最後には自分を取り戻す。こんなの特別な人でなければ断ち切る事なんてできない。本当に強い人だ。
〇「ゆびのいと」
最初は何の変哲もない話だと思っていたが、そういう話なんですね。違和感ワードが一つ出ると、それがベースとなって話が進展していくとは、そして結末まで一直線に進む。引き込まれる速度がブラックホールに徐々に引っ張られていく星間物質の様に、その加速度が半端ない。そしてシュワルツシルト半径に到達して話は一気に事象の地平線で留まる。その後は、外からはどうにもできない状態になる、という感じかな。
〇「眼が開くとき」
キーワードは「ぱりぱりぐちゃぐちゃぼりぼりごくん」。衝撃的な擬音語で、主人公の心の底辺から突如として湧き出してくる不安定感情。獲物が捕食されて命は直ぐに尽きてしまうのだが、命を落とした直後から一定期間亡骸が徐々に小さくなっていく、その間の捕食者が得た快楽が突如無くなったら人生の目標を失い、最終的にはその絶望により自ら命を絶つ、いやそれに抵抗するか。どちらになるかは曖昧のまま・・・それが終わり方としてはベストだろう。
〇「よるのふち」
久々に良い話を読んだ。読み終わると同時に、ずーーと頭に発生していた痺れがスッと引いた。そして大きなため息。それを吐き出し終えた 後に、今度はすぐに感動の痺れが襲ってきて、なかなか引かない。心臓の動悸もなかなか収まらない。母親が子供時代に亡くなった経験はないが、もし同じことが起こったら、もし同じシチュエーションに追い込まれたらと考えると本当に胸が痛い。程なくして新しい母親が来て欲しい。そして、当面はギスギスした家庭内の雰囲気は続くが、数年で温かい家庭が戻る、当然母親が生きていた時と全く同じ状態にはならないが、子供が大人になるにつれて全員幸せになる、というストーリーを感じさせる結末になって本当に良かった。
〇「明滅」
雨が降ろうとも、過去がどうであろうとも、恐怖体験があろうとも、セックスレスでも、仕事が順調に向かっていても、二人の間に流れる静かな時間は永遠に続く。時間の太さは変わらず、どちらかが年老いて死んでも普遍的な時間は均等に進んで行くのかもしれない。この様な変化のない人生、憧れます。いつ洪水が襲ってくるのか頭の片隅で考えながら読んでいたが、最後まで洪水は発生せず、本作品も本当に良かった、安心した。平穏に生き、平穏に死ぬことができれば、二人にとってこれ以上の幸せはないだろう。
〇「かいぶつの名前」
トイレのはなこさん的お話かと思ったが、実に深刻な問題だった。少し脚本家のお力を拝借すれば、悲しい事件を防止できるテレビドラマになることだろう。
これね、何回も言うけど本当に中毒、もう依存症になってしまった。感想文も久々に長くなってしまった。もうこれでは、次に読む本も彩瀬まるになってしまう。家には大量に入手した彩瀬まるの本が積んであるので直ぐに彩瀬まるに手を出してしまう。でも、彩瀬まるの作品には限りがあるんだな。この調子で読み続ければ読む本がこの世から無くなってしまい、強烈な禁断症状が発生し頓死してしまう。そうならないためには、ここで強い意志を持って彩瀬まるを一旦断ち切る!体内から彩瀬まるを徹底的に抜く。そうしないと廃人になってしまう。頑張って彩瀬まるを絶つ、絶たなければならない。頑張る!!!(大涙) -
Posted by ブクログ
彩瀬まるに嵌っちゃったな。私にとっての初めて彩瀬まる作品「なんどでも生まれる」が新刊で発売されるのを機に、駅前の書店を巡りに巡ったところ、一店だけ単行本・文庫本含めて7冊置いており、この機を逃すものかと大人買いをしたのが懐かしい。今回の文庫新刊「川のほとりで羽化するぼくら」も10月の出版と同時に速攻で購入した。
おおまかに彩瀬まるの作風を経験しているので、読み進めるのは速い。2日でじっくり読んだ。本書は2021年8月に単行本で出版されたものを文庫化したとのこと。4作品からなる短編集で、解説はSF界の池澤春菜ということで、ジャンルは辛うじてSF、いや?ファンタジーに区分されるか?一応、池澤春菜が解説であらすじを書いてはいるが、各作品がそれぞれ独自のテーマで書かれているので、今回は各作品について個別に私なりの感想を特に川に拘らず述べたい。
〇「わたれない」
今、政治が揺れている。子育て支援の財源はどうする。防衛、物価高対策、景気対策、103万円の壁、その他もろもろ一体どうするの?育休の現状については最近では話題にも上がってこない。現状維持なのか、少々は良くなっているのか。それと、自分はどれだけ子育てに関与していただろうかと振り返るきっかけを与えてくれた。まだまだ日本は遅れている。北欧を見習うべきだと教育評論家は言う。そんな中、この作品を読むと、何か主人公の考え方が自然なんだよね。極めて自然。自分自身、そして周りの人達との関係性が緩やかに変化していくのも、そのスピードが実に心地良い。人生におけるアクセントは少しであるに越したことはない。
〇「ながれゆく」
実在しない世界なのでファンタジー。七夕の世界も毎年毎年同じではない。時の流れ、ではなく世代交代によって登場人物の考え方が少しずつ変わっていくのは、人間社会も同じ。伝統がいくら頑丈な物であっても、生活も決まり事も当初とは徐々に変わっていくのは仕方が無い。機械だって伝統工芸だって全く同じものは作れない。やはり、この様な多様性を有する物語の先には、これまでの常識を覆すような素晴らしい世界が広がっているし、その世界を手に入れるためには勇気が必要、ん?これってやはり人間社会の話?
〇「ゆれながら」
これ本当に嫌な話。でも実際にこの様な世界が実在していたのだから人間って本当に罪深い生き物。また、子供を作ると補助金が出るって、これからの日本が行おうとしている社会だ。でも、途中でいきなりSFワールドに入ってしまう。しかし、どこかで読んだようなアイディアに懐かしさを感じる。結局はこの作品も極めて人間的、いや人間臭い話で終わるのは一種のどんでん返しなのかもしれない。個人的には、辛うじて日常を取り戻させてくれて作者に感謝したい。救われた。
〇「ひかるほし」
要は田舎のお婆さんとそれを取り巻く田舎ではどこにでもいる人達の話。このありふれた話の中にも作者のメッセージが織り込まれている。呆け老人を除けば、半世紀で老人の考え方は大幅に変化した。そして、今後の医療の革新により、確実に老人社会は変容する。ボケ老人も減るだろう。50年後の日本社会はどうなるのか、100年後はその様な老人にとってワクワクするような社会が成立しているだろうか。たぶん男女格差はなくなっているかもしれないが、果たして小説から「男女差別」と言う文字は消えているだろうか。そうであれば平和な社会になっているだろう。しかし、アフリカやイスラム社会では、そうなるには時間がかなりかかりそうだ。
この作品の一部では、「川」は「格差」、もっと酷く言えば「差別」なのだろうか?考えすぎか?この「川」を乗り越えることが「羽化」ということなのか?もうちょっと彩瀬まるからいろいろな事を教えて貰いたい。