【感想・ネタバレ】朝が来るまでそばにいる(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

火葬したはずの妻が家にいた。「体がなくなったって、私はあなたの奥さんだから」。生前と同じように振る舞う彼女との、本当の別れが来る前に、俺は果たせなかった新婚旅行に向かった(「ゆびのいと」)。屋上から落ちたのに、なぜ私は消えなかったのだろう。早く消えたい。女子トイレに潜む、あの子みたいになる前に(「かいぶつの名前」)。生も死も、夢も現(うつつ)も飛び越えて、こころを救う物語。(解説・名久井直子)

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Posted by ブクログ

ものすごく抽象的なようで、リアルで生々しく、わかりにくいようで「なんか知ってる、この感じ」と思わせる描写が何とも言えず癖になる。
面白いという感想があってるのかはわからないけど、胸の奥がずんと重くなるような存在感のある一冊。

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2025年04月01日

Posted by ブクログ

あなたは、『死者が差し出すもの』を口にしたことがあるでしょうか?

 ((( ;゚Д゚))エッ!?

自分で作る場合は別にして、私たちは日々誰かが作ってくれた食べ物を口にしています。それは、親かもしれませんし、子供かもしれません。そして、『妻』という場合もあるでしょう。人によって料理の上手い下手はあるとは言え、誰かに作ってもらった料理を食べるというのは幸せな瞬間だと思います。

 『食卓へつき、いただきますと手を合わせ、慣れ親しんだ料理を食べ始める』。

すっかり日常になった当たり前の光景の中にはその喜びを忘れてしまうこともあるかもしれませんが、そんな感覚を持てること自体安寧な生活が続いている何よりもの証拠です。しかし、私たちの日常はいつ何時大きく変化するかは分かりません。安寧な生活は永遠でなないのです。

さてここに、『焼き場から帰った日にも』『変わらず台所に立って夕飯を作って』くれる『妻』を見る夫の姿が描かれる物語があります。『焼かれたんじゃないのか』と訊く夫に『焼かれたよ』とサラッと答える『妻』を見るこの作品。そんな『妻』の作る『強烈な生臭さ』の残る肉料理を食べる夫を見るこの作品。そしてそれは、亡くなった『妻』=『死者が差し出すもの』を食べ続ける夫の不可思議な日常を見る物語です。

 ∑ヾ(;゚□゚)ノギャアアーー!!

『他県に嫁いでいった さゆりに会うのは一年ぶりだ』という中に『日菜子のところはどうなの?前に欲しいって言ってたけど、その後は順調?』と訊かれ『うーん』、『まだちょっと仕事でばたばたしてるから、ふんぎりがつかなくて』と答えるのは主人公の大村日菜子(おおむら ひなこ)。それに『ああ、なんだっけ。教室長になっちゃったんだっけ』、『どうよ、一国一城の主』と さゆりに言われた日菜子は『バイトの大学生が言うこと聞かなくてさー。経理とか契約とか、授業以外の仕事がどっちゃりあって、大変』と返します。二年ほど前から『小中学生向けの個別指導の学習塾の教室を一つ運営している』という 日菜子は、『飽きてむずかり始めた翔太くんを抱き上げてあやす』さゆりを見て『ただ仕事が忙しくて、子供を作るのを後回しにしているだけのような気分になって』きます。『黒目がちな目を和らげてにっこりと笑う』翔太を見て『たまらなくかわいい』と思う日菜子。そんな日菜子は『ここへ来る途中に、鳩を見』ました。『雨に濡れ、丸まりながら道の端にうずくまってい』た鳩を見て『あんたどうしたの、とつい独り言のように呟くと、鳩は曲げていた首を伸ばして眩しげにこちらを見』ます。それは『黒い、奥行きのない平たい目』であり、『ああもう弱っているのか、と思った途端、お腹の奥がひゅっと冷えた』日菜子は『ここのところ道を歩いていると弱った鳥だけだなく、動物や虫の死骸など、いやなものばかり目に入』ると思います。『なにか暗いものでも引き寄せているのだろうか』と思う日菜子。
場面は変わり、『駅のホームで さゆりと別れた』日菜子は『下腹部を撫で』ます。『本当は今日、君をさゆりに紹介したかった。きっと大喜びで、翔太くんと一緒に遊ぶ場所を考えてくれただろう。でも今日は さゆりと翔太くんに、お疲れさま、無事に産まれておめでとうと伝える会だったから、ごめんよ』と、『聞こえているのかいないのかわからない、小さなかたまりへ呼びかけ』ます。そして、『最寄り駅に降り、小雨を傘で避けながら家路を辿る』日菜子は『横断歩道を渡る途中で、前方に不思議な丸いものが落ちているのを見つけ』ます。『色は灰色で、濃淡がある。正月の丸餅のようなかたちをしている』と、気になって近づいた日菜子は『見なければよかったと後悔し』ます。『鳩が死んでいた。きっと、さっきの鳩だろう』と思う日菜子は、その場を歩き去り、『アパートの二階に位置する自室へ飛び込み』ました。『機械メーカーの資材調達部門に属している夫は、今月いっぱいは出張で東南アジアの関連工場を巡ることになってい』ます。『二日前の検査の結果を伝えたメールには、「安静にしてて。とにかく帰ってからよく話そう」と短い文面が返ってき』ました。『二日前の検査で、この時期には出ているべき特徴がない』、『残念ですが、こういうの多いんですよ。あなたみたいに診察に来たうちの三人に一人ぐらいはね、うまくいかなくて』と医者に言われた日菜子。『エ、もう、ここから育つことは絶対にないんですか』そんな風に問いかけた日菜子に『それじゃあ、再来週もう一度診てみましょう。まあ、もしかしたら心拍が出てくるかもしれないし』と言う医者。そして、『誰もいない家に帰宅して玄関の扉を閉めた瞬間、眼球の奥の重要な器官がぱちんと鋏で断ち切られたみたいに大粒の涙がぼろぼろと落ちた』という日菜子。『ストッキングに締めつけられた下腹部がちくりと痛む』という日菜子は『今まではここに違うものが生きているのだと思い、奇妙で、少し恐ろしくて、楽しかった』、しかし『今は、生きているのか死んでいるのか、わからないものがここにいる』と思います。『子供が無事に産まれるなんて、ちょっとした奇跡みたいなものだ』と思う日菜子のそれからの日々が描かれていきます…という最初の短編〈君の心臓をいだくまで〉。冒頭からあまりに重苦しい雰囲気感に包まれるこの作品のあり様を象徴するような短編でした。

“弱ったとき、逃げたいとき、見たくないものが見えてくる。高校の廊下にうずくまる、かつての少女だったものの影。疲れた女の部屋でせっせと料理を作る黒い鳥。母が亡くなってから毎夜現れる白い手…。何気ない暮らしの中に不意に現れる、この世の外から来たものたち。傷ついた人間を甘く優しくゆさぶり、心の闇を広げていく ー 新鋭が描く、幻想から再生へと続く連作短編集”と内容紹介にうたわれるこの作品。内容紹介には”連作短編集”とありますが、短編間に直接的な繋がりはありません。しかし、なんとも言い難い不気味な雰囲気感が作品を一つに繋ぎ合わせています。そんな雰囲気感は私が苦手とする”ホラー”に繋がるものでもあります。ではまずは、この作品を象徴する不気味な表現を見てみましょう。

 『女の手は血管を浮き立たせてぶるぶると震え、五枚の爪で容赦なく肉を食い締めた。白くなめらかな皮膚から、ふいに毛穴を押し広げて濡れた真っ黒な羽が噴き出す。カギ型に曲がった指は醜く太り、木の根のごとく関節を隆起させる。爪が鋭さを増し、皮膚を破って肉を刺した。鬼の爪に、自分の血がしみていく』。

『肉を食い締め』という言い方があるのか!と初めて知りましたが何が起こるのだろうという不気味さが伝わってくる表現です。”ホラー”な雰囲気感が全くダメな私にはもうこれだけで逃げたくなります。

 『天井まで届きそうな大きな肉のかたまりに、大小無数の目と鼻と口が浮かび上がっている。私の体はとっくに火葬されたのに、この肉にうごめくものたちはひとつひとつがまだ生きていて、さざめき、ふるえ、懸命にそれぞれの役割を果たそうとしていた。無数の目がまばたきを繰り返し、物欲しげに周囲の動きを追う』。

『大小無数の目と鼻と口が浮かび上がっている』って、これ、”ホラー”以外の何ものでもないでしょう。キャーっ!怖いよー!ヤバイよー!でも読むのはやめたくないよー!という感じで読みました(笑)

また、そんな作品には表現としての怖さだけではなく、想像するともっと怖い!という設定が頻出します。こちらも見てみましょう。〈ゆびのいと〉の冒頭に描かれる場面です。

 『「体がなくなったって、私は光樹の奥さんだから。ごはんも作るし、お世話もするよ」凜とした力強い宣言に、光樹はああ、と相づちを打った』

これは、妻の葬儀を終え、『焼き場から帰った』夫の光樹が目にする光景です。『焼き場』で『焼かれた』はずの『妻』がごはんを作っているというまさかの光景。ひぇーっという言葉しかありません。これを”ホラー”と言わずして何が”ホラー”なのでしょうか。キャーっ!怖いよー!ヤバイよー!

 『あなたで三人目よ。この学校、多いのね』

えっ?何?というこの一文。〈かいぶつの名前〉の冒頭に登場する表現ですが、分かりますよね?『多いのね』って生徒の数が多いわけじゃないですよ。分かりますよね。これが何を指しているか。そして、『あなたで』という表現からこの作品の主人公は、その『多い』と言われる存在だと言うことも分かります。キャーっ!怖いよー!ヤバイよー!しつこいって?(汗) 失礼しました。いずれにしてもこの作品の設定がヤバいことはお分かりいただけたかと思います。

では、そんな作品から3つの短編を具体的に見ていきましょう。

 ・〈ゆびのいと〉: 『柔らかなウールの毛糸』を小指と小指に結んで一緒に寝るという日々を送っていた光樹と千尋。『大学を卒業して数年がたち』、今度は『銀の指輪でお互いを結び合うようになった』二人。『焼き場から帰った日にも、千尋は変わらず台所に立って夕飯を作ってい』ました。『焼かれたんじゃないのか』と訊く光樹に『焼かれたよ。肉は腐っちゃうから…』と答える千尋は、『体がなくなったって、私は光樹の奥さんだから…』と続けます。そんな千尋が作る料理の『強烈な生臭さに』『えずく』光樹。『次の日もその次の日も』光樹を迎える千尋。そんなある日『寺の跡継ぎ』である旧友の正路と会った光樹は『ついてる』、『祓ってやろうか?』と言われます。『死者が差し出すものは口にするなよ』と言われた光樹は…。

 ・〈よるのふち〉: 『真夜中に目を覚ま』し『隣の布団で』弟の良昭が眠っているのを見る主人公の宏之。喉が渇いた宏之はリビングへと向かいます。『どうした、眠れない?』と声をかけてくれる『母親の背中にしなだれかか』る宏之。『それから間もない秋の終わり、母親が交通事故で亡くな』りました。そして、『十日ぶりに』学校へと赴いた宏之の前には『なにも変わらない』日常があります。一方で弟を保育園に迎える役目を担うようになった宏之に『えらいねえ』と声をかけてくれる『母の友人たち』。しかし、弟の良昭は宏之が迎えに来たのを見て『やああっ、と投げやりな拒絶』を示します。一方で『見よう見まねで家事を始めた』父親ですがなかなか上手くはいきません。そんなある日、『部屋のどこかから、ちぷ』と音が聞こえだします…。

 ・〈かいぶつの名前〉: 『もうずいぶん長くここにいて』、『溶けて、溶けていこう、消えてしまおうと念じ続けたりしているのに』『いっこうに消えることが出来ないでいた』という『私』。そんな『私』は『夜になると、ついてくるものがいる』のに気づきます。『姿は見たことはない』ものの『なにか重たいものを引きずる音』を聞く『私』。ある日、『女子トイレの前を通りかかったとき』、『血があふれ出すのを見た』ことでなにかを理解します。『私がこの学校に入学する十年ほど前、トイレの個室にこもり安全剃刀で手首を切った中三の女子がいたという』『トイレの話』。『デマ』ではなく『本当にこの女子生徒はいたのだ』と思う『私』。そんな『私』は、『自分が屋上から落ち』『あっけない死に方』をした日のことを思い出します…。

3つの短編をご紹介しましたが、いかがでしょう。キャーっ!怖いよー!ヤバイよー!と言いたくなる私の気持ちを理解いただけたかと思います。そうです。3つの短編ともそこには亡くなったはずの存在が何かしらのアクションを起こすことから物語は展開していきます。〈ゆびのいと〉では、亡くなって火葬されたはずの妻・千尋が今までの日常と変わらずに料理を作り続けている様子が描かれます。

 『囓りつき、口の中に転がり込んできた強烈な生臭さに光樹はえずく。「なんだこれ、生なのか?」「違うよ、ちゃんと火は通ってる。レバーとかと同じで、少し癖があるんだ。すぐに慣れるから飲み込んで」まるで血の塊のような肉を息を止めてごくりと飲み込み、光樹は急いでお茶をあおった』。

そんな風に表現される千尋の料理を食べる光樹が描写される場面は強烈です。『寺の跡継ぎ』である旧友の正路に、『ついてる』、『祓ってやろうか?』と言われ、さらに『死者が差し出すものは口にするなよ』とも言われた光樹…と描かれていく物語は恐怖でしかありません。また、〈よるのふち〉の主人公・宏之の物語は幼くして母親を交通事故で突然に亡くし、残された父親と兄弟の悲壮感漂う日常が描かれていきます。そんな中に、『ちぷ』と奇妙な音が聞こえ出します。これも怖いです。しかし、この短編はそれ以上に間違いなく涙を誘う物語です。私はこの短編ですっかりウルウルしてしまいました。そして最後の短編〈かいぶつの名前〉は他の作品とは視点の主が異なります。『溶けて、溶けていこう、消えてしまおうと念じ続けたりしているのに、私はいっこうに消えることが出来ないでいた』という視点の主の『私』は、『屋上から落ち』『あっけない死に方』をした存在であることが語られていきます。そうです。この短編はまさかの死者視点で展開していく物語なのです。キャーっ!怖いよー!ヤバイよー!というこわ〜い物語がここには描かれていきます。これは強烈です。まさしく、まさしく”ホラー”そのものとも言えます。

しかし、しかしです。この作品は単なる”ホラー”ではないのです。レビュー冒頭でご紹介した〈君の心臓をいだくまで〉は、生まれる前の命のことを思う日菜子の思いが描かれます。〈ゆびのいと〉は夫と妻それぞれの愛情が根底にあります。〈よるのふち〉では、幼い子供を残して突然にこの世を去ることになった母親の思いがそこにあります。〈解説〉の名久井直子さんはその感覚をこんな風に説明されています。

 “つらいことがあっても、死んだら何もないという考えも持っていたとしても、心のどこかで、完全に関係が絶たれたわけではないと思えることは、救いになる気がします”。

死者の存在が色濃く匂わされていく6つの短編を集めた短編集に、「朝が来るまでそばにいる」という絶妙な書名を冠したこの作品。そこには、彩瀬まるさんが描くそれぞれの存在の愛情の表し方をつぶさに見るやさしさ溢れる物語が描かれていました。

 『体がなくなったって、私は光樹の奥さんだから。ごはんも作るし、お世話もするよ』

亡くなったはずの『妻』からそんなことを言われる夫の日常を見る物語など6つの短編が収録されたこの作品。そこには、本来存在しないはずのものが色濃く存在を主張する不思議な物語が描かれていました。”ホラー”と言えば”ホラー”なこの作品。そんな物語に書名が不思議なあたたかさを感じさせもするこの作品。

彩瀬まるさんらしい摩訶不思議な物語世界にどっぷり浸らせてくれる素晴らしい作品でした。

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2025年02月05日

Posted by ブクログ

彩瀬まる、怒涛の三連続読破。ちょっと中毒性があるね。私の前には他の本も読んでくださいと言って並んでいるから、そちらの方も無視はできない。ひとしきり読んだら、また戻って来るから、安心して待っていて下さい。

今回は、本の題名と同じ作品は無く、各作品に「朝が来るまでそばにいる」という状況が共通して出てくる。こういった短編のまとめ方は初めて体験した。最初からこういった短編集を出版するために作品に共通概念を組み込んだのだろうか。そうだったら素晴らしい。今回もその素晴らしさを書き記して永遠に心に留めておきたい。そのためには今回も各作品についてコメントしたい。ただし、共通部分には敢えて触れないでおく。
〇「君の心臓をいただくまで」
強い人だなぁ、本当に強い。どうしたらこんなに強くなれるのだろうか。そばにいて心の隙間を狙って入って来る存在。あくまでも自分に自然に溶け込んでいく存在。逆に入って来てもらった方が楽になるかもしれない。でも、確固たる信念でそれを拒否して最後には自分を取り戻す。こんなの特別な人でなければ断ち切る事なんてできない。本当に強い人だ。
〇「ゆびのいと」
最初は何の変哲もない話だと思っていたが、そういう話なんですね。違和感ワードが一つ出ると、それがベースとなって話が進展していくとは、そして結末まで一直線に進む。引き込まれる速度がブラックホールに徐々に引っ張られていく星間物質の様に、その加速度が半端ない。そしてシュワルツシルト半径に到達して話は一気に事象の地平線で留まる。その後は、外からはどうにもできない状態になる、という感じかな。
〇「眼が開くとき」
キーワードは「ぱりぱりぐちゃぐちゃぼりぼりごくん」。衝撃的な擬音語で、主人公の心の底辺から突如として湧き出してくる不安定感情。獲物が捕食されて命は直ぐに尽きてしまうのだが、命を落とした直後から一定期間亡骸が徐々に小さくなっていく、その間の捕食者が得た快楽が突如無くなったら人生の目標を失い、最終的にはその絶望により自ら命を絶つ、いやそれに抵抗するか。どちらになるかは曖昧のまま・・・それが終わり方としてはベストだろう。
〇「よるのふち」
久々に良い話を読んだ。読み終わると同時に、ずーーと頭に発生していた痺れがスッと引いた。そして大きなため息。それを吐き出し終えた 後に、今度はすぐに感動の痺れが襲ってきて、なかなか引かない。心臓の動悸もなかなか収まらない。母親が子供時代に亡くなった経験はないが、もし同じことが起こったら、もし同じシチュエーションに追い込まれたらと考えると本当に胸が痛い。程なくして新しい母親が来て欲しい。そして、当面はギスギスした家庭内の雰囲気は続くが、数年で温かい家庭が戻る、当然母親が生きていた時と全く同じ状態にはならないが、子供が大人になるにつれて全員幸せになる、というストーリーを感じさせる結末になって本当に良かった。
〇「明滅」
雨が降ろうとも、過去がどうであろうとも、恐怖体験があろうとも、セックスレスでも、仕事が順調に向かっていても、二人の間に流れる静かな時間は永遠に続く。時間の太さは変わらず、どちらかが年老いて死んでも普遍的な時間は均等に進んで行くのかもしれない。この様な変化のない人生、憧れます。いつ洪水が襲ってくるのか頭の片隅で考えながら読んでいたが、最後まで洪水は発生せず、本作品も本当に良かった、安心した。平穏に生き、平穏に死ぬことができれば、二人にとってこれ以上の幸せはないだろう。
〇「かいぶつの名前」
トイレのはなこさん的お話かと思ったが、実に深刻な問題だった。少し脚本家のお力を拝借すれば、悲しい事件を防止できるテレビドラマになることだろう。

これね、何回も言うけど本当に中毒、もう依存症になってしまった。感想文も久々に長くなってしまった。もうこれでは、次に読む本も彩瀬まるになってしまう。家には大量に入手した彩瀬まるの本が積んであるので直ぐに彩瀬まるに手を出してしまう。でも、彩瀬まるの作品には限りがあるんだな。この調子で読み続ければ読む本がこの世から無くなってしまい、強烈な禁断症状が発生し頓死してしまう。そうならないためには、ここで強い意志を持って彩瀬まるを一旦断ち切る!体内から彩瀬まるを徹底的に抜く。そうしないと廃人になってしまう。頑張って彩瀬まるを絶つ、絶たなければならない。頑張る!!!(大涙)

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2024年11月07日

Posted by ブクログ

誰かの生や死からくる悲しみとその悲しみが私を行ってはいけないところに引き摺りこんでくるような恐ろしさが感じられた作品だった。この本を見つけた時にタイトルの優しさに惹かれて読むことにした。それは自分のエゴから来る優しさというより誰かの我儘に仕方なく付き合うような優しさだったのだがそれがこの作品の肝であり良くないところでもあるなと気づいた時、とても鳥肌がたった。

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2024年05月11日

Posted by ブクログ

【生き続けていたら、いつか、あなたが許せないあなたのなかの怪物を、許してくれる人に会えるから。あなたが誰かの怪物を、許してあげられる日がくるから】

生と死、現と夢、獣や鬼・・・・・・などが交じり合う短編がどれも魅力的で面白かったです。
死んだはずの妻が現れたり、死んだ少女視点だったりと異形や怪異などのホラー要素がありますが、登場人物の誰しもが求める救い。
個人的には【ゆびのいと・よるのふち】が共通点があるストーリー構成・それぞれのキャラたちが迎える結末の違いが印象的で、【眼が開くとき】では青春のほろ苦さ・倒錯的な願望・欲望がたまらなく、【かいぶつの名前】では嘘で塗り固められた少女の切なさや終わらない無限獄から救済されることを願わずにはいられない心に刺さるものでした。

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2023年10月19日

Posted by ブクログ

いのちがテーマになっているような短編集。不気味な世界が多く、冷たさも感じるけれどすごく温かい不気味さ。

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2022年05月04日

Posted by ブクログ

一言でこの小説を表すとすれば、哀しいホラー短編集だと、私は思う。
全6編のうち3編は死というものが前提にあって、残りの3編にもどことなく死の匂いのようなものが漂っている。
怖い中にも湿り気や情緒があって、とても日本人好みの内容だと思う。死者の念や想いの強さが、鬼や奇鳥や地縛霊に姿を変えてこの世に取り憑く。そこには人の哀しみが溢れている。

ホラー要素はほとんどない一編「眼が開くとき」がとてもエロティックで良かった。いらやしい要素や直接的な表現は全くないのだけど、とてもエロティック。だけどある意味でとても恐ろしい物語でもある。
憧れや恋心は片目瞑って相手を見ているくらいがちょうど良く長続きもするのだろうけど、何かのタイミングで両目が開いてしまう時がある。その瞬間憧れは遠のき、そこから先本物の愛に変えてゆけるかどうか…という。

全体的に、人の念を強く感じて、読んでいる最中はとても気が重かった。愛する者に対する死者の執着とか、過去の傷を忘れられない生者の苦しみとか。
突然という形で自分の命が断たれた時にもしも愛する人がいたら、自分はどうするのだろう?と考えたりもした。自分が死んだ後もその相手が幸せに生き続けてくれたらそれで良いと、立派なことが思えるだろうか。
もしかしたらこの小説の中の夜に潜む者のように、相手に執着して、一緒に死んでも良いから側に居て欲しいと願ってしまうのかもしれない。奇怪なものに形を変えてしまうくらい、愛して、狂ってしまうこともあるのかもしれない。

近頃よく読む作家さんの中で、彩瀬まるさんは特に好きだ。単純に読み物として面白いのと、読んでいて人に対する愛情というか温かみを感じるところが、とても好きだ。

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2020年02月06日

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ブク友様のレビューから手に取った1冊!
なんとなく不穏な印象でゾゾっとするのに、描写が鮮明で本に入り込んでしまった。
[明滅]が気に入った。

素敵な1冊に出会わせてくださったブク友様に感謝\( ´ω` )/

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2025年03月05日

Posted by ブクログ

数年前に表紙買いしてそのまま積ん読になってた本。
積ん読崩し3冊目。

この本は買った事さえ忘れていたし、なんならこの作家さんのお名前も存じ上げなかった。完全に表紙の絵と帯のあおりに惹かれて買ったのだと思う。
今まで詩的な表現が強い女性作家さんの作品が苦手で、読み始めた時は「苦手なタイプかも…」と少し構えたんだけど、それぞれの話が「死」と向き合うことによってそれぞれの「生命」を物語っていて、最後の1ぺージ、下手したら最後の2~3行だけで、一気に話の印象が変わり、すごく好きになる話ばかりだった。
短編集だったのもよかったのかも。
この作家さんの他の本もいつか読んでみたいなと思った。

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2025年02月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

六つの短編集。この世ならざるものとこの世を生きるものの不安や苦悩や執着や愛情が彼我の境界を溶かすような形で不思議に描かれていて、幻想的でちょっと怖いような。いや、この世ならざるものというよりは、主人公の意識とか思いがそういう形で立ち現れている、ということなのかもしれない。
突如亡くなった新妻が、火葬した後も家にいて毎日料理を食べさせてくる「ゆびのいと」や、交通事故で亡くなった母親が、幼い弟に何かを食べさせている「よるのふち」で、死者から愛する聖者に食べさせている腥い肉片は何なのだろう。古事記に出てくるよもつへぐいを思い出した。その肉片も、あるいはそれを嘔吐した時の墨のような吐瀉物も黒い。または流産しそうな主人公の元を訪れる謎のおばは、夜な夜な黒い鳥になるとか。黒=死の象徴だから、どれもあの世とこの世の境界の曖昧さみたいなものを感じるけれど、生きてる登場人物は最終的にはその肉片や鳥を拒否していくから、死への拒否、身近な人の死や彼らとともにいられる死への誘惑を振り切って生きることを選択する、ということを象徴しているのかなと思った。美しかったり楽だったりする死と、困難な生の狭間で、それでも生きたいと最終的には思う人たちの話というか。
同級生の男の子に美を見出して、彼を食べちゃうことを文字通り夢に見る写真家の「眼が開くとき」はそういう生と死の話ではないけれど、耽美的で芸術だった。美しく羽化する蛹や、美しく花開く蕾を見守る視点。「ああ、生まれてしまった。生まれたら、あとは死ぬだけだ。腹が空く、体が壊れる、食われる。満ちていく姿を見守るのは幸せだったのに、これはこれから崩れていく。」
その話も、火葬されても夫のもとを離れない「ゆびのいと」も、「執着」とか「執念」という言葉がぴったりで、なんというか業が深いよね。
全体的に、やや厭世主義的だけど生を肯定する、耽美的な泉鏡花、って感じ。面白かった。ゆっくり再読したい。

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2024年07月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

この世とあの世を繋ぐ六つの短編集。この本全体に死の匂いが深く巣食っている。

特に好みだったのは「よるのふち」。
母親を失って混乱する家庭がリアルすぎるほどリアルで胸が痛んだ。そして蝕まれていくのが子どもだけだったことが、またある意味では切ない。母親を求めているのが子どもで、子どもを求めているのも母親なのだ。
女の白い手が撫でているシーンが印象的。恐ろしいけれど、死してもなお強く消えない想いが、現実との境界線をゆらりと曖昧にしていくようだった。一緒にいたいあまりに、心配するあまりに、生者を引き摺り込んでしまうこともあるのかもしれない。

「かいぶつの名前」もひどく切なかった。浮遊霊と地縛霊目線なんて想像できないのではと思うのに、読んでいるうちにこういう感じなのかもと悲しい気持ちになってくる。成仏するラストがせめてもの救いだ。
胸いっぱいに読み終えた。

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2023年02月12日

Posted by ブクログ

豪雨の現在に読んだら、「明滅」がとても心にきました。
人ではないものや、想いが強過ぎて鬼になりそうな人もいるけど、それを救うのもまた人なのかもしれない。鬼になるのをとどまらせるのも、一緒に堕ちてあげるのも。
朝がくるまでそばにいる…朝がくるまでの暗闇ではあなたのそばにいるよ同じ闇に引きずり込みたいから、なのか、あなたの闇に朝がきて光が差すまでそばにいるから、なのか…どちらも出てくるお話たちが良かったです。

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2021年08月14日

Posted by ブクログ

静かに静かに物語が流れていくのに、心がぐらぐら動かされる不思議な作品。

今ここに生きている私のすぐ隣にも、もしかしたら「死」が存在しているかもしれない。そもそも生と死の境界線ってなんだろう。

どの物語も、ゾワゾワするような幻想的なような、「死」を考えさせられるものだけど、不思議と怖いとか悲しいとかではなく、心がほぐされるような柔らかさのあるストーリーだった。

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2021年05月27日

Posted by ブクログ

不思議な感じがして面白かったです。
ファンタジーやSFは好きではないですが、人間愛が結論に来るので、ぶっ飛んだ感じもしっくりきます。
本をあまり読まないわたしですが、たまには小説をと手に取りました。
若い小説家さんなので、高校生とかにも人気?のようです。

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2020年04月24日

Posted by ブクログ

いるはずのない、そこにいた人たちとの愛。

じわじわと恐怖に侵食されているはずのに、どこかそれを求めてしまう、よくないとわかりつつそれに執着してしまう登場人物たちに共感したりしなかったり。

全体としては読み応えが充分にあり、筆致も鮮やか。他の作品も読んでみたい。

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2020年01月16日

Posted by ブクログ

彩瀬まるさん、15作目

小説新潮掲載短編の
現世と常世のあわいの物語
はざまに足を踏み入れてしまう人達と
この世に遺憾を残した彼方者との
接点を描いた

君の心臓をいただくまで
ゆびのいと
よるのふち
かいぶつの名前

「眼が開くとき」
小学生の時、一時期クラスメイトだった
絵を描くことが好きだった少女と
周りの空気を良く読み演じる転校生の少年
大人になって再び出会う
少女はカメラマンとなり少年は俳優となり
カメラマンとして強靭なセクシーという要求に
美しい新人俳優を取り続ける
全てを撮り尽くしたあと 彼女の渇望は終わる
ちょいとドキドキした
石田由良の「跳ぶ少年」のセクシャルな感じと似ているようで、こちらのカメラマン女子は自己の渇望が優先な感じが冷ややか



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2024年05月28日

Posted by ブクログ

ジメジメしてて闇っぽくて、強い執念みたいな感情が渦巻いている物語だったけど、でもなんか、言葉や理屈では言い表せない優しさや愛だなとも感じた、気がした。愛ゆえに、魂は。という感じ。

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2024年03月21日

Posted by ブクログ

生や死がテーマの短編集。

擬音や表現が個性的で、グロテスク。
共通して、この世のものではない存在が登場し、ぬるい悪夢を見ているような心地悪さを感じた。
寂しさ、執着のようなもの、悲しさといった感情にリアリティがあって目が離せない。

薄暗い負の感情の中に、愛しさや、生に対する思い、希望のようなものが、ぼんやりと光っているような一冊だった。

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2024年01月18日

Posted by ブクログ

よく言われる「読むのが苦しい」たぐいの短編集。その中でおぼろげな希望とか、教訓とかを、”成仏”とともに届けるおはなし。

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2023年07月31日

Posted by ブクログ

温かいだけじゃなく、ゾッとする表現もたくさんあった。愛する人を残していく時、自分はどうなってしまうだろう。時間を置いてまた読みたい。

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2023年04月22日

Posted by ブクログ

生きること、死ぬこと、食べることはつながっている。
大切な人を失くした時、遺された方の辛さはもちろんだけど、死んでしまった方の無念さがとても印象的だった。改めて日々を大切に生きていかねばと考えさせてくれる読書体験になった。

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2023年04月19日

Posted by ブクログ

死にまつわる短編集。ホラーっぽくもあった。
「眼が開くとき」がよかった。
綾瀬まるさんの書く文章ほんますき。言葉選びが絶妙。現実味のない描写でも頭に映像として浮かぶ。

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2023年02月19日

Posted by ブクログ

人間の心に巣食う、化け物?真っ黒なもの?恐ろしいもの、についてのオムニバス。「君の心臓をいだくまで」と「瞳が開くとき」が好きでした。亡くなってしまった奥さんが旦那に忘れて欲しくないと繋がりを保とうとすることも、一度綺麗だと思ったものをずっと愛し続けていたいと思うのも、ものすごく歪んでいるけど、そこにどうしようもない人間らしさもあって、色々考えさせられました。

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2022年01月31日

Posted by ブクログ

読み始めは苦手かとと思って、
気乗りしないまま3つ目のお話を読んで
一気に「最高だ!!」ってなった。
夢なのか現実なのか妄想なのか
生きてるのか死んでるのか分からない世界
想像が弾むお話はやっぱり面白い!!
眼が開くとき は、彩瀬まるさんっぽい。
これと、よるのふちが好きでした。
夏っぽい…ちょっと怖くてヒヤッとする。

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2021年08月01日

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死んだもの関係のお話は“怖い”がついて回るのだけど、読み終わったあとはその怖さが別のものに変化している気がした。怖さの正体の訳がちょっとわかったからかもしれない。生きているものが飛び越えられない境界線を行ったり来たりして、その怖さの正体の一部分を明らかにしてくれた。
死んだら終わりだと思うのは、単に生きているものの視点だもんなって思えた

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2021年06月13日

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彩瀬まるさんの、繊細ということばすら追い付かない細やかで生々しい文章が短編となって収録されている。痛みと苦しみと、ほんの少しの怖さとなって。生まれてくること、生きていること、生きていくこと。死を迎えること、死を受け入れること。生死というものには日常にはない圧倒的な感触があり、けれどそれはやさしくやって来るとは限らない。そんな生きていくことや死んでいくことを、特別なまま特別じゃないものとしてこうも描写できるのは彩瀬さんだからだとおもう。正否や好悪ではとうてい伝えきれないわたしたちの痛みが和らいだような、幻。

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2020年04月11日

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心が弱くなっている人々の前に現れる何か。生も死も、夢も現も飛び越えて、こころを救う物語。
人間は、果たして強い生き物なのだろうか。ちょっとしたことで壊れ行く精神と肉体。感情と行動のコントロールが定まる時は、一生の中では僅かな時間しかない。寄り添う誰かがいるときに、せめて心の解放はしておきたい。

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2019年10月02日

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一言で言えば
不気味…

こんな話だとは思わなかった

人の心の弱さが闇となって脅かす

くら〜い気持ちになったので
次は明るい本を読もう

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2019年09月26日

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