【感想・ネタバレ】朝が来るまでそばにいる(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

火葬したはずの妻が家にいた。「体がなくなったって、私はあなたの奥さんだから」。生前と同じように振る舞う彼女との、本当の別れが来る前に、俺は果たせなかった新婚旅行に向かった(「ゆびのいと」)。屋上から落ちたのに、なぜ私は消えなかったのだろう。早く消えたい。女子トイレに潜む、あの子みたいになる前に(「かいぶつの名前」)。生も死も、夢も現(うつつ)も飛び越えて、こころを救う物語。(解説・名久井直子)

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Posted by ブクログ

ネタバレ

六つの短編集。この世ならざるものとこの世を生きるものの不安や苦悩や執着や愛情が彼我の境界を溶かすような形で不思議に描かれていて、幻想的でちょっと怖いような。いや、この世ならざるものというよりは、主人公の意識とか思いがそういう形で立ち現れている、ということなのかもしれない。
突如亡くなった新妻が、火葬した後も家にいて毎日料理を食べさせてくる「ゆびのいと」や、交通事故で亡くなった母親が、幼い弟に何かを食べさせている「よるのふち」で、死者から愛する聖者に食べさせている腥い肉片は何なのだろう。古事記に出てくるよもつへぐいを思い出した。その肉片も、あるいはそれを嘔吐した時の墨のような吐瀉物も黒い。または流産しそうな主人公の元を訪れる謎のおばは、夜な夜な黒い鳥になるとか。黒=死の象徴だから、どれもあの世とこの世の境界の曖昧さみたいなものを感じるけれど、生きてる登場人物は最終的にはその肉片や鳥を拒否していくから、死への拒否、身近な人の死や彼らとともにいられる死への誘惑を振り切って生きることを選択する、ということを象徴しているのかなと思った。美しかったり楽だったりする死と、困難な生の狭間で、それでも生きたいと最終的には思う人たちの話というか。
同級生の男の子に美を見出して、彼を食べちゃうことを文字通り夢に見る写真家の「眼が開くとき」はそういう生と死の話ではないけれど、耽美的で芸術だった。美しく羽化する蛹や、美しく花開く蕾を見守る視点。「ああ、生まれてしまった。生まれたら、あとは死ぬだけだ。腹が空く、体が壊れる、食われる。満ちていく姿を見守るのは幸せだったのに、これはこれから崩れていく。」
その話も、火葬されても夫のもとを離れない「ゆびのいと」も、「執着」とか「執念」という言葉がぴったりで、なんというか業が深いよね。
全体的に、やや厭世主義的だけど生を肯定する、耽美的な泉鏡花、って感じ。面白かった。ゆっくり再読したい。

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2024年07月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

この世とあの世を繋ぐ六つの短編集。この本全体に死の匂いが深く巣食っている。

特に好みだったのは「よるのふち」。
母親を失って混乱する家庭がリアルすぎるほどリアルで胸が痛んだ。そして蝕まれていくのが子どもだけだったことが、またある意味では切ない。母親を求めているのが子どもで、子どもを求めているのも母親なのだ。
女の白い手が撫でているシーンが印象的。恐ろしいけれど、死してもなお強く消えない想いが、現実との境界線をゆらりと曖昧にしていくようだった。一緒にいたいあまりに、心配するあまりに、生者を引き摺り込んでしまうこともあるのかもしれない。

「かいぶつの名前」もひどく切なかった。浮遊霊と地縛霊目線なんて想像できないのではと思うのに、読んでいるうちにこういう感じなのかもと悲しい気持ちになってくる。成仏するラストがせめてもの救いだ。
胸いっぱいに読み終えた。

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2023年02月12日

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