西村賢太のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
本人は「別格の作」と評しているということだが、その意味は、誰に読ませるでもなく自分のために、自分が清造の歿後弟子として恥ずかしくない人間であるために書いたという点で「別格」ということらしい。
冒頭、稲垣潤一のコンサートのくだりが異常に長く、なんだこれはと思っていたところからグッと暗い調子になり、反省して、かなり自省的な調子で最後まで行く。読み終えてみればなるほど冒頭でコンサートの華やかさをしつこく描いておくことで後半との落差をつけているのだなとわかる。誰に読ませるためでもないと言いつつも、そういう意味ではちゃんとおもしろくしようとしているところがやはりかわいいと思う。 -
Posted by ブクログ
藤澤清造愛に溢れている私小説。読んでいてあまりいい気分はしないDVの場面はあるけれども、なぜか読み進めてしまいたくなるほど不思議な小説だ。それを解説がわかりやすく書いてくれていた。
『藤澤清造に少しでも近づけることを求めながら、自らは小説家になることを目指していなかった西村賢太の私小説にその種(作家になることを目指し私小説というジャンルを選び、自分を美化して描くこと)の美化はない。なるほど彼の小説に登場する「私」は常に愚者である。すれはすがすがしくも本当の愚者である。だから西村賢太の小説は不思議にあと味が悪くない。』
それにしても、「根は◯◯なので~」が好きだ。
この小説内では彼の根はわがま -
Posted by ブクログ
まず冒頭申し上げたいのは、西村賢太作品を相部屋の病室で読んではいけないということです。
思わず吹き出して、同室の患者に眉を顰められること必定。
笑いを堪えようとして咽たり咳込んだりし、事態が悪化することもしばしばです。
今回、大腸ポリープの摘出手術を受けるため1週間入院していますが、西村作品を持ち込んだことを軽く後悔しております。
それはさておき、本作は言わずと知れた「北町貫多」シリーズ。
貫多17歳、洋食屋でアルバイトをする青春の日々を描いています。
「青春」と書きましたが、貫多の青春は、一般にイメージされているものとは真逆のものです。
貫多は、小学5年のころに父が性犯罪で捕まり、母と姉と共 -
Posted by ブクログ
ネタバレ日記の面白さに気づく一冊だった。
書いてあることといえば、主に朝から晩までの行動についてだけ。何時に起床、入浴し、一日こういう仕事を行い、食べた物の記録があり、明け方に酒を呑み一日を終える。時々、尊敬する人物への熱い思いが綴ってあり、編集者との喧嘩や愚痴も書いてある。
でも日記として気楽に楽しめる範囲の事しか書かれていない。3.11の時は平静でいられない日々が続いたと思うが、それについての記述がほぼ無いことから、何を書いて何を書かないかというのが徹底しているように感じた。この日記を読んでいて不思議と癒しを覚えるのは、その取捨選択が絶妙だからなのかもしれない。
まだ『苦役列車』しか読んだことがな -
Posted by ブクログ
昨年から夢中になって読んでいる西村賢太の作品。
長編は初めて読みました。
主人公は、ご存知、北町貫太。
中卒で、日雇い仕事をしています。
十代も終わりに近づいたある日、貫太は一大決心をします。
長年、住んでいた東京都内を離れ、横浜桜木町に居を移すのです。
日雇い仕事も辞め、造園会社に就職します。
そこへ、事務のアルバイトとして、貫太と同い年の女の子がやってきて物語が展開します。
彼女に恋焦がれる貫太。
一方通行の恋は、痛々しくも滑稽で、貫太には申し訳ないですが、何度も吹き出しました。
ただ、既視感もあるのです。
私もモテないという点においては、貫太に引けを取らなかったわけですから。
彼女の一挙 -
Posted by ブクログ
どうしても生きにくい人間っている。
私もかなり生きにくい人間だけど
北町貫多(というか西村賢太さん)は、私とはまた違う、かなりの生きにくさ、厄介さを抱えて生まれ育ち、不器用にしか生きられず、その業ゆえに早死にしたと感じた。
男尊女卑的価値観が強くて悪口も多くて今出したら時代錯誤と非難されるに違いなく、汚いと感じるシーンも多いし、誰にでも愛されてヒットする作風でもないから、正直このような小説を一生書き続けるのはかなり大変だったはず。現代ではデビューもできるかどうか。
しかし、生きにくい人間にしかわからない、書きえない苦しみややるせなさ、つらい体験、そこからふと芽生える生きがいやかすかな希望など、