西村賢太のレビュー一覧
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苦役列車を読んで二作目。
私小説なので主人公は変わらず、過去の出来事が物語になっている。
彼の考え方や物事の捉え方自体がコンテンツであり、なるほど彼のような「怠惰」な人格が出来上がる過程や行動の理由がよくわかるのが、西村さんの私小説の良さだと思う。
苦役列車に比べ⭐︎一つ減らしたのは、苦役列車に出てくる短大生と彼の対比がとても素晴らしく、彼のキャラクターや生き様を際立たせていたのでむしろ向こうに感動したことが大きな理由です。
なので、この小説もとても面白かったし、定期的にいろんな作品を読んで彼の言葉や思考に触れたいと思ってしまう不思議な魅力があると思う。 -
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相も変わらず露悪的な短篇集。いい歳した高齢フリーターを蔑む若者といった視点は悪いなぁと思いつつ、大学時代の自分がバイト先で抱いた薄汚い気持ちそのものであり、自分が綺麗な人間ではないことをまざまざと感じさせてくれる。
自分を一般化するわけではないが、コンプライアンスだ何だとどんどん煩くなっている世の中で、人間の本当の姿を垣間見させてくれる短編なのかもしれないな·····と感じた。自分の矮小さを存分に味わうこともできずに、何ができるというのだろう。
同著者が芥川賞を取ったばかりに読んでいた頃には、そんな感想を抱くことはなかった。自分が変わったのか世の中が変わったのかは分からない。
最後の -
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最近は西村賢太ばかり読んでいます。
もう、西村賢太にあらずんば作家にあらず―というくらい。
今年になってから小説を4冊読んで、手元にはまだ2冊あります。
いずれ全著作を読破するつもり。
密やかな愉しみです。
ただ、新作が出ることは、もう二度とありません。
云うまでもなく、西村賢太は今年2月に亡くなったから。
読み切ったら繰り返し読むしかないでしょう。
ところで、小説だけでなく、随筆も読んでみたい―と、取り寄せたのが本書。
ファンの間で「日乗シリーズ」と呼ばれる作品群の第1弾です。
西村賢太の日記。
毎日、どこへ行き、何を見て、誰と会い、何をどれだけ食べて飲んだのかが記されています。
まず、興味 -
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日記文学を読むと無性に日記を付けたくなり、万年筆を握る。
これまで読んできたものを列挙すると…
永井荷風「断腸亭日乗」・古川ロッパ「昭和日記」・山田風太郎「戦中派不戦日記」・武田百合子「富士日記」・神坂次郎「元禄御畳奉行日記」・佐藤昭子「私の田中角栄日記」・筒井康隆「偽文士日碌」・田中康夫「ペログリ日記」・坪内祐三「三茶日記」「昼夜日記」・板尾創路「板尾日記」・モンスターエンジン 西森伸一「声に出して笑っていただきたい」
そして突然、充電が切れたみたいに日記に背を向け書棚の一隅にある〈日記の墓場〉に葬られ、深い眠りにつく。
日記文学の多くは読まれることを前提に書かれている。ゆえに虚実が入 -
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惜しい人を亡くして損失大だと思う、日本の純文学の世界。
相変わらず枯れた純文学調の文体の中に罵声を混ぜたり「アイテム」「ノーサンキュー」みたいなカタカナ言葉を入れて敢えて浮かせて笑いを取るのがうまいなーと思う。今を生きる現代人の感覚と文豪チックな明示大正昭和の感覚がないとあの面白さは出せないと思う。懐古調の文体に著者自身が溺れてしまうような作家もある中、現代に軸足を置きつつ過去の文体を力技で引き摺り出してくるような特異な筆致、これは著者の唯一無二の芸だと思う。
内容はお母さんをいじめる短編と男色家に狙われる短編はDVシリーズほどのインパクトがない。古本屋の風俗のエピソードはユーモアとペーソスが -
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西村賢太にどハマりしています。
3月から「人もいない春」「小銭を数える」と立て続けに読み、本作が3冊目。
手に入れられる著作は全て集め、年内には読破したいところです。
ただ、西村さんの著作は絶版になっているものも多く、それが心配。
再出版してほしいものです。
さて、本作も西村賢太の分身である「北町貫多」が主人公。
西村さんは、「貫多」シリーズを50作以上書いています。
短編4編を収めた本作は、貫多が16~25歳の話です。
なぜ、年齢がそんなに正確に分かるのかというと、「本の雑誌」(6月号)が西村賢太特集を組み、その中に「北町貫多クロニクル」と題して、貫多の年表が収録されているのです。
これはフ -
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「今日はここまで」と、本を閉じるたびに、満ち足りた気持ちになりました。
小説を読む悦びを、西村賢太さんの作品は十二分に味わわせてくれます。
でも、何故なんだろう、と考える。
だって、物語らしい物語があるわけではありません。
アルバイト先での人間関係、同棲相手とのいざこざ、挙句、レストランにいるネズミの話。
おおよそ「どうでもいい」話が、西村さんの手にかかると、激烈に面白い。
1つは、著者その人である主人公「北町貫多」のキャラクターにあるのは言を俟ちません。
猜疑心と執着心が強く、妬み深くて小心と、人としての欠点がほぼ全てそろっている人物。
と、ここまで書いていて、世間が「好ましい」とする人物像 -
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びっくりするぐらい非モテダメ男の青春奮闘記
「彼は見た目は野良犬ながらも 、その根は余りにも貴族気質にでき過ぎてしまっていた 。そしてまた 、見た目は若きお菰風ながらも 、その根は余りにも坊っちゃん気質にでき過ぎてしまっていた 。」という文から伺えるように、主人公はとにかくプライドが高くて、被害者意識の塊。バイト先の人間とか割とふらっとに見ているはずなのに、自分は馬鹿にされてる、疎まれてると思い込み暴虐な限りを尽くす。もう少し自己肯定感が高くて、他者に歩みよれば普通の関係性を築けるのにと思いながら読み進めていた。
でも、こういう北町貫多的な卑屈性は自分の中にも心辺りあるなと思い、深淵を覗い -
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夫が「こんなのを買った」というのをちょいと横取り、あっという間に読んでしまった文庫本
この文庫、短い間に版も重ねて売れているらしい、この作家さん知らなかった
芥川賞を受賞した時にもヘンな言動で話題になったらしいが、それもスルーしていたらしい
ま、わたしの読書好きも偏っているから
それで
面白く読んだというか引き込まれたしまったわけはその文面の率直さにある
飾っていない傍若無人(風な)私小説である
私小説はつまらないもの(つまらなくても今は好きなのだが、 それだからこそ好きになったのだが)という概念をぶちこわしてくれる
私小説ってこういかなくっちゃ、という清さがある
表題作のほか「