あらすじ
小さいころから執念深く、生来の根がまるで歪み根性にできている北町貫多。中卒で家を飛びだして以来、流転の日々を送る貫多は、長い年月を経てても人とうまく付き合うことができない。アルバイト先の上司やそこで出会った大学生、一方的に見初めたウエイトレス、そして唯一同棲をした秋恵……。一時の交情を覆し、自ら関係破壊を繰り返す貫多の孤独。芥川賞受賞作『苦役列車』へと連なる破滅型私小説集、待望の文庫化。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
今回もとても面白い。
後半の2編は秋恵という女性と同居している様子が描かれる。貫多の身勝手な振る舞いに対して非常に寛容で菩薩のような女性だ。そんな彼女に甘えてますます増長する様子がうかがえて、コラと思う。
特に土下座して謝った時に、笑って許してくれる場面が素敵だ。
しかし自分のことを振り返ると、妻には散々ひどい扱いをしていたので、貫多ほどではないにしても他人ごとではない。今こうして離婚せずにいられる幸福をかみしめるばかりだ。
Posted by ブクログ
毎回主人公がクズすぎて安心して読める。
バイトの大学生にでかい顔をしすぎて分断工作を受けて反旗を翻されるような矮小さは自分の中にもあるので、自分の恥部を見させられているようなマゾヒスティックな爽快さがある。
古めかしい文体と今の言葉のギャップを「ここで笑え」といわんばかりに埋め込んでくるがそれがおもしろくて律儀に笑わされてしまう。「これがいわゆる痛気持ちいいというやつだね」とか最高。
秋江があなたを殺せるわよというところがすごくドラマティックで、やっぱ秋江ものが好きだなー。
Posted by ブクログ
醜い容姿、短気で酒好き、並はずれの性欲、突如飛び出す暴言・暴力。コンプレックスに苛まれ煩悶懊悩する主人公にいつものように自らを投影していた。他者との衝突にはらはらさせられながらも時折垣間見える相手を思いやる優しい心配りにもぐっと心惹かれた。以前にもまして磨き上げられた文章は陶酔ものであり、ストーリー自体は相変わらずのワンパターンでありながら些かのマンネリを感じさせない。加えて、6編の短編の中の「悪夢」などは、これまでとは全く趣を異にする作品であり、著者の新たな世界への挑戦も感じられ今後にますます期待は膨らんだ。
Posted by ブクログ
人もいない春 60
製本所での短期アルバイトを追われるように辞めて、夜の街を彷徨う。タクシーを乗り捨てるあたりから郷愁漂う。
二十三夜 60
まるで非モテ男の濃縮。叶わぬ恋と分かっていながらどう決着するのか興味が湧く。秋恵前夜としたら興味深い。
悪夢─或いは「閉鎖されたレストランの話」55
私小説ではない(創作)小説。ネズミ目線は特に面白くはないが、オチが西村賢太っぽくておもしろい。
乞食の糧途 40
運送会社のアルバイト先に嫌なヤツがいた。
貫多はヒモ選手権があるとしたら、ランキングは最下位だと思う。
赤い脳漿 65
逆恨みもいいところ。それもかなり歪んだ逆恨みです。私小説でなければあり得なすぎる。マジで一回病院に行ったほうがいいかも笑
昼寝る 85
看病する側、される側を体験して愛に目覚める貫多笑。
看病、被看病のコントラストだけでなく、貫多の江戸弁と秋恵の現代弁の台詞回しのコントラストも素晴らしい。
Posted by ブクログ
『昼寝る』での北町貫多の献身的な性格がほかの作品でも見え隠れしているからこんな奔放な人間に感情移入してしまうんだろうな。『悪夢─或いは「閉鎖されたレストランの話」』は珍しく創作でこういうのも書いてるんですね。これはこれでおもしろい。
Posted by ブクログ
「人もいない春」
まだ10代の頃(17歳くらい?)の
職場での失敗談から始まり
生活を立て直そうとする物語。
「二十三夜」
失恋の失敗談の話し。
「悪夢」
珍しく、おそらく夢で見たものを書き起こした実験的な物語。
「乞食の糧途」「赤い脳漿」「昼寝る」
秋恵シリーズ。
記憶のメモがわりにそれぞれの話しを記載しましたが、やっぱりこの時期の西村賢太は勢いと無駄の無い表現でとにかく面白い。
表題作も良いけど、
秋恵シリーズは自制の効かない自らの暴力性と
自己反省との繰り返しの中で、常識的な秋恵と、異常な貫多の対比が浮き彫りになって面白い。
Posted by ブクログ
秋恵もの多め。同棲生活に忿懣を募らせながらも寸前でDVを思い止まる「乞食の糧途」や風邪をひいた秋恵を貫多が意気揚々と看病する「昼寝る」など貫多が時折見せる思いやりにはっとさせられる作品も。もうこの時点で読者も彼の術中にハマっているわけですね笑
不器用なやり方で彼女を思いやる貫多の姿は微笑ましくもあるが、破局という結末を知っているだけになんとも心苦しい。
Posted by ブクログ
相変わらずの貫多である。社会の最底辺を這いつくばる労働者の心理描写にはゾクゾクさせられる。酔っ払ってこのあと人を殺してしまうとか、恋人をボコボコに殴るのではとか身構えてしまうのだが、小心者の貫多のこと、そこまでの事件は起こらない。最後の秋恵との物語は貫多の振る舞いに嫌気がさすが、最後はうまくまとまった。ネズミの物語は唐突だが、これも面白かった。なぜこの順番に作品を並べたのか。
Posted by ブクログ
「今日はここまで」と、本を閉じるたびに、満ち足りた気持ちになりました。
小説を読む悦びを、西村賢太さんの作品は十二分に味わわせてくれます。
でも、何故なんだろう、と考える。
だって、物語らしい物語があるわけではありません。
アルバイト先での人間関係、同棲相手とのいざこざ、挙句、レストランにいるネズミの話。
おおよそ「どうでもいい」話が、西村さんの手にかかると、激烈に面白い。
1つは、著者その人である主人公「北町貫多」のキャラクターにあるのは言を俟ちません。
猜疑心と執着心が強く、妬み深くて小心と、人としての欠点がほぼ全てそろっている人物。
と、ここまで書いていて、世間が「好ましい」とする人物像と真逆なことに気づきます。
たとえば、会社が新入社員に求める人物像。
明るく前向き、好奇心旺盛でコミュニケーション能力が高く、どんなことにも積極的に挑戦するチャレンジ精神旺盛な人物、といったあたりが一般的でしょうか。
こうして文字にすると、随分と薄っぺらい、何というか内実など何もない感じがします。
というか、ぼく自身が社会生活を送る中で、いつの間にかこういう「真っ当」とされる情報に取り囲まれて辟易しているという面もあるのでしょう。
ぼくは、貫多に人間的な魅力を感じます。
それから、西村さんの小説の面白さの秘密は、やはりその文章力にありましょう。
古風な文体ですが、ぐいぐいと引き込んでいく力があり、やがて中毒になります。
ぼくは、特に、貫多の心理描写が好き。
卑怯で怠惰で打算的で自分勝手。
でも、「分かる分かる」と膝を打ちながら読んでしまいます。
それで、はたと、西村さんの掌の上で踊らされていることに気づくわけです。
これは文章による芸ですね。
次は「二度はゆけぬ町の地図」を読む予定。
楽しみです。
Posted by ブクログ
数か月前に芸人のサスペンダーズ古川さんのnoteで日雇い日記を読んでたことを思い出して、読みたくなった西村さんの私小説。
貫太の不器用ですぐ怒ったりするだめなところ、そしてそれをすぐ後悔するところ、それでもうまくできないところ、自分じゃないけど自分みたいでちょっと苦しくなった。最後、秋恵、ありがとうってなる。
Posted by ブクログ
西村賢太による貫多と秋恵モノが好きな人にはオススメ。西村賢太の独特なリアリティ、言い回しが溜まらない。こうした生き様そのものが作家であるタイプは日本には少ない気がするが、それではやはり説得力がないのだ。筆力には、作家の人生分、その重みが増すのだろう。
Posted by ブクログ
著者と同世代の人たちはバブルの真っ只中で青春を過ごしているはず。その世代における底辺の日常は実はいつの時代にもある。70年代の松本零士の「男おいどん」の世界も然り。人の生き方、生活は一様ではない。正解も理想もない。それぞれの世界でのやり方、生き方がある。
Posted by ブクログ
苦役列車から流れて読んでみた。
相変わらずの貫多の大冒険物語。
バイト先でのトラブル、
知り合った女性とのいざこざストーリーが、
やはりおもしろい。
最低な人間だけど、人間くさい貫多。
友だちには絶対なりたくないタイプとおもいつつも、その飾り無いゲス語りに、妙に共感出来てしまうところもあり、ぐいぐい読み進めてしまう。
物語後半のその貫多に出来た天使のような彼女の話も貫多とのコントラストがあいまって、妙に考えさせられる。
途中のネズミ一家の話も秀逸。
Posted by ブクログ
短編集。私小説で有名な西村賢太だが、中ほどに収録されている「悪夢ー或いは『閉鎖されたレストランの話』」は創作ものである。同氏の多彩な文才を実感させる、秀作である。この一遍のためだけでも本書を手に取る価値はあるだろう。
Posted by ブクログ
西村賢太の読者にはお馴染みの秋恵と同棲中の日記。秋恵シリーズも数冊読むとパターンが判ってくるんだけど、マンネリズムの心地良さで、ついつい読んでしまう。
一編だけ秋恵とは全く関係ない、小動物を擬人化した話があり、これはこれで新たな一面として新鮮かつ面白かった。
しかし、一人の作家にこれだけ嵌まり、立て続けに購入するなんて滅多にないので、やはり好きなんだなぁ。
Posted by ブクログ
中卒で家を飛びだして以来、流転の日々を送る北町貫多。一時の交情、関係を築きつつも必ず最後はメチャクチャに破綻してしまう彼の孤独な姿はそのまま自分自身の裡にあるのではないかと思い、彼の作品を読んでます。
ここには短編集がいくつか納められていて、そのうち、『悪夢―或いは「閉鎖されたレストランの話」』以外はすべて自分自身の体験から生まれた私小説です。『人もいない春』では印刷会社の職工に些細なことで絡んで悪態をつき、雇用の契約が延長されずに解雇され、タクシーの運転手にまで当り散らし、『二十三夜』では男女のことでトラブルを起こし、大喧嘩の末に店を追い出されたり、『乞食の糧途』では同棲する秋恵との危うい生活が描かれます。
その秋恵を『赤い脳漿』で彼女のトラウマとなっている交通事故で目の当たりにした人の脳漿にそっくりなマーボー丼を彼女に食えと強要させ、しかし『昼寝る』ではパート勤めの秋恵を心配したところで、結局お約束の展開となる彼女への罵倒となるのですが、ここではなぜか、二人の関係がよくなってしまいます。それにしても、何で自分がここまで西村賢太作品を読み込んでいるのかといえば、自身の体験したこともその一部にあるということと、彼自身の分身である北町貫多のしでかした人間関係の破綻が、そのまま自分の人生の人間関係の破綻と重なる部分があるのではなかろうかと思っております。
どこがどうだとは具体的には申し上げませんが、今後も北町貫多の人生の軌跡を追っていきたいとともに、自分自身のことを少しは見つめて聞きたいなと思っている昨今でございます。
Posted by ブクログ
今回は前向きな短編が多かったように思う。恋人を作ろうと躍起になっている話よりも、貫多と秋恵が同棲している話が印象的だった。恋人がいても、その性格故に様々なトラブルを起こしてしまうところなど、まさに貫多らしい。
気に入った作品は、『二十三夜』、『悪夢』、『赤い脳漿』だ。特に『悪夢』は作者には珍しく私小説ではない作品だったために新鮮だった。西村賢太の私小説以外の作品は初めて読んだと思う。鼠の身に降り注ぐ不幸が、どう足掻いても止むことはない。あのレストランに勤めていた人間もそうだが、動物も動物で大変だと思う。最後は真っ暗闇の中に光がやっと射し込んだと思ったら、一気に暗転してしまった。
Posted by ブクログ
初西村賢太。
なかなかおもしろかった!
自分のことを「ぼく」っていうのが、アンバランスでよろし。
乱暴な感じとか、バイト先での話とか、気持ち分からんでもないな〜ってなります。いやいや、それにしても、分からんでもないって変な言葉ですね。
Posted by ブクログ
西村賢太の私小説。クズっぷりが面白い。「見栄っ張りで短気で」という枕詞を使って自分の気持ちのいらだたしさを弁解するあたり小物な感じがするが、気持ちわからんでもない。途中のねずみの短編は小休止みたいなもので更に良かった気がした。
Posted by ブクログ
時代の異なる、いくつかの短編集。相変わらずの北町貫多だが、『東京者がたり』の新宿での暮らしなどを知った上で読んだので、繋がりが見えて楽しめた。
Posted by ブクログ
最初から最後まで、北町貫多の自己中かつ自堕落なキャラが際立っていた。
こういう人物は個人的に大嫌いだから、現実にいれば間違いなく初見で遠ざけてしまうが、幸いにもそれらが物語の中だから粘り強く付き合い続けられる。
それに、一見ダメ男でしかない彼だけど、好いてくれる女がいたり、中卒という学歴を容認し雇ってくれる会社があったりと、内面に負を抱えながらもどうにかこうにか生きていけるところも、物語として大変面白く見所だと思った。
しかもこれが実体験を元にした私小説というのだから、著者は若い頃から刺激的な世界で生きてきたのかが分かる。
Posted by ブクログ
主に秋恵以外の作品。「23夜」はなかなかにゲス度が高く満足。純情なブスへの仕打ちが笑える。だが、本作品集での注目は初めてのフィクションとなる「悪夢」。良い出来栄え。不遇な境遇のものが主人公であるのはフィクションも変わらないが、不思議なことにネズミ同志の会話などはフランス文学のような趣がある。心理を描くことを極力控え、圧縮された悲劇となっている。秋恵シリーズは物足りない。「赤い脳漿」がまあまあ。
Posted by ブクログ
北町貫多 パレット ソープランドに行く為の積立資金 日雇いの湾岸人足仕事 件の職工に見咎まれる 歪み根性 醜女の部類 余裕の舌舐めずり 金輪奈落の憎しみを抱いてしまう 鬱憤が蓄積 睥睨 潜在的に抱いている雰囲気を、敏に感じとってしまった。 イニシアチブ ろう弄し 肉慾の計画 排斥はいせき 無能視 疎まれて 瞬間興醒め 飯田橋の厚生年金病院裏のアパート 青春を、十全に謳歌 これで彼奴は一生土方だと嗤ってあたらしく 不快な予言 屈辱の澱 インフェリオリティーコンプレックが再度頭を擡げてくる 鶯谷 諦観めいたものを抱きながら 脳を麻痺させる為にも 顰めっ面 異常な嗜虐の虫 嗄れた声 ゲテモノによる、グロテスクなマンズリをな 蔑んで 所詮は性根の糞袋 上野桜木町 強烈なカタルシスめいたもの 陳腐な言い草 彷徨いぶり 懲罰的な報い 嘆願して 憑き物が落ちた 甘くプラトニックな焦れったい恋情 一穴主義 新宿一丁目の豚小屋めいた八畳間の自室 自分の積年の理想像 生来短気で我儘者 能登の七尾 化粧函 何か痛々しそうな口調 勇足 哀れみをこめた目 岡惚れ アングラ劇団員 邂逅 サルモネラ菌 捨て身の復讐 更地 乞食の糧途 大学出でインテリの秋恵 成就 相思相愛 常に感謝と尊敬の念を忘れず 忘恩の質 本性が極めて冷血にできてる男 覚束ぬ 赤い脳梁 旧花園町の一角の、八畳一間の豚小屋 仔細しさい 立つ瀬 成程 爾来 興を喚起せしめてきた 清楚 邪推が妙に嬉しく 埋没 境遇 絶対的な自負 甘美な優越感 ブルマーなんて最低だよ。あんなの、一種のセクハラだよ 催しものよし 三白眼 劣情 萎えて 想起 興醒め 徹宵てっしょう 沽券 シフトを組んで 当日欠勤 ルル 微熱の範疇 破顔 邪慳 恬然と甘受 結句は変に拗らせ 欠如 芝公園で狂凍死したある私小説作家の月命日 潜伏期間 越後の辺りで客死 位牌 檀家 煩い 練り梅 頑是ない童女みたいな表情 殊勝な気持ち 瞼 聖母像めいた高貴な厳粛さ 訝しく 苦役列車 勝手に貫多とオーバーラップ オブラートに包まないブラックな感情 ズボラ 人一倍 鏤め 脱帽 失うものはもう何もない 酷く孤独で残酷 滑稽さ マイノリティ 存在することでの主張、圧力のようなものを感じます。 パフォーマンスと呼ばれてもいい 南沢奈央
Posted by ブクログ
『だめんずウォーカー』的面白さといえばよいか。仕事仲間に対する卑下する態度、秋恵に対する酷い態度、金銭に対する著しいルーズさなどなど、貫多の屑っぷりを味わう私小説である(脚色はあるだろうが著者の体験を基とすると、、、なかなか恐ろしい)。
(登場人物の方々には申し訳ないが)貫多の小市民的破天荒さは娯楽作品としては面白いのだが、文学作品として見た場合『どうで死ぬ身の一踊り』と比べると言葉選びの推敲がやや稚拙な印象を受けてしまう。従って、十分に面白いが、少し辛めに4点に近い3点。
Posted by ブクログ
私小説。
貫多はどうしようもないクズだな!って思うけど、つい暴言が出てしまうだけで実はそんなに酷い人ではないのでは……とも。いや、まあ実際にいたら関わりあいたくはないですけど。遠巻きに見守っていたい。
Posted by ブクログ
「とりあえず、あすこで二週間ばかし働いて生活を安定させる第一歩としよう。で、少し金を貯めたら、まともな仕事先を探してみよう。ぼくの人生はそこからだ。」という北町貫多のセリフが気に入りました。
Posted by ブクログ
6編の短編が収められている。どの話も短く、小綺麗にまとめられている。その分だけ、西村賢太ならではの、破壊的な感じや陰湿な感じは薄まったが、サクサクと読みやすいので、これはこれで良いと思う。「悪夢」という、西村賢太には珍しい私小説ではない作品も、ダークでオモロかった。