あらすじ
小さいころから執念深く、生来の根がまるで歪み根性にできている北町貫多。中卒で家を飛びだして以来、流転の日々を送る貫多は、長い年月を経てても人とうまく付き合うことができない。アルバイト先の上司やそこで出会った大学生、一方的に見初めたウエイトレス、そして唯一同棲をした秋恵……。一時の交情を覆し、自ら関係破壊を繰り返す貫多の孤独。芥川賞受賞作『苦役列車』へと連なる破滅型私小説集、待望の文庫化。
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Posted by ブクログ
今回もとても面白い。
後半の2編は秋恵という女性と同居している様子が描かれる。貫多の身勝手な振る舞いに対して非常に寛容で菩薩のような女性だ。そんな彼女に甘えてますます増長する様子がうかがえて、コラと思う。
特に土下座して謝った時に、笑って許してくれる場面が素敵だ。
しかし自分のことを振り返ると、妻には散々ひどい扱いをしていたので、貫多ほどではないにしても他人ごとではない。今こうして離婚せずにいられる幸福をかみしめるばかりだ。
Posted by ブクログ
醜い容姿、短気で酒好き、並はずれの性欲、突如飛び出す暴言・暴力。コンプレックスに苛まれ煩悶懊悩する主人公にいつものように自らを投影していた。他者との衝突にはらはらさせられながらも時折垣間見える相手を思いやる優しい心配りにもぐっと心惹かれた。以前にもまして磨き上げられた文章は陶酔ものであり、ストーリー自体は相変わらずのワンパターンでありながら些かのマンネリを感じさせない。加えて、6編の短編の中の「悪夢」などは、これまでとは全く趣を異にする作品であり、著者の新たな世界への挑戦も感じられ今後にますます期待は膨らんだ。
Posted by ブクログ
人もいない春 60
製本所での短期アルバイトを追われるように辞めて、夜の街を彷徨う。タクシーを乗り捨てるあたりから郷愁漂う。
二十三夜 60
まるで非モテ男の濃縮。叶わぬ恋と分かっていながらどう決着するのか興味が湧く。秋恵前夜としたら興味深い。
悪夢─或いは「閉鎖されたレストランの話」55
私小説ではない(創作)小説。ネズミ目線は特に面白くはないが、オチが西村賢太っぽくておもしろい。
乞食の糧途 40
運送会社のアルバイト先に嫌なヤツがいた。
貫多はヒモ選手権があるとしたら、ランキングは最下位だと思う。
赤い脳漿 65
逆恨みもいいところ。それもかなり歪んだ逆恨みです。私小説でなければあり得なすぎる。マジで一回病院に行ったほうがいいかも笑
昼寝る 85
看病する側、される側を体験して愛に目覚める貫多笑。
看病、被看病のコントラストだけでなく、貫多の江戸弁と秋恵の現代弁の台詞回しのコントラストも素晴らしい。
Posted by ブクログ
今回は前向きな短編が多かったように思う。恋人を作ろうと躍起になっている話よりも、貫多と秋恵が同棲している話が印象的だった。恋人がいても、その性格故に様々なトラブルを起こしてしまうところなど、まさに貫多らしい。
気に入った作品は、『二十三夜』、『悪夢』、『赤い脳漿』だ。特に『悪夢』は作者には珍しく私小説ではない作品だったために新鮮だった。西村賢太の私小説以外の作品は初めて読んだと思う。鼠の身に降り注ぐ不幸が、どう足掻いても止むことはない。あのレストランに勤めていた人間もそうだが、動物も動物で大変だと思う。最後は真っ暗闇の中に光がやっと射し込んだと思ったら、一気に暗転してしまった。