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Posted by ブクログ
「今日はここまで」と、本を閉じるたびに、満ち足りた気持ちになりました。
小説を読む悦びを、西村賢太さんの作品は十二分に味わわせてくれます。
でも、何故なんだろう、と考える。
だって、物語らしい物語があるわけではありません。
アルバイト先での人間関係、同棲相手とのいざこざ、挙句、レストランにいるネズミの話。
おおよそ「どうでもいい」話が、西村さんの手にかかると、激烈に面白い。
1つは、著者その人である主人公「北町貫多」のキャラクターにあるのは言を俟ちません。
猜疑心と執着心が強く、妬み深くて小心と、人としての欠点がほぼ全てそろっている人物。
と、ここまで書いていて、世間が「好ましい」とする人物像と真逆なことに気づきます。
たとえば、会社が新入社員に求める人物像。
明るく前向き、好奇心旺盛でコミュニケーション能力が高く、どんなことにも積極的に挑戦するチャレンジ精神旺盛な人物、といったあたりが一般的でしょうか。
こうして文字にすると、随分と薄っぺらい、何というか内実など何もない感じがします。
というか、ぼく自身が社会生活を送る中で、いつの間にかこういう「真っ当」とされる情報に取り囲まれて辟易しているという面もあるのでしょう。
ぼくは、貫多に人間的な魅力を感じます。
それから、西村さんの小説の面白さの秘密は、やはりその文章力にありましょう。
古風な文体ですが、ぐいぐいと引き込んでいく力があり、やがて中毒になります。
ぼくは、特に、貫多の心理描写が好き。
卑怯で怠惰で打算的で自分勝手。
でも、「分かる分かる」と膝を打ちながら読んでしまいます。
それで、はたと、西村さんの掌の上で踊らされていることに気づくわけです。
これは文章による芸ですね。
次は「二度はゆけぬ町の地図」を読む予定。
楽しみです。
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