西村賢太のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
4つの短編からなる秋恵との日記。表題の「寒灯」は、初めて一緒に過ごす正月に秋恵が貫多に断りも無しに単独帰郷を決めていた事に対する憤りの話。男が嫌いな、女性のこうした無神経さを短編に上手く纏めてあり共感。巻末の「腐泥の果実」は秋恵と別れてから八年後に、当時を想起させる品と出会い、その心情を語る一編。
巻頭の「陰雲晴れぬ」で始まる同棲の開始から巻末の一編までで、短いながらも充実していた初の素人女性との同棲生活が生々しく語られ、当初活き活きしていた二人が次第に淡泊な惰性の日々の果て別れてしまう様には、良く有る話とは言え、やはり刹那さを覚える。 -
Posted by ブクログ
自身の存在意義を確立できていない人間にとっての、この社会での生きづらさや不安要素、感情の動きが事細かに表現されていて、いい意味で不快感がすごかった。だけども実際そんな人間が考える妬み嫉み他責は、全部自信の無さから派生している感情だろうから目に見える実績を求めるのだろうな〜という思考回路がよく分かるお話だった。
私自身にも重なる部分が多々あって耳が痛いような気分になりました。ここまで赤裸々に人間臭さを表現してくれるなんて、仲間を見つけたようでなんだか嬉しい。それでも何もしなくても居心地のいいところなんて大体成長がないんだから長居するのは良くないね。 -
Posted by ブクログ
「人工降雨」
秋恵もの。DVの謝罪からはじまり、一瞬のハネムーンののちにあっという間に貫太がイライラして暴力が飛ぶ。
もはやDVの様式美と言えるテンポの良さと流れの完成度はコントや落語の域である。
ここまでオーソドックスでストロングなDVを描く西村賢太はもはやDVの大家と言える。
「下水に流した感傷」
これも秋恵。結句、貫太の短絡と暴力の話ではあるのだが、今作の本筋でもある観賞魚を飼おうとして四苦八苦しているくだりがなかなか面白い。
「夢魔去りぬ」
西村賢太にとっては歯を食いしばりながらのマイルストーンであるのだろうなと感じられる作だが、エンタメ的な私小説としてはケレンみが薄い。
後世の西村賢 -
Posted by ブクログ
「寿司乞食」
念願の築地勤めのバイトをつかみ、場所柄の気風の良い歓待を受けて調子に乗りまくる北街貫太の話。
いつも通りそんな理想環境もあっさりぶち壊すのだが、築地の人たちが良い人すぎて醜悪な破滅にはならないのがなんだか面白い。
「夜更けの川に落葉は流れて」
表題作。バイト先で出会った女性との甘い時間と貫太らしい身勝手さによるぶち壊し。
今回は珍しく甘やかな時間もそれなりにあるので、年らしく青春している貫太への西村賢太の面映いような目線も感じる。
しかし、ぶち壊しに行く顛末はひたすらに醜い自己完結でありさすが北街貫太といったところ。
「青痰麺」
病的な癇癪と奇行の話。作家となった今まで繋がる話で