西村賢太のレビュー一覧

  • 小銭をかぞえる

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    ネタバレ

    十年ぶりに再読しました。

    焼却炉行き赤ん坊 70点
    西村賢太を知っていればタイトルをみれば、どんなオチになるか分かってしまう。
    分かってしまうが、面白い。
    面白いと思うことに不謹慎さを感じるが、それでも面白い。
    「石女」(うまずめ)なんて今の御時世(今じゃなくても)で発するなんて不適切にもほどがある。

    小銭をかぞえる 80点
    しかし、よくこのふたりは生きていたと思う。
    殺すか殺されるかしててもおかしくない。
    もう、金へのみみっちさを見てると私の死んだ親父を思い出す。
    よくあんな親のもとで育ってまともな社会人になったものだ。

    それはさておき、主人公の心の(歪んだ)機微の動向をここまで書けているのはなかなかのものだと思ってしまう。しかも面白いとあればなおさらすごい。

    苦役列車に出てきたあの青年が出てきた。

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    2026年02月19日
  • 苦役列車(新潮文庫)

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    父親が性犯罪者として捕まったことで、社会の底辺に転がり落ちてしまった男性の孤独と葛藤が荒々しく、生々しく、唯一無二の文体で描かれた私小説。

    悲哀と渇望の描写が凄まじく、男性の体臭や酒臭さまで感じられる、この感覚ははじめて。

    怖いもの見たさで、ほかの作品の全部読んでみたい。

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    2026年02月15日
  • 人もいない春

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    西村賢太12冊目

    安定の面白さ。同じことを何度も読まされている気がしないでもないが、それでも高評価をつけざるを得ない

    なかでもレストランの一編は珍しいホラー小説
    グロを書かせても上手い

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    2026年01月05日
  • 雨滴は続く

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    西村賢太11冊目

    序盤、某作品は横光利一の作品をもじったとの記述があり、期せずして答え合わせができて嬉しくなる

    貫多が商業誌に掲載される駆け出しの作家になるまで、内容はクズ男の日常といつも通りなのだが半分は恋愛要素となっており、しかもWヒロインの三角関係(良く言えば

    背表紙には巻末には片方の女性が文章を寄せていると書いてあったがそれは盛大なネタバレじゃないか!
    しかもその方、口臭とかクチクサとか書かれてますよ何回も

    なぞ思いながら残りページ数が減ってきてあれ?となる

    やられた!これはもはや叙述トリック!傑作
    他の作品を読んだぶんだけキッチリハマるやつ!

    終盤の「根は〇〇でできている」ラッシュはいくらなんでもページ稼ぎが過ぎると感じて星を減らすつもりだったが、満点をつけざるをえない

    ヒロインの文章も没後じゃないと絶対に掲載されなかったであろう内容で、雨滴が続いた最後に晴れを見せてくれる

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    2025年12月28日
  • 二度はゆけぬ町の地図

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    はちゃめちゃに面白かった。特に「春は青いバスに乗って」と、「腋臭風呂」が理不尽で気持ち悪くて良かった。

    なにより、豊崎由美さんの解説が秀逸だった。西村賢太に興味がある人は、本編を読まずとも、ぜひ読んでほしい。

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    2025年12月25日
  • どうで死ぬ身の一踊り

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    藤澤清造に関する調べ物を行う様子や同棲生活のイザコザを描いた私小説。

    短気ですぐに手を上げ、女に逃げられると泣きつき反省したかに思えるが、また同じ事を繰り返すクズ。しかし、藤澤清造にまつわる事に関しては熱心に取り組む。そんな彼が何処か愛おしい。

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    2025年12月19日
  • 蠕動で渉れ、汚泥の川を

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    西村賢太、9冊目
    貫多17歳 洋食店編

    その年齢的にギリギリ許されるであろうクズエピソード満載、声に出して笑ってしまう場面もあり予想と期待を裏切らない内容

    どれだけ悪態をついても一人称が「ぼく」
    引っ越しの私財は文庫本のみ

    湊かなえのやさしい解説を読み終えると、また最初からエンドレスで読めてしまう作品

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    2025年12月18日
  • 二度はゆけぬ町の地図

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    これまで読んだ作品も軒並み高い評価をつけたが西村賢太のマイベストはコレかな

    文章も構成もドストライクだった

    解説者が「昭和アイドルの曲名のよう」と書いていた「春は青いバスに乗って」
    自分は横光利一「春は馬車に乗って」が真っ先に思い出されたし、おそらくそういうことだろう

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    2025年12月15日
  • 小銭をかぞえる

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    近くにいたら絶対ぶっ飛ばしてるけど、なぜか面白くて一気読みした。
    あえて難しすぎる表現をつかうところにプライドの高さと捻くれ加減が垣間みえて、ある種かわいらしいと感じてしまった。

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    2025年09月29日
  • どうで死ぬ身の一踊り

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    墓前生活 70
    16p(略)元来、人の二倍も三倍も分別をわきまえ、絶対に良識や良俗を踏み出せない性格でありながら、何かどこかが社会一般のあらゆるものとかみ合わない。(略)そうなればもうそれを逆手にとってやり、諦めを強いた自らの心を抱きしめながら、孤独なパフォームを演じてゆく他ない(略)
    藤澤清造と西村賢太の普遍的な関係性を感じてしまいます。

    藤澤清造あっての西村賢太であると同時に、西村賢太があっての藤澤清造なのだと思いました。(解説から)

    コロッケあっての美川憲一であるのと同時に、美川憲一あってのコロッケみたいな笑

    どうで死ぬ身のひと踊り 75
    藤澤清造のことでうまくいくとがあると、一方では秋恵に対して暴君のように振る舞っていまう。
    そこに相関性があるのか因果性があるのか、本人も困惑しているみたいです。

    一夜 90
    かなり好き。
    人間の喜怒哀楽をここまで網羅できてる短編はそうはない。

    0
    2025年07月11日
  • どうで死ぬ身の一踊り

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    西村賢太さんの存在に興味を持ち拝読。

    「どうで死ぬ身の一踊り」という言葉通り、諦観しているからこその、人並外れた執念や執着が描かれていた。

    DVのシーンは軽快で酷くて、この表現は良くないかも知れないが、読むのが面白かった。

    0
    2025年06月12日
  • 小銭をかぞえる

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    小説でこんな笑ったの初めてだわw圧倒的語彙力とレトリックで女に罵詈雑言を浴びせ畳み掛ける様はまさに鬼畜、色々好きな場面はあったがぬいぐるみを引きちぎる場面は痛快極まりない。女性には勧められないが男性にはなんとしても勧めたい本であった。

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    2024年12月12日
  • やまいだれの歌(新潮文庫)

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    初の長編も面白い。新たな職場でのアレコレや、そこに入ってきた同年の女性への恋心、田中英光作品との出会い。いつもの北町貫多だが、19歳時点の話なのでやけに惨めに思える。それはやはり同じ年頃の当時の自分の中にいた、ライトな貫多を思い出させられるからかも知れない。

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    2024年10月01日
  • 蠕動で渉れ、汚泥の川を

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    ネタバレ

    島崎和歌子さんが出てませんが、マックのカウンター席の端っこで読んでたらゴリゴリの女子高生4人組が私の隣に座ってきて、ゴリゴリの女子高生の隣でこの本を読むのは何か法に触れるのではないかと怯えながら読みました。

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    2024年09月10日
  • どうで死ぬ身の一踊り

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    一言で言ってしまえばクズ、その典型みたいなものだけど、ではなぜそうなのかというと、おそらくは純粋さゆえなのかもしれない。もともと縁もゆかりもない藤澤清造にこれだけ傾倒できるのも純粋さゆえとおもえる。表面上まったく共感できないような暴力男のはずなのに、これだけ他人事のように赤裸々に書かれると、その内面のある種の可愛らしさが見えてきて、謎の共感を覚えてしまう。

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    2024年08月29日
  • やまいだれの歌(新潮文庫)

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    貫多のクズっぷりにめちゃくちゃ笑ってしまった。
    貫多は本当にどうしようもないのに、どこか憎めないところがあり、なぜか惹かれてしまう。

    貫多はどうしようもない人間のままだし、作中で分かりやすい成長もしないが、そういうどうしようもなさすら、見つめ続けて誠実に書けば一つの作品として成立しうるんだなぁ。文学は幅広い。

    巻末の「苦役列車」映画化の山下監督による解説もよかった。貫多が田中英光の私小説に救われたように、西村健太の私小説に救われる人もいるだろうなぁと思う。

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    2024年08月22日
  • やまいだれの歌(新潮文庫)

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    8月に読んでみたが、また読みたくなってしまった。

    結末はわかっているものの、いやむしろ、結末がわかっているが故に余計に貫多の押し潰されそうな気持ちが鮮明になってしまう。

    横浜に移り住もうときめたことや、造園会社との面接シーンや、アットホームな職場に居心地の良さを感じるところ、古本屋を廻って偶然的に田中英光と出会うところや、梅野と親しくなるところ、油井に岡惚れしてしまうところ、歓迎会にて大虎になってしまうところ、歓迎会の帰りの向いのホームに誰もこないところ。。。

    これらすべてが年末の忘年会のあの出来事に繋がっていくと考えると、貫多の孤独が際立ってきてしまう。


    とっても面白かった。

    「文学」の意味を改めて確認できるような作品だったと思います。

    北町貫多版「こころ」みたいな雰囲気すらありました。

    ほんとうによかった。
    胸が締め付けられる思いです。

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    2024年08月20日
  • 東京者がたり

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    836

    中学しか出てない西村賢太の文章のかっこよさと面白さって自主的な読書で得たものだから、ほんと才能を磨くのに学校教育は関係ないんだろうなと思う。

    西村賢太は父親が性犯罪者だからそうなりたくないからその父親が好きだったものの逆を趣味にしてたらしい。

    西村 賢太(にしむら けんた)
    一九六七年七月一二日、東京都江戸川区生まれ。中卒。二〇〇七年、『暗渠の宿』で第二九回野間文芸新人賞を、二〇一一年、「苦役列車」で第一四四回芥川龍之介賞を受賞。著書に『どうで死ぬ身の一踊り』『二度は行けぬ町の地図』『小銭をかぞえる』『廃疾かかえて』『随筆集 一私小説書きの弁』『人もいない春』『寒灯・腐泥の果実』『西村賢太対話集』『一私小説書きの日乗』『棺に跨がる』『歪んだ忌日』『けがれなき酒のへど 西村賢太自選短篇集』『一私小説書きの日乗 憤怒の章』『薄明鬼語 西村賢太対談集』『随筆集 一私小説書きの独語』『やまいだれの歌』『下手に居丈高』『一私小説書きの日乗 野性の章』『無銭横町』『痴者の食卓』などがある。

    東京者がたり
    by 西村賢太
     とは云え、それも父親の起こした性犯罪で夜逃げしてからは状況が一変した。母親から、後楽園にゆくことを一切止められてしまったのだ。万が一、その同級生と鉢合わせになることを恐れていたようであったが、しかしこれは余りにも気を廻し過ぎのきらいはあった。だが肝心の球場までの交通費を貰えないのだから、どうにもならない。しばらくは、たまさか中継されるラジオのナイター放送で渇をいやしていたが、次第に私の興味は横溝正史や大藪春彦の小説世界の方に傾き始め、比例して野球熱も冷めてゆく塩梅となった。

     私の生まれ育った町は荒川を渡り中川を越えた、新中川と江戸川に挟まれる位置に在していた為か、これで川と云うものに対する愛着は人一倍強くできている。  が、川ならば何んでもいいと云うわけでもない。それはどこまでも、自身の地元の川に限られているようだ。  たとえば私はこの十数年間、大正期の或る私小説家の墓参の為に、能登の地にしばしば赴いている。その墓所のある七尾には、 御祓 川 と云うのが流れている。帰路に立ち寄る金沢には、犀川と浅野川と云う有名な川がある。

     十五で家を出た私が、最初に独り暮しを始めたのは鶯谷の三畳間だった。その頃は扇風機一台持てず、日雇い仕事にゆかぬ日なぞは室内の暑さに辟易し、二十分程歩いた浅草の三本立映画館によく避難した。そして冷房の利いた館内で夜までを過ごしたのちに、また蒸し暑い部屋に帰る段には、必ず吾妻橋の真ん中辺に佇んで、小一時間程も暗い 川面 を眺めるのが常だった。

     毎々繰り返しのように云うが、何んと云っても私の父は、とんでもない性犯罪者である。すでに他人として、現在まで三十五年が経っているとは云い条、その遺伝子を受けついでいる事実までは変えようがない。だからこそ私は、父親の趣味嗜好とはことごとく逆をゆくことを心がけていた。  私が車の免許を持たないのは、かの父親が外車マニアであり、零細運送店を経営していたことと無縁ではないし、趣味としてはカントリー・ミュージックを好み、夥しい数の洋楽レコードを収集していたそのせいで、私は音楽に殆ど興味を寄せなくなった。かわりに、先方が好まなかった小説世界に没頭するようにはなった。で、煙草や酒もこのデンと云うことになる。

     だが、そんなにして心ならずも足止めを食らった格好になりつつ、住めば都とはよく云ったもので、英光の要素を抜きにしても、この旧花園町は案外に居心地が悪くないのである。  何しろ、どこへ出るのにも利便な地だ。そして充分都心であるわりに、田舎者が好むような浮わっついたところが不思議とない。旧青線地帯の 残渣 を漂わせつつ、数十メートルも進めば新宿二丁目に紛れ込むデンジャラスな感覚は、そこに棲む者に程良いデカダン気分も喚起せしめてくれるのだ。  よく、書き手の中にもこの界隈に在住することを述べられるかたがいるが、確かにその独得の雰囲気ゆえに、ちょっと誇りたくなるような町ではある。  私もまた、一面では一つの目標をなくした喪失感を抱えつつ、それだけにこの些か非日常的な小空間の、闇に紛れるような起居には安寧を覚えて、 結句 ズルズルと棲み続けることになってしまった。

     いったいに私はサブカルと云うのと、それを好む人間が大嫌いである。そして小演劇と云うのと、それを好む人間が大嫌いである。  ともに、概して田舎出の者が多いのが不思議だが、つまるところ東京に来て調子にのっている田舎者が、本当に不愉快でならないのだ。アングラ芝居の関係者がその地のバーで、朝まで演劇論を闘わせ、ときには摑み合いにも発展するとか云う、自己満足の猿芝居はまことに〝臭い〟と思うし、その街を闊歩していっぱしの東京人を気取る百姓と、それを許容する周囲との甘えた馴れ合いは気味が悪くて仕方がない。まったくもって、人も街も安雑貨だ。

    そうだ。これは別段下北沢に限らず、どうも私は世田谷区全体が嫌いなのだ。

    拙作『苦役列車』では、主人公である私の分身、北町貫多が上京して、ムヤミと世田谷か杉並(阿佐ケ谷、高円寺、荻窪辺)に住みたがる手合いを罵倒する場面がある。そして下北沢の小劇場だの、ニューアカ、サブカル系のトークショーに露骨に拒否反応をあらわす場面もあった。

    元来が横溝正史の小説から読書好きとなった私は、その七〇年代にまきおこったブームの先鞭たる『横溝正史全集』を二度に亘って刊行し、「犬神家の一族」や「女王蜂」の掲載誌である『キング』発行元の同社には、妙な云い方だが一方的にインチメートな感じを抱いていた。

    中学を出て一人暮しを始めて以降、種々のアルバイト業で生計を立ててきた──なぞと云えば、何かいっぱしの苦労人ででもあるかのような言い草にもなろう。  また、或る新人賞を得た拙作が「苦役列車」なる題名の私小説で、その内容も性犯罪者を父に持つ十九歳の中卒青年が、港湾の日雇い人足に従事しつつ一杯のコップ酒を心の支えとし、夢も希望もない日々を送って云々、との紹介をされることが多いとなると、これはもう、尚更のことにかような苦労人風のイメージを持たれがちである。

     いつかのこの欄でも述べたが、蒲田には馴染みの深かった一時期がある。母方の菩提寺への最寄り駅であった故だが、しかしその隣りの大森となると、これは全く無縁の地だ。

     当然、蚊の襲来も激しいものがあり、明け方に、ようやく暑さが僅かに収まった間隙にまどろんでも、耳元へその羽音が近付くと条件反射的に起き上がって、これを両手で叩き潰すことを繰り返さざるを得ぬ。  だから夏場の私のその 室 での睡眠時間は、平均して二、三時間と云ったところであったから、この時期はしばしば母親の住むエアコン付きの町田のアパートへ、金の無心も兼ねた、眠りの補給の目的の〈帰省〉を行なっていたものである。

     で、このときの私は三十一歳になった直後だったが、相変わらずの独り身で、相変わらず恋人も友人もいなかった。  それが故、かの大病院を出た私は、取りあえず一度、宿に戻った。当時は新宿一丁目の豚小屋──本連載の〈旧花園町〉の項で述べたところの宿に棲んでいたが、身の廻りのものと数冊の本を紙袋に詰め、それから改めて、目と鼻の先の新宿通り沿いの中病院へと赴いたものである。

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    2024年07月16日
  • やまいだれの歌(新潮文庫)

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    横浜に移り住んだ貫多のあまりに痛すぎるストーリー。滅茶苦茶面白い、けれどページを捲るのが居た堪れるほどにイタイ、貫多の行状にどこか感情移入する自分がいるのが不思議である。

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    2024年05月21日
  • 雨滴は続く

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    西村賢太という作家の人間そのものが溢れ出た名作です。読んでいて何度も自分にも当てはまるフシがあるなと思い、それを隠すこともなくさらけ出す私小説書きの貫多の心情に共感と賛美しかありません。喫茶店で一人読んでいて、あまりの人間味の強さに吹き出しそうになりました。葛山久子さんからの特別原稿は感動で心が震えます。もう西村賢太さんはいないのだ、という事実に寂寥を覚えます。

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    2024年05月20日