西村賢太のレビュー一覧
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ネタバレ新鮮な喜びに満ちた甘く温かい同棲生活が、いつの間にか他愛もない言い合いから思わず手をあげるような大喧嘩に転変。本作では肋骨が折れ救急車さえ呼ばなければならない緊急事態にまで陥っている。それでも藤澤清造の開眼式を第一とし、警察への連行を恐れ、骨のヒビは直に治るだとかロキソニンを服用すれば大丈夫だとか・・・。女の身より自分の保身を最優先とする身勝手を恥ずかしくもなくありのままそのままを語っている。惨めな性欲、女への見苦しい未練。ここまで書くか。人目憚らず見事に書き上げている。モチーフはいつものワンパターン。読ませられるのは私小説ならではの力か。西村氏のあとがきには「小説に関しては、ただ才にまかせただけの観念の産物よりも、その作者自身の血と涙とでもって描いたものでなければまるで読む気は起こらない」とある。むべなるかな。同時収録の墓前生活には藤澤清造の墓との邂逅、そして今も続く月参り、自室が清造の墓地となっている経緯が綴られており、表題作の導入の役割を演じている。
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ネタバレ今回は前向きな短編が多かったように思う。恋人を作ろうと躍起になっている話よりも、貫多と秋恵が同棲している話が印象的だった。恋人がいても、その性格故に様々なトラブルを起こしてしまうところなど、まさに貫多らしい。
気に入った作品は、『二十三夜』、『悪夢』、『赤い脳漿』だ。特に『悪夢』は作者には珍しく私小説ではない作品だったために新鮮だった。西村賢太の私小説以外の作品は初めて読んだと思う。鼠の身に降り注ぐ不幸が、どう足掻いても止むことはない。あのレストランに勤めていた人間もそうだが、動物も動物で大変だと思う。最後は真っ暗闇の中に光がやっと射し込んだと思ったら、一気に暗転してしまった。 -
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待ちに待った西村賢太最新作。
この作家は、もっと評価されていいはずと、本気で思う。古い純文学の体をなしながら、これほど素晴らしいパロディーを描ける方が他にいるだろうか?
物語展開の巧さ・会話の妙・そしてなにより、文語体を笑いに昇華させる文章力!
とにかく頭のいい作家さんだなと感心します。
物語は、貫太と秋恵のちょっと悲しくてほろ苦い、終わりのない男女の戦いを描く。
男女二人の密室劇といってもいい設定だが、このふたりの日常の密度の濃さは異空間ともいえる。
21世紀の小津安二郎か!
デフレ時代には彼のような作品こそが求められるのではないかと思いました。
今・これからの小説のトレンドになる西村賢太はどれもオススメです。 -
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いつも通りの短編集。芥川賞受賞後初の短編集らしいが、受賞前と何が違うのか、あるいは何かが違っているのかは知らない。
個人的にもっとも面白かったのは「腐泥の果実」。木枯しの吹く寒い日、主人公北町貫多は文具店で以前交際していた女性が誕生日にプレゼントしてくれたものと同じペン皿が売られているのを見つける。自身が犯した過ちを悔いるとともに思い出の世界に没入するが・・・そんな話。
秋恵に未練は無いと前半で言っておきながら終盤で「今もただ一人の女性」と認めてしまうところは安定の面白さ。しかもどうしょもないオチまで付いている。
ただ、大切な恋人を失ったと言うより、心の寂しさを埋めてくれるピースを無くしてしまった・・・という感じの印象を受けるのは何故だろう。
甘えさせてくれる対象を求めるマザコン、とも違う気がする。ボロボロの家に入り込む隙間風から必死で身を守ろうとしているような・・・
こんなモノを読んでしまっては、誰かに好意を抱くたびに「それは愛情なんかじゃなくて自分の空虚・寂しさを埋めようとしてるだけなんじゃないの?」と自分に問いかけたくなってしまう。余計なことは考え過ぎない方が幸せになれるだろうに。 -
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「ぼく、おまえをずっと大切にするから、今後ともひとつよろしく頼むよ」
待望の恋人との同棲生活の始まり。
仲睦まじく二人で迎える初めての正月に貫多の期待は高まるが、些細な事柄に癇の虫を刺激され、ついには暴言を吐いてしまう。
二人の新生活にあやうく垂れ込める暗雲の行方は―。
…
これは"秋恵シリーズ"というんでしょうか。
新潮文庫から出ている「廃疾かかえて」(読みた〜い)にも"秋恵"が出てくるそうなので。
本書は連作短編集になります。
収録内容は、
「陰雲晴れぬ」
「肩先に花の香りを残す人」
「寒灯」
「腐泥の果実」
…
主人公はお馴染み貫多。
待望の"恋人"との同棲生活の始まり〜破局に至る過程が描かれます。
いやー、もう…よく1年持ったなぁと。秋恵ってば忍耐強い!
私だったら、貫多とは同居、ぜっっったい無理ですね。
お付き合いも無理。
とてもじゃないけど耐えられない(苦)
でも私も案外、貫多タイプなので…うわぁ凄いサイテーじゃん;
でも、小説として読む分には面白い1冊です。
最初は互いに気を使って〜貫多の横暴さとそれに耐える秋恵〜冷めた秋恵の流れ、特に秋恵の変化が生々しくて!
秋恵には悪いけど、貫多がキレて罵詈雑言を浴びせる喧嘩シーンとか笑えます。
人の喧嘩って離れて見ると面白いもんなー(←悪趣味
好きなシーンは、「肩先に花の香りを残す人」から…
嗅覚が鋭い貫多は、タクシーで上着に整髪料の臭いが移ったことに腹をたてます。
「ああっ、何んだよもう! クリーニングに出したばかりのジャケットなのに!」
とキレる貫多。
そして怒りの矛先は秋恵に向けられ…
「今日からぼく、おまえのことを畜膿女と呼んでやるからな」
「…………」
「返事をしろい、畜膿女!」
(略)
「なにがちくのう女だよ! イヤなこと言わないでよ!」
と以降、壮絶な舌戦が繰り広げられる事になるんですが…もうこの喧嘩シーンが最高で(爆)
畜膿女!って…唖然ボーゼン、こうなると笑えますね、もう。
終いには「ゴキブリ女」呼ばわり。かあぁ〜。
しかもヒッドイ事いってるのに一人称は「ぼく」なんだ。
そして秋恵の台詞では「ちくのう女」と畜膿を漢字ではなく平仮名で書く辺りが上手いなぁ、と。
このあと貫多、秋恵にグサリとやられてますが(苦笑)
収録作の中では「肩先に〜」が一番好きですね〜。笑えるし。
面白かった〜♪ -
Posted by ブクログ
西村賢太氏の最新単行本。
おなじみ北町貫多が、恋人秋恵と同棲し、やがて去られてしまうまでの物語。数篇の短編小説が連作の形で収録されている。
秋恵のことを書いた小説は、秋恵シリーズというらしい。今回の小説の中で、同じテーマ(秋恵)ばかり書いているようなことを貫多が言っている。秋恵は西村氏にとって永遠のテーマのひとつであるようだ。
あいかわらず筆が冴え、これ以上ない自虐的なエピソードにしばしばうんざりする思いになりながらも、やっぱりクスクス笑ってしまう。自分を落としこんでユーモアをもたせる腕が達者である。
秋恵は実在するのだと思うが、こんなにあからさまに書かれてしまうと、本人としてはたまったものではないだろう。
私小説を書くということは、回りの人間との関係性を壊してしまうくらいでないと、作品としては成り立たないのだと、あらためて思う。