あらすじ
三十余年ぶりに生育の町を訪れた"私"が、その地で見たものは、一瞬の夢幻だったのか――。昏い過去との再会と訣別を、格調高い筆致で描く鮮烈なる表題作ほか、北町貫多の同居女性に対する改悛の情とその後を語る「畜生の反省」など、無頼の私小説作家の名調子が冴える、六篇の短編集。(『痴者の食卓を改題』)私小説作家の新境地。苛烈なる"生"の小説集。
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Posted by ブクログ
作者の作品を読んでいる時、北町貫多の怒りの頂点を少なからず期待しながら読んでいる。その怒りの後の感情の移り変わりにも興味がある。私自身も癇癪持ちで怒りの後のむなしさをよく理解できる。北町貫多が怒り殴った後は読んでいてもむなしくなる。少し落ち込むがこの作者の作品をまた読みたいと思い読んでいる。興味深い作家さんである。
Posted by ブクログ
「人工降雨」
秋恵もの。DVの謝罪からはじまり、一瞬のハネムーンののちにあっという間に貫太がイライラして暴力が飛ぶ。
もはやDVの様式美と言えるテンポの良さと流れの完成度はコントや落語の域である。
ここまでオーソドックスでストロングなDVを描く西村賢太はもはやDVの大家と言える。
「下水に流した感傷」
これも秋恵。結句、貫太の短絡と暴力の話ではあるのだが、今作の本筋でもある観賞魚を飼おうとして四苦八苦しているくだりがなかなか面白い。
「夢魔去りぬ」
西村賢太にとっては歯を食いしばりながらのマイルストーンであるのだろうなと感じられる作だが、エンタメ的な私小説としてはケレンみが薄い。
後世の西村賢太研究者には喜ばれるかも
「痴者の食卓」
秋恵もの。鍋を買おうという秋恵の提案に端を発し、最終的にはそれなりに高級なホットプレートなんて買い与えてやるが、新品の匂いが気に入らず、あげくすき焼きの〆なんかで揉めて暴力沙汰になる。
北街貫太が振るうDVはミクロで見ると間違いなく悲劇の狂乱だが、マクロに引いて見ると喜劇のお祭り騒ぎである。そんな滑稽さが詰まった作。
「畜生の反省」
秋恵との喧嘩に不貞腐れ、金を使って鬱憤を晴らそうと古書店で貫太が管を巻くところから始まる。
しかし、一通り金を作るとその際のやり取りもあって貫太も反省をし、秋恵に良くしてやろうと帰宅する。しかし、帰った室で秋恵が父に貫太との喧嘩を報告していた様子を知り一時の反省もなんのその、再びどのような諧謔をしようかと思案する。まさに畜生の反省である。タイトルの妙
「微笑崩壊」
飲み屋で他のカップルが揉め、女を責める男の醜悪さに愕然として貫太が反省してちょっと優しくなる話。
お約束として結局DV男に戻るのだが、確かにその時の秋恵はちょっとウザいのが面白い。
Posted by ブクログ
相変わらず面白い。
本作では主人公の理不尽な怒りがエスカレートして、頻繁にツバを吐いたりするのがすごい。
狂ってるー。
期待を裏切らないいつも通り感。
鍋を買って喧嘩とかせせこましくて面白いし、魚の一件は秋江が逃げてしまうことの暗示のようでおもわせぶりでよきよき。
主人公の他人を評する際の嫌な感じも楽しいし、せせこましい人間のくせに喧嘩の時の啖呵だけ立派なのも楽しいし、一切退屈しない。言葉への並々ならぬこだわりが、倦怠を拒絶する。読んでいるだけで快楽。
Posted by ブクログ
北町貫多は相変わらず酷いんだけど、なぜか北町貫多の人生を読み続けたくて読んでいます。前回読んだ『瘡瘢旅行』より良かった。
個人的には表題作と「微小崩壊」が好きです。「微小崩壊」では居酒屋で自分と重なるモラハラDV男を目撃して自分の酷さを再認識し、秋恵に対し態度を寛容に、DVを行わないように気をつけるんだけど最後は盛大にブチ切れるというオチがお決まりな感じで面白かったです(面白いという表現が適切なのかどうかは分からないけど・・・)。
Posted by ブクログ
同居女性にDVを繰り返す小心な男の日常。日本の近代文学のお家芸である私小説にあたるらしいのけど、じめっと陰湿な感じ。著者の日常が反映されているんだろうけど、ここまで心象を描いていながら、それでもDVやめられませんか、って思った。
同居女性の言動にムカついて暴力や怒号に走るんだけど、その発火点になる言動や男の心象がけっこう子細に書かれていて、なるほど、女性にそう言われたり、そうされると腹も立つよなあ、とは思う。でもだからって暴力に訴えちゃやっぱいかんよね。