西村賢太のレビュー一覧
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「人工降雨」
秋恵もの。DVの謝罪からはじまり、一瞬のハネムーンののちにあっという間に貫太がイライラして暴力が飛ぶ。
もはやDVの様式美と言えるテンポの良さと流れの完成度はコントや落語の域である。
ここまでオーソドックスでストロングなDVを描く西村賢太はもはやDVの大家と言える。
「下水に流した感傷」
これも秋恵。結句、貫太の短絡と暴力の話ではあるのだが、今作の本筋でもある観賞魚を飼おうとして四苦八苦しているくだりがなかなか面白い。
「夢魔去りぬ」
西村賢太にとっては歯を食いしばりながらのマイルストーンであるのだろうなと感じられる作だが、エンタメ的な私小説としてはケレンみが薄い。
後世の西村賢 -
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「寿司乞食」
念願の築地勤めのバイトをつかみ、場所柄の気風の良い歓待を受けて調子に乗りまくる北街貫太の話。
いつも通りそんな理想環境もあっさりぶち壊すのだが、築地の人たちが良い人すぎて醜悪な破滅にはならないのがなんだか面白い。
「夜更けの川に落葉は流れて」
表題作。バイト先で出会った女性との甘い時間と貫太らしい身勝手さによるぶち壊し。
今回は珍しく甘やかな時間もそれなりにあるので、年らしく青春している貫太への西村賢太の面映いような目線も感じる。
しかし、ぶち壊しに行く顛末はひたすらに醜い自己完結でありさすが北街貫太といったところ。
「青痰麺」
病的な癇癪と奇行の話。作家となった今まで繋がる話で -
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女々しく且つだらしない貫多の行動と洞察、思考に共感する所がある。具体的には貫多の他責思考で嫉妬深く自分本位な性格なところや、坊主憎けりゃ袈裟まで憎しで嫌いになった友人とその彼女までもを卑劣な目に合わせたくなるその攻撃的な衝動と言動。
それらは読者である自分にも見出せる共通点でもありつつも長らく蓋してきた醜悪な部分でもあり、ページをめくるごとに眼前に取り出して見せられ眺められているようだった。辱めを受けたかのような錯覚を受け、同時にその反応すら見られているような。そんな私小説の醍醐味を久しぶりに味わえた。
視点を変えると、私はここまで自分を曝け出すことはできるだろうかと考える。恐らくできない -
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母克子のとの具体的なやりとりを初めて読めたと思う。その後実家を追い出され駅構内の飲食店でのアルバイトの話も初めてだった。そのほんの数ヶ月の出来事の中の、しかもほんの些細な題材を丁寧に面白く書かれていた。普通に楽しかった。同じ世代の17歳よりははるかに精神年齢が上になってしまうのは環境から仕方ないとはいえ、逆にまだ17歳。不安定な部分があって当たり前だと思うし普通に一人暮らしは無理だろう。まあでも克子と同居するのは無理だろう。
終わりの2章はとたんに中年になっている貫多。そんな大金をはたいてまで古書をそろえるのは自分の金銭感覚とかなり違っている。ホント人と比べない、「普通」がない、どこまでも自分 -
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2022年53歳、逝去。
まだ若いが、著者らしいと言えば、著者らしい。
藤澤清造に取り憑かれたように人生を捧げ、その一生を私小説のために生きた。ファン精神などと言えば、氏が墓場で憤怒するだろうか。氏のアイデンティティとして、藤澤清造は生活の一部となり、生き方の模範でもあり、そしてその破滅的な生き様は、どこまでも晴れはしない西村賢太の孤独な生涯における慰めであったに違いない。
蝙蝠か燕か、何かの象徴を見たようなタイトル。想像されるのは日陰と日向の対比だが、氏の生き様にとって、それ自体はこだわるものでもない。拘泥するのは歿後弟子となった師匠のみ。飛び立つ黒い影。導かれたのも、その生き様だった。 -
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表紙、題字フォント、カバーからして陰鬱な印象を受けた。独特な文章だが、読み辛いとは思わないし、寧ろ引き込まれてしまう。
妬み嫉みに塗れたその日暮らしの主人公がいて、それを俯瞰的(一般人に近い客観的)な視点で捉える作者がいて。子どもは親を選べない。11歳の時点で人生が決まったという単純かつ短い文の放つ哀しみが強烈で、貫多が合理的かつ器用に生きていくことの難しさを要所要所で突きつけられ、暗澹たる気持ちにさせられた。
西村氏を一目見た時からなんだか纏っているものが尋常ではないと感じてはいたが…
「落ちぶれて…」では何頁にもわたって、ギックリ腰で苦しむ様、それを1人で抱えながら孤独に生きていかなければ