あらすじ
ここ数年、惑いに流されている北町貫多。あるミュージシャンに招かれたライブに昂揚し、上気したまま会場を出た彼に、東京タワーの灯が凶暴な輝きを放つ。その場所は、師・藤澤清造の終焉地でもあった――。何の為に私小説を書くのか。静かなる鬼気を孕む、至誠あふれる作品集。「芝公園六角堂跡」とその続篇である「終われなかった夜の彼方で」「深更の巡礼」「十二月に泣く」の四篇を収録し、巻末に、新たに「別格の記――『芝公園六角堂跡』文庫化に際して」(18枚)を付す。
※この電子書籍は2017年2月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
どうしようもないところまで追い詰められた、ギリギリの人に、射し込んだ純文学という一筋の光、蜘蛛の糸。
そんな切実な救いが胸に沁みる。
文学好きだけでなく、一度は絶望し堕落した経験がある全ての人に勧めたい。
いつもの罵倒や暴力、女性差別などは鳴りを顰め、その意味でも幅広い読者に受け入れ得る作品。
Posted by ブクログ
本人は「別格の作」と評しているということだが、その意味は、誰に読ませるでもなく自分のために、自分が清造の歿後弟子として恥ずかしくない人間であるために書いたという点で「別格」ということらしい。
冒頭、稲垣潤一のコンサートのくだりが異常に長く、なんだこれはと思っていたところからグッと暗い調子になり、反省して、かなり自省的な調子で最後まで行く。読み終えてみればなるほど冒頭でコンサートの華やかさをしつこく描いておくことで後半との落差をつけているのだなとわかる。誰に読ませるためでもないと言いつつも、そういう意味ではちゃんとおもしろくしようとしているところがやはりかわいいと思う。
Posted by ブクログ
これまでの作品と比べるとクズな貫多が出てこない異質の一冊。一人称の場面が多く、北町貫多というよりも西村賢太寄りの印象を受ける。とはいえもはやこの人のファンになってしまえば、何が書かれていようが彼の書いた文章というだけでそれなりに興味を持って読めてしまう。
Posted by ブクログ
西村氏の本もかなり久々だし、私小説も同レベルで久しぶり。
西村氏が藤澤清造氏についての思いをこめた作品で、ご本人の書きたいことを書いたもの。自分の心を守るために小説にしている部分は当然にあり、そのために修正を加えておられる。西村氏という作家に思いが深い読者ならばもっと楽しめたのかな
Posted by ブクログ
「芝公園六角堂跡」
ミュージシャン J・I のライブに招待されて
舞い上がってしまう北町貫多
ところがそのライブ会場が
藤澤清造の死去地に近かったもので
虚栄に浮かれ、初心を見失った自分自身を
まじめに見つめなおすきっかけにもなった
その機会を与えてくれた J・I には心のなかで感謝せざるをえない
自虐に満ち満ちたようでいて
かなり自己愛的な筆者の考え方が現れている
「終われなかった夜の彼方で」
前の作品では、J・I さんに気を使う面もあって
なんかいい話っぽくまとめてしまったが
本当はぜんぜんいい話なんかじゃない
藤澤清造の没後弟子を名乗っておきながら
自分もいい歳になるというのに
全集の完成に向けて、具体的なことはなんにも進んでいないのだ
そのような現状を招いている最大の原因は
藤澤の肉筆が古書市場に現れるたび
高いカネを払っているからなんだけど
金欠の問題というより
その完璧主義が足踏みを余儀なくさせているのだった
完璧主義は「根津権現裏」の登場人物を縛るものでもあった
「深更の巡礼」
藤澤清造にハマる前は田中英光を研究していた
それで、文学賞をとったのち
田中英光の新しい作品集を編纂する流れにもなったが
出版社の事情に阻まれてあまり上手くいかない
しかし結局、商売がやりたいわけではないし
ましてタレントとしてチヤホヤされたいわけでもない
文学に触れていたいのである
それを、刹那的な情熱といわないこともないけど
「十二月に泣く」
田中英光は太宰治の墓前で自殺した
それはたぶん最終的に、太宰治との向き合いにおいて
自分の世界を完結させてしまったのだと思う
そういう生き方が西村賢太の琴線を
どう刺激したかはわからんが
彼は藤澤清造の墓というものに強い執着を持っていた
藤澤の墓を勝手に作り直し
その隣に自分の墓をたてた彼は
そこから逆算して自分の世界を構築していったのだろう
Posted by ブクログ
追悼の思いで、最新作を読もうと思ったら文庫化されたのが最近で、単行本としてはずいぶん前に出ていた。新作としては他にあった。しかも、内容は自分の原点を見つめ返してモチベーションを上げて決意を新たに再起を図るというもので、お亡くなりになった直後に読むにはあまりに切なくてズシンとくる。
ストーリー性があまりなくて、主人公が悶々と考え続けている。主人公が暴言を吐いたり暴れたりするのを期待していたので痛快さに欠ける。
しかも初めて西村さんの本を読むとしたらちんぷんかんぷんだろうから、他の本を4~5冊読んでから読んだ方がいい。なじみの人向けと言える。
初期作品しか読んでいなかったのだけど、もう新作が世に出ないのかと思うと寂しい。