塩野七生のレビュー一覧
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いちばん格好イイお姉様のひとり、塩野七生氏による文藝春秋のコラム集第3弾。2010年5月号から2013年10月号までというから、ずいぶん最近のものが収められている。
イタリアの多くの歴史を俯瞰し、どっぷり浸かって書き進めた著作が示す通り、彼女の現代を見る目は、冷徹で鋭く、それでいて熱い。イタリアと日本をただ比較するのとは違い、特質にあった対処法や指針を明確に示しているところに多くの共感が集まるのだろう。
そして、ここに彼女の作家としての特質が見て取れる。
すなわち、小説家ではない、というところに尽きるように思う。
塩野氏の評価と讃辞を集めてあまりあるカエサルを主人公とした小説を、なぜ彼女は書 -
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下巻はコンスタンティノープルの陥落後、いよいよオスマントルコの勢力が地上でも海上でも西欧の脅威となっていた時代。オスマントルコ軍は赤ひげというギリシャ人海賊の頭目を海軍の司令官にしし、以後有力な海賊たちを利用することで、対西欧の海上での戦力としていた。一方西欧側もジェノバ人アンドレア・ドーリアなど、海上戦術に優れた指揮官を登用することで対イスラムの海上防衛を組織的に行うかに見えたが・・・。 当時の強国スペイン、フランス、そして交易国家のヴェネチア、さらにローマ法王庁のそれぞれの利権とキリスト教国としての立場が錯綜していて、まあ統制のとれないこと!よく500年後の今現在EUというひとつの共同体を
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トルコが西欧に負けたという程度の知識しかなかったレパントの海戦。戦争の発端がキプロスを巡るトルコとヴェネチアの争いであったが、ヴェネチアがローマ法王とスペイン王フェリペ2世を味方にした事で、戦いの姿はキリスト教VSイスラム教という宗教戦争の様相を呈してくる。
この作品は主にヴェネチアの視点で描かれている。バルバリーゴ、ヴェニエル、ソランツォ、ベルバロといった人物を中心に話が展開する。 スペインとヴェネチア、法王の間で「誰が総裁となるか」で意見がまとまらなかったが、最終的に総裁に決まった、若きドン・ホアンという人物の事もとても気になるところだ。 -
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ネタバレこのシリーズでは異質な一巻です。人物中心ではなく、テーマはローマ帝国を支えたインフラである道、橋、水道などのハード、そして医術、教育などのソフト面のインフラ。ローマ人は子供の時から母国語のラテン語と世界共通語としてのギリシャ語を話したと言う。特に道の建設は当時としても土地の接収から始まる公共事業の大変さの記述など、現代にも通じる記述は迫力があります。ローマが世界帝国として現代に至るまで圧倒的な存在感を持っているもの凄さに圧倒されます。ローマ人とギリシャ人の違い、ローマがいかにインフラを重視し、清潔さを望んだか、ギリシャは美を求める割には、清潔さはあまり求めなかった!永年の繁栄、異常に少ない疫病
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ネタバレ1000年に及ぶ繁栄を続けてきたヴェネツィアにも衰退の影が・・・。コロンブスの新大陸発見以上に脅威となったバスコダガマの喜望峰発見。それは経済大国ヴェネツィアの利益の源泉であった胡椒の独占が崩れる予兆だったとのこと。実際にはオランダの台頭・東インドの領有により完全に優位を失うまで時間は要するのですが、地中海中心から大西洋の時代になぜヴェネツィアが乗り遅れたのか。昔の聖地巡礼パックツアーがヴェネツィア商人の発明で、ライバル・マルセイユを圧倒した話、そして聖地への熱意が冷めるにつれ、ヴェネツィアそのものが観光の対象となってきた18世紀は既に爛熟、腐敗、衰退が始まっていたというのは当然だと思います。
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ネタバレ五賢帝の最後を飾るマルクス・アウレリウス。しかし、著者はハドリヤヌス、アントニヌス・ピウスの時代に遡ってとき始める。なぜマルクス帝の時代にローマが没落し始めるのか、それは彼の息子が愚帝であったためだけなのか、マルクスの時代がハドリヤヌス、ピウスの時代とどのように異なるのか、詳しく書いており納得性に富みます。そしてなぜ哲人皇帝が後継者に失敗したのか、やはり息子への偏愛に眼が曇ったのか?著者の説明はこれまでの常識に対して挑戦するように、ピウスに厳しかったり、マルクスの悩みに焦点を当てたりと極めて飽きさせない推理に富んだ素晴らしい歴史でした。映画「グラディエーター」をこの執筆のために何度も見たという
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ネタバレついに1000年を超えるローマ興亡史の終了です。476年の西ローマ帝国の滅亡が学校で学んだ歴史ですが、実は何時滅んだのか劇的な最期ではなかった!それをその622年前のカルタゴの滅亡の際にスキピオ・エミリアヌスが瓦礫の山と化した都市を前に「われわれは今、かつては栄華を誇った帝国の滅亡という偉大な瞬間に立ち会っている。だが、この今私の胸を占めているのは勝者の喜びではない。いつかはわがローマもこれと同じ時を迎えるであろうという哀感なのだ」と語った言葉を著者は引用している。しかし、ローマは劇的ではなく、徐々に傷だらけになっていったという別の哀しみを感じるのでした。西ローマの初期の将軍スティリコを始め、
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人間の顔というものは、その人個人のものであるはずである。
だが、場合によっては、その人が生きた時代を象徴する「顔」になるときもある。
という一文で始まる。
ペリクレス、アレクサンダー大王、大カトー、ユリウス・カエサル、北条時宗、織田信長、千利休、西郷隆盛、ナポレオン、フランツ・ヨゼフ一世、毛沢東、コシモ・デ・メディチ、マーカス・アグリッパ、チャーチル
14人の歴史上の人物をとりあげている。
各人物の肖像画、彫像の写真、顔写真が合わせて掲載してある。
日本史に出てくる名前は一応みんな知ってましたが・・
この齢になって初めて聞く名前も2・3あった(世界史の先生ごめんなさい・・)
少し紹介し -
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ネタバレ塩野さんが本書を書いた目的は「マキアヴェッリの思想を、彼が対象にした人々に近い条件で、現代の日本人に提供したかった」とのこと。
この目的は十分果たせている。16世紀に生きたマキアヴェッリの思想を注釈なしで、生々しく感じ取ることができた。
「自らの安全を自らの力によって守る意志を持たない場合、いかなる国家といえども、独立と平和を期待することはできない(p82)」
「結果さえよければ、手段は常に正当化される(p103)」
「頼れるのは自力のみということに目覚め、運命が自由勝手にふるまうのを牽制する必要がある(p203)」
きれい事ですまない君主(場合によってはリーダー)の行動様式を説くマキアヴェッ -
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911前後の話が多い。ローマ帝国史やマキャベリに基づく言説が小気味良い。
『人間ならば誰にでも,現実の全てがみえるわけではない。多くの人は,見たいと思う現実しかみていない』(ユリウス・カエサル)
このフレーズが何回か出てきておりこの本の核となる考えといえる。
「成果主義のプラスとマイナス」の章は秀逸。第一層は刺激を与えるだけで能力を発揮する人,第二層は安定を保証すれば能力を発揮する人,第三層は刺激を与えても安定を保証しても成果を出すことのできない人。歴史上,上手く機能した国の例からすると,順に2割,7割,1割の割合となる。納得。7割に保証を与えず刺激だけを与えても不安が高まるだけで生産性 -
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巻末には14頁にわたる参考図書が記載されているが本文中に書名が出てくることはない。これこそ歴史小説だと思う。自署についても最初に注意書き、後は注釈程度で良かったと思うが。
欧州諸国の何故は充分読み応えがあるが、イスラム世界側は今ひとつである。その地に今立っても書いている時代に戻れたほどの資料は集まらなかったのだろうか。肖像画などビジュアルがないことも影響しているかもしれない(イスラムでは自画像は御法度らしい)。ローマ時代には緑豊かな農業地域であったという北アフリカが、緑化も困難な土地になってしまった経緯をもっと知りたかった。住み着いた人々の民族性だけが問題だったのだろうか。海賊産業に貿易業は無