山崎豊子のレビュー一覧
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本巻は一貫して裁判の経過を追ったもの。本作品前半では脂の乗り切ったビジネスパーソンとして描かれていた弓成だが、本作品では向かい風吹き荒れる中に佇んでいるようである。外務省における取材協力者であった元事務官の三木が完全に反旗を翻してきている点が最も痛いだろう。そのため、地裁にて無罪を勝ち取ったものの、三木の手記が週刊誌に報道されるや世論はアンチ弓成に…。そして高裁では懲役四ヶ月。最高裁は棄却…。
今年の冬に放映されたTBSドラマで、最高裁の口頭弁論が開かれず文書だけで棄却の通知が来ていたのを素人としては不思議に思ったが、本書を読み、原判決を破棄する場合のみ弁論の通知が来るという傾向があるというのを理解出来た。
さて、三木の弓成への気持ちは如何なるものであろうか。ドラマでは嫉妬だった気がする。仕事をばりばりこなし家に帰れば妻と子二人が迎えてくれる弓成に対して、自身は利用されるだけされて仕事も家庭も失った女性。ドラマでは三木と弓成の妻と対面するシーンなどがあったりして視聴者を煽ったが、原作ではそこまでは描かなかった。何故、これほどの反旗を翻したのか、読者に考えさせるように書かれたのだと思う。
新聞社退社、懲役決定、家庭不和、実父死去、実家の稼業が吸収合併…と、逆風真っただ中の弓成。それを象徴していたのが、本巻最後の競馬のくだり。弓成が応援していた競走馬がゴール直前で前脚を粉砕骨折し、治療不可ゆえ痛みから救うためには即安楽死の処置しかないというアングルは弓成の人生の暗喩なのだろう。いや、弓成のみならず、我々を含めた人間総てに対する警告なのかも知れない。人生、うまくいっていても、ふとした事がきっかけに転落の危険性があるぞという…。決して他人事ではないと感じ、気持ちを引き締めた。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ逮捕,起訴,証人尋問と裁判がクローズアップ。『白い巨塔』もそうだったけど山崎豊子の小説って法廷シーンがよくあるな。『不毛地帯』でも東京裁判の場面があったっけ。
ドラマとの違い。
・由里子の兄が登場。大手電気メーカーの技術者。
・ぎばちゃんがやってた大野木弁護士は,奥さんも弁護士で同期。由里子が離婚訴訟する場合に「私が不適格なら家内に担当させましょう」と言ってる。
・弓成が取り調べで受けた屈辱,ドラマより生々しい。現場検証(引き当り)で腰縄をつけられたまま,密会をしたホテルの部屋で,機密文書の受け渡しの様子を細かく言わされる場面。「機密文書を見せてほしいと哀願したのは、あの布団の中でか、それともこっちの座敷机の方なのかね」と聞かれて「弓成は舌を噛み切れるものならそうしたい恥辱に、肩を震わせ、無言で視線を逸らせた。」(p.199)だって。 ドラマに使えそうなシーンだけど,なかったよね,確か。
・法廷シーンは外務官僚の証人尋問が詳しい。内容が複雑なのでドラマでは切り詰められたんだろうな。裁判長は,官僚の証言拒否を想定して,法廷と外務省大臣官房の間にホットラインを敷いていた。証言承諾の可否と電話で問い合わせて,OKが出るも,「具体的に思い出せません」「書かれていること以上に理解は及びません」で逃げられちゃうんだけど。
『密約』読んだときに勘違いしてたけど,大野木弁護士は伊達判決の人じゃなかった。弓成の弁護団の団長が伊能弁護士という人で,こっちだった。「裁判官当時、砂川事件で米軍基地違憲の判決を下した憲法学者でもある伊能は、法曹界の重鎮と畏敬されているが、性格はフランクだった。」P.136-137 -
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外務省の機密文書漏洩問題に絡む男女の不倫というスキャンダラスな面に視線が集まりがちであるが、原作を読み進めて行くにつれ、本書の主題は実は「沖縄」。
著書は太平洋戦争で日本で唯一の地上戦が行われた沖縄戦の事を多くの人に知ってもらいたいという一心から、この小説の構想が出来上がったんだなと感じる。
酸鼻極まる沖縄戦では15万人もの生命が奪われた。取材を重ねれば重ねる程、沖縄は本土の犠牲になり続けていることを思い知らされる。
後書きにて、著者は「早期の文庫本化を出版社に依頼した」と語っている。戦時中、徹底した皇民化教育を施し、10代の若者を「本土の日本人以上の日本人たれ!」と鼓舞し続け挙句に見捨てる。この悪行の首謀者は紛れもなく日本人。この自虐行為が、今日まで連綿と続いている。
今尚日米間に横たわる米軍基地問題。在日米軍基地の75%が沖縄に集中しており、市民は四六時中危険に曝されていると言っても過言ではない。基地問題の解決がまったく進まない状況は、本土に於いて終戦10年後には「もはや戦後ではない」という宣言し驚異な経済復興を遂げたものの、沖縄に於いては例外であることを著者は最も問いたかったんではないか。 -
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ネタバレあちこちに矛盾がある、というか。キャラプロットがいまいちなのだよね、この話。特に脇役の男性キャラの。
主役『御室みやじ』と語り部『よし』はいい。丁寧に作られている。が、『みやじ』の息子は前半に語られた人物像と『よし』が語る人物像とが無夜の中で合致しない。
内容。
時代は戦前から戦直後。
大地主の総領娘として気位高く育った『みやじ』。本名、郁子。歌の天才。ろうたけた美貌。類まれな才能。金。家柄。
彼女を見守るのは「よし」という小作の娘。生涯を郁子のために費やす。
郁子はわがまま。冷たいところもあって、主役を張るよりは意地悪なライバル役といったところ。これに振り回されて狂死することになる夫は可哀想だった。
郁子の恋の相手もまたなんだか冷たさばかりが目立つ。なんかみんな勝手だなあ。
因習が、業が、どうのこうのというけれど、みんな勝手にやってたようにしか見えない。
壮絶なエゴの物語(言い切り)
正味417ページ。文字が小さく、詰まってます(笑)どろどろしたのが好きな人はどうぞ。