山崎豊子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ沖縄返還のさいにアメリカと結ばれた密約の内容とは、1971年当時、ベトナム戦争で火の車だったアメリカに対して本来アメリカが負担するべき沖縄の原状回復費用6億8500ドルを日本が肩代わりするというもの。これがいわゆる今もアメリカに支払われ続けている「おもいやり予算」のはじまりだとされる。この、まったく対等ではないとおもわれる密約を敏腕新聞記者、弓成亮太が外務省の女性事務官、三木昭子から入手する。ニュースソースを守るためそれをはっきりと記事にできない彼は、正義感から野党議員に機密文書を渡して国会で追及させようとするのだけれど、そこから逆にニュースソースが割れてしまい、弓成記者と三木昭子は逮捕される。ここまでが第一巻。
第二巻は、警察での尋問と裁判。「知る権利」の問題が、男女のスキャンダル問題へとすりかえられていく。司法がいまひとつ独立した力を発揮しなかったり外務省官僚があざとい証言をしていったり、やきもきさせて第三巻へ続く。ちょっとむずかしくて時間かかってます。
ただ、国民に対して「アメリカに強気に臨んで沖縄を返還させる」と、たとえポーズでも世論を気にしてアピールするだけ今よりましなんじゃないかと、錯覚してしまいそうになるほど沖縄の現状は厳しいとわたしには思える。当時の日本政府がしっかりと「ほんとうの返還」を要求しなかったからなんだけれど。 -
Posted by ブクログ
山崎豊子さんの短編集。
短編は、はじめて読んだけど、やっぱこの人の作品は、短編じゃないほうがいい。長編のほうが彼女ならではの取材力や力作感があって、読み応えがある。
◆船場狂い
船場育ちに憧れ、船場にこだわり、娘をつかってでも船場住まいを手に入れた久女の話。船場の地図があって、地形がわかりやすかった。
◆死亡記事
豊子さん自身の私小説だとか。新聞社の学芸部員として勤めた「私」が、死亡記事を通して、空襲でも冷静に正義を徹した大畑氏を偲ぶ話。
◆しぶちん
大阪では、ケチン坊のことをしぶちんと言うが、ケチを蔑みながらもどこか評価するような、笑いにかえるような、開放的な言い方らしい。
そんなしぶちんで財を築く山田万治郎の話。
◆持参金
紡績商の四男・民四郎が、家付き持参金付きで、船場の富豪の怪しい次女を嫁にもらうが、実は痘痕だらけで、ドウランでそれを隠していたという話。豊子さん自身は、「殺人のないスリラー」な小説と位置づけている。
◆遺留品
阪和紡績社長の樺山正資が、永年連れ添ってきた子のない妻のために、猫のプレゼントを企んだが、出張先からの帰りに飛行機事故で死んでしまう。遺留品から、ドライミルクの缶が見つかり、実は妾がいたんじゃないかと醜聞が出回る。新卒からずっと秘書として仕えてきた瑛子は、尊敬していた社長の疑いをはらすべく密かに調べていたが、最後に子猫のためのドライミルクだったことがわかる。
私は、この短編集の中では、この「遺留品」が一番好きな作品で、最後のほうの一文がすごい印象的だった。
「一人の人間の評価は、たまたま起こった一つの事柄や事件によって、そうたやすく塗りかえられるものではない」。
おそらく日航機墜落事件がモチーフになっているから、「沈まぬ太陽」の布石になっていたのかもしれない。 -
Posted by ブクログ
1959年に発表された作品なので、もう50年以上前のものになるから驚き。「暖簾」「花のれん」に継ぐ、大阪ものの第三作。前二作はまだ未読だが(たぶん…)、船場や花街のしきたりについて精緻に描かれている。
そもそも船場とは、今の大阪市中央区あたりにある、四方を川と堀で囲まれた四角い町で、江戸時代に大阪城の築城にあたって、大勢の家臣や武家が移り住むことになったことから、武器・武具をはじめ大量の生活必需品を集めるべく、商業者を半強制的に移住させたのが、商人街として栄えた船場の発端らしい。
物語は、そんな船場の老舗足袋問屋の一人息子として産まれ、暖簾をささえる喜久治を主人公とし、彼を取り巻く五人の女たち(ぽん太・幾代・お福・比沙子・小りん)と、女系主義の祖母と母(きの・勢以)の、船場ならではの厳しい風習と女の戦いがテーマ。
そもそも、大阪では良家の坊ちゃんを「ぼんぼん」というが、その中でも器がでかいぼんぼんを「ぼんち」という。豊子さんの言葉を借りれば、「根性がすわり、地に足がついたスケールの大きなぼんぼん、たとえ放蕩を重ねても、ぴしりと帳尻の合った遊び方をする」のが、ぼんち。
女系におされ、古いしきたりに束縛されながらも、女遊びに明け暮れるが、結局は戦禍を被って新たに人生を切り開く。
「女の道で苦労して、何かものを人に考えさせるような人間にならんとあかん」という言葉を金科玉条にして生きようと決意した喜久治だが、結局、何かものを人に考えさせる人間になったのだろうか?その結末が、きのの自死と女たちの自立ってこと?それがよくわからなかった。
とはいえ、やっぱり豊子作品すごい。圧倒的な知識と人間関係の機微を描ける人ってそうそういない。
あとがきの一言がとても印象的だった。
「一千枚近く書き終えてみて、今さらのように私が、故郷である大阪に深い愛着を持っていることを思い知りました。それは愛するというような生やさしいものでなく、もう一種の執念のようなものかも解りません」