白石一文のレビュー一覧
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短編だけれども白石一文がぎゅっと詰め込まれた再生の物語だなと思った。
解説で、パートナーを亡くした編集者の方(中瀬ゆかりさん)へ贈ったものだと知って納得。
とても優しくて包み込むような文章だったから。彼の作品はどれも優しい物語なのだけれど、文章からそれを感じることはあまりなかったから。
物語の終盤、芹澤と珠美は明らかに救われ、再生されるのだけれど、では何から救われたのか、については明確ではない。(出来事としてはあのことがかっかけでそれは明確に描写されているけれど、そのことが2人の心に明確なダメージを与えたとは思えなかった)
人は日々、傷付き、恐れ、挫け、そして日々、癒されてゆく。
芹澤と珠美がゆるやかに再生していく心地よい物語を背景に、白石一文が中瀬ゆかりさんへのメッセージを伝える構造になっているのかなと思う。
香代子の思い出の曲の話や、生と死の話、子どもがいる世界・いない世界の話。 -
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「眠気が眠る面白さ!徹夜本」の帯に強く惹かれて手に取りました。正直なところ、任侠ものの美学には全く興味すら持ち合わせていない私がこの煽り文句にあえて挑んだ代物ですが、エンターテイメントというよりもファンタジーとしか言いようのない話に何度となく読むのを止めようとしました。
とどのつまりは面倒を見てやった弟分に裏切られて車ではねられて死んで終わるクチだろう、と思っていただけに終盤の下りは読んでて苦痛でした。
鼻についたのはそこだけで、読後の余韻とともに巻末の解説を読んだとき、ああそうか、これは往年のテレビドラマ「赤いシリーズ」のようなわかりやすいプロットのドラマチックな演出を極めたものだったんだなとそこでようやく認識しました。
敢えて踏み込んでみた新境地の世界でしたが、絶賛までいかなくても愉しめることがわかりました。 -
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自分が虚ろな状態が鬱ではないか。未来の病気や過去の男出入りのことへの嫉妬、ましてやいま目の前の人に対して、天涯孤独な下枝を選ぶなど、自分のことばかり欲しがる。すべては己がつくりだした幻で、その幻に苦しめられる。いまだって、本を読んでいなければ、ぼくの中にできた心の隙間に幻が入り込んできて、自分を保てなくなってしまう。本に向き合ういまでさえ、君はどの文で泣き、笑い、励まされたのか思いを馳せてしまう。いつでも、どこでも、その気になれば情報を得られる現代、死を身近に感じることが減り、あきらめきれないことが多すぎる。生きること、死ぬこと、愛すること、愛されること、いつ、どこで、自分もどうなるか分からないなと思った。みんななにかを抱えてる。裏表があるから成長できる。まあ、それでも、ぼくの問題はそんなややこやしかったり、大きなことではなくて、自分のことばかりな幼稚さ。それだけのことなのに、いままで生きてきた癖はなかなか直せない。いまは気づけるようになったので、後悔の連続。それに気づかせてくれたのは、とても有り難い。だから、心からなにか力になりたいとは思う。応援するしかできないけど。現状への不平や不満ばかりを募らせて、いつも性急によりよい自分になろうとし過ぎていた。だからこそ、こうしてずっと厭いつづけてきたかつての自分自身たちから強烈なしっぺ返しを受けている。時が経ち、誰かに相談し、新たな関係性が築かれていくということは、もうもとには戻れない自覚を強めていく。そういうものだとも思う。
女性は、やさしく、強く、たくましいな。 -
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ゼミ課題の用例探しで適当に取った一冊。
用例だけ探そうと思って読み飛ばししてたんだけど、内容がなかなか面白くて(てか斬新で)途中から要点だけ読むようになりました
東大卒のエリートサラリーマンが、ある短大生との出会いを通して本当に大事なものを見つけていくというストーリー。
最初は『なんだこの主人公』って思いました。
事情が事情でも彼女と同棲中なのに別の女の子を自分の家に入れるって…笑
発言がいちいちエリートすぎるし笑
行動も高慢というか自己満というか(ラストも含め)…
でも、だんだんと女子大生の過去が明らかになって
兄の追跡を受けていくうちに
『こんなの現実にあったら…』と思わされます。
現実的にこういうことに悩まされてる人いるのかな?って、“悩む”って言葉じゃ軽すぎるんだろうけど。恐怖、に近いかな。フィクションであってほしい
そんな事態から逃げないで(一時的に彼氏に預けたのは逃げたともとれるが)彼女を守ろうとするうちに主人公がだんだんと大事なものに気づいていく。
ハッピーエンドではないんだけど、主人公にとっては大事なものに気づけたことがハッピーエンドだったのかなぁ…なんて。
ラストシーンの後がどうなろうと、後悔はないんだろうな。浩介はね。
香折の気持ちはどうだろう。浩介はヒーローじゃないかもね、見方によるとは思うけど。
背表紙に感動の大作って書いてあったけど…なんか普通の感動とは違う感動でした。
主人公の設定が一般サラリーマンじゃないだけに心情の変化が心を打つというか。
兄からの追跡がちょいちょいグロいので想像力豊かだと恐怖倍増。
要点読みだったので時間があったらもう一回読みたいと思います。
読み終わった後に『ふぅ~』っていう気持ちにならなかったので☆四つ。 -
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数ある白石作品でも「見えないドアと鶴の空」系のちょっと不思議系な内容の作品ですが、二部後半三百九十六頁あたりと三部八項に題名にもなっている「記憶」に関する作者の論考が非常に面白いです。「どれくらいの愛情」に収録されている「ダーウィンの法則」でも主人公の所見の程で「セックスレス」に関して白石一文先生の論考が語られています。こういう書き方って面白いです。絶対的な答えのない命題に対して自説を、自身が綴る物語に織り交ぜて紡いで作品に仕上げるなんて四苦八苦していても書きながら笑っていそうです(笑)
三分構成の物語で一部はこれまで通りの白石作品ぽい感じ、二部では主人公も変わり横溝ミステリーテイストな味付けで、三部で伏線を一気に回収してる手腕はさすがです。まぁ些か強引な感じは有りますが、よくぞまぁこんな物語を考え出すもんですねぇ〜
これまでの白石作品とは少し毛色が違ってはおりますが、面白い作品でした。 -
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映画を見て気に入ったので原作を手に取ってみた。
刹那的な享楽を超えた、男と女の本能のお話。
目の前に迫る現実的なあれこれも、本能の前には全て掻き消えてしまう。
その感覚にはすごく共感出来た。
性描写と食事のシーンを何度も見ていると、生きるというのはこういう事なのだと思わされる。
福島原発の話は必要以上に出しすぎではないかと感じた。2人だけの世界が中心の作品の中にあって、少し異物感があった。
青春時代に「セカイ系」という言葉が流行してそれなりにそういう作品を目にしていたので、やや突拍子もなく思える二人の世界とカタストロフィという構造自体はすんなり入ることが出来た。
全体としてはやはり好きな作品。 -
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「永遠のとなり」と言う題名は二人の男の生き方ばかりでなく、理想と現実、自由と束縛、健康体であった過去と、現在の病身、故郷と異郷、もろもろに反するものを自己の中に抱えて生きる人間の象徴かとも思える。
<青野精一郎>
大学入学と同時に上京して、東京の大手損保会社に入った、花形部署にいたが、合併とともに片隅に追いやられ、部下の自殺の責任も感じてうつ病になる。退職後は離婚して故郷の福岡に帰る。
<津田敦>
大学卒業後は東京にとどまって起業したが、肺がんに罹り事務所をたたみ、二度目の離婚後福岡に帰郷する。
初めての手術が成功し、抗癌治療も効果があったが再発、二度目の手術後に福岡で再婚したが、今は別の女のところで暮らしている。
ふたりは中高と同窓で同じ美術部に入り、同じように東京の大学に入った旧友だった。
青野が帰省すると、先に帰っていた津田との付き合いが復活する。
津田はがんを抱え、二人の女の間を行き来しながら、独り暮らしの老人たちと親しく付き合ったりしている。
青野と津田の途中下車したような人生が、福岡の言葉でつづられている。荒れた都会生活と距離をとって、自分を見つめなおしていく過程が、ゆったりとした日々になって流れていくが、それぞれに生活の中では抱えた問題もあり、時には酒を酌み交わし、津田の妻を交えての話し合いや、同棲している女との付き合いに関わることもする。
青野はその中で少しずつ自分を見つけ出し再出発を考え始める。津田もがん治療に希望の兆しを見つける。
一度挫折した男たちが、親友と痛みを分け合って、将来に向かって踏み出し始める話だった。
経済的に追い詰められてもいない二人はどことなく余裕も感じられる。そう言うこともあるだろうという読後感あだった。
欝で衰えるという男性機能回復に協力すると言う津田の愛人の行為は唐突で、全く好感が持てなかった。これで減点。
完治の見込みはないだろうと思われる津田も今を受け入れ、青野も職につこうとする。
真の安寧、幸せを求める日々だったろう、だが余り深い感動もないうちに話が終わった。 -
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不思議な能力をもった椿林太郎という人物にとにかく魅了された一冊。
頭脳明晰で抜群の成績をおさめていながらも、幼少時の体験から教育者の道にすすんだ彼は、霧子という女性と出会ってあっという間に結婚をきめてしまう。
その二人のその後を追うようにストーリーはすすんでいく。
学習障害やアスペルガーなど、認知に偏りがある子どもたち一人一人に寄り添った教育を施そうとする椿林太郎は、教師の鑑そのものでした。型通りの授業や決められたプログラムをただこなすだけでは、そういった子どもの潜在的な力を引き出すことは決してできない。
"人間は一人一人持っている時間が違う"という彼の自説には目の覚める思いがした。時間とは絶えず伸びたり縮んだりしている。それを無理やり義務教育期間を定めて学校に押し込め、同じ内容の授業を受けたり、同じ年齢で同じ試験を受けて選別されたりしてしまうのは乱暴なことだ。
本当は、一年生を2年間やったっていいし、6年生を3ヶ月で終えても良いものなのかもしれない。
それにしてもラストの展開には驚いた!「むーちゃん」で酔って眠り込んだ霧子が目を覚ましたのは、どの世界だったのだろう?
不思議な能力を持っているばかりに、寿命や運命という大きなものに対して半ば諦めたような椿林太郎。
でも本当はその彼こそが、子どもたちに対しても、霧子に対しても、「人間は自らの意志で運命を切り拓いていける」と教えてくれていた。
伸び縮みする時間の中で、私たちはいつからだって何度だって、その運命を変えていけるのだと思いたい。 -
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人との出会いと別れ、転勤や出世、病気や事故、災害、
身近な人との死別、結婚…
運命に翻弄される女性の29歳から40歳までの物語。
白石一文さんて、女性の心理をすごく上手に描くけど、これって男性も読むのかなー。やっぱり女性の読者が多いのかな?
自分の人生って、運命に左右されているのか?それとも自分で選びとっているのか?ということを考えさせられる物語です。自分で選びとろうと思ってもどうしようもないこともあるし、「これって運命かも!?」と直感的に感じるようなこともある。私はこれまでの自分の人生を、自分の力で選び取ってきたものだとは思わない。
でもただ運命に流されてきただけだとも思わない。
運命というのは、ただぼんやりと出会って受け入れるだけではなく、めぐり会った運命を自分の手で掴み取り、それを自分の手で守り通してこそ自分のものになる、ということなのかな。
とても感動できる物語だったんだけど、もうちょっと違う終り方にしてほしかったので☆4つです…。 -
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死ぬことについての哲学のような本。
人が死ぬこと、または、自分が死んだ後の世界。
それは恐れることも悲しむ必要もないのではないか。
人の死とその人の不在が同じ意味を持つとしたら、、、。
長いこと会っていない親友の死。
知らされる前は、彼は存在する世界なのである。
たとえ、彼がもうこの世の中にいないにしても。
また本筋とは少し異なるが
主人公とかつての部下との付かず離れずの距離間が
たまらなく私は好きだ。
また子供を持つ持たないという価値観に触れる部分もすごく気に入っている。
中瀬ゆかりのあとがきも含め、
本書を包む穏やかな空気感も良き。