白石一文のレビュー一覧
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数ある白石作品でも「見えないドアと鶴の空」系のちょっと不思議系な内容の作品ですが、二部後半三百九十六頁あたりと三部八項に題名にもなっている「記憶」に関する作者の論考が非常に面白いです。「どれくらいの愛情」に収録されている「ダーウィンの法則」でも主人公の所見の程で「セックスレス」に関して白石一文先生の論考が語られています。こういう書き方って面白いです。絶対的な答えのない命題に対して自説を、自身が綴る物語に織り交ぜて紡いで作品に仕上げるなんて四苦八苦していても書きながら笑っていそうです(笑)
三分構成の物語で一部はこれまで通りの白石作品ぽい感じ、二部では主人公も変わり横溝ミステリーテイストな味付け -
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映画を見て気に入ったので原作を手に取ってみた。
刹那的な享楽を超えた、男と女の本能のお話。
目の前に迫る現実的なあれこれも、本能の前には全て掻き消えてしまう。
その感覚にはすごく共感出来た。
性描写と食事のシーンを何度も見ていると、生きるというのはこういう事なのだと思わされる。
福島原発の話は必要以上に出しすぎではないかと感じた。2人だけの世界が中心の作品の中にあって、少し異物感があった。
青春時代に「セカイ系」という言葉が流行してそれなりにそういう作品を目にしていたので、やや突拍子もなく思える二人の世界とカタストロフィという構造自体はすんなり入ることが出来た。
全体としてはやはり好きな作品 -
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「永遠のとなり」と言う題名は二人の男の生き方ばかりでなく、理想と現実、自由と束縛、健康体であった過去と、現在の病身、故郷と異郷、もろもろに反するものを自己の中に抱えて生きる人間の象徴かとも思える。
<青野精一郎>
大学入学と同時に上京して、東京の大手損保会社に入った、花形部署にいたが、合併とともに片隅に追いやられ、部下の自殺の責任も感じてうつ病になる。退職後は離婚して故郷の福岡に帰る。
<津田敦>
大学卒業後は東京にとどまって起業したが、肺がんに罹り事務所をたたみ、二度目の離婚後福岡に帰郷する。
初めての手術が成功し、抗癌治療も効果があったが再発、二度目の手術後に福岡で再婚したが、 -
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不思議な能力をもった椿林太郎という人物にとにかく魅了された一冊。
頭脳明晰で抜群の成績をおさめていながらも、幼少時の体験から教育者の道にすすんだ彼は、霧子という女性と出会ってあっという間に結婚をきめてしまう。
その二人のその後を追うようにストーリーはすすんでいく。
学習障害やアスペルガーなど、認知に偏りがある子どもたち一人一人に寄り添った教育を施そうとする椿林太郎は、教師の鑑そのものでした。型通りの授業や決められたプログラムをただこなすだけでは、そういった子どもの潜在的な力を引き出すことは決してできない。
"人間は一人一人持っている時間が違う"という彼の自説には目の覚める -
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細川連立内閣が成立した1993年。
男女雇用機会均等法の成立で女性総合職のトップバッターとして、大手情報機器メーカーに入社した冬木亜紀は29歳だった。
かつて交際しプロポーズまで受けた相手、佐藤康が、亜紀の後輩と結婚することとなり、亜紀はふたりの結婚式に招待されるも出席を迷っているところから物語は始まる。
「雪の手紙」29歳、「黄葉の手紙」33歳、「雷鳴の手紙」34歳、「愛する人の声」37歳。そして40歳を迎えての2004年10月23日まで、私たちは亜紀という一人の女性の人生を追っていくことになる。
読みながら、幾度も"運命"という言葉にふれ、幾度もその"運命& -
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人との出会いと別れ、転勤や出世、病気や事故、災害、
身近な人との死別、結婚…
運命に翻弄される女性の29歳から40歳までの物語。
白石一文さんて、女性の心理をすごく上手に描くけど、これって男性も読むのかなー。やっぱり女性の読者が多いのかな?
自分の人生って、運命に左右されているのか?それとも自分で選びとっているのか?ということを考えさせられる物語です。自分で選びとろうと思ってもどうしようもないこともあるし、「これって運命かも!?」と直感的に感じるようなこともある。私はこれまでの自分の人生を、自分の力で選び取ってきたものだとは思わない。
でもただ運命に流されてきただけだとも思わない。
運命とい -
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死ぬことについての哲学のような本。
人が死ぬこと、または、自分が死んだ後の世界。
それは恐れることも悲しむ必要もないのではないか。
人の死とその人の不在が同じ意味を持つとしたら、、、。
長いこと会っていない親友の死。
知らされる前は、彼は存在する世界なのである。
たとえ、彼がもうこの世の中にいないにしても。
また本筋とは少し異なるが
主人公とかつての部下との付かず離れずの距離間が
たまらなく私は好きだ。
また子供を持つ持たないという価値観に触れる部分もすごく気に入っている。
中瀬ゆかりのあとがきも含め、
本書を包む穏やかな空気感も良き。 -
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ネタバレ「ほかならぬ人へ」「かけがえのない人へ」の2つの物語。「ほかならぬ人へ」主人公は明生(男)、男性視点からの純粋な恋愛小説。
妻であるなずなの裏切りによって彼の人生は大きく変化しする。
だが、その結果として彼は運命の人と短くも幸せな時間を過ごす。
兄弟や幼馴染も含め、多くの人の心と心がすれ違う中、明生が見つけた運命の人である証拠(徴)は素敵な匂いであった。
儚く、切ない物語。
「かけがえのない人へ」結婚を控えたみはる(女)の物語。
ほかならぬ人へがあまりにも切ない物語であったが、本作はその対局にあるような恋愛物語。
結婚相手の中に自分を見つけられず、かつての恋人である黒木との関係を -
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予想と違うスタート。権力をほしいままにしてグラドルを抱く悪徳編集者かと思いきや、違う側面も次々に出てくる。そして登場人物の名前がカタカナ表記だったり(人物名が覚えにくかった)、やたらと出てくる引用文。これは小論文崩れの読み物?と思ったけれど、ちゃんと小説だった。
出版社内の権力闘争や、自分の妻との簡単に説明しきれない尊敬と愛情と憎悪のごった煮のようなものも楽しめた。
ただ、機関銃のような理屈の羅列と、精神科医との高尚な議論には正直ついていけなかった。人なんて、その辺に咲いて枯れる草花とほぼ同じなのに理屈こねすぎ、と。
頭のいい人はどこまでも理屈を追うことが出来て、それってかえって苦しいことなの -
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白石一文先生の中で何か変化が起こったような、これまでとは少し違いがある作品だと感じる。
誰かを思ったり、誰かに思われたり、主人公と相対する二人称の誰かとの物語ではなく、主人公が40年余りに出会ったり関わったりして来た人々のなかなかに壮絶な人生を主人公を介して丹念に描いている。主人公が辿った父を母を妹をなくして来た生い立ちと恩人との関係だけでも結構お腹いっぱいになるくらいの話に出来そうなのに、実演販売員と祖母、社員寮の管理人夫婦、それに勤め先での吸収合併騒ぎなどそっちもこっちもドラマがあって、取り留めがなくなってしまいそうなところを主人公の人柄というか礼儀正しさと人情味がそれぞれのドラマを上手く -
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ネタバレ長かった。丸一日かかった。読んだこと誰かに言いたいけど、誰かに言うのは深読みされるからまたそのうちだ。
人生として色んな人の考えが会って参考になるところもあった。
運命とは大きな流れのようなものでなかなか抗えるものではない、だからといってただ流されているのも弱すぎる。
流れ方の舵を取る、自分のことは自分で選択したという自信が重要ではないか。
個人としては結婚破棄は絶対許されない、じっくり時間をかけて付き合ってきて
結婚しようという段階で「なんか違う」というのは許されるのか。
自分が恋愛は結婚とつながるという認識だからそう思うのだろうか、つながらないという認識なら問題はない出来事かもしれない