白石一文のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
究極の男性像の描写。男の「性」の追求。真面目な顔して会議で発言するおっさんも美人の女子社員を前にすると理屈抜きに本性が露わになってしまう。男って何て単純で不完全なんだろう。どんなに年齢を重ねても「自我」が確立されない。露わにならない。
女性の視点から見ると本書で描かれてる男性像は到底理解し難いものだろう。男のわたしでさえ嫌悪する部分があるくらいだから。
白石さんが小説を通じて伝えようとしているメッセージを抜きにすれば、男尊女卑の肯定かという考えさえ脳裏を過る。
だが、白石さんが小説に託す想いには並々ならぬものが感じられる。それこそが、彼の描く人物像(総じて不完全で不器用、ナルシズムの塊である場合も少なくない)に対して時折共感だったり、哀れみだったりを私達に思わせる。
「浮気」する男がいる。勿論、女の中にもいる。
彼らは皆ふつうの生活をしている。妻、子がいて傍目には順風満帆の人生に見える。彼らの心の矢を別の誰かに向かわせるきっかけは何なのか。多々あるだろうけれど、やはり人間の弱さこそが決定的な理由と言えるのであろう。
私たちは弱い。圧倒的に弱い。
助けが必要でぬくもりや潤いがなければ生きていくことは難しい。
「死」を意識するほどの状況に陥った時思い浮かべるのは誰か。その時必要な人は誰か。
この小説の中では、死を目前にした男たちが、最期の時を目前に控え、妻ではない他の女性を強く想う様が描かれる。
結局愛というのは変化の激しいものなのだろうか。それとも人間の性質が私たちの考えている以上に荒々しく、波間を揺さぶる地平線のごとく安定しないものなのか。
やれやれ。まだ若造の私には難しすぎるテーマである。でもたとえ年齢を重ねても分からないのかもな。
私が思うに白石さんが不倫している男性(皆一様に悪気がない)を頻繁に描くのには、人間存在の不可思議や男と女の愛の終着点など、とにかく様々な事柄に言及したいとの理由からなのだろう。そういう観点から見ると、白石さんの小説の中では人の「弱さ」や「意地」がハッキリと映し出される場面に何度も遭遇する。こちらが恥ずかしくなってしまうような屁理屈に屁理屈を上乗せした論理。大人だからこそ素直になれないのが人間の性。
何年かしたらもう一度読み返してみようと思う。何かが掴める気がする。 -
Posted by ブクログ
読んでみての感想ですが、うん、面白かったです。ただ、難しかった。まだ一度しか読んでないですが、世界観(政治的側面)や構造(時間軸が交錯する)が少々僕のオツムには高尚過ぎた感はあります。もう一度読まなければ…。
で、その上でレビュー。てんで頓珍漢なこと述べてしまうかもしれませんが、そこはまあご愛嬌というところで。
著者が早稲田の政経卒ということもあってでしょうか、政治に対しての洞察は深いものがあったと思います。国内、国外の政治に関する詳細なデータが所狭しと書き綴られ、また歴史的な事項に関する記述も相当にありました。政治や歴史などに関しては完全に門外漢である僕(いや、単純な勉強不足です。はい)は、いきおい、読み飛ばさざるを得ない箇所も多々…汗顔のいたりです。
世界は全て主人公の主観を通して展開されています。
ある事件を通してカミーユばりに精神崩壊してしまった主人公が、政治の世界を通して徐々に再生していく様が描かれているんですね。なので、作品の中では徹底して「政治の傍で生きる人」と「それ以外の人」という二項対立が描かれています。
前者は極めて理知的、というか世俗的、端的に言えばおそらく僕たちが政治家に対して抱いているであろうイメージそのまんまで描写されています。
一言で言うと「なーんか、嫌な奴らだなぁ…コイツラ…」みたいな感じですか。確かに嫌な感じの奴らなのですが、それでも彼らの悲しみや苦しみ、そして政治というものが原初的に内在している業というものを分かりやすく描いていた。
『金はそんなに汚いか。(中略)織田信長のように鉄砲買ってそこらじゅうでぶっ放すやり方と、太閤さんのように大判小判バラまいて笑って宥めすかすのと、どっちが日本人は好きなんだ』
今の政治のあり方、確かに良くない部分も多々あるんでしょうが、それでも長い時間をかけて構築されてものです。
『暴力につぐ暴力による制圧、それがもたらす退廃的な世界』
とか、
『くだくだしく対話して、悠久とも言える時間をかけておいて結局事態は一歩も進まないという無力感』
を政治家は誰よりも感じているんでしょうか。
金を全ての尺度として計ること…世俗にまみれたやり方でありながら、しかし最も合理的で生産的なやり方−−と、妄信的に思うことはできませんが、しかしそういう側面はあるんでしょう。
それはともかくとして、後者、つまり政治の世界から遠い人たちも登場します。
主人公は最初はこちらの側から段々と政治の世界へとスライドしていくことになります。おそらく単純な政治小説ならばどちらかの視点のみに重点が置かれたのかもしれないんですけど、主人公が最初「とてつもなく弱い人間」として描かれていたので、政治・非政治の間で揺れ動く様はそれなりの説得力がありました。悪い言い方をすれば『どっちつかず』とも取れますけど。
中盤あたりから政治色が一気に強くなるので、作品に流れる空気としては非政治な人たちに対する言外の侮蔑感ってのはあったと思うんですよ。その中で主人公も徐々に政治の側で生きようと決意していく。
それはおそらく、政治の世界に生きる人間の強さ、たくましさ、もしかしたらしたたかさ、に魅力を感じたからなのでしょう。明確な記述はありませんでしたが主人公がそういう憧れを抱いたであろうことは推察できます。彼は己が精神崩壊したことにかなり自責の念を感じていました。強くなりたい、自分が強くさえあればああはならなかったはずだ…というような感じで。
その彼にとって、政治家のタフさは輝いて見えたはずです。ある意味で情緒や感情などを一切捨てて、政治という戦争の世界に身を置く彼らが誰よりも強く見えた。反射的に、感情論や建前論ばかりに終始する非政治な人たちの中に身を置くことが苦痛になる。政治の世界に行かなければ自分はまた弱くなるかもしれない、と葛藤する。その中で彼は政治の世界へ身を投じていく。
しかし彼を再生してくれたのは、他ならぬ政治の傍にいなかった人たちなんですよね。つまり主人公が蔑み始めた人たち(非政治的な人)が「前提」となり、彼は政治の世界に身を投じるという「結果」が得られる。確かに非政治的な毎日の中で主人公は自己崩壊をきたしたのですが、それを救済したのは政治ではないんですよね。この辺りが物語のコアでした。単純な「政治家マンセー!」的な作品じゃなかったというか。まあ、ありがちとも言えますけど…。
概ねこんな感じでしょうか。ラストは、ああ、まあ、そうくるかー、ってなもんですか。賛否両論あるみたいですね。僕的にはもう少しボリュームが欲しかったかもしれません。
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Posted by ブクログ
読んだことのないタイプの本だった。
終始、政界のいろんな話が出てきて、政治に興味のない私は、途中で読むのをやめようかという気にもなった。
けれど、物語の本質はそんなところにあるんじゃなかった。
結局は人間の物語。
総理大臣を目指す龍三の次男として産まれた主人公の龍彦は、甘い考えで大切なものを失ってしまう。
自らも精神的なショックから手首を切り、自殺を図るが、一命をとりとめる。
いろんな人が龍彦のことを支えてくれる。
みんな大人で気付かないのは龍彦だけ。
まるで自分の人生をみているような錯覚に陥る。
最後の最後に、失ってはいけなかったものに気づく。
何がハッピーエンドなのかは解釈の違いはあるけれど、裏切ってでも守らねばならないものもある。
この本を何も感じずに読める人もいるのだろうか。
私は深く落ち込んだ・・・ -
Posted by ブクログ
ネタバレ白石一文氏による2012年の作品。2011年の震災からの影響を受けた作品の模様。
まあまあ楽しく味わいました。
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近頃白石一文氏の作品を読むと、何となく村上春樹氏の長編と似ているなというのは薄々感じておりました。
村上氏の長編は、不思議な世界に迷い込み、真剣に悩み、女性との邂逅を経て恢復する、そんな感じを受けます。
他方この白石氏のものは、現実の世界ですが、より自覚的に生き、女性との交わりを経て、一つの気づきを得る、みたいな印象です、私には。
二人の類似性については大江健三郎氏の作品とあわせて、解説で榎本氏も述べていましたね。
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あと、本作で印象的なのは、死についての思考でしょうか。
「死こそが不滅のものである」(P.179) という、逆説的な表現で死の圧倒的規模をかたり、むしろ生きているということがほんのわずかな間であることを語ります。あと100年もすれば殆どの人は死んでしまう。という事実です。
更には東京のど真ん中にひっそりと佇むルルドの泉からインスパイアされたレプリカ論も展開されます。
当初はレプリカ、コピーなんてばかばかしい、と思った主人公武夫ですが、思えば聖書をはじめ本はコピーそのもの、あらゆるものがコピーみたいなもの、イリュージョンであり、過去に存在した一種イデアのような本質に近づきたいという欲求のもとレプリカ・コピーに熱狂するみたいな話が展開されます。
さらには時間というものにも話はおよび、非常に哲学的なアイディアが述べられます。
解説によると筆者の関心を主人公に投影させているそうですが、ちょっと思考がオジサンかもしれませんね。
シニカルではないのですが、諦観というかフラットな心の主人公がここに出現します。でも普段通りのエロい主人公ですけどね。
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ということで久しぶりの白石作品でした。
本作はいつものテイストと比較すると多分に思索的な要素が多かったと思います。そういう思想とか哲学が好きなかたにはおすすめ出来るかもしれません。 -
Posted by ブクログ
読みやすく、続きが気になるので止められず1日で読み終わった。
なんとなく薄気味悪いのは、主人公の自認が歪んでいるように思えたからだろうか…。
妻と子を必死で養って大人として生きてきたが結局家族とは何なんだ、俺の人生とは何なんだ、虚しい。というような心情は理解できるし、例えば鬱に苦しむ人間に必要なものは…というような思考は興味深いところがあったけれど、結局は自分のことばかり都合よく考えてきた傲慢な人なんじゃないかな。
抱えてきた過去の秘密にしても、他人を助けるためというよりは、それを理由に自分の暴力性を爆発させただけなのに正当化が過ぎるし。
家族含めて他人にしてもらったこと、力添えをもらったこと、頼られて自信を得たこと、そこへの感謝は全くなくて、「俺は賢いんだ!すごいんだ!こんな良い女にも愛されてるんだ!」って言っている子供では。 -
Posted by ブクログ
子供が巣立って夫婦二人の生活が始まったところで、実は妻が億単位のお金を持っていた……という、一見夢のような設定から始まる物語を読みました。でも現実はそう甘くなくて、そこから次々と大変な出来事が重なり、運命に翻弄されていく夫の姿が描かれています。
風景描写がとても丁寧で登場人物も多いせいか、個人的には少し物語が長く感じてしまいました。そこが作品の深みになっているのでしょうが、好みが分かれる部分かもしれませんね。
特に印象に残ったのは、「同種は同種に気づく」ことです。自分の利益のために動くエゴイストたちが集まってくる様子は、読んでいてどこか気味の悪さを感じました。結局、人は自分が一番かわいいものなんだな、と突きつけられた気がします。
また、家族には愛情も大事だけど、それ以上に「信頼」が大切なのだという学びもありました。一度崩れた信頼関係を立て直すのは本当に大変なことなので、日頃から気をつけていきたいなと思わされる一冊でした。