白石一文のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ私の好きな感じの白石一文さんらしい作品。やっぱり好きだなぁ~、と思える小説でした。
タイトルの「睡蓮」は、モネの絵からきている。
物語の主人公は、幼い頃から優秀で、大きな銀行の頭取にまで上り詰めた、非の打ちどころのない「貴之」と、その妹の「櫻子」、元妻の「智子」で、櫻子と智子の語りで、現在と過去の回想を行き来しながら進んでいく。
貴之は二人の女性の目線でしか描かれないのだが、村上春樹の「ノルウェイの森」に出てくる「キズキ」みたいな人間だ。何をやってもうまくいき、普通の人が悪戦苦闘する課題を難なくこなし、スポーツもでき、当たり前のように東大に行ってしまう。人から見ればうらやましい限りなのだが、当の本人は「うまくいきすぎて人生がつまらない」「何のために生きているかわからない」みたいな。
で、彼が異常なまでの執着心?で、小さい頃に心に決めてしまったのが、幼馴染の智子こそが、自分が生きる意味だ!ということ。怖いですね~。
で、智子を愛し、愛し、愛し抜き、息子も生まれるのだが、息子への愛情はそこそこで、智子のためだけに生きる。
えーっと、私だったらありがたく愛情を受け、お金にも不自由しないし、楽しく生きるけど(笑)、智子はそうはいかない。あるとき、モネの「睡蓮」の絵の一つを見て、心打たれ、私は貴之の人生の一部ではない、私は私の人生を生きなければ…となる。
↑って書いちゃうとそれまでなんだけど、そこに至るまでの物語の描き方が、やっぱりさすが白石一文さんで、読ませる~。
一方、妹の櫻子は櫻子で、兄の貴之を深く愛している。
この兄妹の間にある「愛」って何なのかな、ってすごく考えさせられる。
白石一文さんの作品はやっぱり、常に「本当の愛って?」「運命の相手とは・・・?」ってことを問いかけてくるんだけど、運命の相手が血縁だったことは今までなかった気がする。この作品では、そこまで生々しくないのだけど、一瞬(一行)だけ、この兄妹はもしかして、魂で結ばれてる?という表現が出てきた。
櫻子が若いときに、妊娠してしまったことをきっかけに結婚した相手は、間違いなく「運命の相手」ではない。
貴之は智子を「運命の相手」というか、「愛し抜くと決めた相手」として、それを実行して生きようとするが、かなわなかった。
じゃあ智子にとって「運命の相手」は誰だったのか?貴之の元を自分から離れ、その後を共に暮らした「カンちゃん」だったのかどうか、その判断を読者にゆだねるような、終わり方だった!
私は・・・・
哀しいけど、そうじゃないような気もした・・・。
そして櫻子にとってのかけがえのない、ほかならぬ存在はやっぱり兄の貴之であり、兄妹だから「運命の相手」ではないのだが、兄がほかならぬ存在だったから、他に「運命の相手」はいない、ということになるのだろうか。
男女平等とはまったく別の次元で、この世界は、男が女を幸せにするべき世界なんだ。男という種族は何千年にわたって妻や恋人、娘、母親を幸福にするにはどうすればいいかを考え続けてきた。男は、ただ威張りくさって女を支配し、隷属させ、虐げてきたわけじゃない。どうすれば女が幸福になれるか、安心して子供を産めるかをずっと考え、試行錯誤を繰り返してきた。男は女を幸せにすることで自分も幸せになれると信じているし、子どもを産むことのできる女をずっと敬い、深く尊敬してきたんだ。この平和ボケした国でだって、いざ戦争が始まれば、男たちは昔と同じように黙々と戦場へ出かけていく。
基本的に人間というのは精神的な存在で、その精神が衰えない限りは老いることがないんです。つまりね、老いるという現象は認知機能の低下によってのみ初めて生じる。頭のよさとか意識の持ちようとかではなくて、あくまで認知の老化が人を老いさせる。だから、心がはつらつと若々しければ、人は生涯、青年のまま生きることだって全然できるんですよ。
本物の人間関係は、無数の他人の中から本物の相手を自分の力で見つけて初めて成立する。そして、その人間関係は、博愛とは異なる唯一無二の愛情によってのみ維持される。 -
ネタバレ
他人の権利から自分を守る
小説最終盤で書かれる主人公の独白が、作者の一番言いたいことではないかと思った。この小説がコロナ禍の中で書かれたことも注目ポイントである。
コロナ禍では、「マスクをしない権利」と「感染されたくない権利」がぶつかった。
本作でも、主人公夫の「人生の最期は好きな人と過ごしたい権利」が、主人公の存在意義を揺るがす。
さて、最後まで主人公は「決断」していない。それを快く思わぬ読者の声も多数見受けられる。自分もまた、主人公をグズグズした女と見る向きもある。
しかしそれもまた、作者の狙いなのではないかとも思う。コロナ禍では多くの人が「コロナに感染したくないのでマスクをする」ことを守り抜いたように。主人公が様々な模索を辿ったのは、単なる優柔不断ではなく、夫の身勝手さから自分を守った側面もある。離婚届に判を押さなければ、関係は破綻しても法律上は「妻」である。
主人公はどのような選択をしたのか。それは読者の判断に委ねられる。個人的には、最後まで敢えて「決断」せず、夫の死後は淡々と遺産整理をしたのではなかろうかとも思う。 -
Posted by ブクログ
面白かったのだけれど、これってSF?
つくみは、昔遼平を助けてくれた猫「シロ」の生まれ変わり?
出会うべくして出会ったと思った遼平はつくみに惹かれ、結婚。
遼平の仕事でつきあいのある会社の社長が愛した同性の美容師も、遡っていくと遼平の母のルーツと関わっていた。
弟耕平の友人タケルの恋人は、小さな時にその美容師に命を救われていた。
婚約者同然だったのに、あっという間につくみと結婚した遼平に傷つけられた友莉が働く高級コールガール組織の社長も「つくみ」という土地に関係があるのかもしれない。
突然失踪したつくみを探す手がかりを得るため、母の実家「六波羅家」を訪れ、誤って古井戸に落ちてしまいその後の行方がわからない。
全てが一つの土地に収斂していった、遼平はつくみに姿を変えた白猫に取り込まれてしまったのかもしれないが、それもはっきりとはわからない。
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Posted by ブクログ
直木賞。
かけがえのない人へ
「足元の地面が固まれば固まるほど、その硬い地面をほじくり返したい衝動に駆られるのはなぜだろう?」
恋愛において、自分と違うタイプの人に惹かれるのはとても分かる。
でも、自分と似ているタイプの人といるのが自然なような、決められたことであるような気がして逆らえない。
どっちと一緒にいても自分を肯定しなきゃいけないから、自分の中で、言い訳を並べて
自分を騙して、これは正しいことなんだと思い込んで。
地面は固くなればなるほどほじくり返したくなるよね〜それってすごく自然なこと。
悪なんだけど、悪ではない!って正当化してあげたい。
正当化してあげたいのに、最後アンハッピーなのがとってもよかった。 -
Posted by ブクログ
初めて読む作家さんだったが、個人的には大当たりだつた。
莫大な遺産の存在を隠していた妻、恋愛問題について隠していた子どもたち、そして会社で受けた不当な扱い。
そんな人生が何もかも嫌になり、主人公は人生をリセットすべく新天地で事業を始める。
長く生きていると人生ではいろいろなことがある。
人間関係とは煩わしいモノであり、人の気持ちを思うように操ることはできない。
度々登場する逆境の中で、主人公はあらがうでもなく、従うでもなく、まさに現代のガンジー如く孤独に、しかし強く自分の道を切り開いていく。
一本筋が通ったその生き方と、場所場所でのリアルな情景描写が相まって、物語は最後まで鮮明な解像度を持っている。
無理な展開や派手な演出はないが、巧みに練られたストーリーは現実的だが決して読者を飽きさせることがない。
とてもおもしろい一冊でした。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「Timer」が荒唐無稽すぎて、もう白石一文やめようかと思ったけど笑、やっぱり気になってこちらも読みました。
こちらも相当荒唐無稽ではあったけど、面白くて1日で読んでしまいました。
設定はやはり近未来。人間型のアンドロイドを作成して、記憶を複写させ、本人と同じように仕事もし、生活できるという設定はかなり荒唐無稽ではある。
しかし、その設定の中で描きたかったのはやはり「真実の愛とは」というテーマだ。愛し合う夫婦が「子どもがほしい」と望み、それがかなわないときに、真実の愛がどうなるのか、という、複雑なようでシンプルなテーマだ。
代替伴侶であるアンドロイドの「隼人」と「ゆとり」が生活を始めるまでのなりゆきが少々複雑だ。
2人は愛し合って結婚したが、隼人の精子に問題があって子どもができない。ゆとりは焦り、悲しみ、ふとしたはずみで他の男との子どもを身ごもってしまう。未来の社会では、生物学上の親子のつながりがある家族が最優先されるようになっていて、選択の余地なくゆとりは隼人と離婚し、子どもの「本当の父親」と家庭を築くことになる。
残された隼人は委員会に「代替伴侶」を申請し、ゆとりのアンドロイドと暮らし始める。アンドロイドは自分はアンドロイドであると認識できない。そして人間の伴侶を決して裏切らないようにプログラムされている。
ところが、次はその隼人が自分を裏切らないアンドロイドの伴侶「ゆとり」を裏切り、はずみで他の女と子どもをもうけてしまう。そしてその女性との子どもの「本当の父親」として家庭を築く義務を負う。
人間の隼人とゆとりは、どうしても子供が欲しいと思っていたわけだから、望みはかなったことになる。
残されたアンドロイドの「ゆとり」は、自分がアンドロイドであるとは知らずに、隼人に去られたショックから委員会に「代替伴侶」を申請する。
というわけで、互いに自分はアンドロイドだと知らず、相手はアンドロイドであり自分を裏切ることはない、子どもはできないと認識しながら2人で暮らしていくことになる。
お互いに相手を裏切ってしまい、他の相手と子どもをもうけて暮らす人間のふたりにとって、アンドロイドの自分の「ツイン」どうしの暮らしは、「真実の愛」の可視化したものになる・・・!?
っていうなかなかあり得なくて恐ろしい設定だけど、不妊治療に悩む夫婦とか、子どもが生まれたことで何かが変わってしまった(愛がなくなった?)夫婦とか、いくらでもいるよね。逆に、「子どものいない人生」を選んだ夫婦が、本当にずっと仲良く、お互いを大切にしあうっていうのも、よくある話かもしれない。
この物語では、代替伴侶のアンドロイドどうしが、真実の愛にたどり着いて、それをもとの人間のふたりが確認する、みたいになっている。
私は夫を愛しているし、お互いを大事にしあってともに暮らしているけど、やっぱり子どもが生まれてしまったからには、夫より子どもの方が大事だと思ってしまうな(笑)。夫と子どもが同時に危機的な状況に陥っていたら、迷わず子どもを先に助けるだろうし、逆の状況でも夫もそうすると思う。それには何の疑問もない。それに、二人だけで暮らしていたときと、子どもが出来てからでは、互いの優先順位はかなり落ちる笑。でも、子どもを優先する、子どもを大切にすることはやはり、「あなたと私の子だから」っていう大義名分?のもとに成り立っている気がする。
私の好きな、白石一文作品を読んだあとの「真実の愛って何」ってずっと自問する感じを存分に味わえる小説でした。
あと、「決っして自分を裏切らない存在」って、ペットの犬みたいだなと思った。犬って、なんであんなに主人に忠実なんだろう…。