白石一文のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
この方の小説は、心情をダイナミックに表現する文体が好きで、ほかにも色々と読んでいます。本作は文庫で660ページ以上。心地よい厚さと持ち重りで、こういうのが電子書籍では味わえないですね。
いろいろと状況設定がかなり突飛で、登場人物とくに主人公のキャラクター設定もかなり目まぐるしく変わります。あれ、こんな人だったの? とか。他の登場人物への態度や心情もコロコロ変わるし。でも、考えてみれば実際の生活ってこんな感じなのかもしれない。自分の生活を考えてみても、気持ちなんか、どんどん変わっていくし。
メインの舞台である福岡と金沢のきめ細かい描写が秀逸。旅に出たくなりました。 -
Posted by ブクログ
随分前に読んだ本でした。三菱重工のような一流企業ではありませんが、最初にこの本を読んだ当時は私も某企業でトップの側近の一人としてとても忙しく働いていました。単なる権力闘争だけではなく、同じように幹部社員の首吊り事件や国からの圧力によるトップ交替などドロドロした世界でしばらく過ごしましたが、主人公とは少し違う理由で今はその会社から去りました。避けているわけでもないのに、残念ながら(?)女性の出入りは全くこの本の人たちとは異なり極めて地味でしたが、橋田氏のような甲斐性や覚悟もない身なので、このような出会いがあったとして見て見ぬふりをするのがせいぜいだっただろうと思います。いまだに自分にとって何が最
-
Posted by ブクログ
主人公「私」は青野精一郎が語り部となっています。
小説の舞台は福岡市で地元の高校から、現役で早稲田大学の政経学部に進学し、卒業後業界五番手の損害保険会社に就職しました。四十三歳で企画部門の部長に抜擢され、仕事に手応えを感じ始めていた矢先、会社が業界最大手の会社と合併してしまったところから彼の転落人生になります。
主人公は、かつて部下だった女性と不倫関係に陥ったことがあります。そのことが、後年になって深いダメージを受け、うつ病を発症し、退社とともに離婚もしました。
小説が書かれている時期は、その後ちょうど一年を経過したところから物語が始まります。主人公は、故郷の福岡に帰り、一人暮らしをし -
Posted by ブクログ
泣きました。
解説にもある通り、読み終わった今の心境は
「広大な砂漠の真ん中で、途方に暮れてしまったような気持ち」です。
それは恐らく、29歳から始まり、40歳まで描かれた亜紀の人生・運命がこの先どうなるのかが分からないから。
この小説は自分の人生と同様に、生きていて、どのような結末を迎えるのかまだ分からないから、読み終えても、読み終えた感覚が得られにくいように思います。
物語の大半を占める、30代の亜紀とちょうど同年代の女性である自分には手厳しいというか、目を逸らしている現実も描写されており、時々、自身と重ねては焦燥感に駆られる心境にもなりましたが、とにかく丁寧に描き上げられた作品だと -
Posted by ブクログ
ミステリーかと思って読み始めたら違いました。約700ページもある大作ですが、最後まで読めました。
印象に残ったところ。夏代との夫婦関係は、二人の子供を育て上げた時点で役割を果たし切っていた。子育てを終えた夫婦が死別のときまで共に暮らす理由には、もちろん慣れ親しんだ繋がりを失いたくないという願いも強く作用されるだろうが、片方で、経済的な事情や敢えて別れるまでもないという〝面倒くささ 〟も大いに関与していると思われる。
自分たち夫婦の場合は、夫の側に新天地で始めた順調な事業があり、妻の側には娘や息子との深い絆と莫大な財産がある。
そうとなれば「子どもたちの独立」という明 -
Posted by ブクログ
作者の気合が帯に現れていたけれど、ほんとうに面白い。ストーリーも設定もたぶんかなり細かく設定されていて、ふとした伏線が後半にあ、という感じで出てきたりして、もう一度読み返したくなる。
インフルエンザ罹患を感じたある日、主人公鉄平の人生は一変する。
妻、夏代の大きな秘密と、それを自分が20年以上も隠されていたという事実に鉄平は怒り、そしてそれをきっかけに子供たち、会社にも暗雲が立ち込める。芋づる式に明かされる事実に愕然としつつ対処しながら、冷静な自分の一面にも改めて触れ、逃げるように家を出るが…
リアルな描写で主人公の行動や心情に共感しやすくい。登場人物が少しずつダークさや弱さを抱えているの -
Posted by ブクログ
ネタバレとっても不思議な構成の長編小説。
人によって、場合によって”時間は伸びたり縮んだりする”。ということが、読後に「なるほどー!」と腑に落ちる感じです。
一日がすごく長く感じたり、短く感じたり、一瞬で目覚めたと思ったのに「もう朝!?」と思ったり、たっぷり寝たと思ったのに1時間だったり。誰にでも経験があると思う。
「学校」という場所では、どんな子供も学齢に合わせて一律に、同じことを同じようにさせようとするけれど、一人一人「自分の時間」を生きている子供たちにとって、特に発達障害を抱える子供たちにとっては、それは苦痛でしかないし、そもそもついていけないだろう。それは私も実感としてわかる。
小説では、教職 -
Posted by ブクログ
ネタバレ表題作を含む、5つの短編が入っています。
表題作「不自由な心」は中編と言ってもいいくらいの長さかな。
どれもこれも、浮気男の話です。
しかも浮気をあんまり悪いことと思っておらず、「まぁ誰でもこの程度のことはやってる」みたいな男たち。
最後の「不自由な心」は、主人公の男が、自分も浮気ばっかりしてるくせに、妹の夫が他の女とデキて、離婚しようとするのを責める。
心が離れているのに、義務感で一緒にいるのが大人の男のすることなのか?
何もかも捨てて、本当に好きな女のもとに行こうと思うのは世間知らずなバカ男なのか?
…っていう話なのかなぁと思ったけど、もうちょっと深い物語のようだ。
主人公の男の妻はかつ -
Posted by ブクログ
ネタバレ白石一文さんにはよくある題材だと思うけど、30代半ばの女性の、恋愛・結婚・妊娠(不妊治療)を中心にすえて、生きる意味を問いかける長編。
妊娠を強く望む主人公の美砂子が、次第に夫とすれちがっていく。
うーん、よくある話…と思ったら、その裏にすごく複雑な人間関係や夫の思惑、死んだ父親の執念(?)みたいなものが絡んでいて、推理小説ぽくなっていく。
途中で推理小説か!?と思うけどもちろん違う。
白石一文さんの小説では、男に利用されようと何をされようと、けっこう女性が力強い存在として描かれることが多いように思うけど、この小説でも美砂子はかなり酷い目に遭いながらも相当にしたたかでたくましい。
そしてその根 -
Posted by ブクログ
ネタバレ浮気→離婚→起業→震災で廃業 というなかなか波乱の人生を経て故郷に戻ってきた主人公。
15年ぶりに従妹と過ごしつつ、自分の来し方を振り返る。
白石一文作品を読んだらだいたい思うことだけど、生き方と性とは密接に結びついておきながら、愛と結婚生活と性は結びついていなかったりする。
だからいけないと分かっていながら愛欲に溺れて家庭崩壊させたり…(まぁ普通はしないけど)、ほかならぬ人と出会っておきながら結婚には至らなかったりする。
…で、どうなっていくのか?と思ったら、物語は意外な方向へ。
この平穏な日本の社会が永遠ではないと思えば、誰もが本能に忠実に生きるかも。