あらすじ
「どうして自分はあのことを忘れることができないんだろう?」
剥きだしの叫ぶが響く、著者の初期傑作。
美しい恋人・枝里子をサプライズで京都に誘った。
それは、昔の男が住む京都で枝里子の反応を見ようという悪意だった――。
東大卒出版社勤務、驚異的な記憶力を持つ「僕」は、同時に3人の女性と関係を持ちながら、誰とも深いつながりを結ぼうとしない。
その「理屈っぽく嫌味な」言動の奥にあるのは、絶望なのか渇望なのか。
彼の特異な過去を知った枝里子は。
「自分の人生にとって本質的なことからは決して逃れられない」
切実な言葉たちが読む者の胸を貫いてロングセラーとなった傑作が文春文庫に登場。
解説・窪美澄
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
今までの中で読み返したいと思えるなかなかにない作品だった
名言的引用も数多く出てきてすごい惹かれるものが多かったと思う
主人公の病み感が良い
心取り憑かれるような衝撃的文体と忘れることのできないストーリー
今のとこマイベスト!No. 1です
Posted by ブクログ
普段生活するうえでは自覚することのないような、人としての根本的な部分を抉りだされて向き合わされるような小説だった。
主人公は偏屈だけれど、共感できるところもある。
何度も読み返したくなるような言葉達が詰まった作品。
Posted by ブクログ
りかに買ってもらった本。
主人公の高慢さと自己中心的な態度に辟易とするが、それが彼における自己なのであり、こちらからの見方は一義的なものでしかないということを気付かされる。死生観や他人との関わり方など、興味深い内容が多く再読したい作品である。
Posted by ブクログ
印象的だったのは、登場人物の思考と、主人公の周りにいる人たちの優しさ。哲学的な文章が出てくる。
タイトルが強烈で、どこが壊れてて、どこが壊れてないか、を考えながら、読んでいくことになる。
壊れてる っていう言い方は刺激的だけど、恐らく誰もがそういうところって、少しはある。読み進めながら、自らを省みたりすることになるし、主人公を不誠実な人間とは全く決め付けられない。
Posted by ブクログ
本を読んで、一人の人間をこれほどまでに深く描いて、知るほどにその人としての魅力を感じられる作品はそう多くない思った。物語の中盤までは、周辺人物との関わりの中で主人公のさまざまな側面が点のように描かれるから、相手に合わせて異なる顔を見せる人間の日常のようで、言動や人への向き合い方がチグハグなように感じるけど、物語が進んで主人公が自分自身と深く向き合うフェーズに入るにつれて、読者の主人公に対する解像度が上がって、「点」が次第に「線」となり、「面」となり、最後には一つの「球」になっていくような感覚が味わえてすごく面白かった。
その過程で主人公の人柄を理解していくと、状況に応じた主人公の言動に一本の筋が通っていることに気づかされて、一貫性があるなって納得できる瞬間が何度もあって読み進めるほどに主人公のことが魅力的に感じられた。
個人的に、主人公の周りの人々に対する態度がリアルに描かれていた点が良かった。他の本なら「いいこと言ったな」と共感しそうな登場人物のセリフにも、主人公はどこか鬱陶しさを感じてさらりと受け流すから、そのたびに、読み手としても妙な爽快感を覚えた。主人公の感情がそのまま伝わってくるような清々しい読書体験。
男性的思考を丁寧な心情描写で描いた作品
Posted by ブクログ
現代文学小説の様な複雑な人間の心理を細かく表現されている。主人公直人との特殊な育ちから独特の個性と男女関係の複雑な複数、枝里子、朋美、大西昭子の関係が重い小説だった。色気グロさも一般的にはきつい部分も。最後のエンドレスの雷太の行動には驚いたが、その後このストリートが落ち着いて終わっていく。
Posted by ブクログ
主人公はとても奇妙な人間だった。無機質で、物事を判断する際に人間の感情の部分を考慮していないようだった。しかし論理的で筋は通っていた。
対して枝里子は反対の性質を持っていて、かなり感情的。その二人が論じる“愛”、“恋”、“死”、“生”に関する言葉たちがとても素敵だった。
Posted by ブクログ
悲しい人間。感情を押し殺し、他人の思想や知識で自分を納得させて、人を冷めた目で見て、常に孤独や絶望を感じながらも今を生きている。
それでも無条件に子供に優しく、自分の時間を投資するところもあり、彼なりの愛はどこで境界づいているのだろう、と。
2歳の頃のエピソードも心打たれた。限界まで追い詰められるにはあまりにも小さすぎた、その衝撃ゆえの記憶力、知識量なのだ、といった流れにもすごく納得感があった。
ラストの衝撃もなかなかだが、彼以外の人の絶望さも丁寧に描いていて、とても良かった。
性的描写は突如として出てきて多めなのでそこは覚悟が必要。
110/140
Posted by ブクログ
傷付けないように
傷付かないように
かつ自分を納得させながら生きるには
こうなるしかない
こうするしかない
おかしくなんかない
壊れてなんかない
一番考えて向き合って
壊れないようにした結果だと思う
よかった気がする
Posted by ブクログ
「私はどんなに探してもこの人しかいないという人がいい。あなたはそうだもの。あなたは心に穴のあいている人よ。(略)でもね、あなたは本当に苦しそうに生きてる。どうして愛しているのか私にもわからないけれど、きっと穴のあいたあなたの心を私は見過ごすことができないのよ。」308頁
「私はどんなに探してもこの人しかいないという人がいい。あなたはそうだもの。あなたは心に穴のあいている人よ。(略)でもね、あなたは本当に苦しそうに生きてる。どうして愛しているのか私にもわからないけれど、きっと穴のあいたあなたの心を私は見過ごすことができないのよ。」308頁
「いくら探してもいない人というのは、この私しかその人のことを見つめてあげる人間はいないって思わせる人のことなのよ。この男しかいないってことは、この私しかいないということなのよ。きっとそうなのよ。私はあなたを忘れることができない。」308頁
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本を閉じてから
否定できない部分があったから
少し自分を心配した
この世の中はたしかに歪んでるけど
それでも私は
笑ってまっすぐに生きていきたい
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一貫して癪に障る主人公だったが自分の壊れている部分を肯定してくれている存在のようで、無性に安心した。壊れている部分は誰しもが持っている。持っていていい。
彼には安心して帰れる場所が必要な気がする。幸せになっていいんだよと言ってあげたい。そして幸せになってほしい。主人公の人生を反面教師に、私は壊れている部分を持ちながらも楽しい人生を送りたいと思った。
Posted by ブクログ
主人公が理屈っぽく、嫌味ったらしいので共感しにくい。それでも、所々で深く刺さる言葉や哲学的な引用があって、ページをしばらくめくらずに考えたくなる場面もあった。読んでいて「あなたにとって壊れていない部分は何ですか?」と問いかけられているように感じました。
Posted by ブクログ
幼少期の出来事が主人公の人格を歪め、また自分自身を殺してしまいそうな危うさがある。
自分の立ち位置を定め、考え続けて年を重ねていく、これから変化していく未来を見据えながらも、今を生きるという物語で、生々しい人間観があり、生きるとはなにかを深く考えさせされる作品でした。
Posted by ブクログ
なんやかんや女性の母性本能を擽っている主人公の癖がすごい、幼少期の環境は後の人生に大きく影響を与えるんだろうなと思った。読みづらい方なのかもしれないが、自分は割と好きかな
Posted by ブクログ
久々に「白石一文の世界」にどっぷり浸る。のっけから主人公が繰り出す思索開陳のビッグウェーブ。良い意味で相も変わらず濃厚な展開で、ページを繰る途中に何度も本を閉じ、深呼吸するほど。まぁ、これが白石一文ワールドというか真骨頂。ファンとしては、しばしその世界に浸れる安堵と喜びを抱きつつも、脳髄は痺れるというアンビバレンツな読書タイムを味わえる稀有な作家。まぁ、とにかく圧倒的な情報量を包含した骨太の小説を編まれます。
さて、本書。主人公は東大法学部出身、大手出版社勤務、高収入の30代独身男性。境遇のまったく異なる三人の女性と関わりを持ちながら、いずれも一定の距離を置いた関係を続けている。彼女らに向ける言葉は終始理屈っぽく他虐的で粘着性が強い。また、このエリートが語る仕事感・恋愛感・死生観は高慢で鼻持ちならず、正直言って感情移入しずらく、到底好きにはなれないタイプ。
にもかかわらず、徐々に当初より抱いていた嫌悪感は薄らぎ、主人公の思考・思索・振る舞いに同調とまでにはいかないが関心を寄せるようになっていくから不思議。この“やな奴”の「僕の中の壊れていない部分」が、はたしてどこなのかを見つけたくて一途にページを繰ってしまう。もう、その段階で著者の術中にまんまとはまってしまってるわけですな。
本書の後半に、その核心となる「なぜ自分がこんな人間になったのか」を坦懐するシーンがある。人は大なり小なり何かしらの「マグマ」を抱えている。コンプレックスや出自に根差すやり場のない燻り続けている感情、憤怒や復讐といった高熱を放っているものまで、それは様々。
そのマグマが、時に人を攻撃的に、冷徹に、シニカルに、またその一方で路傍の名も無い花を愛でる繊細な優しさや死をも厭わない犠牲心や包容力を有していたりする。
「落語は人間の業の肯定である」と喝破したのは談志。いうまでもなく文学も然り。太宰なんてその権化。
業をカルマと呼ぶが、「カルマ」と「マグマ」。
いずれも沈潜し、脈動し、得体の知れない不気味さを保有しつつ、存在の在り処をちらつかせる。理性は万能ではない。理性が制御する範囲は一部分である。人間は不条理で不合理な生き物であるってことをあらためて思わされ、またそれを自覚すべきであることを思いしらされた一冊。